妊娠中あるいは分娩中のIUGRの管理においては,過去に確立されたものはなかった。今回のシンポジウムにおいても,IUGR管理方法の確立までには至らなかった。その大きな理由のひとつは,IUGRは胎児の単一的な疾患ではなく,種々の病態像が重なり合った,いわゆる胎児発育障害の症候群と解せるがゆえとも考えられる。
IUGRの積極的治療法のひとつに,母体を介しての栄養剤輸液療法がある。これに関しては従来からグルコースの母体輸液がよく行われてきた。この場合,グルコースの胎児インスリンの過分泌を抑えるために,インスリンに比較的依存性のないマルトースを使用することが多い。このグルコースは胎児エネルギー源として胎児発育に直接的,間接的に関与することは否定できない。特に,グルコースによるインスリンの発動が胎児の諸代謝系においてプラスに働いていることが考えられる。
また,グルコース以外にも胎児発育にとって重要な物質も多々ある。アミノ酸や脂質も重要な栄養素である。ただ,アミノ酸でも胎児発育にとって重要な必須アミノ酸は何か,脂質のうちでも,胎児発育にとっての必須脂肪酸は何かが問題となってくる。それが解明されれば,それらの物質を重点的に補給するような輸液療法が登場してこよう。
しかし,母児間の栄養素,酸素交換のバリアとなる胎盤機能の正常化が輸液療法や薬物療法を行ううえで大きなキーポイントとなる。胎盤機能障害への改善対策へのアプローチも今後の大きな課題であろう。
最近,cordcentesisという手段を用いて,胎児の各妊娠時期における病態像をみることができるようになってきた。これらの詳細なデータは胎児agingによる管理方法,治療法の選択の必要性を示唆することになるかもしれない。いまや,出生前治療においても,それぞれのIUGR独自の管理方式をとらなければならなくなるだろう。IUGRを一括して管理する必要もなくはないが,個別化されたIUGR管理方針を見出す努力も必要となってくる。
また,IUGRの短期予後および長期予後をみた場合,pretermにおけるIUGRでは神経的後障害の発生も高いといわれている。さらに,妊娠中毒症や糖尿病合併妊娠では神経的後障害の発生率も高いことが,今回より明らかにされた点でもあった。このような例では,妊娠中になんらかのストレスが胎児に加われば予後にとって悪い影響を与えてくる。また,そのようなストレスが加わったのが妊娠の比較的早い時期で,しかも長時間にわたるものであればあるほど,IUGRの予後に与える影響は大きい。この場合,妊娠中期の管理,頭部発育の経日的観察が極めて重要であることが明らかにされた。
したがって,IUGRの管理において分娩時期の決定,すなわち胎内治療の継続か胎外治療への移行かのタイミングが重要なポイントとなろう。
また,胎盤機能改善への模索,IUGR児の免疫能からみた予後およびその管理のあり方,さらには血液凝固線溶系の異常からみた管理のあり方についても多くのアプローチがなされた。このことはIUGR管理の新しい方向への転換が重要であることも強く印象づける結果となった。
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