女性心身医学
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21 巻, 3 号
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巻頭言
特集 第45回日本女性心身医学会学術集会報告
原著
  • 今野 理恵子, 淺野 敬子, 正木 智子, 山本 このみ, 小西 聖子
    2016 年 21 巻 3 号 p. 295-305
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/13
    ジャーナル フリー

    【目的】性暴力被害後3カ月以内に精神科初診となった患者(急性期)とそれ以降に初診となった患者(慢性期)の転帰や症状評価の比較検討を行い,臨床の実態を明らかにする.

    【方法】2012年6月~2015年11月末の3年半に性暴力被害後に初診となった患者のカルテから,転帰や症状評価,認知行動療法の実施実態等の情報を収集し分析する.

    【結果/考察】①調査対象者数は初診時に被害から3カ月以内の急性期群21名,それ以降の慢性期群12名の計33名であり,急性期群と慢性期群で有意差が見られたのは精神科既往歴(p=.024)であった.②急性期群21名の転帰は,寛解者が6名,治療中断者が9名,治療中の者が6名であった.慢性期群においては,寛解者はなく,治療中断者が3名でいずれも,1回か2回の診察で中断となっていた.寛解者の被害から診察に至るまでの平均日数は1カ月程度であり,治療中の者や治療中断者の50日余りと比べて少なく,被害後早い段階で診察に至ることがより良い予後につながる可能性が考えられる.中断者は,平均診察期間が短く治療の方針を立てる前に中断となってしまったことがうかがえる.③急性期群,慢性期群の初診後直近と2015年11月30日以前の直近の前後比較を行った結果,急性期群ではIES-R(p=.0108),DES(p=.0208),BDI-II(p=.0277),JPTCI(p=.0469)の心理検査において有意差が認められた.④認知行動療法を行うまで,初診から急性期群で6カ月,慢性期群で10カ月ほどかかっていた.急性期群で認知行動療法を実施した7名すべてのIES-R(p=.0180),CAPS(p=.0464)得点が下がっており,転帰も寛解か軽快になっていた.慢性期群の場合も,実施した5名は,有意差は認められなかったがIES-R,CAPS得点は下がっていた.

    【結論】性暴力被害者に対して認知行動療法を行うことが,PTSD症状を減らすためには,有効であると考える.ただし,認知行動療法実施には一定の準備期間が必要であり,その期間の中断をいかに防ぐかが今後の課題である.

研究報告
  • 添田 梨香, 上田 公代
    2016 年 21 巻 3 号 p. 306-313
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究では,妊娠中の「ストレス要因とそのストレス反応」について,その「ストレス対処」には「ソーシャルサポート」の強化,「生活満足度」や「心の健康度」の向上が有効に関連する,という概念枠組みのもと,相互の関連性を明らかにすることを目的とした.2011年4月25日~2012年3月9日,質問紙調査を行い,妊娠初期175名,中期207名,末期191名の計573名の妊婦を分析した.その結果,ストレス要因とその反応の得点は,妊娠3期別比較で有意差はなかった.ソーシャルサポートの実現度は,妊娠の全期間を通じて高い傾向にあり,生活満足度は初期より末期が有意に高く,夫に関連する満足度が高い傾向にあった.重回帰分析により,妊娠ストレスを低下させた要因は,生活満足度と心の疲労度(低い)であった.一方,妊娠ストレスを高めた要因は,日常ストレスであった.ストレス要因とストレス対処についての記述では,どちらも「夫」に関する内容が,それぞれ23.6%,33%と最も多く言及されており,夫に関することはストレス要因であり,同時にストレス対処要因と考えられた.

     これらより,ストレス要因の緩和やストレス対処には,生活満足度の高揚と,心の疲労度(が低いこと)が重要であり,特に夫との関係性や夫のサポート力を高めることの重要性が示唆される.

  • —保育機関における子育て支援のあり方—
    山西 加織, 渡辺 俊之
    2016 年 21 巻 3 号 p. 314-324
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/13
    ジャーナル フリー

    【目的】母親の心身の健康支援を含めた子育て支援策の一助として,幼児の預け先別に,母親の不定愁訴と育児感情の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】幼稚園および保育所に通園する1歳から6歳児の母親を対象に,無記名自記式質問紙による横断的調査を行った.調査内容は,精神健康度を示す日本版GHQ12(The General Health Questionnaire),育児に対する負担感,不安感,肯定感を測る育児感情尺度,自覚する不定愁訴の症状の強さであった.【結果】幼稚園3園(373人),保育所6園(366人)に幼児を預ける739人の母親において(有効回答率64.9%),1)幼稚園児の母親に比べて保育所児の母親は精神的健康度が低く,2)幼稚園児の母親では育児感情の『育児への束縛による負担感』が高く,保育所児の母親では『育て方への不安感』が高かった.3)不定愁訴を自覚する母親は71.3%であり,幼稚園児の母親に比べて保育所児の母親のほうが不調を強く自覚していた.有訴率は「疲労感」「イライラ」「肩こり」「体のだるさ」の順で高かった.4)預け先とは無関係に,精神的健康度が低い母親と不定愁訴を自覚する母親は,育児への否定的感情が高く,肯定的感情が低い傾向にあった.幼稚園児の母親では家族形態や健康習慣の実践状況等の外部要因が否定的な育児感情に影響していたが,保育所児の母親では外部要因の影響はみられなかった.【考察】保育機関により特徴が異なることから,子育てをする母親の情緒的負担を軽減するためには,母親の実態に即した育児支援策を検討すること,特に,母親の不定愁訴や生活特性の実態を踏まえた健康支援が必要であることが示唆された.

  • 淺野 敬子, 中島 聡美, 成澤 知美, 中澤 直子, 金 吉晴, 小西 聖子
    2016 年 21 巻 3 号 p. 325-335
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/13
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】性暴力被害者が被害後の急性期に被害による心身への影響や司法手続きおよび支援に関する情報を得ることは,被害後のストレスを軽減し,被害者を適切な治療や支援に繋げやすくすると考えられる.しかし,被害後急性期の被害者に総合的な支援情報を提供する媒体は少なく,その有用性について評価されたものはない.そこで,急性期性暴力被害者のための情報提供用ハンドブック(以下,冊子)を作成し,性暴力被害者の支援者または治療者(以下,支援・治療者)を対象に本冊子の有用性について評価を行った.

    【方法】先行研究や性暴力被害者への聞き取りを基に冊子原案を作成し,多職種の専門家,被害当事者(29名)に意見を求めて原案を修正し冊子を作成した.本冊子の有用性を評価するため,産婦人科医療機関や支援機関に所属する性暴力被害者の支援・治療者(186名)を対象に自記式アンケート調査を行った.本調査では,調査協力者へ先に本冊子を配布し冊子を使用してもらい,3カ月後に本冊子の有用性についての自記式調査票を配布し回答を得た.本研究の実施にあたり,国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の承認を得た.

    【結果】対象者のうち104名(回収率55.9%)から回答を得た.回答者は,女性が95.2%であり,平均年齢は54.1±13.1歳であった.調査期間に被害者に本冊子を使用した者は18.3%であった.冊子全体の評価では,支援者および被害者・家族にとって「役に立った」という回答は80%以上あり,「理解しやすかった」という回答は70%以上であった.調査期間中に支援・治療を経験した者では,そうでない者と比べ「治療・支援が円滑に行えた」という評価が高い一方,「時間の負担」が増したとする意見が多かった.

    【考察】本冊子は,支援者の視点から被害者に情報提供をする上で有用であるという評価を得た.今後は性暴力被害者から評価を得て本冊子の内容を検討することが課題である.

症例報告
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