日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1131件中101~150を表示しています
  • 本瀬 宏康, 濱田 隆宏, 中村 匡良, 加藤 壮英, 橋本 隆, 酒井 達也, 渡辺 雄一郎
    p. 0101
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    NIMA-related kinases (NEKs)は、真核生物に広く保存されたセリン・スレオニン型タンパク質リン酸化酵素である。菌類や動物細胞の解析から、NEKsはcdc2の下流でM期の開始・進行を調節すること、中心体に局在して中心体の分離を誘導することが示された。一方で、鞭毛や繊毛の退縮・形成を制御するNEKsが発見され、有糸分裂以外のNEKsの機能が注目されている。我々は、ユニークな微小管システムを持つ植物細胞においてNEKsがどのような機能を果たしているのか明らかにするため、シロイヌナズナNEKファミリーの機能解析を進めている。シロイヌナズナには7つのNEKsが存在するが、その機能はほとんどわかっていない。最近、我々は、シロイヌナズナNEK6が微小管上に局在し、表皮細胞の伸長方向を調節すること、アルマジロリピート型キネシンARKと結合して細胞形態を制御することを明らかにした(Sakai et al. Plant J. 53, 157, Motose et al. Plant J. 54, 829)。本発表では、NEK6が細胞の分裂と伸長に関連して発現し、フラグモプラストや表層微小管に沿ってダイナミックな挙動を示すこと、NEK6が微小管関連タンパク質をリン酸化し、微小管動態を調節することを示す。また、NEK6が他のNEKメンバーと連携して働くことを報告する。
  • 小山 知嗣, 関 原明, 篠崎 一雄, 高木 優
    p. 0102
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞は柔軟な分化能を持つが、植物の発生期間を通じて時間や位置の情報に従って、特定の細胞に分化するように制御されている。側生器官の細胞分化はTCP転写因子により制御されており、私達はシロイヌナズナTCP3をモデルにその制御機構の解明を試みている。
    まず、転写抑制ペプチドであるSRDX配列をTCP3に融合したキメラリプレッサーであるTCP3-SRDXを発現する植物が異所的なシュート形成や葉や花などが湾曲する形態異常を示すことを明らかにした。次に、TCP3の下流で機能する遺伝子の発現を解析したところ、TCP3-SRDX植物では、境界部形成や茎頂分裂組織形成に必要なCUP-SHAPED COTYLEDON (CUC)遺伝子の異所発現が認められ、その異所発現がCUCの転写レベルとmiR164を介した転写後レベルの異常であることを明らかにした。さらに、マイクロアレイ解析により、TCP3-SRDXの発現により顕著に抑制される、あるいは誘導される遺伝子を同定した。それらの中にはオーキシン応答性遺伝子や葉緑体移行タンパク質をコードする遺伝子が含まれた。トランジェントアッセイ法とクロマチン免疫沈降法を用いた解析により、TCP3が同定された下流遺伝子のプロモーター領域を介してそれら遺伝子発現を制御すると考えられた。本発表では、TCP3が制御する下流転写ネットワークについて議論する。
  • Breuer Christian, Kawamura Ayako, Ichikawa Takanari, Matsui Minami, Su ...
    p. 0103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    Arabidopsis leaf trichomes provide an excellent model system to study cell differentiation. Using a collection of Arabidopsis full-length cDNA over-expression (FOX) lines, we identified a transgenic FOX line that develops remarkably large leaf trichomes compared wild-type. Our sequencing analysis revealed that the corresponding gene, which we named WIND FARM, encodes a putative transcription factor that has not been previously characterised. Furthermore, the sequence alignment illustrated that the cDNA clone is strongly truncated, possibly leading to a dominant negative phenotype. In concert with this, three different T-DNA insertion lines display giant trichome phenotypes indistinguishable from FOX mutants, suggesting that WF acts as a negative regulator of trichome cell growth. Additional genetic studies show that WF acts downstream of trichome patterning and differentiation, confirming its exclusive role in cell expansion.
  • 市橋 泰範, 堀口 吾朗, 塚谷 裕一
    p. 0104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    葉は葉身と葉柄から構成されるが、両者を包括した形での形態形成の理解は乏しい。これまでに我々は、葉身と葉柄の器官形成を詳細に観察することで、葉身及び葉柄形成における共通の分裂組織、葉メリステムの存在を見いだしている。葉メリステムとはすなわち、葉身と葉柄の予定境界領域に存在し、葉原基の先端と基部両方向に細胞を供給する分裂組織である。そこで、この葉メリステムの働きに着目し、BLADE-ON-PETIOLEBOP)の機能欠損型変異体(bop1bop2)及びLEAFY PETIOLELEP)過剰発現体の再評価を行った。 マーカー遺伝子を用いた組織学的解析により、bop1bop2の葉は、葉身のみで構成されていることが明らかになり、この表現型は葉メリステムの時空間的変化に起因することがわかった。また、LEP過剰発現体の葉では、葉柄が正常に形成されるものの、その成長が抑制され、一方で葉身の成長が促進されていることが明らかになった。この表現型は葉メリステムからの細胞供給バランスの変化に起因することが示唆される。以上から、BOPLEPは葉メリステムの時空間的制御及び細胞供給にそれぞれ関与していることが示唆された。現在では、これらの因子の葉メリステムにおける詳細な機能を明らかにするため、上記変異体とその他の葉形態形成変異体との遺伝学的解析等を進めており、本発表ではその結果についても考察する。
  • 久永 哲也, Ferjani Ali, 堀口 吾朗, 石川 直子, 久保 稔, 出村 拓, 福田 裕穂, 塚谷 裕一
    p. 0105
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    補償作用とは、何らかの遺伝的変異によって葉の細胞数が減少すると、個々の細胞サイズが増加する現象である。この現象は器官形成における細胞増殖と細胞伸長の相互作用を理解するために重要である。我々はこれまでに、補償作用を示すfugu変異株を5系統単離、解析し、報告してきた(Ferjani et al., 2007, Plant Physiol.)。今回はfugu2変異体について報告する。クローニングの結果、FUGU2はクロマチンアセンブリファクター-1 のp150サブユニットをコードするFASCIATA1であることが判明した。補償作用の分子機構を解明するために、fugu2-1の播種後10日目の第1,2葉原基から抽出したmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行い、発現が3倍以上変動している遺伝子を選抜した。その結果fugu2では、72の遺伝子の発現が誘導され、127の遺伝子の発現が抑制されている可能性が示唆された。これらの発現変動をより詳細に検討するために、RT-PCRを用いて再確認したところ、fugu2では46の遺伝子の発現が誘導され、39の遺伝子の発現が抑制されていることが確かめられた。中でも発現の誘導された遺伝子のうち11はDNAの複製や修復に関わるものだった。現在、発現の変化が認められた遺伝子と補償作用との関連を明らかにするため、T-DNA挿入系統を用いた解析を進行中である。
  • Ferjani Ali, 武藤 由香理, 堀口 吾朗, 前島 正義, 塚谷 裕一
    p. 0106
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナを用いた解析により、葉の細胞数の減少を引き起こす突然変異は、しばしば細胞のサイズの肥大を伴うことが明らかになっている。その結果、葉のサイズの減少率が、細胞数の減少率よりも小さくなるため、この現象を補償作用と呼ぶ。これまでに、補償作用を示すfugu変異株を5系統単離、解析し報告してきた。本発表では、fugu5の持つ興味深い表現型について報告する。fugu5の子葉は野生型に比べて長い形態を示し、補償作用を示すが、MS培地上での生育により、その葉形および細胞数が野生型レベルへと回復するとともに、補償作用が完全に抑制されていることが明らかとなった。そこで補償作用を抑制する培地成分を検討した結果、スクロースであることが判明した。補償作用はfugu5の子葉および第一葉でのみ誘導される。マップベースクローニングの結果からFUGU5は液胞膜に局在するAVP1、すなわちH+-ピロホスファターゼ(H+-PPase)をコードすることが明らかになった。測定の結果、fugu5のPPase活性は調べた全てのアリルで完全に消失していた。興味深いことに、野生型と比べてfugu5ではprotein bodyからcentral vacuoleへの転換が遅れることが観察された。これらの結果から、FUGU5は発芽後の成長において特に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
  • 川出 健介, 堀口 吾朗, 塚谷 裕一
    p. 0107
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    生物の発生において、細胞の増殖と分化の巧みな統制機構は極めて重要である。この機構により、器官は特定のサイズに形成される。植物では、葉原基において細胞増殖能に異常をきたした場合、細胞サイズが著しく増加する(補償作用)。この現象は、細胞数の減少による葉面積の低下を、細胞サイズの増大があたかも補っているように見える。つまり、細胞の増殖と伸長が統合的に制御され、葉面積を維持している可能性を示唆している。
    補償作用に関して、葉の発生過程で、先端部の分化伸長している細胞が離れた領域(基部側)での細胞増殖能の欠損をいかに認識しているのかは未知である。私たちは、CRE/Lox系を用いて補償作用関連因子をモザイクに葉で発現させ、補償作用が細胞間相互作用によるもなのか否かの解明を試みている。
    今回は、過剰発現により補償作用を引き起こすKRP2に関して報告する。設計したKRP2 CRE/Lox系が機能していることを確認後、モザイク解析を行った。その結果、モザイク葉は野生株もしくはKRP2過剰発現体と同じサイズの細胞で構成されていた。このモザイク葉では、遺伝的に異なる細胞クローンが隣接している場合でも、互いの細胞サイズに影響を与えなかった。このことは、KRP2過剰発現により誘導される補償作用が、細胞間を移動する因子による細胞非自律的な機構ではなく、細胞自律的に進行していることを意味する。
  • 池内 桃子, 山口 貴大, 堀口 吾朗, 塚谷 裕一
    p. 0108
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ROT4 (ROTUNDIFOLIA4)は、陸上植物に広く保存された、機能未知の低分子タンパク質をコードする遺伝子である。シロイヌナズナにおいては、ROT4単一の機能欠損変異体は表現型を示さないが、その過剰発現体では、側生器官を構成する細胞が長さ方向特異的に減少するほか、背丈の矮小化、花柄基部やトライコーム基部の組織が突出するといった多面的な表現型を示す。また,根の短小化が今回新たに見出された。このように、ROT4は植物の発生において重要な機能を担っていると示唆されるが、その分子機能はほとんど明らかになっていない。
    そこで我々は、まずROT4の各種deletionシリーズの過剰発現体を作出し、その表現型を調べた結果、 32残基からなる領域が機能に必要かつ十分であることを同定した。この領域は、分子内プロセシングを受けて切り出されることなく機能しているということが、GFPとの融合タンパク質を用いたこれまでの実験から示唆されており、現在その確認を進めている。また、HSP-Cre/Lox系を用いてGFP:ROT4をキメラ状に発現する形質転換体を作成したところ、GFP:ROT4が発現しているセクターにおいて自律的な表現型が観察された。さらに、葉柄-葉身境界の位置がずれる興味深い表現型も見出された。これらの解析の結果を総合し、ROT4の植物の形態形成における機能について議論したい。
  • 奥田 哲弘, 佐々木 成江, 金岡 雅浩, 東山 哲也
    p. 0109
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の受精において、助細胞から分泌される花粉管誘引物質は、花粉管が正確に胚嚢へ到達するのに最も重要な鍵因子である。これまでに我々は、トレニアの単離助細胞を用いたEST解析により、システイン残基に富み分泌性の低分子量タンパク質と予測されるTfCRPsを多数同定した。そして、助細胞特異的に発現するTfCRP3がin vitro で花粉管を誘引することを明らかにした。
    花粉管誘引におけるTfCRPsの機能をより詳細に明らかにするために、本研究では、TfCRPsの大量精製系と新規誘引アッセイ系を開発した。まず、大量精製のため、既に誘引活性の確認されているTfCRP3を大腸菌で発現させ、得られた封入体を変性剤で可溶化した。リフォールディング条件を検討し、活性型フォームの大量精製に成功した。続いて、誘引活性を定量的に評価するために、既知濃度のTfCRP3をゼラチンでマイクロビーズ状に固めて誘引能を調べた。その結果、濃度依存的に、受精能を有する同植物種の花粉管だけを誘引することが示された。また、同様の解析により、TfCRP1もin vitro で誘引活性をもつことがわかった。以上の結果から、TfCRP1, TfCRP3は助細胞から分泌される誘引物質であり、それぞれをLURE1, LURE2と名付けた。現在、LURE1とLURE2に対する花粉管の挙動の差について解析している。
  • 筒井 大貴, 金岡 雅浩, 佐々木 成江, 東山 哲也
    p. 0110
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の受精において、花粉管の胚嚢への誘引には助細胞から分泌される花粉管誘引物質が重要である。当研究室で行なわれたTorenia fournieriの助細胞EST解析により、多数の分泌性ペプチドが見いだされた。それらのうち、LURE1, LURE2は花粉管誘引活性を持つことがin vitro アッセイ系により明らかにされた。しかしながら、これらが植物内でも花粉管誘引に関わるかは明らかでない。
    生体内におけるLUREsの機能を明らかにするため、独自に開発したレーザーマイクロインジェクション(LTM)法を用いてこれらの遺伝子の機能阻害を試みた。LTM法は、針内部に充填したレーザー吸収剤にレーザーを照射し、生じる高い熱膨張圧により、効率よくインジェクションを行う方法である。我々は、胚嚢が裸出しているというトレニアの特徴を活かし、各LUREsの翻訳およびスプライシングを阻害するように設計したモルフォリノアンチセンスオリゴを胚嚢に直接注入した。オリゴ(< 10 kDa)を注入の容易な中央細胞にインジェクションしたところ、細胞質連絡を通って助細胞へ移行することを確認した。そして、アンチセンスオリゴを注入した胚珠において、特異的に花粉管誘引率の低下がみられ、LUREsが生体内でも花粉管誘引に関わっていることが示唆された。この技術を応用した今後の展開についても議論したい。
  • 椎名 恵子, 奥田 哲弘, 金岡 雅浩, 佐々木 成江, 東山 哲也
    p. 0111
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物が受精するとき、一つの胚珠に多数の花粉管が群がることはなく、ふつう一つの胚珠にガイドされて受精する花粉管は一本だけである。このような花粉管ガイダンスは多精拒否を確実に行うための仕組みの一つと考えられる。これまで胚珠への花粉管ガイダンスは、胚嚢の支配を受けていることが示唆されてきた。しかし、実際に花粉管の伸長パターンを制御するシグナルの実体は不明であった。
    このような中、当研究室において胚嚢が胚珠組織から裸出した被子植物トレニアを用いた細胞破壊実験により、花粉管誘引物質が助細胞から分泌されていることが明らかとなった。そして助細胞のEST解析により、花粉管誘引物質として低分子量タンパク質であるLURE1、LURE2が同定された。そこで本研究では、花粉管ガイダンスと多精拒否がどう関わっているのかを、花粉管誘引の前後において誘引物質を可視化することから明らかにしていくことを目的とした。はじめにウエスタンブロッティングにより、トレニア子房から抽出したタンパク質からLUREsを検出することに成功し、LURE2については未受精の胚珠特異的に存在することを明らかにした。また抗体染色により、未受精の胚珠においてLUREsが助細胞の珠孔端表面に分泌されていることを明らかにした。現在詳細な経時変化を解析しており、多精拒否との関連について議論したい。
  • 武内 秀憲, 東山 哲也
    p. 0112
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物が受精を行うためには、花粉管が雌蕊の中を伸長して胚嚢に到達しなければならない。このとき花粉管の伸長方向を制御し、正確に胚嚢まで誘導する様々な仕組みが存在すると考えられるが、その分子的実体の多くは未だに明らかでない。このような中、当研究室のトレニアを用いた研究により、助細胞から分泌され、花粉管を胚嚢に導く役割を果していると考えられるcysteine-rich peptides (CRPs; LURE1, LURE2) が同定された。
    本研究は、シロイヌナズナにおける花粉管誘引物質の同定を目的としている。シロイヌナズナで誘引物質を同定できれば、花粉管ガイダンス機構の普遍性について検討できるだけなく、突然変異体を用いた花粉管ガイダンス機構の解析や遺伝子ノックアウト実験など、トレニアとは違った様々な展開が期待される。現在、シロイヌナズナにおいても助細胞で高発現するCRPsが誘引物質候補となりうると考えて解析を進めている。800以上存在するシロイヌナズナのCRPsから、胚嚢形成や花粉管ガイダンスに異常の見られる突然変異体において下方制御される遺伝子の情報や、LUREsの配列情報をもとに、誘引物質候補を探索した。いくつかの有力な候補について遺伝学的解析を行うとともに、semi in vitro受精系を用いた花粉管誘引アッセイを行い、誘引物質の同定を目指しているので紹介したい。
  • 丸山 大輔, 山本 雅也, 遠藤 斗志也, 西川 周一
    p. 0113
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    BiPは小胞体内腔に存在するHsp70であり,シロイヌナズナにはBiP1, BiP2, BiP3という3つのBiP遺伝子が存在する.BiP1BiP2は植物全体で発現しているのに対し,BiP3は小胞体ストレス条件下でのみ発現が誘導される.われわれは3つのBiP遺伝子のうち,BiP1BiP2をともに欠損すると雌性配偶体致死となることを見出し,これが極核融合欠損によることを明らかにした.透過型電子顕微鏡観察の結果,bip1 bip2二重変異の雌性配偶体ではこの2つの極核は近接するが,核膜融合が起きていないことが示された.BiPは出芽酵母においても接合時の核膜融合に必要とされるため,BiP依存の核膜融合機構は種を超えて保存されていることが示された.出芽酵母では小胞体のJタンパク質であるSec63pとJem1pがBiPのパートナーとして核膜融合に機能する.シロイヌナズナには2つのSEC63,1つのJEM1オルソログが存在するが,これらの単独欠損株は雌性配偶体形成に欠損を示さなかった.現在,これら遺伝子の二重変異体についても解析を行っている.
  • 石川 亮, 永口 貢, 新崎 由紀, 倉田 のり, 木下 哲
    p. 0114
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    多くの植物では、種間や倍数体間の交雑を行うと胚乳発生が抑制、あるいは促進される異常により生殖隔離が生じることが知られている。この現象には、父親ゲノムと母親ゲノムの拮抗関係を担うゲノムインプリンティングが関わっていることが示唆されているが、その実体は明らかではない。
    本研究では栽培イネと様々な野生イネを用いた間交雑を行い、雑種胚乳の発生について樹脂切片を作成し、ステージを追って解析した。胚乳では受精後、胚乳核が多核体を形成したのちに、細胞化がおこる。雑種胚乳では、細胞化、中心液胞の消失、デンプン蓄積などの発生のタイミングが早まること、もしくは遅延が種間の組み合わせにより観察された。しかしながら、この過程での胚乳の核分裂率にはどの組み合わせにおいても殆ど変化が見られなかった。従って、種間交雑で見られる胚乳発生の抑制や促進は、細胞分裂異常によるものではなく、ヘテロクロニックな発生異常が原因であることが明らかとなった。さらに、O. sativaO. longistaminataの雑種胚乳を用いたマイクロアレイ解析の結果から、雑種胚乳特異的に発現が上昇する遺伝子群として、シロイヌナズナのインプリント遺伝子PHERES1と相同性の高い遺伝子が同定された。本発表では、野生イネと栽培イネの雑種胚乳におけるヘテロクロニックな発生異常と、これらの原因となる分子機構について考察したい。
  • Ng Kian-Hong, 伊藤 寿朗
    p. 0115
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物は動物とは異なり、一生を通して幹細胞を維持し、その生長は幹細胞の絶え間ない増殖と分化のバランスに支えられている。従って植物はたとえ体の大半を失ったとしても、分化しつつある細胞が脱分化し幹細胞を再生することで、継続的な生長を維持することができる。私たちは、これまで記述されながらも分子機構の理解がほとんど進んでいなかった植物分裂組織の再生現象に着目し、植物幹細胞の可塑性と器官再生を動的な生命システムとして解明することを目指している。シロイヌナズナにおいてはホメオボックスタンパク質WUSCHELが幹細胞の維持に必要であることが示されている。WUSは茎頂、花序、花芽すべての分裂組織において機能し、特に花芽においては特定の領域に決まった数の花器官原基を形成した幹細胞の機能は消失する。私たちは核タンパク質の一つであるGIANT KILLER (GIK)が花序および花芽においてWUSの発現を抑制する機能を持つこと見つけた。GIKは核マトリクスに結合するタンパク質であり、WUSをエピジェネティックな制御により抑制していた。さらに一過的なGIKの発現誘導により、消失した幹細胞は時間変化とともに2つ、もしくは3つの分裂組織として再生した。本発表ではGIKによるWUSの抑制機構、分裂組織の再生へといたる機構について論じたい。
  • 安野 奈緒子, 池田 恭子, 飯田 滋, 長戸 康郎, 経塚 淳子
    p. 0116
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    イネは枝梗と呼ばれる枝に花を形成する。無限花序を作るシロイヌナズナと異なり、枝梗分裂組織 (BM)は有限性を持ち、いくつかの花芽を形成した後に頂端花へ転換する。したがって、BMが花メリステムに転換するタイミングが、イネの花序構造を決める要因となる。我々は、BMアイデンティティが長く維持され、頂端花への転換が遅れる優性変異体を同定した。この変異体は、アラビドプシスUFOのオーソログであるABERRANT PANICLE ORGANIZATION 1(APO1) のプロモーター領域へのトランスポゾン挿入により生じたもので、APO1発現量が上昇していた。また、優性変異体では生殖成長移行後のメリステムの成長が著しく、その大きさは野生型の約1.6倍となる。これは、細胞分裂が活発になり、細胞数が増加することに起因する。機能欠損型のapo1変異体ではBMの花芽への転換が早まることから、APO1はBMアイデンティティを維持し、BMから頂端花への転換を抑制する(Ikeda et al., 2007)。このことから、今回同定した優性変異体はAPO1の機能獲得型であると考えられた。UFOAPO1とは逆に花芽への分化を促進する。両遺伝子は花芽の分化制御に関わる点は一致するが、その作用は逆である。APO1の機能解析により、植物間で異なる分裂組織のアイデンティティ維持機構への理解が深まることが期待される。
  • 吉田 明希子, 平野 博之
    p. 0117
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    花序や花の形態は植物種により多様である。花器官のアイデンティティーの決定にはABCモデルが提唱され、真正双子葉植物に広く当てはまることが示されている。しかし、単子葉植物の花序や花は、真正双子葉植物とは大きく異なるため、その発生には独自の制御システムも機能していると考えられる。そこで、植物花器官の進化に関わる新たな知見を見出すことを大きな目標として、本研究では、イネ科植物における花の形態形成とその発生機構に関する研究を行った。イネの小穂には、1つの完全な小花とその外側に一対の護穎が形成される。護穎は、本来この位置に作られるべき2つの小花が退化して、唯一残された外穎の形態が変化した器官であると考えられている。そこで、護穎の発生とその進化的な意義を探る目的で、護穎が長くなる一因子劣性突然変異体に着目して研究を行ってきた。その結果、この変異体では単に護穎が長いだけではなく、護穎のアイデンティティーが外穎様に変化している可能性が考えられた。今回は、同定した変異体の原因遺伝子についての発現パターン解析やタンパク質の詳細な機能解析について報告する。
  • 鳥羽 大陽, 寿崎 拓哉, 平野 博之
    p. 0118
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    花器官は,花葉ともよばれ葉から派生したものと考えられている.がく片や花弁は,葉と同様に扁平な構造を持っているが,雄ずいや雌ずいは生殖器官として分化し,その形態は扁平とは言い難い.このような器官の形態をつくるメカニズムが,どの程度葉と共通で,どの程度異なるのかは興味深い.私たちの研究室では,イネを用いて,発生や形態形成のメカニズムを解明することを目的とした研究を進めている.新たに単離したイネのrod-like lemma (rol) 変異体は花器官の形態に異常が観察される.表現型の解析結果から,この変異体は向背軸に沿った極性に異常を生じていることが明らかとなった.本発表では,この変異体を用いて雄蕊の形態形成に関して,新たな知見が得られたので報告する.
    rol 変異体は葯の形態に異常を示し,葯のパターン形成が乱れていると考えられた.そこで,野生型においてマーカー遺伝子の発現解析を行い,葯のパターン形成と向背軸の極性との関連を調べた.その結果,葯は発生過程のある時点において,向背軸の極性が転換し,その発生パターンが決定されていると考えられた.また,転換後は半葯が新たな極性を持つ発生単位となることが示唆された.rol変異体の葯は,向背軸の極性が異常になった結果であると考えられ,その表現型からも,上記の半葯単位での発生という仮説が支持された.
  • 大森 伸之介, 木水 真由美, 杉田 麻衣子, 内田 英史, 宮尾 安藝雄, 廣近 洋彦, 長戸 康郎, 吉田 均
    p. 0119
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    イネのMOSAIC FLORAL ORGANS 1 (MFO1) /OsMADS6はクラスGに分類されるMADS-box遺伝子である。これまでに我々は、mfo1変異体およびRNAiによるノックダウン系統を解析することによって、MFO1が内穎や鱗被などの花器官のidentity決定や分裂組織のdeterminacy決定に関与していることを明らかにしてきた。
    今回我々は、MFO1のノックダウン変異体と、異なるクラスのMADS-box遺伝子である、SPW1 (クラスB)、OsMADS3 (クラスC)、LHS1 (クラスE)のノックダウン変異体を交配して二重変異体の作出を試みた。クラスBのSPW1MFO1とは鱗被での強い発現が共通している。クラスCのOsMADS3とは、雌蕊での発現が共通しており、またノックダウン変異体での鱗被の発生パターンも類似している。クラスEのLHS1は系統樹解析の結果、上記三種類の遺伝子の中ではもっともMFO1と相同性の高い遺伝子であり、内穎および雌蕊での発現や分裂組織のdeterminacyへの関与などの共通点がある。これらの二重変異体の解析結果から、クラスG MADS-box遺伝子のMFO1とクラスB、クラスC、クラスE MADS-box遺伝子の関係性を考察する。
  • 小泉 綾子, 山中 香, 石井 公太郎, 鳥居 千寛, 西原 潔, 風間 裕介, 阿部 知子, 河野 重行
    p. 0120
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    雌雄異株植物ヒロハノマンテマに炭素イオンビームを照射し両性花突然変異体R025を単離した。R025はY染色体をもち、花芽の領域が決定されるステージ5で、雌(♀)と同じ大きな雌蕊領域を生ずる。これには、花器官の領域決定に関わるSlSTM (SHOOT MERISTEMLESS)の12SlCUCCUP-SHAPED COTYLEDON)、SlCLV1CLAVATA1)などが関与する。R025は、雌蕊領域でSlSTMが発現し、SlCUCの発現は検出されない雌(♀)型であった。SlCLV1も雌(♀)型の発現パターンだった。一方、K034は栽培中に単離された雄(♂)の無性花突然変異体で、ステージ7になると雌蕊(♀)が棒状に抑制された無性花か、数枚の心皮をもつ雌蕊の雌様花になる。その割合はほぼ9:1であった。雄蕊(♂)促進はY染色体のSPF領域で、この部分が欠けると、SLM1 (AGAMOUS) とSLM2 (PISTILLATA)の発現が消失し雄蕊(♂)は発育不全となる。SlSTMSlCUCSlCLV1 を発現解析すると、ステージ3で雄(♂)型と雌(♀)型の発現パターンが観察され、中間型の発現パターンはなかった。解析したもののうち、5つは雌(♀)型であり、残り32は雄(♂)型であった。SlSTM-SlCUCあるいはSlCLA1の発現パターンはその後の雌蕊(♀)抑制に対応していた。
  • 吉川 海郷, Zannatul Nasrin, 園木 和典, 飯村 洋介, 佐藤 かんな, 片山 義博, 梶田 真也
    p. 0121
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    担子菌に属する白色腐朽菌は、菌体外にリグニンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等のフェノールオキシダーゼを分泌し、木材を腐朽している。これら酵素の中でも、ラッカーゼは比較的基質特異性が低く、様々なフェノール性化合物を一電子酸化すると共に、酸素を還元する事が知られている。我々は、カワラタケ(Trametes versicolor)より単離したラッカーゼcDNA(CVL3)をCaMV35sプロモーター下に制御してタバコ(Nicotiana tabacum)に導入し、高いレベルでラッカーゼを生産する組換え個体を作出した。この組換え個体は事前の予想通り、水耕培地中に添加した様々なフェノール性化合物の濃度を低下させることができた。その一方で、組換個体には様々な形態異常が生じることも見出された。特に器官形成においては、雄蕊で葯や花糸が花弁化するホメオーシスが観察された他、葯が褐色化し開裂阻害が生じた。また、何らかの未知代謝産物が葯内皮細胞に局所的に蓄積していることも明らかになった。さらに、花弁では、色素の異常蓄積も確認された。これらの現象は、ラッカーゼが植物内で何らかの生理メカニズムに働きかけたことを示唆しており、この酵素の触媒機能が関与し得る代謝について興味がもたれる。
  • 鈴木 俊哉, 中村 研三, 石黒 澄衞
    p. 0122
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    葯壁のタペート細胞は花粉の形成に必須な役割を果たすと考えられているが、その機能の多くは未だ謎に包まれている。遺伝学的なアプローチからタペート細胞の働きを解明するためには、花粉形成過程の様々な時期にタペート細胞で働くプロモーターの存在が不可欠である。しかしそのようなプロモーターはまだ数少ないのが現状である。我々はタペート細胞特異的に蓄積するタンパク質をコードするGRP17に着目し、レポーターを用いてそのプロモーター解析を行った。その結果、プロモーターはタペート細胞のみで働き、発現には翻訳開始点から上流150bpの領域で十分であることが明らかとなった。その中には他のGRPのプロモーター領域すべてに保存された配列が存在し、そこに塩基置換を加えることよって発現は全く見られなくなった。従ってこの配列は転写制御因子の結合領域であると考えられ、今後Yeast one-hybrid法を用いてその探索を行う予定である。脂質の代謝や輸送に関わる脂質輸送タンパク質(LTP)の中には、タペート細胞のみで働くものが多く存在する。そこでそれらのプロモーター解析を行ったところ、プロモーターはいずれもタペート細胞特異的に働き、それぞれ花粉形成過程の異なる時期に最も高い活性を示した。
  • 浜村 有希, 齊藤 知恵子, 金岡 雅浩, 佐々木 成江, 東山 哲也
    p. 0123
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    重複受精は被子植物特異的な生殖機構であり、花粉管内にある2つの精細胞のうち一方が卵細胞と、もう一方が中央細胞とそれぞれ受精する。しかし、重複受精の場となる胚のうは胚珠組織に覆われており、直接観察することが困難である。そのため、2つの精細胞が確実に受精相手の細胞と受精する、重複受精の根幹の仕組みは明らかにされていない。
    我々は、高感度2色4次元共焦点顕微鏡や配偶体特異的蛍光タンパク質マーカーを用いて、重複受精のライブイメージングを行ってきた。花粉管内容物の放出に伴って、2つの精細胞は1分以内に受精の起こる領域に運ばれ、胚のう内を動き回ることなく速やかに受精した。詳細な観察を重ねた結果、卵細胞と中央細胞の受精の順には厳密な制御はないと考えられた。さらに、超高感度なICCDカメラを用いたビデオレートイメージングにより、花粉管内容物の放出開始から精細胞が受精の起こる領域へ移動するまでに要する時間は、約10秒であることも明らかになった。これらと合わせて、現在取り組んでいる蛍光タンパク質を用いた2つの精細胞の染め分けや、雌雄配偶体に異常のある変異体での受精過程の観察例についても最新のムービーを紹介し、議論したい。
  • 笠原 竜四郎, 榊原 卓, 東山 哲也
    p. 0124
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    雌性配偶体は被子植物の生殖に関するほぼすべての段階で重要な働きをもつことが明らかにされてきている。しかしその機能を支える遺伝子発現ネットワークについては、ほとんど明らかになっていない。雌性配偶体のもつ重要な機能のうちの一つに、助細胞による花粉管ガイダンスがある。笠原ら(2005)は、転写因子であるMYB98遺伝子を同定し、助細胞の分子レベルでの機能を知るための大きな突破口を開いた。MYB98は雌性配偶体内の助細胞で特異的に発現し、myb98変異体は花粉管を誘導できないという表現型を示す。現在、我々はこのMYB98がマーカー遺伝子として極めて優れていることに着目し、植物の生殖に必要な雌性配偶体遺伝子の新規可視スクリーニングを行っている。スクリーニングの方法としては、助細胞で強く発現するMYB98::GFPのラインを使用し、そのラインにT-DNAを挿入することで変異体を得る順遺伝学的手法を用いている。演者らは、GFPが雌蕊内の全ての胚珠で発現していながら、花粉管ガイダンス異常などにより半稔性を示す変異体から解析を進めている。この方法により、雌性配偶体の形成異常により稔性が低下する突然変異体を排除しながら、MYB98の下流の遺伝子群や、新規経路の遺伝子群の突然変異体などが得られることが期待される。スクリーニングとTAIL –PCRの最新の結果について報告したい。
  • 須さき 大地, 大塚 蔵嵩, 金岡 雅浩, 佐々木 成江, 東山 哲也
    p. 0125
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の重複受精過程では、一般に雌性配偶体を構成する卵細胞、中央細胞、助細胞という3種の細胞がそれぞれ異なる機能を果たしている。しかし、それぞれの細胞個性がどのようなメカニズムあるいは遺伝子発現様式により得られるものかは、ほとんどわかっていない。こうした個々の細胞に着目した解析を進めるためには、さまざまな顕微操作技術と分子解析を融合した新しい生物科学を展開することが重要である。我々は胚嚢が裸出するユニークな植物トレニアと、モデル植物シロイヌナズナを用いて、2つのアプローチにより解析を進めている。トレニアを用いた解析では、雌性配偶体形成において、多核のシンシチウムの状態から各細胞が形成・分化する仕組みを解析することを試みている。雌性配偶体が4核期の状態で胚珠を取り出して培養したところ、in vitroで胚嚢第3分裂が起こり、8核7細胞の雌性配偶体を生じることがわかった。ライブイメージングやレーザーアブレーションの試みについて紹介したい。一方で、シロイヌナズナの助細胞マーカーラインの胚珠から、酵素処理と高精度マイクロピペット法により、効率よく助細胞を単離・回収する系を確立した。回収した細胞からRNAを抽出し、RT-PCRにより遺伝子発現を確認している。この技術を用いて、雌性配偶体細胞の細胞個性が変化していると考えられる変異体での遺伝子発現解析を試みているので、合わせて紹介したい。
  • 稲葉 靖子, 飛田 耶馬人, 増子 潤美, 渡辺 正夫, 稲葉 丈人
    p. 0126
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    寒冷地に自生するザゼンソウは、寒冷環境下においても生殖器官である肉穂花序の体温を20度前後に維持している。雌雄異熟型の生殖ステージは発熱ステージとともに移行して、雌期における安定した恒温性は、両性期に入ると崩れはじめ、雄期では完全に失われる。したがって、熱産生機構およびその生理学的な意義を理解するためには、各生殖ステージにおける生殖器官の特徴を明らかとする必要がある。そこで本研究では、発熱ステージの移行にともなう生殖器官の形態や細胞内構造の変化について詳細な観察を行った。
    肉穂花序から作成した各組織切片をトルイジンブルーおよびDAPIで染色して観察したところ、雌期の間に雄蕊が著しく発達して、葯におけるタペート組織の崩壊や花粉の成熟化がみられた。雌期と雄期の各組織についてTEM観察を行ったところ、雌期の花弁、雌蕊、雄蕊ではオルガネラ密度が高くミトコンドリアが豊富に含まれていたのに対して、雄期では細胞の大部分が液胞で占められていた。雌期と雄期の肉穂花序からミトコンドリアを単離してその回収率を比較すると雌期の方が雄期に比べて2倍程高かった。ミトコンドリアの諸性質を解析したところ、雌期ミトコンドリアでは脱共役タンパク質UCPの発現レベルが雄期に比べて有意に高かったが、各ミトコンドリアの呼吸活性に大きな変化はみられなかった。以上の結果を踏まえ、本植物の熱産生機構について議論する。
  • 信澤 岳, 草野 都, 岡咲 洋三, 斉藤 和季, 奥島 葉子, 梅田 正明
    p. 0127
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物における地上部の形態形成は,茎頂分裂組織の制御と深く関わっている.我々は,組織レベルでの細胞分裂と形態形成の制御の仕組みを解明するために,異所的に細胞分裂が亢進するシロイヌナズナの変異体,pasticcino2 (pas2)に着目して解析を進めてきた.pas2変異体では,細胞分裂の亢進の他,表皮形成の異常や,茎頂分裂組織の髄上部の拡大が観察された.最近の研究によって,PAS2は極長鎖脂肪酸の合成酵素をコードしていることが示されたが,細胞分裂と形態形成の制御における役割については明らかにされていない.我々は,PAS2が表皮で特に強く発現することを見出した.また,表皮特異的な発現を誘導するAtML1のプロモーターを用いた解析から,表皮におけるPAS2の発現が正常な生育に必須であることが明らかになった.しかし,pas2変異体で認められる表現型は,表皮形成の異常のみならず,分裂組織や器官の内側の細胞層にまで及んでいたことから,表皮における極長鎖脂肪酸の合成が内側の細胞層の分裂・分化状態を制御する仕組みがあると考えられる.今回,極長鎖脂肪酸合成を阻害する薬剤を用いて詳細な表現型解析を行ったので,その結果も合わせて報告する.
  • 高塚 大知, 梅田 正明
    p. 0128
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    サイクリン依存性キナーゼ(CDK)が最大活性を持つにはTループと呼ばれる領域の保存されたスレオニン残基がリン酸化される必要がある。このリン酸化を行うのがCDK活性化キナーゼ(CAK)であり、シロイヌナズナのゲノム中にはCDKD;1, CDKD;2, CDKD;3およびCDKF;1の計4種類のCAKがコードされている。これまでに我々は、in vitroで最も高いCAK活性を示すCDKF;1のノックアウト変異体が発芽後に重篤な成長阻害を示す一方、胚発生は正常に進行することを明らかにしてきた。対照的に、CDKF;1と並んで高いCAK活性を有するCDKD;3と、CDKD;3に最も近縁なCDKD;1の二重変異体を作出したところ、この変異体は胚発生段階で致死であった。この結果から、胚発生においてはCDKD;1,とCDKD;3が重要な役割を担っている可能性が示唆された。このように植物では他生物には無い発生段階に応じたCAKの機能分化が見られると考えられる。
    そこで、まずCDKD;3とCDKF;1の胚発生時の発現パターンを比較したところ、CDKD;3はCDKF;1に比べ総じて発現量が高く、CDKF;1では見られない胚乳での発現も観察された。現在、他のCAKも含めて詳細な発現解析を行っているので、CAKの機能分化と時空間的な発現制御の関連性について考察したい。
  • 安達 澄子, 栗原 大輔, 松永 幸大, 梅田 正明
    p. 0129
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    細胞内DNAは、環境からの外的要因の他にもDNA複製時のエラーや活性酸素などにより常に損傷の危険に曝されている。損傷があるDNAが娘細胞に分配されないようにするためには、DNA修復のあいだは分裂期に移行しないように細胞周期を制御する機構が必要であると考えられる。実際、動物細胞では、DNA損傷時に細胞周期を停止させるいくつかの重要な因子が見いだされている。しかしながら、植物細胞ではこれらの因子のほとんどが存在しないと考えられており、動物細胞とは異なった機構でゲノムの安定性が保たれていると推測される。我々は細胞周期を主として制御する2タイプのサイクリン依存性キナーゼ(CDK)に注目し、DNA損傷時における植物細胞周期の制御について解析を行った。
    シロイヌナズナの細胞周期は、主としてA型およびB型CDKにより制御されていると考えられており、B型はさらにB1型とB2型(CDKB2)に分類される。これらのCDKのそれぞれについてレポーター系統を作製してDNA損傷時のタンパク質量を調べることにより、CDKB2のみが特異的に発現抑制されることを明らかにした。B型CDKは細胞周期依存的な発現パターンからG2/M期にのみ機能すると考えられており、DNA損傷時におけるCDKB2の発現抑制がDNA損傷時に見られる核内倍加サイクルへの移行の分子機構の一画を担っていることが示唆される。
  • 遠藤 真咲, 中山 繁樹, 梅田 正明, 土岐 精一
    p. 0130
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    多くの植物種において、分化した組織中の肥大した細胞ではendoreduplicationが生じ、核内のDNA量が倍加していることが知られている。また、シロイヌナズナではDNA損傷処理や、G2/M期の移行に関わる細胞周期制御因子の変異体においてもendoreduplicationが促進されることが報告されている。一方、イネにおいては、胚乳以外、高次倍数性を示す細胞は確認されず、核相が変化する変異体も見出されていないことから、細胞周期制御因子やDNA損傷処理が細胞周期に及ぼす影響について未知な部分が多い。そこで我々は、G2/M期の移行に関わる植物特異的CDKであるCDKB2の発現をRNAi法により抑制したイネカルス(OsCDKB2RNAi)を作製し、細胞周期に与える影響について解析を行った。その結果、OsCDKB2RNAiカルスでは核相が増加していることが明らかとなった。核相増加がみられたイネカルスも細胞分裂、増殖を続けていたことから、OsCDKB2RNAiカルスではendomitosisが生じているのではないかと考え、染色体観察を行った。その結果、染色体数の増加が認められ、8Cに相当する96本の染色体を有する細胞も存在したことから、イネにおけるCDKB2の発現抑制はendomitosisを引き起こすことが明らかとなった。
  • 松永 幸大, 栗原 大輔, 池田 虎三, 大村 知広, 内山 進, 福井 希一
    p. 0131
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    オーロラキナーゼは細胞分裂を制御するセリン・トレオニンキナーゼであり、生物種を超えて高度に保存されている。植物のオーロラキナーゼは、体細胞分裂期に紡錘体や細胞板に局在するタイプIと、染色体動原体領域に局在するタイプIIに大別される。培養細胞を用いたライブセルイメージング解析により、タイプIIのオーロラキナーゼは、動原体微小管の修正機構や染色体分離に関与することを明らかにしてきた。オーロラキナーゼの研究は動植物を通じて細胞レベルに集中しており、個体の分化・発生に関する知見は極めて少ない。そこで、今回、オーロラキナーゼの植物体における機能を考察する。初めに、タイプIIのオーロラキナーゼをシロイヌナズナ植物体でイメージングした。根や初期胚の分裂細胞では、培養細胞と同様にオーロラキナーゼの動原体局在性を確認できた。また、RNAiによりノックダウンした植物体を作成して表現型解析を行った。地上部と地下部ともに成長阻害が見られた。このノックダウン変異体の根を3Dイメージングして解析した結果を報告する。さらに、胚嚢から取り出した初期胚にオーロラキナーゼ阻害剤を添加した時の細胞分裂パターン変化も報告する。
  • 愿山 郁, Anne Britt
    p. 0132
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    DNAチェックポイント機構とは、DNA損傷などをモニターし、それらの問題が解決されるまでの間、細胞周期の進行を止めるといったゲノムの安定性を保証する重要な機構である。これまでに酵母や動物においてチェックポイント機構に関与する遺伝子が多数同定され、近年になってそのホモログが植物にも存在することが明らかになってきた。動物のチェックポイント機構の中で重要な役割を果たしている、ガン抑制遺伝子の転写因子p53は酵母や植物ではいまだ見つかっていない。
    以前に我々は、DNA修復機能が欠損しているシロイヌナズナのxpf変異体が示すガンマ線感受性のサプレッサー変異体としてsog1-1を単離した。今回マップベースクローニングにより、SOG1の原因遺伝子が植物界に広く保存されているNAC転写因子ファミリーの一つであることを明らかにした。野生型の植物ではガンマ線照射に反応してDNA修復遺伝子など多数の遺伝子の転写が誘導されるが、驚いた事にsog1-1変異体ではそれらの転写誘導がほとんど生じなくなっていた。さらに、sog1-1変異体ではガンマ線照射後にゲノムの不安定性が上昇していることも明らかになった。以上の結果から、DNA損傷を認識し働くチェックポイント経路の中で、SOG1は中心的な役割を担っている転写因子であり、これは植物が持つp53の機能的ホモログではないかと考えている。
  • 高橋 裕治, 征矢野 敬, 諸田 雅之, 幸節 健, 町田 泰則
    p. 0133
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    タバコにおいては細胞質分裂を制御するNACK-PQR経路が存在する。この経路では、キネシン様タンパク質NACK1との結合によってNPK1 MAPKKKが活性化し、下流のNQK1 MAPKK、NRK1 MAPKの活性化を引き起こす。Arabidopsisの持つ10個のMAPKKのうち、ANQ/AtMKK6は、NQK1と最も高い相同性を示す。anq変異体は細胞質分裂に異常を示した。ANQは細胞分裂が盛んな組織で高い発現を示した。ANQは細胞質分裂装置であるフラグモプラストの赤道面に局在した。これらのことはANQがArabidopsisの細胞質分裂を直接、正に制御していることを示している。我々は、酵母細胞中でANQが、NACK1およびNPK1と高い相同性を示す、HINKEL/AtNACK1およびANP1またはANP3の存在下で、MAPKKとして機能することを明らかにした。またin vitro活性化および酵母ツーハイブリッドの系において、グループBに属するMAPKがANQの下流で機能する可能性が示された。ArabidopsisではHINKEL-ANP1、ANP3-ANQ-グループB MAPKというカスケードが存在すると考えられる。このカスケードの細胞質分裂における役割について考察する。
  • 笹部 美知子, 中野 理恵, 石川 雅樹, 西浜 竜一, 町田 泰則
    p. 0134
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は細胞周期の進行における主要な制御因子である。しかし、植物においてはM期の中期以降のイベントにCDKが関わっているかどうかは知られていない。今回、CDKが植物の細胞質分裂の進行を制御している可能性について報告する。これまでに我々は、キネシン様タンパク質(NACK)とMAPKカスケードからなる NACK-PQR経路が、植物の細胞質分裂の中心的な制御系であることを示してきた。この経路は、 NACKがMAPKカスケードの最初の酵素であるNPK1 MAPKKKと中期以降に結合することにより活性化される。しかし、NACK-PQR 経路を構成する全てのタンパク質は、中期以前にも存在しているので、この特異的な活性を制御するメカニズムの存在が予想されていた。我々は前大会で、in vitroの実験により、NACKとNPK1がCDKによりリン酸化されること、このリン酸化は両者の結合を阻害することを報告した。今回、リン酸化抗体を用いた解析により、タバコ細胞においてNACKとNPK1の推定CDKリン酸化サイトがin vivoで中期以前にリン酸化されていることが示された。また、このリン酸化はCDKの活性に依存していることも分かった。これらの結果から、CDKは、NACK-PQR経路の活性化、つまり細胞質分裂の開始を抑制する因子として機能していると考えられる。
  • 西村 慎吾, 笹部 美知子, 町田 泰則
    p. 0135
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    NACK-PQR経路は、NPK1 MAPKKK、NQK1 MAPKK、NRK1 MAPK及び、NPK1 MAPKKKの活性化因子であるキネシン様タンパク質によって構成されているMAPKカスケードで、細胞周期M期後半に活性化される。また細胞質分裂時には、これらの因子はいずれもフラグモプラストの赤道面に局在する。これらのことから我々は、このカスケードは細胞質分裂時にフラグモプラストの拡大を制御することにより、細胞板形成に関わっていると考えている。シロイヌナズナでもこれらのホモログが同定された。今回我々はシロイヌナズナにおけるこのカスケードの下流因子の同定を目的として、NRK1 MAPKのホモログであるAtMPK4の標的タンパク質の探索を行った。タバコBY-2細胞より調整した微小管結合タンパク質画分中にNRK1特異的にリン酸化されるタンパク質をいくつか見出した。その中の一つをシロイヌナズナのデータベースを用いたin silico解析を行ったところ、Atkinesin13Bであった。リコンビナントタンパク質を作製し、in vitroでリン酸化解析を行ったところ、本タンパク質はAtMPK4により有意にリン酸化された。また、細胞質分裂時にはAtkinesin13Bはフラグモプラストの赤道面に局在していた。これらのことから、本タンパク質はAtMPK4の下流因子の一つである可能性が示唆された。
  • 鈴木 孝征, 松嶋 千幸, 西村 慎吾, 町田 泰則
    p. 0136
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞の細胞質分裂は細胞分裂後期に形成されるフラグモプラストの遠心的な発達により行われる。これまでの研究からMAPキナーゼ経路がこのフラグモプラストの発達を制御することが示されている。MAPキナーゼ経路の下流に微小管結合タンパク質であるMAP65が存在することが明らかにされ、その活性を調節し微小管の再構成を通じてフラグモプラストの発達を制御していると考えられている。しかしそのほかのMAPキナーゼの標的となる分子は明らかになっていない。
    本研究では植物細胞質分裂を制御するMAPキナーゼの標的となり、リン酸化されるタンパク質を同定することを試みた。その結果、リン脂質の代謝や小胞の輸送に関わると考えられているSEC14ドメインを持つシロイヌナズナのPATL2を同定した。大腸菌で発現させたPATL2タンパク質はMAPキナーゼによるリン酸化され、特定のリン脂質に対して結合活性を示した。このリン脂質に対する結合活性はMAPキナーゼによるリン酸化で変化した。GFPと融合させたPATL2を植物細胞で発現させたところ、細胞膜とフラグモプラストに局在することが分かった。これらのことからPATL2は細胞質分裂中にフラグモプラストに局在し、そこでMAPキナーゼによりリン酸化されることが推測された。そしてそのことがリン脂質の代謝を制御し、小胞の形成・融合を促進している可能性が考えられた。
  • 石川 雅樹, 秋田 朝日, 小栗 康子, 長谷部 光泰, 久保 稔
    p. 0137
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ヒメツリガネゴケは、胞子から発芽後、細胞が一列に並んだ原糸体を経て、茎と葉からなる茎葉体へと発生していく。葉を茎葉体から切り離すと、切断後約48時間で切断面に面した葉細胞が細胞分裂を再開し、原糸体細胞へとその細胞運命を変換させる。本研究では、この過程でおこる葉細胞での細胞周期再開の分子ネットワークを明らかにすることを目指している。我々はこれまでに、切断後の細胞周期関連遺伝子の時間的空間的発現について解析を行ってきた。それらの結果から、葉を切断すると切断面に面した葉細胞でPpCYCD遺伝子が発現し、PpCYCDがすでに葉細胞に存在しているPpCDKAと結合し、PpCDKAを活性化させることで細胞周期を再開させるというモデルをこれまでに報告してきた。今回我々は、葉切断後の細胞周期再開の鍵となるPpCYCD遺伝子発現制御に焦点を当てて解析を行った。その結果、細胞周期G1/S期の移行を制御している転写因子PpE2FがPpCYCDプロモーターを活性化することが示唆された。また葉切断後のPpE2F遺伝子の発現は、PpCYCD遺伝子の発現に先立ちそのレベルが上昇することが分かった。以上のことから、葉切断によりPpE2F遺伝子が発現、あるいはPpE2Fが活性化されることでPpCYCD遺伝子の発現を誘導し、細胞周期を再開させる可能性が示唆された。
  • 丸山 剛史, 橋本 薫, 日渡 祐二, 佐藤 良勝, 久保 稔, 小田 祥久, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎, 村田 隆, 長谷部 光泰, 藤 ...
    p. 0138
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    多細胞生物は、幹細胞の不等分裂により幹細胞と非幹細胞の異なる運命をもつ2つの娘細胞を生み出し、多細胞体制を作り上げる。このような幹細胞の不等分裂では特定のmRNAやタンパク質が不均等に分布する事が重要な役割を果たしている。しかし植物幹細胞の不等分裂過程において、どのタンパク質がいつ、どこに、どのように不均等分布をするのかについてはよくわかっていない。そこで我々は、ヒメツリガネゴケから単離したプロトプラストや原糸体の頂端細胞が不等分裂する幹細胞モデルとして優れていることに注目し、植物幹細胞の不等分裂制御機構の解明を目指し研究を進めている。
    これまでにヒメツリガネゴケプロトプラストの不等分裂に関与すると考えられる59遺伝子を同定した。またこれら遺伝子産物が不等分裂の際にどのような局在変化を示すのかを調べる目的で、相同組換えにより黄色蛍光タンパク質遺伝子を各候補遺伝子に対してノックインした安定形質転換体を作成し、内在性プロモーター制御下における融合タンパク質の局在を観察した。さらに一部については不等分裂時の動態解析を行った。その結果、幹細胞の極性形成部位に蓄積が維持されるもの、非幹細胞でのみ蓄積が減少するもの、不等分裂過程を通して蓄積のピークが2度見られるものなどを見出した。これらの結果をまとめるとともに、2種類の因子を取り上げ、遺伝子破壊などによる機能解析の結果についても報告する
  • 大林 祝, 杉山 宗隆
    p. 0139
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    胚軸片からの不定根形成の温度感受性を指標として単離されたシロイヌナズナの変異体rid2は、カルス形成初期段階に関しても強い温度感受性を示し、脱分化・細胞増殖再活性化の分子機構を探る糸口になると期待される。この変異体は、細胞構造レベルでは核小体キャビティーの拡大という特徴的な異常を示し、この点でも興味深い。私たちはRID2と核小体との関係に注目し、核小体の主要機能であるrRNAのプロセッシングについて解析を行った。その結果、変異体ではプロセッシング各段階の中間体が異常に蓄積していることが明らかになった。RID2は核局在シグナルをもつメチルトランスフェラーゼ様タンパク質をコードしているが、RID2:GFPを用いた解析から、RID2タンパク質はとくに核小体に蓄積することが示された。これらより、RID2の機能はrRNAプロセッシングの進行全体に必要であり、その破綻に敏感な分子事象が脱分化・細胞増殖再活性化に関与していると考えられる。一方で遺伝学的にRID2の作用機作に迫るために、rid2の抑圧変異体sriw1を単離して、研究を進めている。染色体マッピングに基づくこれまでの解析では、sriw1変異と考えられる塩基置換がAt5g09330内に見出されている。At5g09330は、NACドメインをもつ転写因子をコードしている。本発表では、このSRIW1候補遺伝子についても併せて報告する。
  • 今村 建朗, 杉山 宗隆
    p. 0140
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの胚軸外植片を材料とするシュート再生系において、脱分化誘導時にチミジン類似物質のブロモデオキシウリジン(BrdU)を投与すると、低濃度ではその後のシュート再生を促進し、高濃度では細胞増殖を抑制してシュート再生を強く阻害する作用が見られる。bro1bro2は、このようなBrdUの作用に耐性を示す変異体であるが、BrdUと同じくチミジンの類似物質であるフルオロデオキシウリジン(FdU)の細胞増殖阻害作用に対しては、bro2のみが顕著な耐性を示す。これまでの解析で、bro1ではRNA結合タンパク質をコードする遺伝子に、bro2ではチミジンキナーゼをコードする遺伝子に、BrdU耐性の原因と思われる変異を見出している。
    シュート再生を指標とするスクリーニングからBrdU耐性変異体、bro3bro4を新たに得て表現型解析を行ったところ、bro4はBrdUのほかにFdUにも耐性を示したが(bro2型)、bro3はFdU感受性であった(bro1型)。染色体マッピングの結果、bro3変異とbro4変異は第4染色体上の異なる範囲に位置づけられた。bro4変異がマップされた領域には、ヌクレオシドトランスポーターをコードする遺伝子が4つ(うち1つはFdU耐性変異体fur1の原因遺伝子)存在する。bro4がこのいずれかに変異をもつ可能性を考え、解析を進めている。
  • 吉積 毅, 本郷 洋明, 黒森 崇, 井村 優子, 神谷 麻子, 島田 浩章, 松井 南
    p. 0141
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、エンドリデュプリケーションの制御機構を明らかにする目的で、芽生えの段階で発達が停止し矮小化する変異株であるsd5の解析を行った。しかし、sd5では核相の変化というより、むしろ細胞数の減少が矮化を引き起こしていた。細胞増殖の分子マーカーであるCYCB1;1の発現も抑制されていることから、SD5は細胞増殖の正の制御因子であることが考えられる。
    SD5は、分裂酵母のU5スプライセオソームのサブユニットであるDIM1ホモログをコードしている。Y2Hの解析から、SD5が他のU5スプライセオソームのサブユニットであるPrp6と相互作用したことから、U5スプライセオソームの構成因子として働くことが推測される。
    分裂酵母のDIM1変異株を用いた相補実験では、SD5はdim1-35変異を相補できなかった。しかし、もう一方のDIM1ホモログでは相補できたことから、SD5は酵母DIM1のオーソログではないことが考えられる。さらに、シロイヌナズナのDIM1を用いた場合、sd5-2変異を相補出来ていない。以上の結果から、SD5はDIM1オーソログとは異なるmRNAのスプライシングを促進するのではないかと推察している。
    本発表では、シロイヌナズナのDIM1ホモログであるSD5がスプライシングを介して、細胞増殖を制御する機構について議論したい。
  • 中西 弘充, 鈴木 健二, 壁谷 如洋, 宮城島 進也
    p. 0142
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生を起源とし、その分裂にはシアノバクテリアの細胞分裂装置に由来するFtsZリングの形成が必要である。葉緑体のFtsZリングは、バクテリアと同様にMinDおよびMinEタンパク質によって位置決定される。さらに葉緑体の分裂には、シアノバクテリアに由来する原核型の分裂装置だけでなく、宿主細胞に由来する真核型の分裂装置が必要であることがこれまでに示されてきた。我々は、新たに植物特異的なFtsZリングの位置決定に必要なタンパク質、MULTIPLE CHLOROPLAST DIVISION SITE 1 (MCD1)を同定したのでこれを報告する。MCD1は葉緑体内包膜貫通タンパク質で、葉緑体の分裂面にリング状および表面に点状に局在する。間接蛍光抗体法でMinDの局在を観察したところ、MCD1と同様に分裂面および表面に局在することがわかった。MCD1を欠損するとMinDが分裂面に局在できないことから、MinDの局在にはMCD1が必要であると考えられた。Yeast two-hybrid assayの結果、MCD1とMinDが直接相互作用することが分かった。これらの結果は、葉緑体分裂面の位置決定メカニズムにおいて、バクテリアに由来するMinシステムを調節するための新しいタンパク質を、宿主植物細胞が付け加えたことを示唆する。
  • 岡崎 久美子, 壁谷 如洋, 中西 弘充, 鈴木 健二, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 川島 美香, 松井 南, 宮城島 進也
    p. 0143
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物の葉緑体はシアノバクテリア様生物の細胞内共生によって誕生したと考えられており、分裂によって増殖する。細胞内に安定して葉緑体を保持するために、植物はその分裂を制御する必要がある。さらに陸上植物では、限られた分裂組織付近でのみ細胞分裂が起きその後細胞が発達・分化していくため、葉緑体分裂もそれに伴った調節を受け、葉緑体をそれぞれの細胞に見合った数や大きさに変化させなければならない。しかし、葉緑体の分裂の調節機構はほとんどわかっていない。そこで、我々は葉緑体分裂の制御機構の解明を目指して変異体の探索を行い、葉緑体分裂装置の一因子PDV2の過剰発現体では細胞当たりの葉緑体数が増加し葉緑体が小さくなることを見出した。これは一遺伝子の発現の改変で分裂を促進した初の例であり、他の既知の葉緑体分裂因子は過剰発現しても葉緑体の分裂頻度は上昇しないことから、分裂を律速しているのがPDV2である可能性が考えられた。野生型の植物ではPDV2は頂端分裂組織付近で発現が高く、葉の発達と共に減少したことから、葉緑体分裂が組織の発達に伴ってPDV2量で調節されていることが示唆された。さらに、PDV2はサイトカイニンに応答して発現が上昇したことから、サイトカイニンによる葉緑体分裂の制御機構の存在が明らかになった。ヒメツリガネゴケのPDV2オルソログの解析とあわせ、陸上植物でのPDV2の機能について考察する。
  • 壁谷 如洋, 中西 弘充, 鈴木 健二, 市川 尚斉, 松井 南, 宮城島 進也
    p. 0144
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体はシアノバクテリアの祖先種の細胞内共生によって生じたと考えられ、分裂によって増殖する。現在まで、葉緑体の分裂にはFtsZやダイナミンなどいくつかの共生体由来のタンパク質と宿主由来のタンパク質が関与していることが明らかになっている。私たちは、以前シロイヌナズナのFOX hunting systemから、YLMGタンパク質が過剰発現して葉緑体が巨大化した株を単離した。YLMGタンパク質は、バクテリアや藻類、緑色植物に広く存在し、マラリア原虫にも保存されているタンパク質であるが、機能は明らかになっていない。YLMGタンパク質の機能解析を行うために、新たにアンチセンスによるYLMG発現抑制体を作製し、観察を行った。発現抑制体は、若い葉が黄色くなるという表現型を示したが葉緑体の大きさに影響はなかった。また、葉緑体核様体を観察したところ、野生株では核様体は数十の顆粒状として存在するが、発現抑制体では葉緑体中央に2,3個の大きな核様体が観察された。そこで、過剰発現体でも葉緑体核様体を観察してみると、核様体は網目状になっていた。このことから、YLMGは核様体の形態に関与すると考えられた。抗体を作製し、免疫蛍光染色によってYLMGの局在を調べたところ、YLMGは葉緑体内に顆粒状に存在していた。現在、YLMGと核様体の関係を調べているので、それらを合わせて報告したい。
  • 藤原 誠, 伊藤 竜一, 森山 崇, 丹羽 康夫, 佐藤 直樹, 阿部 知子, 吉田 茂男
    p. 0145
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    アミロプラストはデンプンの合成と蓄積に特化した色素体である。葉緑体と同様に二重包膜を持ち、細胞内で二分裂によって増殖する。従来、色素体分裂に関する分子レベルの研究は主に葉緑体を用いて行われてきた。しかし、「葉緑体モデル」が非緑色色素体にも当てはまるか否かについては、まだ十分に検証されていない。本研究ではシロイヌナズナのアミロプラスト増殖機構に着目した。
    近年、我々はアミロプラスト分化のダイナミクス解析にシロイヌナズナの珠皮が有効であることを見出している(昨年度大会発表)。4種の葉緑体分裂異常変異体(arc5arc6minDminE)及びストロマ局在性蛍光タンパク質発現系統を用いて珠皮アミロプラストの分裂表現型を解析したところ、葉緑体分裂位置異常を引き起こすminD変異や分裂アレストをもたらすarc5変異は、アミロプラスト増殖に殆ど影響しないことが判った。一方、葉緑体分裂が阻害されるminE変異体やarc6変異体では、細胞中にさまざまな大きさのアミロプラストが形成されていた。これらの結果は、アミロプラストと葉緑体の分裂制御は大きく異なることを示唆している。今回さらに、minEarc6両変異体において、FtsZリングがストロミュール中に形成される一種の分裂位置異常が起こっていることが判明した。本発表では、色素体複製におけるストロミュールの役割について議論する。
  • 高橋 良子, 武智 克彰, 保見 祥子, 佐藤 博, 滝尾 進, 高野 博嘉
    p. 0146
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    我々はヒメツリガネゴケから細菌のペプチドグリカン(PG)合成に必要な遺伝子10種全てを見いだした。これらのPG合成系遺伝子のうち、PpMurEPpMraYPpPbpの3種類をそれぞれ遺伝子破壊すると、1細胞当たり数個の巨大葉緑体を持つ細胞となることから、ヒメツリガネゴケ葉緑体分裂とPG合成との関係が示唆された。本研究ではPG合成系の最終段階で働くPbp(ペニシリン結合タンパク質)の解析を行った。Pbpは通常トランスグリコシダーゼ(TG)とトランスペプチダーゼ(TP)の2つの機能ドメインを持つ。PpPbpの予測TG及びTPドメインのヒメツリガネゴケでの機能を調べるため、TGドメイン内の基質認識を行うモチーフ内で2ヶ所(T249IとT251A)を変異させたプラスミド及び、TPドメイン内のPbpアシル化と基質の正しい配置に関わるモチーフ内で2ヶ所(S649FとN651I)を変異させたプラスミドを構築した。これらのプラスミドをPbp破壊ラインに導入したところ、変異を入れていないプラスミドを導入した個体では1細胞当たりの葉緑体数が平均35個まで回復したのに対して、変異を加えたプラスミドを導入した個体ではどちらのプラスミドでも形質は回復しなかった。このことから、葉緑体分裂においてもPpPbpのTG及びTP両方の機能が必要であることが考えられた。
  • 田島 直幸, 寺沢 公宏, 藤原 誠, 佐藤 直樹
    p. 0147
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    細胞あたりの葉緑体数は葉緑体の分裂と細胞分裂時における分配によって決まり、ほぼ一定となっている。だが、葉緑体の分裂を阻害した場合は、細胞内の葉緑体数が減少し、巨大な葉緑体が1つだけ存在するということも知られている。ヒメツリガネゴケ (Physcomitrella patens) の原糸体は先端成長または枝分かれにより成長する。また、ヒメツリガネゴケはアンピシリン存在下で細胞内の葉緑体数が減少し、巨大な葉緑体が細胞内に一つだけになることが知られている。しかし、葉緑体がどのように巨大化していくかは詳細に知られていない。実際にアンピシリン存在下で培養してみたところ葉緑体数が予想以上に早く減少し、細胞分裂時の葉緑体分配の関与が考えられた。そこで本研究は、細胞分裂に伴った葉緑体の分配法則を見いだすことを目的とした。タイムラプス観察を行ったところ、細胞分裂中に葉緑体は分裂をほとんどしていなかったので、通常時とアンピシリン存在下のそれぞれで細胞分裂直後と思われる細胞を観察した。その結果、通常時は頂端側の細胞に約半数の葉緑体が分配されるのに対し、アンピシリン存在下では頂端側に4割程度しか分配されなかった。また、さらに詳しく調べてみると細胞内の葉緑体総数が少ないと葉緑体分配率が低くなる傾向にあることが分かった。
  • 鶴見 尚子, 飯田 由佳里, 杉田 千恵子, 杉田 護
    p. 0148
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのcrumpled leaf(crl)変異体は野生型と比べて矮性で黄緑色の葉をもち、葉緑体の巨大化や花、茎、根等の器官での異常形態が見られる(Asano et al., 2004)。本研究では単純な体制をもつヒメツリガネゴケのCRL遺伝子が葉緑体の巨大化に関与しているかどうかを解析した。ヒメツリガネゴケは3コピーのCRL遺伝子(PpCRL1,PpCRL2,PpCRL3)をもち、3遺伝子とも9個のエキソンと8個のイントロンからなり、推定アミノ酸配列は3者間で68~77%同一であった。PpCRL12の発現レベルは同程度であったが、PpCRL3の発現レベルは12の1/4程度であった。PpCRLタンパク質の細胞内局在観察の結果、PpCRL1と2は葉緑体周縁部に局在することが判明した。次に機能解析を行うためPpCRL1,2,3それぞれの遺伝子破壊株を作製したが、表現型と葉緑体の形態とも野生型と差が見られなかった。一方、PpCRL12の二重変異株では一部の原糸体で葉緑体の巨大化や著しい成長阻害が観察された。これに対して、PpCRL13の二重変異株では野生型と差が見られなかった。さらに、PpCRL23の二重変異株を取得した。これらの表現型の観察結果から、ヒメツリガネゴケの3種のPpCRL遺伝子の機能について考察する。
  • 明賀 史純, 秋山 顕治, 本橋 令子, 黒森 崇, 伊藤 卓也, 櫻井 哲也, 篠崎 一雄
    p. 0149
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    我々はシロイヌナズナの核コード葉緑体タンパク質の機能解析を目的に、葉緑体タンパク質のタグラインの大規模収集を行った。我々は、予想プログラムで予想された2,090個の葉緑体タンパク質の内、遺伝子の内部にトランスポゾンまたはT-DNAが挿入した1,369個、3,244ラインのタグラインを収集し、ホモラインプールの作製と生育プレート上で芽生えの表現型観察を行った。これまでに1,234ラインの表現型に異常がないホモラインを得ると同時に、アルビノやペールグリーン変異体を含む100ラインの表現型異常変異体とホモ個体が得られない141ラインの胚発生異常変異体を得た。我々は、収集した変異体ラインの情報をRACE(RIKEN Arabidopsis Chloroplast Encyclopedia)と名付けたデータベース上で公開する準備をしている。ここにはタグの挿入により異常な表現型を示した変異体の遺伝子情報だけではなく、変異体の表現型写真や発芽率を含む多くの情報を提供する。またウェブ中でリソースの詳細な情報にアクセスでき、AGIコード、変異体ライン番号、表現型によって検索が可能である。収集したホモラインは、葉緑体タンパク質の機能解析のためのスクリーニングのための強力なツールとして有用なリソースである。
  • 八木 祐介, 石崎 陽子, 中平 洋一, 椎名 隆
    p. 0150
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    色素体はランソウ由来の細胞内小器官であり、細菌型RNAポリメラーゼ(PEP)が機能している。葉緑体から調整された転写活性画分(pTAC: plastid transcription active chromosome)には、PEPだけでなく、ランソウにホモログの無い複数のタンパク質が検出されている。このことは、高等植物独自の葉緑体遺伝子発現制御機構の存在を示唆するが、pTACタンパク質の分子機能は、ほとんど解析されていない。pTAC3は、核マトリックスへの結合に関わるDNA結合ドメイン(SAPドメイン)を持ち、陸上植物のみに存在するタンパク質である。pTAC3欠損変異体は、葉が白色化する表現型を示し、PEP依存の転写産物の蓄積が大きく減少していることがわかった。さらに、葉緑体ChIP assayを行い、葉緑体DNAのどの位置に多くpTAC3が結合しているかを調べた。その結果、pTAC3は葉緑体DNAの中でも、PEPによる転写領域に多く存在していることが分かった。また、Gel shift解析からpTAC3のSAPドメインは、dsDNA結合性を有しているが配列特異性は低いことが示された。これらの結果より、高等植物の葉緑体では、ランソウには存在しない真核型のDNA結合タンパク質pTAC3が、細菌型RNAポリメラーゼであるPEPによる転写制御に大きく関わっていることが示唆された。
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