本研究では, 短下肢装具の底屈制動モーメントが片麻痺者の歩行に与える影響を, 複数の歩行分析項目で明らかにすることを目的とした. その中で, 歩行分析項目の重要性, 項目間の関連性, 歩行の改善が顕著な底屈制動モーメントの大きさと, 歩行自立度など他の要因との関連性について検討した. 対象は片麻痺者16例とし, 底屈制動モーメントの大きさを4段階に変えた装具歩行と裸足歩行の5条件の歩行を, 三次元動作解析システムで計測した. 歩行改善の指標として歩行分析項目7つを選択し, 各症例のそれぞれの項目について計測条件間の有意差の検定 (一元配置分散分析, Tukey's HSD test) を行った. 歩行改善の程度を歩行分析項目ごとに比較した結果, 改善の度合いを最も反映した項目は,「Initial Contact (IC)~Loading Response (LR) の重心 (COG) 進行方向速度」であり, 次に「非麻痺側歩幅」であった.「歩行自立度」と「歩行が改善した条件 (重複条件)」との関係では, 屋内監視群では底屈制動モーメントが大きいものが多く, 屋内自立群と屋外自立群では小さい傾向が認められた. 今回の研究結果から, 装具の底屈制動モーメントによる歩行の改善を評価するために, 歩行分析項目として「IC~LRのCOG進行方向速度」および「非麻痺側歩幅」が有効であることが示唆された. また歩行自立度が低く膝関節ロッキングパターンを示す片麻痺者では, 大きな底屈制動モーメントで歩行が改善し, 歩行自立度が高い片麻痺者では小さな底屈制動モーメントで改善する傾向が認められた.
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