虐待による乳幼児急性硬膜下血腫は極めて転帰不良となる.その主たる要因は,頭部CTで認められる広範囲に及ぶ低吸収性変化と考えられる.自験例を中心にこの病態の考察を行った.虐待群で15/18例(83%),事故群で2/10例(20%)に認めた.両側大脳半球に13例,片側大脳半球に4例認め,出現時期は,搬送時9例,数日以内の経過が8例であった.この病態は種々の生理学的な因子が複雑かつ重合的に加わることによって生じている.特に,けいれん重積脳症や過(再)灌流障害が深く関与しており,CPA症例ではなぜ呼吸障害が生じたかの検証が重要である.
開頭後,陥没骨を裏返しにして戻す陥没骨折手術法(turnover法)を用いて整復した8例を対象に,その臨床像と手術合併症などを後方視的に検討した.陥没部の平均面積は7.9 cm2(4.8~13.2 cm2),陥没の深さは8.8 mm(7.4~11.9 mm)であった.輸血や感染,手術合併症はなく,術後の骨癒合は良好であった.陥没骨折では多くの場合,陥没を裏返しにすると本来の弯曲に近い弯曲となっているため,本法を用いると整容的整復が得られる.本法は簡便な陥没骨折整復法として有用であると考える.
JCCG/AMED原班により2009~2013年に治療された99症例の15歳未満DIPGを対象とした後方視的検討を行った.その結果,1)約20%に対して組織診断が行われた,2)照射はほぼ全例で行われた,3)3/4の症例に対してテモゾロミドが使用された,4)再発に対してさまざまな化学療法追加・部分摘出等が行われた,5)生存中央値は11か月であり,照射方法・化学療法併用・化学療法内容による生存期間延長効果は認められなかった.本邦における最多症例のDIPGの治療実態と成績結果が得られた.
小児脳神経外科領域における神経内視鏡の役割は大きく,今後もさらに増えていく可能性がある.当院で近年増えている術式としてはシャント抜去目的のETVで,新たに行われるようになった術式として,頭蓋縫合早期癒合症に対する内視鏡支援下縫合切除術,水頭症に対する脈絡叢焼灼術がある.現在当院では水頭症に対する初回治療としてのETVは,成功率の点から原則6か月以上の児を対象とし,シャント機能不全時にETV+シャント抜去を試みる方針としている.
末梢性神経外胚葉性腫瘍/ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(pPNET/ESFT)は,若年者の骨,軟部組織に好発する小型円形腫瘍細胞であり,頭蓋内硬膜発生はまれである.症例は6歳女児,左側頭部の易出血性腫瘍に対して亜全摘出術を行い,病理学的,分子遺伝学的にpPNETの確定診断を得た.術後に放射線化学療法を行い,術後4年半の間,腫瘍の再発なく経過している.易出血性腫瘍や脳実質と癒着の強い症例では,一期的全摘出にこだわらず,術後放射線化学療法に委ねることも選択肢の一つと考えられた.
壊血病はVit.C欠乏により易出血性を呈する疾患であるが,先進国では食料事情の改善でほとんど認められなくなった.症例は4歳女児,下肢の疼痛症状で歩行困難となり骨髄炎や歯肉腫脹を来していた.頭痛が出現し外傷歴のない硬膜外血腫を指摘され手術を施行した.入院経過中に極度の偏食であることが判明し,Vit.C欠乏が示唆され壊血病の診断に至った.Vit.Cの補充により急速に症状は改善し良好な転帰を得た.本疾患は多彩な症状を呈し診断困難な場合があるが,偏食などの病歴を把握し診断・治療へつなげることが重要である.
症例は4歳11か月の女児.4歳11か月時に右上肢の単純部分発作で当院受診し,CTで左頭頂葉の皮質下出血を認め,左頭頂葉にsingle feeder-single drainerのpial arteriovenous fistula(AVF)と左シルビウス裂にsingle feeder-dual drainersのpial AVFが指摘された.出血急性期が過ぎた発症4か月後に手術目的に再入院となったが,術前精査のMRIで左頭頂葉pial AVFは自然閉塞が疑われ,脳血管撮影で確認できた.発症10か月後には左シルビウス裂のdrainerの1つがlow flowとなり発症15か月後には残りのdrainerもlow flowとなった.pial AVFはまれな疾患でありその自然歴は明らかではない.機序が不明なため保存的加療を勧めるものではないが,自然経過で閉塞やflow reductionを起こす症例もごく少数ながら存在する.
偶発的に指摘された頭蓋骨円蓋部腫瘤性病変からMcCune-Albright症候群(MAS)と診断した12歳男児例を報告する.頭部打撲時に撮影した頭部CTで偶発的に右頭頂骨に低吸収を認めた.ランゲルハンス組織球症などの腫瘍性病変を疑い頭蓋骨腫瘍摘出術を施行した.病理診断は線維性骨異形成であり,右肩部に認めたカフェオレ斑と併せて臨床的にMASと診断した.また採取した骨組織からGNAS遺伝子に病的バリアントを検出し,遺伝学的にもMASと診断した.MASの診断確定には病変部組織の遺伝子解析が有用である.
キアリI型奇形(CM I)では後頭蓋窩にさまざまな形態変化を認める.今回duplication of internal occipital crest(IOC)を呈するCM Iの手術を2例経験したので報告する.代表症例3歳女児,頭位拡大/発達遅滞にてCM Iを指摘,CTで分岐したIOCを認め骨間での小脳圧排を認めていた.骨異常が病態に関与すると考え術中IOC削開を要とした大孔減圧し術後経過良好であった.本症例のようにIOCが分岐し小脳が圧排された症例では,同部位の骨を削開することが重要と考える.
鞍上部くも膜のう胞に対する治療法として内視鏡下でのVentriculo-cysto-cisternostomy(VCC)がある.発達遅滞の精査にて鞍上部および両側の中頭蓋窩くも膜のう胞を認めた1歳3か月の男児例に対しVCCを行った.左側のう胞との隔壁に小孔を認め,交通がある可能性を考えのう胞間開窓は行わなかった.術後経過では全てのくも膜のう胞の縮小を認めた.鞍上部くも膜のう胞に他のくも膜のう胞が接している場合,のう胞間の交通があることもあるため,一つののう胞の開窓のみでも有効である場合があることが示された.
小児脳神経外科における吸収糸による皮膚縫合の有用性について考察した.皮膚縫合には非吸収糸であるナイロン糸やスキンステープラーが通例使用されるが抜糸・抜鈎時の児のストレスは無視できない.皮膚接合用テープは抜糸不要であるが,強度の問題で創が浅く,緊張のない創に使用が限られる.当院では,髄液漏を警戒すべき,新生児へのOmmaya reservoirや髄液シャントなどのデバイス留置を除き,吸収糸を用いている.創部の仕上がりや感染が問題になることはなく,児のストレスが軽減可能である.
小児の髄膜腫はまれであり,成人とは異なる特徴を持つ.今回小児髄膜腫の症例を経験したので報告する.症例は12歳女児.てんかん症状・嘔吐・右同名半盲を呈して入院となった.画像検査では左側脳室に大型の造影病変を認めた.開頭術を施行し腫瘍を全摘出した.病理診断は線維性髄膜腫であった.術後は硬膜下液貯留が増悪し,髄液短絡術を追加した.術後2年が経過するが再発は認めていない.文献上小児側脳室髄膜腫の特徴として,男女差がない,左側に多い,水頭症を伴うことが多い,組織型は髄膜皮性が少ない,などの傾向が示唆された.
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