近年,小児脳腫瘍を対象とした覚醒下手術の報告が増えている.成人とは異なる小児特有の周術期合併症が予想されるが,我が国における小児の覚醒下手術の現状や治療成績に関する報告は少ない.覚醒下手術を施行した18歳以下の脳腫瘍患者における治療成績をまとめた.その結果,33%において過呼吸発作や焦燥といった精神症状が術中に観察されたが,すべての症例で覚醒下手術を完遂し術後慢性期の合併症を認めなかった.小児脳腫瘍に対する覚醒下手術は安全な治療戦略と考えられるが,術中の精神症状には注意を払う必要がある.
Craniofacial surgeryを専門とする外科医として,体内循環血液量の少ない幼小児の頭蓋顔面手術他では,予想外の出血が起こりうることを念頭に置いて,事前に血管破格等の検討を行うとともに,鉄剤の術前投与や自己血輸血の準備,術中も低血圧麻酔やセルセーバの使用他の出血量を減らす工夫,そして出血に対する早めの対応など,小児麻酔医との普段と周術期の連携は極めて重要である.術中の危機的な多量出血等の要事においては,手術中止や術式変更も救命のため必要と考える.血が出たら入れる,というより,出るからいつでも入れる準備をしておくことが肝要である.
働き方改革の中で,小児・AYA世代の著明な水頭症を伴った後頭蓋窩腫瘍に対して緊急開頭腫瘍摘出を行えるかどうかを検討する.筆頭著者が2013~2023年に術者として行った緊急・時間外手術によって発生する代償休息必要時間を算出した.緊急手術は153(30歳未満,31;30歳以上,122)例で年平均125.5時間,時間外手術は271(30歳未満,58;30歳以上,213)例で年平均213時間であり,代償休息発生時間は月平均3時間5分と算出された.緊急開頭腫瘍摘出術は不可能ではない.
外視鏡システムとマルチディスプレイを活用した情報統合システムの小児脳神経外科手術での使用経験を報告する.外視鏡は,術者が自然な姿勢を保ちながら,高精細な術野を確保できる利点がある.さらに,三次元融合画像やナビゲーション画像を同一視野に表示することで,複雑な解剖構造の理解が容易となり,術中判断やチーム内での情報共有に大きく寄与する.また,術者視点をリアルタイムで共有できる点は教育的価値が高く,経験することの少ない小児領域においては,貴重な手術経験の蓄積と後進育成に有用と考える.
鞍上部くも膜のう胞(AC)は全ACの10%を占めるまれな病型である.Bobble-head doll syndrome(BHDS)を契機に診断された鞍上部ACの7か月男児を報告する.患児は頭部の上下運動と発達退行を認め,MRIで鞍上部ACと脳室拡大を認めた.内視鏡下AC開窓術を施行し,術後2日目にBHDSが完全消失し,発達は改善傾向を示した.BHDSの発症機序としては,頭部を上下に動かすことによる髄液交通路の圧迫解除や視床背内側核への圧迫による錐体外路障害が関与していると考えられた.
腹腔端チューブの胸腔内迷入により無症候性の右胸水貯留を来した小児水頭症症例を経験した.同合併症はまれであるが,胸部レントゲン写真におけるシャントチューブの蛇行といった特異的画像所見は診断の一助となり得る.また,頭部画像検査にて原因不明の脳室縮小・拡大を認めた場合,腹腔端チューブ周囲環境の変動を伴う頚部以下のシャント合併症を考慮した画像検索が重要であると考えられた.
我々は再発性腹腔内髄液仮性のう胞の2症例に対し,腹腔鏡所見を参考に治療方針を決定した.症例1は乳児期の脳室腹腔シャント術後10歳で再建術を施行.その後,髄液仮性のう胞を発症し,腹腔鏡下治療を行ったが,癒着が高度で遊離腹膜が1か所のみであったためチューブ移行術は困難と判断.再発後,脳室心房シャントを施行し,再再発は認めていない.症例2は乳児期のシャント術後,5歳時に再建.18歳時の腹部手術後19歳で髄液仮性のう胞を発症.腹腔鏡下チューブ移行術を施行し,唯一の遊離腹膜にチューブを留置し,再発は認めていない.腹腔鏡は癒着の程度や遊離腹膜を評価でき,治療方針決定に有用である.
神経精神症状で発症した原因不明の中大脳動脈低形成の8歳男児例に対して血行再建術を行った.Aplastic or twig-like middle cerebral artery(Ap/T-MCA)ではMCAの閉塞・狭窄やその周囲に叢状動脈網がみられるが,叢状動脈網を伴わないこともある.本症例は所見・経過からAp/T-MCAを疑った.術後症状が軽快したことから,神経精神症状の原因としてMCA領域の虚血が考えられた.小児のAp/T-MCAに対して血行再建術の有効性が示唆された.
中枢神経原発胚細胞腫瘍のうち,純型のyolk sac tumorは2%と非常にまれで予後不良である.現在確立された治療プロトコールはないが,1980~2021年の後頭蓋窩に発生したyolk sac tumorの報告では全例で手術が施行されており,その後の化学療法や放射線療法は症例ごとに検討されている.今回我々は小脳に原発した純型のyolk sac tumorに対し,開頭腫瘍摘出術後に化学療法(ICE療法4コース)と放射線療法を組み合わせて良好な経過をたどっている症例を経験したので,文献的考察を交えて報告する.
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