車椅子や姿勢保持装置を必要とする先天性疾患は多岐にわたるが,本稿では最も処方を必要とする運動障害のうち,頻度の高い脳性麻痺と二分脊椎について,その概要と処方の実際についてまとめた.脳性麻痺はumbrella termであるため,様々な側面から分類し,治療方針を立てていく必要がある.歩行不能児では股関節脱臼や側弯症のリスクが高く,注意が必要である.機能向上のため,適切な車椅子や姿勢保持装置の処方が求められる.二分脊椎は障害高位により分類され,重症型では移動時には常に車椅子を必要とする.下肢の麻痺だけでなく,合併症による上肢機能障害の頻度も高いため,車椅子の種類を選択する際には留意すべきである.
急性期病院から脊髄障害専門リハビリテーション病棟へ転入した脊髄障害患者に対する車椅子処方について,障害特性による処方の観点を列挙した.また,当院における処方までの流れを紹介する.障害高位,完全・不全,四肢麻痺・対麻痺などにより,処方のタイミング,内容も様々である.多職種連携の特性を生かし適切な処方,公的支援の円滑な利用を進められるよう対応する必要がある.
車椅子および姿勢保持装置は障害者総合支援法の規則に則り支給が決定され,肢体不自由で移動能力に制限のある先天性疾患患者の日常生活を支える上で,移動および姿勢の保持を補助する重要な役割を果たしている.長年の研究・開発によりそれぞれの補装具は多機能・高性能となったものの,多岐に渡る選択肢から使用者に合わせた選定を行う困難さも生じている.そこで,補装具を製作する頻度が高い先天性疾患患者における車椅子および姿勢保持装置の選定に際して,製作する目的や収集するべき情報,評価,選定時に留意する点を臨床上の知見を交えて述べることとした.
脊髄損傷者にとって車椅子は生活上,欠かせないものである.障害特性による身体機能,移乗動作方法等から脊髄損傷者向けの車椅子は標準型車椅子と比較して特異性が高い.主に完全麻痺者を対象とした車椅子の具体的な仕様を解説するとともに回復期のリハビリテーションにおいて,車椅子を選定・作製する過程と,選定するための身体寸法と車椅子寸法の関係,仕様を決定する視点について述べる.また,電動車椅子や6輪車椅子といった特殊な仕様の車椅子も紹介する.
先天性疾患に対する車椅子の製作は,対応する場面が少ない方も多いと思う.いざ,対応しようとした際,何に注意すべきなのか,どのような選択をしていったら良いかは,経験を積んでいかないと判断が難しい.そのような方の一助となればとの考えで,処方に際しての注意点や,注目すべきポイントについて筆者なりの考えを記載する.
近年,義肢装具士養成教育において,車椅子・シーティングの学習が重要視されている.高齢化の進行や障害者支援の拡充に伴い,シーティング技術の習得は,義肢装具士の基本的なスキルの1つとなりつつあると考えられる.本稿では,新潟医療福祉大学における車椅子・シーティング教育のカリキュラムとその内容について紹介する.本学では,従来の製作中心であった教育から,対象者の評価を重視し,シーティング技術を考える実践的な授業へと切り替え,シーティング技術を体系的に学ぶ機会を提供している.講義と実習を組み合わせたカリキュラムのもと,車椅子の構造や適応疾患,姿勢評価の手法,適合技術などを学ぶ.特に,座位姿勢計測器や圧力分布測定技術の活用により,科学的根拠に基づいた適合評価を行う能力を有する学生の育成を目指している.さらに,作業療法士や理学療法士など他職種との連携も取り入れ,チームアプローチの観点からも臨床における実践力を強化している.しかし,義肢装具士養成教育におけるシーティング教育には,標準化された教育プログラムの不足や,実践的な適合スキルの習得の限界といった課題も多く存在する.今後は,多職種連携を意識した教育の拡充や,新技術を活用した評価・適合プロセスの確立が求められる.適切な車椅子・シーティングの提供は,対象者のQOL向上だけでなく,活動性や社会参加の促進にも寄与するため,義肢装具士養成教育において重要な役割を果たすことが期待されると考えられる.
交通外傷により第5胸髄残存完全対麻痺となり,右橈骨遠位端骨折と舟状月状骨解離を併発した症例を経験した.右手関節への荷重は52病日まで禁止されプッシュアップ動作は困難であった.手関節への負荷の最小化,早期から移乗動作を獲得することを目的にダイヤル式ケーブルロックシステム(BOAキット)を用いた手関節免荷装具を製作した.73病日に装具装着下のプッシュアップ動作練習を開始し,113病日に床上動作,移乗動作を獲得できた.装具装着の利点として,プッシュアップ動作時の手関節部への荷重の回避と疼痛軽減,舟状月状骨解離の増悪の予防,床上動作・移乗動作の反復練習を可能にしたことが挙げられる.
上肢切断者に対する筋電電動義手の処方において筋電信号を検出する皮膚の状態は重要な処方基準となる.外傷によるデグロービング損傷などでは,多くが皮膚欠損を伴い皮膚移植を必要とする.切断した断端部は,正常皮膚,移植皮膚,瘢痕組織,その境界部が存在し,筋電検出部位の特定に影響することから筋電電動義手の処方を躊躇することも多いと思われる.しかし,単に筋電検出を行う筋腹上に移植皮膚や瘢痕があることによる処方判断でなく,筋走行部での筋電検出可否を精査し,筋電電動義手処方の有無を判断するべきであり,皮膚移植,瘢痕を有する上肢切断者への筋電電動義手の取り組みおよび筋電位検出に関して報告する.
義肢装具の臨床研究において,効果的な装具設計を追求するためには,客観的なデータに基づいた検証が不可欠である.そのため,実験計画法に基づいたデータ収集と統計的な解析が重要となる.本稿では,義肢装具学会員の皆様に向けて,実験計画法の中でも特に,分散分析と直交表解析に焦点を当て,その基礎概念から具体的な応用までを解説する.分散分析は,複数の要因が結果に及ぼす影響を評価するための基本的な統計手法である.特に,二元配置分散分析では,要因間の交互作用を評価することが可能であり,より詳細な分析に有用である.一方,直交表解析は,多数の要因が結果に及ぼす影響を効率的に評価するための実験計画法である.直交表を用いることで,少ない実験回数で,各要因の主効果と交互作用を効率的に把握できる.本稿では,これらの統計手法の基本的な概念を解説し,具体的な義肢装具の設計因子を例として,直交表を用いた実験計画と解析方法を詳細に説明する.さらに,得られた解析結果の解釈方法についても解説する.本稿を通じて,義肢装具の開発・臨床研究における統計的思考を深め,よりエビデンスに基づいた装具設計に繋げる一助となれば幸いである.