日本義肢装具学会誌
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35 巻, 1 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
日本義肢装具学会飯田賞本賞を受賞して
日本義肢装具学会飯田賞奨励賞を受賞して
特集 身近なセンサの仕組みと利用方法
  • 佐藤 健斗
    2019 年 35 巻 1 号 p. 7-10
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    現在,臨床における異常動作やそれに対する介入効果等の評価は主観的な評価が中心であり,客観的データを計測して解析するといった評価は一般的とはいえない.その理由は計測機器の導入にかかる費用や使用環境の面などでハードルがあるためと考える.そこで今回は,非常に身近な「センサの塊」であるスマートフォンを活用した動作時のデータ取得と,マイクロソフトエクセルを活用したデータ解析を紹介する.客観的評価が手軽に行えるようになることで,義肢装具の製作や適合に関する評価に活用されたり,装着による好影響をデータとして蓄積されたりするような機会が誰にとっても身近になると幸いである.

  • 栗田 泰成, 金 承革
    2019 年 35 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    筋力は,姿勢や動作の機能レベルを評価するために原因因子として重要なパラメータの1つである.近年,臨床で使用しやすい筋力計測機器が開発され,その精度が向上している.本稿では比較的安価な徒手筋力計(以下,HHD)に焦点を当て,その有用性と臨床応用について解説する.筋力計測において重要なことは,筋力が運動の源であり,筋力と姿勢·動作の特性との関係を見出そうとする概念である.HHDを用いる筋力計測では誤差が出やすく,これを減らす手順や条件設定と留意点がある.計測の留意点としては (1) 代償運動を抑制する,(2) 計測値を関節トルクに換算する,(3) 負荷抵抗の押込みは可能な限り等速にする,(4) 再現性の高い身体条件を設定する,の4点が挙げられる.

  • 春名 弘一, 昆 恵介, 稲垣 潤, 佐藤 洋一郎
    2019 年 35 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    動作の改善を目的としたリハビリテーションにおいては,運動の客観的な記録は有用である.しかし,臨床現場で三次元動作解析を実施するには経済的,空間的,時間的障壁が存在し現状では十分な臨床での普及には至っていない.本稿では,これらの障壁を解消する手法として近年注目されているマーカーレスモーションキャプチャによる三次元動作解析について活用事例もふまえて紹介する.マーカーレスモーションキャプチャによる動作解析は,従来から活用されている光学式カメラを利用したモーションキャプチャ手法やモーションセンサ手法に対して,身体に体表マーカーやモーションセンサなどの貼付が不要で,煩雑な計測準備が不要である.また,骨格認識が自動化されているためソフトウェアが扱いやすく,臨床現場での有益性が高い手法であるといえる.一方で,従来法と比較して計測精度は低いのが欠点であるが,センサや骨格認識技術の改良などにより今後はさらに計測精度が向上すると考えられる.

  • 敦賀 健志
    2019 年 35 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    市販の電子部品を利用した簡易的な筋電計の製作方法と実際の計測結果および具体的な活用事例について紹介する.筋電位は非常に微弱なため電気的に増幅するアンプと,特定の周波数帯域の信号を抽出するためのフィルタが必要となる.本稿では機能を増幅に特化している計装アンプと,回路構成が非常に簡単なRCフィルタを採用して筋電計の製作を行った.実際の計測ではノイズの混入が見られたものの,筋電位の有無が十分に確認できる結果を得た.また,活用事例として製作した筋電計を筋電位スイッチとして利用を試みた.筋電位の有無によって電動モータのON/OFFを制御するプログラムを製作し,その実用性を確認することができた.

  • 関川 伸哉
    2019 年 35 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    人間と環境はそれ自体が単体で存在するのではなく,それぞれが相互に作用しあって存在している.障害者や高齢者にとっての義肢装具をはじめとした福祉用具は,まさに環境因子であり,こうした環境の良し悪しが行動·活動,さらには心や体に大きな影響を与える.近年では,心拍やアミラーゼ活性値を活用し,ストレスや自律神経に関する評価を行っている論文が散見される.そこで本論では,比較的安価で簡易的なストレスや自律神経評価手法について紹介する.

  • 金 承革
    2019 年 35 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    MEMS (Micro Electro Mechanical Systems)技術により慣性センサは軽量化·小型化され,かつ安価に入手可能となった.慣性センサは加速度,角速度,地磁気,温度等,1つの装置で様々な運動パラメータのセンシングが可能となっている.慣性センサは装着も容易であり,歩行計測を簡便に行える利点がある.加えて,遮蔽物や計測対象ではない者が傍に存在しても,データが途切れることはないという利点もある.歩行動作の空間距離時間因子である,歩幅や歩調(ケイデンス),歩行周期の同定,重心軌跡を精度よく算出できる.慣性センサのデータを分析する際のドリフトや積分による誤差蓄積があることに対しては,いくつかの対処法が考案されている.

  • 昆 恵介
    2019 年 35 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    近年では,義肢装具利用の適合評価の際に運動力学的観点から,力やモーメントなどで評価する論文を散見する.多くは三次元動作解析システムなどの高額な機器を用いたものが多く,敷居が高いものである.本稿では歪みゲージという1枚数百円程度の安価なセンサを利用して,力やモーメント計測を実施するための方法について,機器の準備から,キャリブレーションの方法についても言及する.また本稿は,極力,数式などの難しい専門用語は避けて読者にわかりやすく説明していき,義肢装具の力学評価導入にあたって敷居を下げたいと筆者は思っており,積極的に義肢装具の評価に応用していただければと思っている.本稿の後半では,実際に装具に歪みゲージを貼付して得られた活用事例についても紹介する.

原著
  • 齋藤 恒一, 畠中 泰彦, 中俣 孝昭, 山口 和輝, 鈴木 光久
    2019 年 35 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,無動力歩行支援機ACSIVEを活用した歩行練習が,健常者の歩行パターンに及ぼす1時間後の影響を明らかにすることである.対象は,健常成人23名とした.歩行練習は,ACSIVEを装着し,1,000歩の歩行とした.歩行練習の効果は,三次元動作解析装置と床反力を用い,歩行練習前後および1時間後の裸足歩行を計測し,3条件の下肢関節角度と関節モーメントを比較した.歩行時の下肢関節モーメントは,逆動力学モデルを用いて計算した.その結果,ACSIVEを活用した歩行練習は,1時間後においても荷重応答期の股関節最大伸展モーメントを有意に増大し,立脚終期から前遊脚期にかけて股関節屈曲モーメントを有意に減少させた.本研究では,ACSIVEを用いた歩行練習は,反復と課題特異性により後効果を示した.

  • 小原 謙一, 永田 裕恒, 藤田 大介, 高橋 尚, 大坂 裕, 末廣 忠延
    2019 年 35 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,車椅子の背もたれを後傾位から元に戻す際に発生する臀部ずれ力を軽減させるために筆者らが考案した改良型背もたれ用シートカバーの効果を検証することであった.対象は,健常成人14人(30.9±7.6歳)であった.臀部ずれ力の測定には電動リクライニング式の実験用椅子に設置した床反力計を用いた.実験条件は,改良型シートカバー条件,従来型シートカバー条件および対照条件の3条件であった.実験の結果,改良条件は他の2条件と比較して,背もたれを後傾位から元に戻す際の臀部ずれ力は有意に低値を示していた(p<0.01).結果から,改良型シートカバーは背もたれ傾斜中の臀部ずれ力をより軽減させ得ることが示唆された.

  • —模擬筋電義手による検証—
    大庭 潤平, 梶谷 勇, 大西 謙吾, 柴田 八衣子, 溝部 二十四, 増田 章人, 山本 澄子
    2019 年 35 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,健常人を対象に模擬筋電義手を用いて筋電義手訓練で用いられる片手操作課題と両手操作課題が義手操作能力に及ぼす影響について検証した.対象は,健常人20名とした.片手操作課題群と両手操作課題群に分け5日間の課題を実施した.片手操作課題はブロック·木円盤の移動,両手操作課題はマクラメを実施した.評価は,Box and Block TestとThe Southampton Hand Assessment Procedureを用いた.その結果,物品操作能力については両手操作課題が片手操作課題と比較して向上することが明らかになった.

症例報告
  • 東原 孝典
    2019 年 35 巻 1 号 p. 65-67
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    電動義手は,装飾性と機能性を合わせ持ち,近年の欧米諸国では,標準的に処方される義手のひとつとなっている.我が国においても,障害者総合支援法や労災保険法において筋電制御の電動義手が支給されるようになっている.しかし,障害者総合支援法による特例補装具としての電動義手の支給は難しいのが現状である.このたび,30年以上,両上腕電動義手を使い続けていた切断者の電動義手が耐用限界となり,2012年に障害者総合支援法によって電動義手の支給を受けるために,徳島市に申請し,2016年には徳島県更生相談所において適合判定を受け,新しい両上腕電動義手の支給が認可された.そこで,30年間使用した電動義手の破損状況と新しい電動義手の仕様,ならびに特例補装具の申請から支給までの流れについて述べる.

  • 福井 信佳, 谷合 義旦, 永井 栄一, 夏梅 隆至, 松下 卓也, 川村 慶, 西野 誠一, 松本 成将, 平林 伸治
    2019 年 35 巻 1 号 p. 69-73
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    骨格構造型能動上腕義手(以下,骨格構造義手)の臨床応用は,肩離断や肩甲胸郭間切断など切断レベルが高位である対象者に対して,義手による把持機能の再獲得に用いられている.今回,上腕切断者の一事例に対して義手の外観性を改善させるため骨格構造義手を製作し好結果を得たので報告する.製作過程においては ① 肘継手がアンロック時に,自動屈曲が90℃以上になると手先のハンドが開くという課題があったが,能動ハンド内のスプリングの強さを調整し改善した.次に ② 1点目の課題と関連するが肘自動屈曲時に完全屈曲が得られない課題があったが,独自にスプリング機能付きケーブルを考案し改善した.このケーブルは,スプリングの力を利用して肘自動屈曲をアシストするもので肘自動屈曲角度の改善につながった.以上の工夫により操作性を保ちつつ外観性に優れた骨格構造義手の製作と使用が可能となった.

講座 義肢・装具関連のリスクマネージメント
  • 高橋 敬子, 中島 和江
    2019 年 35 巻 1 号 p. 74-79
    発行日: 2019/01/01
    公開日: 2020/01/15
    ジャーナル フリー

    我々が日々従事する医療は,人を助け人に希望を与えるもので,そのほとんどが患者の期待に応える良い結果をもたらしている.しかしながら,実施した医療が予期せぬ悪い結果を患者に与えてしまい,患者のみならず,その家族や医療にかかわった医療者の人生にも影を落とすといった事例が生じていることもまた事実である.複雑で不確実な医療において,最大限の効果を患者にもたらすためには,「医療事故は起こりうるもの」という認識のもとで,インシデントレポートの意義や生かし方,ヒューマンエラーの発生要因を理解し起こりうる事故の予見やその防護策を講じる必要がある.また何よりも「改善」を意識した組織全体での医療安全への取り組みが,医療における患者安全の確保につながるものと考える.

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