「不妊治療と周産期医療」午後の部では,主として不妊治療による妊娠,さらにその結果出生した児がどのような転帰をとっているか,周産期医療にどのような影響を及ぼしているかの報告があった。なかでも,多胎児の長期的な予後とそれを支えている母親,家族の実態についての報告は,我々に大きなインパクトをもたらした。多胎児の予後とそれを育てている家族の実態は我々が予想している以上に厳しいものであった。一般には不妊治療によって生まれた児であるからといって児の予後が悪くなることはないが,多胎では,周産期医療資源や家族に及ばす影響は大きいことがわかった。平成8年の日本産科婦人科学会の会告以来,4つ子以上の多胎は減少したが,双胎や3つ子は依然増加している。
そして総合討論の中で,周産期医療側から不妊治療従事者への多くの要望があった。
1)多胎,特に3つ子以上の多胎は極力減らしてはしい。できれば単胎妊娠を目指す不妊治療を期待したい。
2)多胎妊娠では早産や母体合併症が多いことや,早産した場合のNICUでの実状,さらにはそれらの児のその後の合併症・後障害など,多胎児の転帰をよく知ってほしい。
3)多胎児の育児をする母親や家族の大変さを知って欲しい。
4)不妊治療前の説明が安易ではないか。不妊治療を開始する前に,多胎妊娠の可能性やその後の妊娠・出産・育児などに関する正しい情報を提供すべきである。
5)不妊治療前に母体合併症の有無をチェックすべきである。
などの,指摘や要望があった。
今回のシンポジウム参加者に不妊治療関係者が少ないことも指摘され,不妊治療関係者が妊娠したその後について無関心であるとの指摘もあった。不妊治療関係者からは,多胎を少なくする数々の研究の成果や努力が報告され,また妊娠した児の予後調査などを行っていることも報告されたが,周産期医療関係者を納得させるに至らなかった。
今後,多胎児の妊娠出産経過やNICUに入院した児の実状やその後の転帰,さらにそれらの児を育てている家族の実態などの情報を,不妊治療関係者にどのように伝えるかが大切である。また,挙児を希望する夫婦に不妊治療前に,これらの情報を踏まえた適切なカウンセリングを行うこと,願わくば不妊治療に従事しないカウンセラーによるカウンセリングが必要だとの意見もあった。
不妊治療では妊娠率を高めるのではなくtake home healthy babyを目指すべきであるというコメントが印象的であった。そのために今後,不妊と周産期関係者がもっと話し合う必要がある。それは学会レベルだけでなく,地域で会合をもって相互の理解を深め,不妊治療を受けようとする夫婦とその結果生まれ,育つ子供達が幸せになれるようにするには関係者がなにをすればよいかを議論していく必要性を痛感した。
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