周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第7回
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
はじめに
  • 武田 佳彦
    p. 3
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     第7回日本周産期学会のテーマには胎内発育障害を取り上げた。近年周産期医療の中で児の長期予後を左右する最も重要な疾患の1つである。

     IUGRは胎児の成長,成熟が障害された症候群であり,低体重,低血糖,水分電解質異常を主徴とする新生児期の病態は以前より知られていたが,妊娠中期に出生した極小未熟児,超未熟児に合併した本症では生命に対する予後ばかりでなく長期の中枢神経系の予後も極端に悪いことが明らかになってきた。

     胎児発育は妊娠20週以降で加速され,機能発現に伴う臓器構築,酵素誘導など臓器固有の機能成熟が在胎週数に伴って進行する。したがってこの期間の障害は発育や成熟の遅延ばかりでなく,発育と成熟のベクトルが一致せずに異形成に陥ることもある。

     本シンポジウムでは基礎的知見も含めて病因,病態を討議し,それを踏まえて管理,予後を討議する2つのセッションで構成した。

     病因と病態のセッションでは絨毛細胞の物質輸送,子宮胎盤循環,胎児との物質交換系の機能を生化学的要因,生理学的要因のそれぞれから考察が行われ,さらに胎児での発育の基礎的背景を構成する成長因子の作用機序,結合蛋白の特異性など基礎的な検討に加えて,関連演題で胎盤終末絨毛の定量的な形態学的観察,胎児の血流分布など病態について最新の知見が総合的に討論されている。成因についても要因不明の同胞例の報告など症候群としての胎内発育障害の多様性が浮き彫りにされた。

     管理と予後のセッションでは,胎内治療の可能性とその限界について長期予後を含めて討議された。胎内治療では栄養障害の治療が重要であり,脂質,糖,アミノ酸の母児間代謝動態を中心にそれぞれの意義と効果が検討された。出生後の新生児適応過程での管理は早産IUGRが予後の点からも最も重視されるが,血液凝固線溶機能など臓器不全の基礎的背景についても討議された。長期予後では中枢神経系の発達障害が問題であり,発育障害の程度,発症の時期など胎児期の異常と新生児期の適応障害との関連が討議された。

     現在周産期障害で最重視される胎内発育障害がこれほど広汎にしかも系統的に討議されたのは初めてであり,本シンポジウムで最新の知見が集約され,研究の方向付けがなされたことの意義は極めて大きい。周産期医学の進歩の一里塚としての輝かしい成果を強調したい。

シンポジウムA:IUGR:病因と病態
  • 望月 眞人
    p. 8-11
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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      少産主義の現代,21世紀を担う児たちだからこそ,すこやかな新生児期の発育が望まれる。したがって,周産期医療の臨床では,胎児状態の管理や分娩後の適応不全など,インタクトサバイバルという本質的な問題を含んで子宮内胎児発育遅延(intrauterine growth retardation;IUGR)の管理に一層の努力が求められる。

     IUGRは子宮内での胎児の発育が抑制された病的状態を総称した症候群であり,胎児発育曲線図上で-1.5SD(約7%タイル)以上小さいものをいい,出生後には一般にsmall for dates(SFD)とよばれる。胎児—胎盤—母体系という機能環のなかで胎児発育の障害をきたす要因は,その系を構成する個の機能状態に大別される(図1)。つまり母体要因,胎盤要因と胎児要因からなるが,これらの要因相互間の影轡の程度差によって,IUGRはsymmetrical type(fetal hypoplasia)あるいはasymmetrical type (fetal malnutrition)といった身体的な特徴づけがなされる。

  • 淵 勲
    p. 12-21
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     現代の周産期医学において最も重要な課題のひとつは,IUGR(intrauterine growth retardation)とそれに伴うSFD(small for dates infants)の発生の要因の解明とその予防である。今回はシンポジウム;IUGRの病因と病態,において妊娠高血圧とIUGR発生要因に関する基礎的検討を報告したので,その内容について述べる。

  • 飯岡 秀晃, 久永 浩靖, 森山 郁子, 南淵 芳, 赤崎 正佳, 片上 佳明, 一條 元彦
    p. 22-32
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     緒言

     IUGRの病態を考えるのに,胎児自身の有する成長能が大きな要因であるといえる。しかし一方,妊娠中毒症などに合併するIUGRにみられるような胎盤機能異常が関与する病態像も存在している。

     胎盤の機能としては,各種栄養物質の輸送が重要であり,胎盤絨毛をおおう絨毛上皮がその中心的役割を果たしている(図1)。一方,胎盤絨毛上皮は,血液と直接接する点で,血管内皮と同様に血液凝固を阻止し血液循環の維持にも関与していると考えられる。

     胎盤のもつ機能の全体像が解明されていない現時点で,胎盤機能面からIUGRの病態の全体像を把握するのは不可能ともいえるが,今回は,胎盤の生体膜機能,特に胎盤絨毛上皮刷子縁膜の機能の面からIUGRの病態像について検討してみた。

  • 若浜 陽子, 中山 雅弘, 今井 史郎, 竹内 徹
    p. 33-38
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     IUGR児の胎盤を病理学的に検索すると,種々の異常所見が認められる。1981年10月から1988年12月までに当センターで検索し得た胎盤で,AGA児,SGA児における異常所見の認められた頻度を検討してみると,妊娠中毒症でよく認められる母体面硬化や大梗塞は,SGA児において発症率はよリ高い。胎盤組織の顕微鏡的評価をしえた胎盤2,119例の検討では,絨毛炎はSGA児の10.9%, AGA児の1.7%に認められている(図1)。

     絨毛炎の原因としてはrubella, syphilis, mycoplasmaなどがあげられているが,絨毛炎の98%は原因不明とされている。当センターの成績でも絨毛炎の96.5%が原因不明であった。原因不明の絨毛炎(villitis of unknown etiology :VUE)の臨床的意義は周産期死亡およびIUGR児の発症に関係が深いことが報告されている1, 2)。わが国においても今井3)がすでに報告しているが,VUEの認められた胎盤を有した児では,仁志田らの胎児発育曲線4)において出生体重が-1.5SD以下のIUGR児は70.2%を占めていた(図2)。

     今回われわれは,このVUEの研究を一歩進め,VUEが一回の妊娠でのみみられる偶発的発症であるのか,あるいは繰り返されるものかということを検討した。

  • 秋葉 和敬, 桑原 慶紀, 水野 正彦
    p. 39-46
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     IUGRは今日の周産期管理において極めて重要な課題であり,その発症は母体要因,胎盤での物質交換障害による胎盤要因,胎児自身の遺伝的素因あるいは器官形成の障害による胎児要因に大別される。しかし,実際にはこの3要素が互いに関連し合い発症すると考えられており,症候群であるIUGRの病因・病態の解明を困難なものとしている。

     そこでわれわれはIUGR発症における胎盤側要因を検討する目的で,特に母体合併症・妊娠中毒症・胎児奇形を有さない症例の胎盤を研究対象として,胎盤において母児間の物質交換に最も関与していると考えられる終末絨毛の毛細血管分布について,組織学的に検討し,光顕レベル・電顕レベルでの定量形態学的解析を行った。

  • 村上 雅義
    p. 47-53
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     子宮内胎児発育遅延症(IUGR)は症候群であって,その成因は妊娠中毒症をはじめとする母体合併症から,胎盤の異常,臍帯の異常,胎児異常と種々雑多である。時にそれらが複雑に絡み合って,その成因を不明瞭なものとし,管理,治療方針の選択に障害となることがある。そこで個々の循環動態の評価を行い,成因ごとの特徴抽出が可能かどうか,あるいはその逆に循環動態からみた成因分類の可能性について検討したので報告する。

  • 岩本 好吉, 三浦 裕和, 竹内 裕一郎, 前田 一雄
    p. 54-58
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     IUGR(子宮内発育遅延)は,病因・病態ともに種々の様相を呈し,予後の面からも周産期管理における大きな問題のひとつである。

     この病態のひとつに羊水過少の合併があり,日常臨床でしばしば経験されるが,IUGR胎児では尿産生量が低下していることが報告されており1, 2),これが羊水過少の原因であると考えられる。この尿産生量低下の機序はまだ明らかにされていないが,IUGRではなんらかの障害が胎児に及んでおり,そのため胎児の体内では循環動態の変化が起こり,その部分変化のひとつに腎動脈血流の滅少があり,その結果,腎での尿産生率が低下する,という機序が考えられる。

     本研究では,IUGR胎児における腎動脈血流減少を調べる目的で,パルスドプラ法を用いて,正常発育胎児とIUGR胎児の腎動脈血流計測を行った。

  • 金岡 毅, 内田 克彦, 牧野 康男, 江本 精, 白川 光一
    p. 59-68
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     1983年にCampbellら1, 2)は超音波ドプラ法血流分析法を利用すれば子宮内胎児発育遅延(以後IUGRと略す)および妊娠中毒症の発症が予測できるという画期的な報告を行った。それ以来,母体の子宮動脈,胎児の臍動脈,大動脈,脳内動脈,心臓内血流などにおける超音波ドプラ血流波形分析法は,妊娠中毒症,高血圧症,腎炎,甲状腺疾患,糖尿病などの母体疾患や,胎児仮死,IUGR, 免疫性・非免疫性胎児水腫,先天異常などの胎児疾患の,それぞれ周産期管理において早期診断,病態解明,予後予測などにきわめて有用であるという報告が相次いて発表されつつある3~11)

     そこで今回はIUGRを合併する妊娠について,超音波ドプラ血流計測法によって子宮動脈と臍動脈,すなわち母児両方面から,胎盤血流における血管抵抗の変化を検討したので,ここにその成果を発表する。

  • 上田 康夫, 森川 肇, 小林 秋雄, 船越 徹, 山崎 敦子, 妹尾 純子, 望月 眞人
    p. 69-80
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     胎児発育は母体から胎盤を通して供給される同化栄養資材と胎児自身の成長メカニズムとの有機的なつながりのなかで遂行され,その機能不全は直ちに表1に示す胎児発育異常に結び付く。従来,胎児発育――特にIUGRに関する研究はもっぱら母体――胎盤性発症因子を中心に行われており,また,最近のME学的手法を用いての研究でも,胎児の循環,呼吸,行動などに関する生理学的アプローチが主体であり,胎児発育機構の本質を解明しようとする試みは少ないように思われる。

     表中に示す胎児性因子群をみても,そのなかには,染色体異常をはじめとする先天的なものが多く含まれることがわかる。しかし,このことは,本群がすべて治療不可能な疾患ばかりであることを意味するのではなく,むしろ胎児発育機構およびその病態に関する研究がその方法論的制約のために不足していた可能性を示唆するものであろう。

     筆者らは,従来より胎児発育機構に及ほす胎児自身の代謝内分泌性因子に関する研究を進めるうち,児の成長発育因子としてのインスリン関連ペプチドの重要な意義を示唆する一連の臨床的,基礎的研究成績を得るに至った。本稿では,IUGR発症の病態生理に関して,主にインスリン様成長因子の生物学的意義を中心に筆者らの成績を述べる。

  • 千葉 喜英
    p. 81-82
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     IUGRとは,病因と病態のストーリが確立した疾患名ではない。正常の胎児に比べてある程度小さい胎児に対して名づけられた疾患名であリ,症候群である。標準の大きさの胎児もしくは母集団の平均値から,ある程度離れた値に線を引き,それ以下の胎児をIUGRと診断するという統計学上の手法が診断には用いられている。いわば,小学校の1年生を各クラス単位で並ばせ,各クラスの一番前の子供をIUGRだといっているようなものであろう。つまり,診断の面ではIUGRをスクリーニングすることを目標にした診断基準が採用されているわけで,これはこれで臨床的意義はある。

     しかし,病因・病態さらに治療にまで話が及ぶと,この診断基準のみでは一定の見解を得ようはずがない。つまり,研究方法が生化学的,遺伝学的,生理学的など各種あり,どの方法をもっても目的変数をIUGRの有無におくとなんらかの結論は出ることになる。その結論から出る病態生理の仮説となると,どの研究方法によるものでも,IUGRの病態の一部は説明しうるだろう。そこにこのシンポジウムが計画された理由があるはずであり,それぞれの方法論を同じテーブルにのせることが最大の目的であった。

シンポジウムB:IUGR:管理と予後
  • 荒木 勤
    p. 84-86
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     IUGR (intrauterine growth retardation)とは,なんらかの原因で子宮内の胎児の発育が遅延あるいは停止するため,妊娠期間に相当しない児の発育状態がみられる場合をいう(日本産科婦人科学会用語委員会)。具体的には,胎児の体重が各妊娠週数に対する胎児発育曲線上の下限(Lubchencoの曲線では10パーセンタイル,船川や仁志田らの曲線では-1.5SD)以下の児体重を示すものをいう。

     このようなIUGRは,妊娠中および分娩中のfetal distressの発生が正期産成熟児や他のハイリスク児に対して高率である。したがって,IUGRの妊娠中の管理の良否は,周産期罹患率や死亡率を大きく右左する。新生児に至っては新生児仮死,呼吸障害,頭蓋内出血などから,児の短期予後,長期予後に大きな影響を及ぼしてくる。

     以上の観点から,IUGRを妊娠の早い時期からスクリーニングし,適切なIUGR管理を行っていくことが,われわれ周産期医療に携わるものの大きな使命といえよう。

  • 竹内 豊
    p. 87-88
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     I IUGR児の新生児評価

     産科的にIUGRと判断されていた胎児は出生して新生児となると,体重計測やその他の身体計測を受けてその成熟度を評価されるわけであるが,小児科領域における評価の方法としては,在胎週数に対する出生体重をもって区別されている。すなわち,仁志田らによって作成された厚生省心身障害研究班の胎児発育曲線に照らし合わせて,-1.5SD以下をlight for dates児とよぶが,慣用的にSFDとよぶことが多い。

     IUGRにおいては児頭大横径,軀幹径,推定体重などの経過から,symmetrical(proportional)IUGR, asymmetrical(dysproportional)IUGRに大別して評価されるが,新生児ではこのようなproportionに関するはっきりとした区別の手段はなく,これまでに,同じSFDでもproportionを加味したうえでその合併症の管理や予後を検討した報告はみあたらない。今回のシンポジウムでは,この点に関しての検討も発表されるものと期待している。

  • 大橋 正伸, 竹内 節子, 柴田 晴弘, 望月 眞人
    p. 90-100
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     IUGRの治療法のひとつに母体を介しての栄養剤輸液療法がある1~6)。本治療法の基本は,胎児発育に不足していると推測される栄養素を経母体的に補給することによって胎児代謝が合成系優位ヘシフトするであろうという考えに基づいており,その治療法の評価は主として,母体側の栄養学的変化もしくは最終結果である胎児体重の改善を指標としてきた。

     その反面,胎児側における栄養学的変化についての検討は,その研究対象の特殊性により大きく制限を受けてきた。したがって,栄養剤輸液療法が胎児側における糖,脂質,アミノ酸からなる栄養学的バランスをいかに変化させ,胎児の代謝動態をどのように改善するのかについての検討は極めて少ない。

     ところで,正常妊娠時には代謝的特徴として高脂血がみられるが,IUGRを伴う妊婦では往々にして低脂血になる傾向があり,また,逆に妊娠中毒症を基礎疾患とするIUGRでは極めて強い高脂血をしばしば伴う。そこでわれわれは母児間における糖,脂質代謝の改善を図れば,その結果として胎児発育が促されるだろうと考えた。

     このいわゆるworking hypothesisのもとに,低脂血の治療には静注用脂肪乳剤を,高脂血に対してはヘパリンの投与を行い,その有効性について検討してきた。本稿では,静注用脂肪乳剤を中心とした各種の混合輸液剤投与法を主として胎児側の栄養学的見地より検討し,さらにヘパリン療法およびマルトース療法などと比較検討したので報告する。

  • 河村 堯, 小川 隆吉, 荒木 勤
    p. 101-107
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     産科診療において,IUGRを妊娠早期に診断した後,IUGRを正常発育パターン内に修復させるために,早期治療を中心とした適切な母児管理が行われているが,いまだ確立された治療法がないのが現状である。

     一方,ヒトをはじめ哺乳動物では,妊娠末期になると胎児肝臓で急激にグリコーゲンが蓄積され,このグリコーゲンの蓄積現象が出産というストレスに対する胎児予備能維持に関与している。

     そこで本稿では,胎児肝におけるグリコーゲン糖代謝機構,すなわち肝グリコーゲン合成系の律速酵素であるglycogen synthetaseと分解酵素であるglycogen phosphorylaseの動態から,胎児の予備能としてのグリコーゲン貯蔵現象の意義を検討した。

     さらに,酸化的リン酸化反応やATP生成に関与し,幼牛血液の抽出産物である,いわゆる組織呼吸促進作用を有するソルコセリルや肝glucose-6-phosphataseの活性を高め,肝からのブドウ糖放出を促進したり,肝における蛋白質からの糖新生を促進し,肝グリコーゲンを蓄積させる作用があるグルココーチコイド(デキサメサゾン)に注目し,これらのIUGR胎児に対する出生前治療の有効性を検討した。

  • 森山 郁子, 斎藤 滋, 日野 晃治, 加藤 由美子, 丸山 雅代, 南淵 芳, 飯岡 秀晃, 赤崎 正佳, 橋本 平嗣, 辻 祥雅
    p. 108-114
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     IUGR児が母体合併症,胎盤機能不全,PROMなどにより胎児環境の悪化が生じた場合,児を胎外生活へ導くことが周産期管理に要求され,早産IUGRの大半はこのようにして生じる。一方,児のintact-survivalはその個体の胎外適応能を前提とするが,早産IUGR児の胎外適応能が早産AFD児に比しどの程度劣るかを明らかにするために,

     ①HbFからHbAへのswitchingについて

     ②免疫能は非特異的免疫,特異的免疫について

     以下に検討した。

  • 福田 雅文, 辻 芳郎, 仁志田 博司, 中林 正雄, 坂元 正一, 武田 佳彦
    p. 115-119
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     未熟児・新生児は敗血症,低体温,呼吸窮迫症候群,壊死性腸炎などにより容易に血液凝固線溶系に異常をきたし,出血傾向,DIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固症)を発症しやすい1, 2)。ここで母体が重症妊娠中毒症を合併すると,児は胎内発育障害を起こし,血小板減少や出血傾向を伴いやすいことが報告されているが3~5),その病態に関して十分に検討されていない。

     一方,血液凝固線溶系における液相の鋭敏な指標であるfibrinopeptide A (FPA), fibrinopeptide Bβ 15-42(FPBβ 15-42), β-thromboglobulin(βTG)は血中に存在すると同時に尿中にも排泄されることより,尿中FPA, FPBβ15-42, βTGは血液凝固線溶系を反映するものと考えられる6~8)

     本論文では,子宮内発育不全児における血液凝固線溶系の病態について未熟児•新生児の尿中FPA, FPBβ15-42, βTG排泄量を測定し,比較検討した。また,血管内皮細胞表面に存在し凝固を抑制するthrombomodulin(TM)の尿中排泄量も同時に測定したので報告する。

  • 茨 聡, 池ノ上 克, 蔵屋 一枝, 松田 和洋, 平野 隆博, 浅野 仁, 松本 俊彦, 飯藤 順一, 村上 直樹, 松田 義雄, 鮫島 ...
    p. 120-135
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     近年の周産期医学の進歩により,これまで生存不可能と思われてきた未熟児のintact survivalが可能となってきた。しかしながら,intrauterine growth retardation (IUGR)のperinatal mortalityやmorbidityは依然として高く1),その管理のあり方がクローズアップされている。そこで今回,われわれは,当周産期センターでいままでに取り扱ったIUGRの周産期諸因子と予後について検討を加えたので報告する。

  • 小口 弘毅, 蒲原 孝, 高田 史男, 野渡 正彦, 仁志田 博司
    p. 136-147
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     子宮内発育不全(SFD)は母体—胎盤—胎児系における多彩な病態生理を有する症候群であり,胎児から新生児への継続医療としての周産期医学の非常に輿味深い対象である。胎内からの発育不全は必然的に周産期の適応障害(maladaptation)をもたらし,このmaladaptationは糖代謝異常や多血症だけでなく呼吸循環系,その他多臓器にわたる機能異常であり,その頻度および重症度はSFD児の未熟性が強いほど,また発育不全が強いほど高度であると考えられる1, 2)。このような点を考慮して,SFDの新生児管理について述べた報告は少なく,ほとんどがSFDの多様性を無視し一括して論じているにすぎない3)

     そこでわれわれは在胎週数および出生体重からSFD児を6つのサブグループに分類し,周産期のmaladaptationあるいはその管理についてretrospective studyを行った。また従来より胎児発育のバランスを主として,体重と頭囲の発育から平均値より-1.5SDのラインで区切ってsymmetricalあるいはasymmetrical SFDという分類が好んで用いられているが,われわれはSFD児のバランスについて指標を作製し,バランスによるSFD児の分類にどのような意味があるか検討した。

  • 山口 規容子, 原 仁, 三石 知佐子, 仁志田 博司, 新井 敏彦, 福田 雅文, 星 順, 高橋 尚人, 中林 正雄, 武田 佳彦, 村 ...
    p. 148-154
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     IUGRは,周産期死亡率が高率であり,新生児合併症も多く,その後の児の発育発達に少なからぬ影響を与えることはよく知られている。

     またIUGRは,発症要因あるいはその作用時期によりさまざまな臨床病態を示す児の集団と考えられているので,予後を論ずる際に一括して取り扱うのは不適当であることはいうまでもない。

     したがって,IUGRの予後をできるだけその特徴を考慮して検討してみたい。

  • 安永 昌子, 宮村 庸剛, 増崎 英明, 山辺 徹, 川崎 千里, 草野 美根子
    p. 155-163
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     はじめに

     子宮内胎児発育遅延児(IUGR infant)は,正常発育の児に比べ,周産期死亡,仮死および神経学的異常の多いことが知られている1)。しかし,最近では,産科医のIUGRに対する関心が高まり,厳重な周産期管理が行われるようになってきたため,児の短期的予後は改善しつつある2, 3)。しかし,新生児期には身体的に小さいだけで,とくに問題のなさそうな児が,長期的にどのような予後をたどるのかは,必ずしも明らかにされていない。

     今回,私どもはSGA(small for gestational age)で出生した児の4~7歳の時点での精神運動発達に関する調査を行い,重度な神経学的異常の有無のみならず,軽度な神経学的異常や行動障害について,AGA(appropriate for gestational age)とのmatch control studyを行った。

  • 渡辺 とよ子, 鶴見 節子, 川瀬 泰浩, 森田 優治, 佐藤 紀子, 本間 洋子, 三科 澗, 柳田 昌彦
    p. 164-172
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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      一般的には,早産SFD児は低体重であっても,同体重のAFD児より成熟しているため,生命予後はよいと考えられている。最近では周産期医療の進歩に伴い,従来よりもさらに早期に発症する,より小さいSFD児を扱う機会が増えてきているが,極小未熟児におけるSFD児の予後については,統一された見解もなく不明の点も多い。超未熟児の救命率が向上してきている現在,後遺症なき生存を目ざすためにも,SFD児の急性期の病態・その後の発育発達について整理し,問題点について明らかにしていく必要がある。

     極小未熟児におけるSFD児の短期および長期予後について,AFD児と比較検討する。

  • 荒木 勤
    p. 173-174
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     妊娠中あるいは分娩中のIUGRの管理においては,過去に確立されたものはなかった。今回のシンポジウムにおいても,IUGR管理方法の確立までには至らなかった。その大きな理由のひとつは,IUGRは胎児の単一的な疾患ではなく,種々の病態像が重なり合った,いわゆる胎児発育障害の症候群と解せるがゆえとも考えられる。

     IUGRの積極的治療法のひとつに,母体を介しての栄養剤輸液療法がある。これに関しては従来からグルコースの母体輸液がよく行われてきた。この場合,グルコースの胎児インスリンの過分泌を抑えるために,インスリンに比較的依存性のないマルトースを使用することが多い。このグルコースは胎児エネルギー源として胎児発育に直接的,間接的に関与することは否定できない。特に,グルコースによるインスリンの発動が胎児の諸代謝系においてプラスに働いていることが考えられる。

     また,グルコース以外にも胎児発育にとって重要な物質も多々ある。アミノ酸や脂質も重要な栄養素である。ただ,アミノ酸でも胎児発育にとって重要な必須アミノ酸は何か,脂質のうちでも,胎児発育にとっての必須脂肪酸は何かが問題となってくる。それが解明されれば,それらの物質を重点的に補給するような輸液療法が登場してこよう。

     しかし,母児間の栄養素,酸素交換のバリアとなる胎盤機能の正常化が輸液療法や薬物療法を行ううえで大きなキーポイントとなる。胎盤機能障害への改善対策へのアプローチも今後の大きな課題であろう。

     最近,cordcentesisという手段を用いて,胎児の各妊娠時期における病態像をみることができるようになってきた。これらの詳細なデータは胎児agingによる管理方法,治療法の選択の必要性を示唆することになるかもしれない。いまや,出生前治療においても,それぞれのIUGR独自の管理方式をとらなければならなくなるだろう。IUGRを一括して管理する必要もなくはないが,個別化されたIUGR管理方針を見出す努力も必要となってくる。

     また,IUGRの短期予後および長期予後をみた場合,pretermにおけるIUGRでは神経的後障害の発生も高いといわれている。さらに,妊娠中毒症や糖尿病合併妊娠では神経的後障害の発生率も高いことが,今回より明らかにされた点でもあった。このような例では,妊娠中になんらかのストレスが胎児に加われば予後にとって悪い影響を与えてくる。また,そのようなストレスが加わったのが妊娠の比較的早い時期で,しかも長時間にわたるものであればあるほど,IUGRの予後に与える影響は大きい。この場合,妊娠中期の管理,頭部発育の経日的観察が極めて重要であることが明らかにされた。

     したがって,IUGRの管理において分娩時期の決定,すなわち胎内治療の継続か胎外治療への移行かのタイミングが重要なポイントとなろう。

     また,胎盤機能改善への模索,IUGR児の免疫能からみた予後およびその管理のあり方,さらには血液凝固線溶系の異常からみた管理のあり方についても多くのアプローチがなされた。このことはIUGR管理の新しい方向への転換が重要であることも強く印象づける結果となった。

  • 竹内 豊
    p. 175
    発行日: 1989年
    公開日: 2024/05/07
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     IUGRの新生児期合併症とその管理について小口は詳細な検討をしたが,特に問題となることは感染の合併が高いということであった。これは子宮内における感染と出生後の感染の両者の危険が多いとのことであり,SFDとして出生した児の管理にあたっては十分な注意を払わねばならないことが指摘された。

     さらにディスカッションのなかで,NICUにおける手洗いをはじめとする感染予防対策について見直しの必要性が問われた。今後の検討に待ちたい。小口はさらにSFD児を体重と頭囲の組合わせからいくつかのproportionの程度に分けて,各グループ間における合併症の発現頻度を比較したが,在胎週数の同じグループ間では際立って有意な結果は得られなかった。しかし,このような胎児の発育パターンと予後との関係などは重要な問題であるので,今後さらに詳しく検討する必要があることが提示された。

     予後に関する検討は山口をはじめとして主に精神発達について述べられた。特に山口は妊娠中期に始まった中毒症母体から出生した児に脳障害発生率が高いと述べ,さらに,中毒症発症初期から産科管理を十分に行った例では後障害の発生の率が低くなると述べ,産科と小児科と連携のよくとれた胎児管理が必要なことを強調した。頭囲の発育の悪いものほど後障害発生の可能性が高いのではないかと推測されるようなデータは各演者から発表されたが,どのくらいの期間が危険なのかあるいはどの程度が危険なのかについては明確な結論が得られないままに終わった。今後の検討に期待したい。

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