女性にとって妊娠・分娩・育児は大きなライフイベントであり、大きなストレスにもなる。我々は産褥期における睡眠障害を検討するため、初産婦、経産婦を対象に、睡眠日誌を産褥期に1ヶ月間記録した。その結果、(1) 初産婦と経産婦の典型例の睡眠パターンおよび睡眠出現率においては入院中は明確な差異を認めなかった。退院後は、経産婦では睡眠の分断は見られるものの、夜間睡眠の出現率が高く規則的な睡眠・覚醒パターンを示しているのに対し、初産婦では夜間睡眠出現率の減少と昼間睡眠出現率の増加が認められた。分娩後の経過とともに夜間時間帯への睡眠の集中が観察されたが、産褥1カ月まで睡眠・覚醒パターンの乱れが残っていた。(2) 睡眠日誌をもとに睡眠時間の集計を行ったところ、入院中(分娩後1週間)は初産婦および経産婦で睡眠時間に有意差を認めなかったが、退院後の分娩後第2、3、4週の夜間睡眠時間と第2、第4週の全睡眠時間において初産婦群で有意に減少していた。(3) 産褥期の気分変動については入院中での差は見られなかったが、退院後は初産婦群で気分の悪化が大きく、特に分娩後3週(退院後2週)で有意に悪化していた。以上から初産婦では経産婦に比し、睡眠・覚醒リズム障害を来しやすく、産後の精神障害発現の一要因となっている可能性が示唆された。また睡眠日誌による睡眠と気分変動の長期記録が、睡眠障害や産褥期精神障害の診断と予防において、簡便な補助的手段となりうると考えられた。
抄録全体を表示