本研究の目的は,月経前症状が薬物使用のトリガーとなった経験を持つ女性の特徴について検討することであった.2017年,法務省法務総合研究所は,全国の刑事施設(医療刑務所および拘置支所を除く78庁)にて受刑中の覚醒剤事犯者を対象に「薬物事犯者に関する研究」を実施した.本研究では,この研究データの二次分析を行った.本研究は国立精神・神経医療研究センターの倫理審査の承認を得たうえ実施した.分析対象である女性受刑者は,2017年7~11月の調査期間中配布された質問紙の質問項目のうち,気分変調,倦怠感,食欲異常,睡眠障害の4つの月経前症状と薬物使用の関連項目すべてに回答した182名であった.4つの月経前症状のいずれかが薬物使用のトリガーとなった経験を持つ女性を該当群(94名),いずれの症状もトリガーとなった経験を持たない女性を対照群(88名)とし,薬物使用の関連項目について2群の差の検定を実施した.支援ニーズについては,覚醒剤を使用することによるメリットおよびデメリットとして認識している項目を複数選択で求め,それぞれの項目数の単純加算について2群の差異が認められるかを検討した.該当群は対照群よりも,覚醒剤を使用し始めた年齢が有意に低く,今回の逮捕などにより身柄を拘束される直前の1カ月間の平均使用日数が多く,薬物問題の重症度を評価するDAST-20日本語版スコアが高いという結果が得られた.このことから,トリガーとしての月経前症状を持つ女性はそうでない女性よりも薬物問題が深刻であり,治療の必要性が高い可能性が示された.該当群は対照群よりも,覚醒剤を使用することのメリットおよびデメリットのいずれの該当項目数も多く,該当群は覚醒剤をポジティブな効果やネガティブな影響をもたらす物質として認識し,覚醒剤を使用することにより,月経前症状と同様の症状の緩和や低減を体験していた可能性が示唆された.
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