日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
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  • 五百城 幹英, 馬場 将人, 白岩 善博, 渡邉 信, 中嶋 信美
    p. 0001
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    石油に似た炭化水素成分を有するオイルを大量に産生する緑藻ボトリオコッカスは石油代替資源生物として注目されているが、そのオイル生合成機構の詳細は不明であり、オイル生合成関連酵素遺伝子の多くは未同定である。そこで本研究ではボトリオコッカスのオイル生合成機構を分子生物学的観点から解明するために、まず超長鎖不飽和脂肪酸由来の炭化水素オイルを生合成するRace Aの代表株とトリテルペン由来の炭化水素オイルを生合成するRace Bの代表株を用いて新奇のEST (expressed sequence tag)データセットを得た。さらに、Race A、Race B代表株でのオイル生合成関連酵素遺伝子の発現パターンを、ESTカウントの比較およびreal-time PCRによる定量によって明らかにした。これにより、これまで不明であった炭化水素オイル生合成経路の詳細に関する新たな知見を得た。超長鎖不飽和脂肪酸の生合成に関しては、(i)acyl-acp伸長が主要な脂肪酸伸長経路であること、(ii)脂肪酸の不飽和化がacyl-acp desaturaseだけでなくacyl-CoA desaturaseによっても行われることが示唆された。トリテルペンの生合成に関しては、2-C-Methyl-D-erythritol-4-phosphate (MEP)経路への2つの基質流入口が働いていることが示唆された。
  • 石塚 徹, 瀧口 裕子, 安田 奈保美, 佐藤 和人, 松井 恭子, 槌田(間山) 智子, 飯田(岡田) 恵子, 堀川 明彦, 市川 裕章, ...
    p. 0002
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    転写因子は、その支配下にある遺伝子の働きを調整し、多様な生体機能を制御する。それゆえ個々の転写因子の機能を解明することは、生体機能と遺伝子発現との関係を明確にし、遺伝子の応用利用を可能にするものである。しかし植物では、機能重複する転写因子が複数存在することから、個々の転写因子の機能を解明することが困難であった。そこで我々のグループでは、転写因子の機能重複を克服して機能欠損の表現型を起こさせる遺伝子サイレンシング技術(CRES-T法)を開発し、これまでに双子葉植物のモデル植物であるシロイヌナズナにおいて様々な転写因子の機能を解明してきた。
    本研究では、このCRES-T法を単子葉植物のモデル植物であるイネに適用し、完全長cDNAクローンを用いて作製した形質転換ベクターから各種転写因子キメラリプレッサー過剰発現(TF-OR)イネ系統群を作出し、これらの生育全期間において網羅的に表現型の解析を行っている。その結果、現在までにbZIP、Myb、NACなど9ファミリー、312種類の形質転換イネの再分化植物体を作出し、その特定のTF-ORイネ系統群から矮性、多分げつ、病斑形成、開花不全などの異常形質が見出された。本発表ではこれまでに観察された興味深い表現型について報告し、さらにイネに先駆けて進められたシロイヌナズナで得られている結果との比較による包括的な転写因子研究について紹介する。
  • 伊藤 剛, 坂井 寛章, 田中 剛, 伊川 浩司, 沼 寿隆, 松本 隆, 佐々木 卓治
    p. 0003
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    アフリカ西部では、アジア起源のO. sativaとは異なる種であるO. glaberrimaが栽培化されており、世界的な食糧問題を考える上でその研究の重要性は高い。我々はO. glaberrima IRGC104038のゲノム配列を、まずメチル化フィルトレーション法で遺伝子領域を濃縮し、全ゲノムショットガン法で決定した。その結果、日本型アジア栽培イネのO. sativaである日本晴の18%に相当するゲノム領域と、日本晴に存在しない12 Mbの塩基配列を決定できた。このゲノム配列をO. sativaと比較し、系統特異的なアミノ酸置換やスプライス部位の変化を明らかにした。また、今後の品種改良で有用情報になると考えられるSSRについて、日本型(日本晴)、インド型(93-11)と比較し、2451のSSRを同定したところ、1568のSSRについて、3ゲノムのいずれかで長さの変化が見られた。また、タンパク質コード領域と非転写領域で長さの変化がある3塩基重複型のSSRの数に有意な差は見られなかったことから、3塩基重複型のSSRに関してはタンパク質コード領域内でも進化的制約が弱いということが示唆された。本研究で得られたO. glaberrimaのゲノム情報や解析データについては、BLAST等の検索機能を備えた専用のデータベースを構築している。
  • 宮尾 安藝雄, 中込 マリコ, 大沼 貴子, 山形 晴美, 金森 裕之, 伊川 浩司, 高橋 章, 松本 隆, 廣近 洋彦
    p. 0004
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、イネ内在性レトロトランスポゾンTos17が培養細胞で特異的に活性化することを利用して、これまでに5万系統のTos17挿入変異系統(ミュータントパネル)を作出してきた。これまでに多くの遺伝子破壊系統が得られているが、大規模表現型解析から、ミュータントパネル系統は、Tos17の挿入によらない変異が多く存在することが予想されていた。これらの変異の原因を探るため、次世代シーケンサーを用いてミュータントパネル系統の全ゲノム解析を進めている。昨年度の報告では、独立の2系統に関して、それぞれゲノムの5倍程度の塩基配列を解析し、M1世代に換算して、少なくとも1Mbに1ヶ所は培養によって変異が起こると予想した。今年度は、コンピュータ解析で予想された変異部位をサンガー法で確認し、変異検出の成功割合の算出と塩基置換のスペクトラム解析を行った。スペクトラムは、CからTへのトランジション頻度が低いことを除くと、アラビドプシスの自然突然変異スペクトラムと良く似ていた。CからTへのトランジションは、メチル化シトシンの脱アミノ化で直接チミンになり、修復酵素が介在する段階が存在しない。一方、その他の変異に関しては、塩基が置き換わるまでの中間段階で酵素による修復が起こりうることから、酵素による修復が阻害されているために、CからTへのトランジション以外の変異の相対的比率が上昇したと考えられた。
  • 青木 考, 長崎 英樹, 神沼 英里, 須田 邦裕, 川村 慎吾, 矢野 健太郎, 辰本 将司, 水口 洋平, 豊田 敦
    p. 0005
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    トマト研究を支援するためにNBRPトマトでは矮性のトマトモデル品種マイクロトムのリソース整備を行っている。マイクロトムは、ゲノムドラフト配列の得られた一般的な栽培種Solanum lycopersicumに属するが、ゲノム解読された品種との間に相当数の一塩基レベルの多型が存在する。そこで、マイクロトム自体のゲノム配列が得られれば、公開されたゲノムドラフト配列との比較によるDNAマーカーの開発や、突然変異体リソースを利用した原因遺伝子の解析等が加速されることが期待される。本研究ではマイクロトムの全ゲノム配列解読を実施した。かずさDNA研究所はロシュGS-FLXによるシークエンシングを、国立遺伝学研究所はイルミナ社HiSeqによるシークエンシングを実施した。得られたリードは速やかにDDBJ Read Archiveに登録を行なった。2010年11月時点で、GS-FLX で約10倍カバレージ、HiSeqにより約120倍カバレージのリードが得られている。発表に於いては、DDBJ Read Annotation Pipelineを用いたマッピング・コンティグ作製・アノテーションの最新状況を報告する。本研究はNBRPゲノム情報等整備プログラム「マイクロトムゲノム配列解読」の援助を得て実施された。
  • 花田 耕介, 長谷 武志, 豊田 哲郎, 篠崎 一雄, 岡本 昌憲
    p. 0006
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物はストレスを避けるために移動することはできないため、様々なストレスへの適応機構を持っている。植物ホルモンであるアブシジン酸は、ストレス耐性の本質的な役割を持つため、陸生植物でのアブシジン酸の代謝およびシグナルパスウェイの進化的起源を考察することは興味深い。そこで、アブシジン酸の代謝およびシグナルパスウェイに関係する11個の機能を示す49個の遺伝子に着目し、これらの遺伝子の直系遺伝子群をシロイヌナズナ、ミヤマハタザオ、ポプラ、イネ、イヌカタヒバおよびヒメツリガネゴケで構築し、分子系統解析を行った。その結果、これら6種の共通祖先種は、ほとんどのアブシジン酸関連の機能を保有していたことが示唆された。さらに、タンパク機能を維持しながら発現パターンを多様化させた遺伝子が重複によって、植物の進化の過程で増加していることが明らかとなった。この結果は、ABA関連遺伝子が、様々な組織や環境応答の各状況で特有に発現することが、植物の進化で重要であることを示している。
  • 樋口 美栄子, 吉積 毅, 花田 耕介, 児玉 豊, 清水 みなみ, 堀井 陽子, 川島 美香, 松井 敬子, 松井 南
    p. 0007
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年、遺伝子間隙やノンコーディングRNA上に存在する短いアミノ酸をコードするshort open reading frames (sORFs)がペプチドとして機能する報告が様々な生物種において相次いでいる。我々は、高等植物の既知遺伝子間隙に存在するsORF(30-100アミノ酸)を同定し、機能解明を目指して研究を行っている。イネとシロイヌナズナの既知遺伝子とsORFを搭載したマイクロアレイを作成し、様々な組織から抽出したRNAを用いて発現解析を行った結果、全ての組織においてsORFが発現していることが確認された。一部のsORFについてはRACE法により完全長cDNAを同定し、sORFが転写されていることを確認した。さらにプロモーターと終始コドンを欠いたsORF領域にGUS遺伝子を融合させたコンストラクトを用いて形質転換体を作成したところ、GUSのシグナルが検出され、sORF領域が翻訳されていることが示された。発現解析に加え、配列の保存性やペプチドホルモン様配列に注目し、イネとシロイヌナズナの過剰発現体の作製を進めている。現在までに、葉の形態や芽生えの胚軸、根の伸長に変化が生じた変異体などを多数単離している。このようにsORFは植物においてペプチドとして機能し、新規の遺伝子群となることが期待される。
  • 朽名 夏麿, 上田 晴子, 西村 いくこ, 馳澤 盛一郎
    p. 0008
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞はさまざまなオルガネラによって占められており,その協調した働きが細胞の活動を支えている.これらのオルガネラの研究ではイメージング解析が重要な役割をもつ.とくに近年,ライブイメージング技術の進歩によって,注目するオルガネラを蛍光標識して経時的に撮影することで,各オルガネラの莫大な時系列画像データが収集されつつある.しかし配列情報や発現情報と比較して,オルガネラ画像に対する客観的な解析手法は普及していない.その要因には,可視化対象,撮像条件,観察目的が多岐にわたるというバイオイメージングの多様性が挙げられる.そこで我々は汎用性の高いオルガネラ画像の解析法を目指し,動き解析のターゲットとしてシロイヌナズナの小胞体流動を選び,時系列蛍光像からの速度測定に取り組んできた.その結果,画像を矩形の小領域に分割し,領域ごとにフレーム間での蛍光輝度の相関スペクトルを求めることにより,速度分布を安定的に求めるソフトウェアの作成に至った.そしてさらに,複数のオルガネラを同時に捉えた時系列画像から,各オルガネラの移動速度を求める方法への拡張を進めている.現在,そのために機械学習によるオルガネラの自動分類を介して,一つの画像から各オルガネラが分布する領域を自動推定する工程の開発を行なっている.発表では生体分子の局在解析への応用も踏まえ,開発の状況と展望について報告する.
  • 川口 修治, 飯田 慶, 松井 章浩, 原田 えりみ, 関 原明, 豊田 哲郎
    p. 0009
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    RNAメタボリズムは生命の生理過程を担う重要な現象であるが、その多くが未知のままである。RNAメタボリズムを突き止めるには、様々なコンディション下でのRNA発現量やエクソン構造の変化パターンをシステムバイオロジー的に特定していく必要がある。本研究では、次世代トランスクリプトームデータであるRNA-seq データをゲノム横断的に統合解析し、トランスクリプトームのダイナミクスを導く数学的モデルについて述べる。RNA-seq データは発現したmRNAを断片化して観測するため、どのRNA分子由来のデータであるかわからない。そのため、断片データからRNAを再現するのが困難である。この問題に対し、我々はRNA-seqの多条件による観測データの相関情報がRNAのエクソン構造とそのダイナミクスを表現するのに適していることを発見した。そこで遺伝子・エクソンなどの様々なスケールで多条件RNA-seqデータから相関関係をモデル化し、これを階層的に紐解くことでRNAメタボリズムに関係するトランスクリプトのダイナミクスを導く。我々は提案モデルを7コンディションのシロイヌナズナRNA-seqデータに適用し、RNAメタボリズムの検出、検出モデルからの機能予測を試みた。
  • 楊 靜佳, 岩本 政雄, 坂井 寛章, 沼 寿隆, 伊藤 剛
    p. 0010
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    アジア野生イネのルフィポゴンは栽培種のサティヴァ(ジャポニカ、インディカなどの多様なグループを含む)の祖先と考えられる。本研究では、野生及び栽培イネの進化過程を明らかにすべく、約2000のルフィポゴン(W1943)完全長cDNAとジャポニカ及びインディカのゲノム配列を比較した。近縁種の系統樹樹形では遺伝子系統樹が種系統樹と一致しない系統樹不整合性があることが知られており、期待されたとおり1つの主要系統樹と2つの少数派系統樹を得た。ここで、W1943がジャポニカに近いという主要系統樹の樹形は先行研究と一致するものであった。また、集団遺伝学の理論から予想される不完全遺伝子分岐に加え、ジャポニカとインディカ間の交雑も示唆された。加えて、ジャポニカ栽培種で失われたと思われる遺伝子も同定し、ルフィポゴンにしかない15の遺伝子が浸水や傷害の条件下で発現していることを実験的に確かめた。本研究で我々は、近縁種の複雑な進化過程を明らかにする上で系統樹不整合性の解析の重要性に光を当て、また、イネ栽培化過程での遺伝子喪失の可能性についても議論する。
  • 櫻井 望, 鈴木 秀幸, 柴田 大輔
    p. 0011
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    オミクスのデータ解析を加速するため、我々は、トランスクリプトームとメタボロームのデータを代謝経路マップ上で統合解析するためのウェブツールKaPPA-Viewを開発してきた。本公演では、従来のシロイヌナズナの代謝マップを用いたシステム(KaPPA-View4 Classic)に加え、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)が整備する代謝マップのデータを搭載した新バージョン、KaPPA-View4 KEGGを公開したので報告する。頻繁にキュレーションされている約290枚のKEGG代謝マップに加え、我々は独自にKEGG BRITEのデータから約380枚の遺伝子ファミリーマップも準備した。これにより、遺伝子ファミリー内の機能分担について、遺伝子共発現性データをもとにした解析をより効率よく進めることが可能である。またKEGGの採用により、植物だけでなく、動物や微生物等の解析も行うことが可能となった。現在、Classic, KEGGの両者を合わせ、20生物種のマップと12生物種の遺伝子共発現データが利用可能である。
    URL: http://kpv.kazusa.or.jp/kpv4-kegg/
    Sakurai et al. (2011) Nuc. Acids Res. Database Issue, in press
  • 姉川 彩, 大西 美輪, 七條 千津子, 深城 英弘, 三村 徹郎
    p. 0012
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    オーキシンは、植物の生活環すべてにおいて重要な働きをする植物ホルモンとして知られており、その生合成やシグナル伝達に関する研究は数多く見られる。しかしながら、植物個体における生理機能を、生体内物質量に基づいて定量的に明らかにする研究はあまり進んでいない。
    我々はこれまでに、キャピラリー電気泳動-四重極-飛行時間型質量分析装置(Capillary Electropheresis-Electrospray-Quadrepole Time Of Flight mass spectrometry; CE-ESI-QTOF)を用いて植物生理活性物質と、有機酸やアミノ酸などの一次代謝産物を同時に定量解析する手法を確立している。このように、植物体内に含まれるイオン性物質を同時に、定量的に解析する手法を確立したため、今回、シロイヌナズナ植物体内に局在するオーキシン(IAA)量、さらに、外部からIAAを与えた際に応答する代謝産物の変動を調べた。10-8 ~ 10-6 MのIAAを12時間与え定量解析を行った結果、IAA 10-7 M 添加時に、シュートでは有機酸濃度が減少し、根では増加した。さらに、シュートでも根でも塩基性アミノ酸の増加が見られた。これらの結果から、IAA添加による窒素代謝の変動が示唆された。本年会では、より短時間IAA処理を行った結果についても報告する。
  • 豊田 歩, 上坂 一馬, 上野 薫, 南 基泰, 小俣 達男, 井原 邦夫, 小田原 卓郎, 那須 守, 米村 惣太郎, 横田 樹広, 愛知 ...
    p. 0013
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    食虫植物であるモウセンゴケ属は,一般に貧栄養湿地に生育する.トウカイコモウセンゴケ(Drosera tokaiensis;Dt)と両親種であるモウセンゴケ(D.rotundifolia;Dr),コモウセンゴケ(D.spathulata;Ds)の生育地の水質調査を行ったところ,硝酸イオン濃度はDrは0~3.3μM(平均0.9μM),Dsは3.1~39.7μM(15μM)であるのに対し,Dtは0~148μM(43μM)と適応範囲が幅広い上に高濃度であった.Dtの両親種であるDrDsは単一系統に属し,モウセンゴケ属内で近縁な関係にあるので,3種の性質を比較するために窒素栄養濃度と生育の関係を調べた.その結果,DtDsは富栄養条件下でも生育可能でありDrは富栄養感受性が高いことが明らかとなった(2009年度本学会報告).このような窒素環境への適応の度合いは,硝酸同化システムの違いに起因すると考え,3種の硝酸還元酵素(NR)と亜硝酸還元酵素(NiR)のcDNAの単離と解析を行っている.取得したNRとNiRおよびRbcLの推定アミノ酸配列について無根系統樹を作成したところ,NRとNiRはRbcLで作成された系統樹とは異なるプロファイルであった.他の植物及び3種間での比較を行った結果から予想されるモウセンゴケ属のNR,NiRの獲得時期について考察する.
  • 長澤 祐樹, 加藤 祐樹, 小西 美稲子, 石田 哲也, 藤原 徹, 柳澤 修一
    p. 0014
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物における窒素炭素バランスを感知して応答するという機構は、窒素と炭素の代謝の制御のみならず生長・発達の制御にも深く関わる重要なものである。これまでにユビキチンリガーゼ活性を持つタンパク質CNI1/ATL31などが窒素炭素バランス応答機構に関与していることが示唆されているが、その全容は不明である。BTタンパク質は、BTBドメインとTAZドメインの二つのタンパク質相互作用ドメインを持つ植物に特異的な構造を有するタンパク質であり、足場タンパク質として働いていることが予測される。シロイヌナズナには5つのBT遺伝子が存在し、この中のBT1およびBT2遺伝子の発現は糖により抑制され、一方で窒素(硝酸)によって誘導されることが知られている。今回、BT1およびBT2タンパク質は核に局在すること、また、bt1変異体およびbt2変異体では、高濃度の糖による緑化の阻害がより顕著に認められ、この糖の効果に対する硝酸の拮抗的作用が低下していることを示す。また、bt1 bt2二重変異体では、この表現型がより顕著であったことから、BT1およびBT2は窒素炭素バランス応答に関わる可能性が示唆された。BTタンパク質が足場タンパク質として働いている可能性を検討するため、プロテオミクスの手法によるBTタンパク質と相互作用するタンパク質あるいはBTタンパク質を含む複合体の解析を進めており、その結果も示す予定である。
  • 高谷 信之, 森 万里江, 木羽 隆敏, 前田 真一, 小俣 達男
    p. 0015
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    CO2と窒素は、共に植物の生長に多量に必要とされる栄養素であり、それぞれの同化系は密接に関連している。窒素栄養が充足した実験条件下ではCO2濃度の上昇によって植物の生育が向上することが観察されているが、実験室内で定常的に窒素不足状態を維持することが困難であるために窒素栄養が不足した条件下での植物の生育に対する高CO2環境の影響は不明である。本研究では、植物の主要な窒素源である硝酸イオンの輸送活性に欠陥を持つシロイヌナズナの変異株を用いて実験室内で定常的窒素不足状態を再現し、その生育に対するCO2濃度の影響を調べた。アンモニアを窒素源として与えた窒素充足条件では、野生株と変異株の間に有意な生長の違いは見られず、どちらの株も低CO2条件(280 ppm)に比べ高CO2条件(780 ppm)でバイオマスにして約2倍の増加が見られた。一方、15 mMの硝酸イオンを唯一の窒素源として与えた場合、野生株にとっては窒素充足条件でありアンモニアの条件と同様にバイオマスの増加が見られたが、変異株にはそのような増加は見られず高CO2条件において変異株の根は野生株と同様にバイオマスを増加したのに対して、シュートのバイオマスは全く変化しなかった。これは、定常的窒素不足状態の植物が高CO2環境で高められた窒素栄養の要求性を補うための特異的な応答であると考えられる。
  • 前田 真一, 村上 明男, 伊藤 寿, 田中 歩, 小俣 達男
    p. 0016
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに多くの海洋性ラン藻の全ゲノム情報が解読され、硝酸還元酵素を持つ海洋性ラン藻はMFS型の硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体を持ち、亜硝酸還元酵素を持つ海洋性ラン藻の中には、藻類の亜硝酸イオン輸送体や細菌のギ酸イオン輸送体と相同性の高い輸送体をコードしているfocA遺伝子を持つものがいることが示されている。我々はこれまでに、淡水性ラン藻Synechococcus elongatus のABC型硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体とABC型シアン酸イオン/亜硝酸イオン輸送体の両方を欠失させた二重変異株(NA4)とシャトル発現ベクター用いて、Synechococcus sp. PCC7002のFocA輸送体には亜硝酸イオン輸送活性があることを報告してきた。しかしながら、他の2種類の海洋性ラン藻のFocA輸送体をNA4に発現させても亜硝酸イオン輸送能を確認できなかったことから、種によってFocA輸送体の構造と機能に違いがあることが推測された。そこで本研究では、海洋性ラン藻のFocA輸送体の構造の違いに着目し解析を行った結果、Synechococcus sp. PCC7002以外のFocA輸送体はC末端領域を欠いた形で発現させた場合に活性が見られることが明らかになり、FocA輸送体の活性を阻害する領域がC末端に存在することが示唆された。
  • 大橋 慶丈, 高谷 信之, 愛知 真木子, 前田 真一, 小俣 達男
    p. 0017
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ラン藻の培地にNH4+を加えると、硝酸イオン輸送体(NRT)や硝酸還元酵素(NR)の活性が阻害されてNO3-の吸収が停止する。ラン藻のNRTにはABC型のNrtABCDとMFS型のNrtPの2種類があり、前者はNH4+により阻害され、後者は阻害されない。一方、NRは1種類しかないが、ラン藻種によって阻害されるものとされないものがある。本研究ではSynechococcus elongatus PCC7942のABC型のNRTをNostoc punctiforme由来のNrtPに置換した変異株(NP1)を作製し、そのNR欠損株(NP2)を親株として種々のラン藻のNRを導入した。様々なNRを導入した変異株においてNH4+によるNRの阻害の有無を確認した結果、阻害されるNRはN末端部の鉄硫黄クラスター結合領域の3番目と4番目のCys残基間に39アミノ酸からなるループを持つことが明らかになった。また、そのループ内に保存されているPro残基が阻害に必要であった。このループと保存されるPro残基は、NH4+によって阻害されないNrtPを持つラン藻の全てのNRで確認されたことから、全てのラン藻でNRTとNRの少なくとも一方がNH4+による阻害を受けることが予測される。本発表では、2種類のNRTの性質の違いとNRの阻害の有無について、生育環境を考慮した議論を行いたい。
  • 木羽 隆敏, Feria-Bourrelier Ana-Belen, Miller Anthony J, Krapp Anne, 榊原 均
    p. 0018
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの高親和性硝酸イオン(NO3-)輸送体遺伝子ファミリー(AtNRT2)は7遺伝子(AtNRT2.1-2.7)から構成される。これまでの研究から、AtNRT2.1AtNRT2.2は根におけるNO3-の取り込みに、AtNRT2.7は種子におけるNO3-の貯蔵に関わることが明らかにされている。しかし、他のメンバーの生理的な役割については未だ不明である。
    今回は、低窒素条件において発現誘導されるAtNRT2.4の機能解析を行った結果を報告する。AtNRT2.4は低窒素条件特異的に、主に側根の表皮細胞において発現する。また、AtNRT2.4-GFP融合タンパク質を発現する形質転換植物を用いた解析から、AtNRT2.4が背軸側の細胞膜に局在することが明らかとなった。AtNRT2.4 mRNAを注入したアフリカツメガエルの卵母細胞は、NO3-取り込み活性を示すことから、この遺伝子が低窒素条件における外界からのNO3-の取り込みに関与することが強く示唆された。まだ予備実験の段階だが、T-DNA挿入変異体が低濃度(50 μM 以下)におけるNO3-取り込み活性低下の表現型を示すという結果を得ており、現在15 NO3-流入アッセイや生育調査等の詳細な解析を進めている。本発表ではその結果を報告すると共に、低窒素栄養適応応答におけるAtNRT2.4の生理的役割について考察する。
  • 田村 亘, 渡邉 英生, 日高 佑典, 豊川 絢子, 田渕 真由美, 小島 創一, 早川 俊彦, 山谷 知行
    p. 0019
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    NADH-グルタミン酸合成酵素(NADH-GOGAT)は、グルタミンと2-オキソグルタル酸から2分子のグルタミン酸を合成する酵素である。イネには、NADH-GOGAT1とNADH-GOGAT2の2種類のアイソザイムが存在する。イネの地上部において、NADH-GOGAT1は、未抽出葉身や頴花といったシンク器官の維管束組織に局在する。一方、NADH-GOGAT2は、成熟葉身や老化葉身といった、ソース器官の維管束組織に局在する。それぞれのNADH-GOGATの役割を明らかにするため、各NADH-GOGATの遺伝子破壊変異体を用いて、その表現型を観察した。これらの遺伝子破壊変異体を水田に移植し、収穫期まで栽培した。その結果、Nipponbareと比較して、NADH-GOGAT1並びにNADH-GOGAT2の変異体は、共に乾物重や収量が低下した。しかし、収量構成要素別に比べると、NADH-GOGAT1の変異体では、主に穂数が減少しているのに対し、NADH-GOGAT2の変異体では、主に一穂籾数が減少していた。このことから、2種類のNADH-GOGATでは、共に生産性に関与しているものの、異なる役割を持つことが明らかとなった。また、その機能は、お互いに相補しきれないものであった。現在、2種類のNADH-GOGATの窒素利用における機能を、詳細に解析している。
  • 谷合 彰子, 澤 勇己, 小原 実広, 吉成 晃, 小島 創一, 山谷 知行, 早川 俊彦
    p. 0020
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    NH4+供給後のイネ幼植物根では、数種のNH4+吸収・同化系遺伝子の発現制御に関わるGlnまたはその代謝産物を介した情報伝達系の存在が示唆されるが、その分子機構は不明である。イネOsACTPK族(OsACTPK1-6)は、シロイヌナズナSer/Thr/Tyrプロテインキナーゼ(AtSTYPK)ホモログであり、かつ、微生物GlnセンサーGlnDのGln感知に重要なACTドメインと相同なドメインを有する。特に、イネ幼植物根では、日毎のNH4+供給の都度、OsACTPK1 mRNA蓄積量が累積した。本研究では、OsACTPK1のGln情報伝達系への関与を検討する第一歩として、低濃度から充足濃度のNH4+供給下で栽培したTos17挿入OsACTPK1破壊イネ変異体群幼植物の表現型を解析した。この際、OsACTPK1上にTos17が挿入されていない分離系統群を比較対照とした。OsACTPK1破壊変異体群では、NH4+供給充足条件下において、根の伸長抑制と地上部の生育の促進及び全窒素・全遊離アミノ酸含量の増加が有意に認められた。また、根の15NH4+吸収速度解析から、高親和性NH4+輸送機構のVmax値が約2倍に増加していることが明らかになった。以上の結果から、NH4+供給充足下のイネ幼植物根において、OsACTPK1が少なくともNH4+吸収を負に制御する可能性が示唆された。
  • 丸田 隆典, 磯田 桃子, 橋本 ゆみこ, 大鳥 久美, 多淵 知樹, 田茂井 政宏, 重岡 成
    p. 0021
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    ショ糖高感受性シロイヌナズナ変異株として単離したプラスチド型インベルターゼ(INV-E)の機能獲得型変異株であるsicy-192では、ショ糖添加培地において、光合成系および窒素同化系遺伝子群の発現がそれぞれ抑制および誘導されていたことから、INV-Eは炭素/窒素(C/N)バランス制御に関与することが示された(J. Biol. Chem., 2010)。これまでに、核コードの光合成系遺伝子の発現はプラスチド遺伝子発現(PGE)を発端としたプラスチドから核への逆行性シグナリング(プラスチドシグナリング)により制御されることが知られている。そこで、sicy-192におけるPGEやプラスチドシグナリングに関与する遺伝子群の発現について調べた。
    ショ糖添加培地のsicy-192において、プラスチドコードRNAポリメラーゼ(PEP)の下流遺伝子の発現が特異的に抑制された。また、プラスチドシグナリングに関与する転写因子、GLK1およびGLK2の発現はsicy-192において顕著に抑制されていた。よって、INV-EはPGEを発端としたプラスチドシグナリングを介して、C/Nバランスを制御することが示唆された。現在、ショ糖処理時のPGEや核コード遺伝子発現に及ぼす影響について、野生株、sicy-192およびINV-E遺伝子破壊株を用いて解析している。
  • 清田 浩史, 桑原 亜由子, 平井 優美, 池内 昌彦
    p. 0022
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    光合成生物であるシアノバクテリアは光や栄養などの外部環境の変化に応答して代謝状態を柔軟に調節していると考えられるが、栄養欠乏条件などに対する代謝物量やその変化を直接調べた例はほとんど報告されていない。そこで炭素・窒素・硫黄代謝の中枢を担っているアミノ酸の細胞内プールを、ガスクロマトグラフィー質量分析機を用いて定量し、窒素欠乏時にシアノバクテリア中の遊離アミノ酸量がどのように変化するかを測定したところ、硝酸イオン欠乏培地に移してから24時間以内に多くの基本アミノ酸量が一過的に増加していた。特に、チロシンとリシンは通常の培地で培養した場合の数十倍まで蓄積した。この蓄積は窒素欠乏条件で24時間培養した培地に硝酸イオンを添加することで6時間以内に解消した。窒素環境はタンパク質の合成・分解サイクルと密接に関わっていると考えられ、シアノバクテリアSynechocystisでは窒素欠乏時に集光タンパク質複合体であるフィコビリソームが分解されることが知られている。今回見出したアミノ酸量の変動に対するフィコビリソーム分解の寄与を調べるため、分解に必須の遺伝子であるnblA1/A2を破壊した変異株を作製し、窒素欠乏下におけるアミノ酸プールの挙動を調べたのでその結果について報告する。また、炭素の安定同位体を用いて測定した、アミノ酸の窒素欠乏下での新規合成量についても合わせて発表する予定である。
  • 長島 祥晃, 岡田 克彦, 堀井 瑛介, 青野 冬美, 都筑 幹夫
    p. 0023
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Synechocystis sp. PCC6803はグルコースを炭素源とした従属栄養的生育が可能であるが、生育を持続させるために、光照射が必要である。我々は、光照射が、fructose-1.6-bisphosphate aldolase (fbaA) を含む複数の解糖系遺伝子の発現を誘導する事、発現誘導にsll1330が必要なことを報告してきた。fbaAは、グルコース存在下の5分間光パルスの間欠光条件下や連続光照射条件下で転写が誘導される。sll1330破壊株では、グルコース存在下で、光によるfbaAの発現誘導効果が失われていた。sll1330はレスポンスレギュレーターであることから、解糖系遺伝子の発現には、二成分制御系が関与していると考えられる。そこで、sll1330以外の調節因子を同定する目的で、ヒスチジンキナーゼやレスポンスレギュレーター遺伝子を破壊した株を作製したところ、グルコース存在下で、解糖系遺伝子fbaA、fda、gap1、pgmB、pgm、eno、pkの発現が上昇しているヒスチジンキナーゼ破壊株が見いだされた。この破壊株の生育をみると、グルコースを添加した完全暗所下で顕著な生育の促進がみられた。また、fbaA発現誘導に必要なsll1330の発現上昇も見られた。以上のことから、このヒスチジンキナーゼがfbaAの発現系の抑制や、生育に関与していることが示唆された。
  • 武内 秀憲, 東山 哲也
    p. 0024
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の生殖過程において、精細胞を運ぶ花粉管が卵細胞を含む胚珠組織まで導かれるために、花粉管ガイダンスは必須のメカニズムである。この花粉管ガイダンスは、同種の花粉管を精確に導く仕組みであるが、それを担う分子的実体は長年の間不明であった。このような中、当研究室のトレニアという被子植物を用いた解析により、卵細胞の隣に位置する助細胞から分泌されるTfLUREsが花粉管誘引物質の実体として同定された。
    しかしながら、花粉管誘引物質の普遍性や雌しべの中での機能だけでなく、同種の花粉管を優先的にガイドする仕組みについては明らかでない。本研究ではこのような疑問を明らかにするため、様々なリソースを用いることができるモデル植物シロイヌナズナにおいて花粉管誘引物質を同定し、解析を行った。これまでに、シロイヌナズナの助細胞から分泌される誘引物質群AtLURE1を同定し、雌しべの中で精確なガイダンスに重要な役割を果たしていることを明らかにした。興味深いことに、AtLURE1をコードする遺伝子群はゲノム内でタンデムに重複しており、それらは動的に変化し得る可能性も示唆された。シロイヌナズナ誘引物質の同定に至った詳細な機能解析に加え、誘引物質の分子進化についての考察も交えて紹介したい。
  • 浜村 有希, 齊藤 知恵子, 金岡 雅浩, 佐々木 成江, 中野 明彦, 東山 哲也
    p. 0025
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    重複受精は被子植物に特有の受精機構である。2つの精細胞は花粉管に運ばれ、一方が卵細胞と受精して胚を、もう一方が中央細胞と受精して栄養組織である胚乳を形成する。近年、配偶体細胞の融合に関わる因子が単離されたが、2つの精細胞の受精相手など、重複受精における2つの精細胞の挙動は依然として明らかでない。
    我々は、2色4次元共焦点顕微鏡と配偶体特異的蛍光タンパク質マーカーを用い、132例の重複受精のライブイメージングに成功した。これより、精細胞は、花粉管から雌性配偶体まで最高10 μm/秒の速さで、およそ20秒で運ばれていることが分かった。卵細胞の受精に要した時間は平均8.4 ± 4.1 分で、中央細胞の受精に要した時間は平均8.5 ± 3.1 分 (n = 44) であり、2つの受精の順は決まっていないことがわかった。さらに、2つの精細胞の受精相手が、花粉管内であらかじめ決まっているか着目した。2つの同型精細胞の区別には、蛍光変換タンパク質mKikGRを用いた。花粉管の先端側に位置した一方の精細胞を蛍光変換したとき、この精細胞が卵細胞と受精した例が11例、中央細胞と受精した例が10例で、どちらにも同程度に受精していた。したがって精細胞の受精相手は花粉管内であらかじめ決まっておらず、放出された後に雌性配偶体との相互作用によって決まる可能性が示唆された。
  • 奥田 哲弘, 後藤 宏旭, 佐々木 成江, 東山 哲也
    p. 0026
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の受精において,助細胞から分泌される花粉管誘引物質は,花粉管が正確に胚嚢へ到達するのに最も重要な鍵因子である.これまでに我々は,トレニア助細胞の遺伝子発現プロファイルを解析し,真の花粉管誘引物質LURE1およびLURE2を同定した(Okuda, Tsutsui et al., 2009).また最近,LUREを蛍光色素で可視化し,LUREの挙動を直接可視化する技術を開発した(Goto et al., 2011).
    誘引物質LUREsが明らかとなり,花粉管ガイダンスを分子レベルで直接的に解析することが可能となったことから,LUREsの作用機序の解明や,その受容体の分子的実体に興味が持たれる.本研究は,花粉管がいかにしてLUREsを受容するかを明らかにするために,花粉管側の受容体を同定することを目指している.まず,花粉管に精製LURE2を与え,抗LURE2抗体を用いた免疫染色により,花粉管が先端でLUREを結合することを明らかにした.また,花粉管のLUREsに対する応答能において,母体組織である花柱による影響を解析した.本発表では,生理学的解析を用いた,花粉管のLUREs受容における母体効果について紹介したい.
  • 河野 直, 東山 哲也, 金岡 雅浩
    p. 0027
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    花粉管ガイダンスは花粉管を胚珠へと誘引するメカニズムである。この現象は種特異的であり、種間での交雑を防ぐ機能も持つと考えられている。我々はディフェンシン様タンパク質の1種であるLUREsがTorenia fournieriの助細胞から分泌され、花粉管ガイダンスに機能することを示した。配列多様性と進化速度の速さはこのファミリーのタンパク質の特徴のため、我々はLUREホモログを近縁種から単離しその配列や花粉管ガイダンスにおける機能を比較することを試みた。T. concolor から得られたTcCRP1は助細胞特異的に発現しており、同種の花粉管に対してガイダンス活性を示した。他方、T. fournieriの花粉管に対するガイダンス活性は低かった。また、T. concolorTfCRP遺伝子ホモログの中には、発現が見られず、偽遺伝子化していると思われるものも見られた。これらの結果は、CRPの多様化が種特異的な花粉管誘引に貢献していることを示唆している。
  • 丸山 大輔, 笠原 竜四郎, 風間 裕介, 阿部 知子, 東山 哲也
    p. 0028
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の受精過程は雌しべの柱頭に花粉が付着することから始まる.花粉は柱頭で吸水・発芽し,花粉管を伸長させる.そして花粉管は雌しべ内部を急速に伸長し,雌性配偶体を有する胚珠へと到達する.このとき,花粉管は雌しべの組織や雌性配偶体から分泌されるシグナル分子によって,花粉管ガイダンスと呼ばれる伸長方向の調節を受けると考えられている.近年,われわれの研究室では,雌性配偶体の助細胞から分泌される低分子タンパク質のLUREが花粉管誘引活性を持つことを示した.LUREの発見を始め,花粉管ガイダンスの分子機構は徐々に明らかにされてはいるが,既知の分子では説明できないことが未だ多く存在する.例えば,LUREのような誘引物質を分泌する未受精の胚珠には度に多数の花粉管が殺到しそうであるが,実際は1つの胚珠に対して1本の花粉管のみが正確に誘導される様子が観察される(添付図参照). これは受精後の胚珠が,追加的な受精(多精)がおこらないように制御する多精拒否機構の存在を示唆する.被子植物の多精拒否の分子機構にせまるため,われわれは,受精済みの胚珠に対しても花粉管が誘引されるシロイヌナズナ変異体を分離し,解析を行った.
  • 笠原 竜四郎, 丸山 大輔, 浜村 有希, 榊原 卓, 東山 哲也
    p. 0029
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    雌性配偶体は被子植物の生殖に関するほぼすべての段階で重要な働きをもつことが明らかにされてきている。雌性配偶体のもつ重要な機能のうちの一つに、花粉管ガイダンスがある。東山ら(2001)は花粉管ガイダンスには雌性配偶体内の助細胞が必要であることを突き止めた。このように、助細胞の機能的な知見は広がってきているとはいえ、どのような遺伝子産物がこの助細胞の機能に関与しているのかという分子生物学的な知見はほとんど存在しなかった。しかし、笠原ら(2005)によって、MYB98遺伝子が同定され、助細胞の分子レベルでの機能を知るためのスタートラインが築かれた。MYB98::GFP をベースにした順遺伝学スクリーニングにより、雄性配偶体の変異体g21を獲得することができた。g21変異体は野生型とは異なり、花粉の中に2つあるはずの精細胞が1つしか観察することができない。これによりg21変異を持つ花粉管は胚珠に進入しても重複受精が起こらず、種子を形成するに至らない。また、雌性配偶体には変異がなく、g21変異は雌性を通じて遺伝する。今回はこのg21変異体の解析により、植物の受精にとって非常に重要な機能を見出すことが出来たので報告する。この新機能を詳しく解析することで、植物の助細胞と花粉管の関係や、中央細胞、卵細胞と精細胞との受精をより深く理解することにつながると期待できる。
  • 安彦 真文, 岡本 龍史
    p. 0030
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    重複受精は、花粉管により胚嚢内へと輸送された2個の精細胞が、一方は卵細胞と、もう一方は中央細胞と融合する受精形式であり、被子植物に特有である。この受精機構は、被子植物に繁栄をもたらした重要な生殖機構であるにも関わらず、「2個の精細胞がそれぞれ卵細胞、中央細胞とどのような機構で融合するのか」という受精の本質的な現象に対する分子レベルでの知見は非常に少ない。そこで、我々は、配偶子融合機構の一端を明らかにするために、まず、イネ精細胞、卵細胞、および受精卵それぞれについてトランスクリプトーム解析を行った。さらに、1花粉由来の2個の精細胞の遺伝子発現プロファイルを個別に作成することも試みている。本年会では、これらの解析結果を、精細胞、卵細胞、受精卵それぞれのアイデンティティーや、細胞融合機構と結びつけて発表したい。
  • 岡本 龍史, 佐藤 明子, 中島 啓介
    p. 0031
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物では、胚嚢内での配偶子融合(受精)により生じた受精卵が、小さな頂端細胞と大きな基部細胞からなる 2 細胞胚へと不等分裂する。また、受精卵の第一分裂は、植物のボディプランにおける最初の細胞分化過程(頂端-基部軸形成過程)であると考えられている。本発表では、イネ in vitro 受精系を用いた解析により、受精点は受精卵の第一分裂面決定への位置情報として機能していないことが示され、間接的ではあるが、受精卵の細胞内極性形成および卵細胞上の配偶子融合領域についての知見が得られたので報告したい。
    まず、in vitro 受精系により作出した受精卵と胚嚢内の受精卵の発達および分裂様式を詳細に比較し、in vitro 受精卵は胚嚢内の受精卵と同様に細胞内極性を形成し、不等分裂することを確認した。次に、精細胞膜を蛍光レクチンで染色したのち、卵細胞と in vitro 受精させることにより受精点を標識した。その後、受精点標識した受精卵を 2 細胞胚へと培養し、受精点と受精卵第一分裂面の位置および距離を観察・測定したところ、受精点と受精卵第一分裂面の位置関係は完全にランダムであった(n=33)。これらの結果は、「受精卵は自律的に細胞内の極性を形成することができる」および「卵細胞上には精細胞が融合するための特定の領域は存在しない」という可能性を示唆している。
  • 横井 彩子, 野中 聡子, 雑賀 啓明, 刑部 敬史, 土岐 精一
    p. 0032
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    相同組換え修復機構を利用したジーンターゲッティング(GT)は、ゲノム上の標的遺伝子を計画的に改変できる技術である。被子植物においては、細胞内に導入された外来DNAのほとんどは非相同末端結合(NHEJ)によりゲノム中にランダム導入されるため、GTの頻度は極めて低い。従ってNHEJを抑制することによりGTの効率は向上できると考えられ、最近、シロイヌナズナにおいてLigIVの発現抑制により、GT効率が向上できることが報告された。
    我々は、DNA損傷によるエンドサイクルの誘導が起こらないイネはNHEJ関連因子の発現抑制の効果を評価しやすいと考え、NHEJ経路の主要因子であるKu70/80およびLigIVの発現をRNAi法により抑制させたイネを作出した。これらのイネカルスにGFP恒常的発現カセットおよびルシフェラーゼプロモータートラップ発現カセットを含むレポーターコンストラクトを導入し、経時的にレポーターの発現解析を行った。その結果、外来遺伝子からの初期の一過的発現はコントロールおよびNHEJ抑制カルスにおいて違いは認められなかったが、ゲノムに挿入された後の安定的な発現はNHEJ抑制カルスで著しく減少した。そこで現在、分子内相同組換え効率をレポーター遺伝子の発現により可視化できるシステムをイネにおいて構築し、NHEJの抑制がHR効率に及ぼす影響を検討している。
  • 遠藤 暁詩, 澤 進一郎, 出村 拓, 福田 裕穂
    p. 0033
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞間の相互作用において、ペプチドリガンドとレセプターを介したシグナリングは多様な役割を担うと考えられている。シロイヌナズナに32個あるCLV3/ESR-related (CLE) ペプチド遺伝子からいくつか、分裂組織や細胞分化の制御において機能する因子がみつかってきたが、未だシグナリング機構の全貌はわからない。私達はこれまでにシロイヌナズナin vitro花粉管伸長を指標に、新規のCLEペプチド活性およびCLEペプチドに応答に必要な花粉の受容体様キナーゼ遺伝子をみいだした。本発表では、シロイヌナズナ植物体おけるそれら遺伝子機能解析の成果を報告する。まず、雌蕊の花粉管伸長領域でプロモーター活性を示すCLEペプチド遺伝子が、候補遺伝子群の中から1つ見つかった。そのパターンは通常の育成条件よりも高温におくことで明確に現れた。次にそのCLEペプチド遺伝子についてRNA interferenceを行った。ノックダウン植物体において、雌蕊内部での花粉管伸長に明確な異常は検出されなかったが、より高温で育成した場合の種子形成率がコントロールより低下していた。対応する受容体様キナーゼ遺伝子について野生型をキナーゼ不活性型と入れ替えたところ、同様な種子形成率低下が確認された。したがってこの新規CLEペプチドシグナル系は、特に高温条件での種子形成をサポートする役割を担っていると考えられる。
  • 小宮 怜奈, 大柳 一, 新濱 充, 渡部 聡朗, 渡邊 成樹, 筒井 康博, 望月 孝子, 神沼 英里, 中村 保一, 倉田 のり, 野々 ...
    p. 0034
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ARGONAUTE (AGO)ファミリーに属するイネMEIOSIS ARRESTED AT LEPTOTENE1 (MEL1)は、雌雄の生殖細胞の発生を維持する重要な遺伝子である (Nonomura et al., 2007)。さまざまな生物で、AGOがsmall RNAを介して、転写・翻訳制御や転移因子の活性を抑制し、発生等を制御していることから、MEL1によるsmall RNAを介したイネ生殖細胞の制御機構が示唆される。
    そこで、MEL1抗体を用いたRNA-immunoprecipitation (RIP)によりMEL1と結合するsmall RNAsを抽出し、Illumina Genome Analyzer IIにより、small RNAsの網羅的な配列同定を試みた。MEL1と結合するsmall RNAsは5’末端にシトシン(C)を有した21 塩基長のものが多く、そのほとんどは遺伝子間領域 (intergenic region)に由来するものであった。また、MEL1と結合するsmall RNAsをイネゲノム上にマップしたところ、数百ものクラスタを形成した。本年会ではイネ生殖細胞発生過程におけるMEL1-small RNAクラスタについて報告する。本研究は文科省科研費若手研究(S) (21678001)の支援を受けた。
  • 水多 陽子, 春島 嘉章, 倉田 のり
    p. 0035
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    「種」は遺伝子交換が可能な集団と定義され、種間で不和合を引き起こし、遺伝子交換を妨げる遺伝的機構は生殖的隔離と呼ばれている。様々な生殖的隔離は種分化および種の多様性を生み出す原動力となるが、その機構の多くは未解明のままであった。栽培イネ(Oryza sativa)はindicaとjaponicaの二つの亜種に分類され、両者の交雑では様々な障壁が観察される。我々はjaponicaの日本晴とindicaのカサラスとの雑種で花粉不発芽を引き起こす重複遺伝子DOPPELGANGER (DPL) 1とDPL2を単離した。両遺伝子は異なる染色体上に位置し、高い相同性を持つパラログ遺伝子である。DPLは高度に保存された植物特異的なタンパク質をコードし、成熟花粉で高発現していた。発現解析と遺伝学的解析からカサラスのDPL1と日本晴のDPL2は機能欠損型であり、両機能欠損アリルを併せ持つ雑種花粉は不発芽となることから、機能的なDPLは花粉発芽に必須であることが分かった。また、42種の他の被子植物と、43のイネ近縁種を用いた系統学的解析から、DPLの重複、機能欠損および隔離の成立時期を推定できた(Mizuta et al., 2010)。本発表ではDPL遺伝子の機能についても考察する。
  • 小野 公代, 大関 悠子, 川崎 真澄, 鎌田 博, 光田 展隆, 高木 優, 小野 道之
    p. 0036
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    CRES-T法(Chimeric REpressor gene-Silencing Technology)は、転写因子に、シロイヌナズナの転写抑制ドメイン(SRDX)を連結する事により転写抑制因子に改変し、機能が重複した転写因子が存在してもターゲット遺伝子の発現を効率よく抑制することが可能である。しかし、導入転写因子によっては、転写抑制因子の過剰発現により成長不良や種子の稔性低下がみられる。本研究では、効率的な遺伝子組換え花卉の作出に向け、導入遺伝子の発現を時・空間的に制御するため、酵母のGAL4転写因子の転写システムを利用し、35S:GAL4 UAS制御下で過剰発現している導入遺伝子の発現を、エタノール誘導または熱ショック誘導プロモーターによりGAL4のキメラリプレッサーを発現誘導することによって、一過的に抑制するベクターを構築した。導入遺伝子としては、八重咲きに関わるAGのキメラリプレッサー(AGSRDX)及びAGのアサガオにおけるホモログであるDPのキメラリプレッサー(DPSRDX)をアサガオに導入した。35S::DPSRDX導入アサガオは再分化中に生育が停止し枯死してしまうが、再分化中のGAL4SRDXの誘導発現により正常に個体再生し、八重咲きのアサガオを咲かせる事に成功した。さらに、誘導処理により、八重咲きのアサガオを一過的に、野生型の一重に戻すことにも成功した。
  • 石川 亮, Htun Than Myint, 山崎 将紀, Thanh Pham Thien, 石井 尊生
    p. 0037
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    栽培イネ(Oryza sativa)は、アジアの野生イネ(O. rufipogon)から栽培化されたことが知られており、種子脱粒性の喪失は栽培化の最も初期に生じたと考えられている。我々はこれまでの研究から、栽培イネO. sativa 日本晴と野生イネO. rufipogon W630の脱粒性を制御する効果の大きい2つのQTLを同定し、それらはこれまでに報告されたqSH1sh4と同じ領域にあることを確認した。栽培化は野生イネを対象に始められてきたため、非脱粒性遺伝子の効果を検証するためには、野生イネの遺伝的背景で脱粒性の評価を行う必要が考えられる。そこで、栽培イネ(日本晴)の持つqSH1sh4の非脱粒性遺伝子を戻し交雑と選抜によって野生イネの遺伝的背景に導入した系統を作出し、これらの植物において脱粒性を調査した。興味深いことにどちらか片方の非脱粒性遺伝子をホモに持った場合においても、自然脱粒が生じることが明らかになった。また、qSH1sh4座ともに栽培イネの非脱粒性遺伝子に置き換えた植物体においても、脱粒強度は日本晴の半分程度であった。これらの結果から、野生イネの遺伝的背景では、効果の小さな複数の微働遺伝子が種子脱粒性の制御に関与していることが示唆された。
  • 中上 朋美, 上口 智治
    p. 0038
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の生殖細胞はライフサイクルの終期に体細胞系列から分化し、配偶子を形成する。我々はゲノムの安定性維持に関わるMERISTEM DISORGANIZATION1 (MDO1)遺伝子の変異体解析中に興味深い現象を見出した。mdo1変異は劣性一遺伝子座変異としてふるまい、変異へテロ個体の次世代のうち1/4が変異ホモ個体として正常に発芽・生長する。一方変異ホモ個体の次世代種子は外観上の異常を示し、播種してもほとんど発芽しない。すなわちmdo1変異をホモに持つ点で同一の接合体でありながら、親世代の遺伝子型によって種子表現型が異なるという現象が認められる。mdo1ホモ個体の次世代完熟種子の胚は球状の異常胚が大半を占め、少数の胚は不完全な子葉や幼根を形成していた。また初期胚発生の過程で、2細胞期から遅くとも後期球状胚期までに胚、原根層、胚柄の各部分で異常な細胞分裂面が生じていた。一方で変異ホモ個体が形成する花粉や胚珠には組織学的異常は認められなかった。これらの結果は変異の影響が胚発生のごく初期に、胚に限られることを示唆する。また交配実験による遺伝学的な観点から、接合子の表現型が雌親の表現型に依存するという母性効果として知られる現象の可能性は排除できる。以上の結果は親世代における配偶子形成までの過程で、配偶子が正常に胚発生できる能力を獲得する新規な機構が存在する可能性を示唆している。
  • Tang Lay Yin, Sakamoto Wataru
    p. 0039
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Arabidopsis pollen, the male gametophyte consists of three haploid cells that are a single vegetative cell and two enclosed sperm cells. Drastic degradation of organelle DNA during pollen maturation is observable by DNA-specific fluorescent dye such as 4',6-diamidino-2-phenylindole (DAPI). The regulatory mechanism and biological significance of organelle DNA degradation in pollen is not known so far. Our research group has screened for mutants defective in pollen organelle DNA degradation. We identified two mutant loci, dpd1 and dpd2, showing retention of DAPI-detectable organelle DNAs in the vegetative cell. DPD2 gene encodes an enzyme involved in nucleotide biosynthesis. We will present the characterization of dpd2, which points to an interplay between organelle DNA degradation and nucleotide biosynthesis in pollen.
  • 八木橋 奈央, 阪田 忠, 佐藤 修正, 東谷 篤志
    p. 0040
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    生殖成長過程は、栄養成長過程に比べ、様々な環境ストレスに対する感受性が高く、結果として不稔を生じる。特に花粉の形成過程は高温や低温などのストレスに感受性が高く、雄性不稔による種子稔性の低下を引き起こす。当研究室では、オオムギ、シロイヌナズナ、イネなどを用いて、高温や低温における花粉形成の影響とその分子機構の解明を目指している。本発表では、低温環境による植物ホルモン応答の変化ならびに細胞分裂への影響などを、シロイヌナズナを用いた解析を中心に報告する。オーキシン応答性DR5-GUS組換え体を用いた解析から、DR5-GUSの発現は減数分裂後のstage 10の葯において最も強いGUS活性が観察され、その葯における活性は高温(30℃)で顕著に抑制されるとともに、葯以外の組織では逆に強くなることが観察された。一方、低温(10~13℃)では葯におけるGUS活性が増加し、低温と高温でオーキシン応答のシグナル活性が大きく変動することが明らかになった。また、細胞周期を制御するサイクリン遺伝子(CycA、CycB)の低温に対する応答を解析した結果、stage 8より初期の花芽ににおいてみられる発現が低温では顕著に減少することも確認できた。これら遺伝子のシロイヌナズナの低温における器官・時期特異的な発現変化がイネの低温障害(冷害)などにも共通的に考えられるものか、その他の結果も踏まえて最後に考察したい。
  • 津長 雄太, 阪田 忠, 松岡 信, 川岸 万紀子, 渡辺 正夫, 東谷 篤志
    p. 0041
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    低温や高温の温度ストレスによって、植物の稔性は低下することが知られている。その際、雌性より雄性の花粉の形成がより影響を受けやすく、イネにおいては低温障害による雄性不稔の現象が有名である。本研究では、イネ低温障害における植物ホルモンジベレリンが果たす役割を明らかにすることを目的として、遺伝学的な解析を中心に行った。今回実施した低温処理は、27℃昼/22℃夜 12時間日長のファイトトロン内で、播種後30日目から出穂期まで21.5℃の低温深水処理を行った。その結果、それぞれの親系統(野生型)においては花粉数の低下が観察されたが、ジベレリンの感受性が低下した変異体gid1-8、slr1-d1、-d2、-d3、-d4のいずれにおいても、それぞれその親株以上に葯の発育不良と充実花粉がほとんど見られない著しい減少が認められた。同様に低温環境で栽培したジベレリン生合成系のSD1遺伝子を欠失させたコシヒカリsd1(つくば1号)も親株コシヒカリと比較して、低温による充実花粉数の減少がより顕著に観察された。一方、雌蕊の発達においては、今回の低温処理の条件下では、いずれの変異体においても影響は観察されなかった。以上の結果から、ジベレリンとそのシグナル伝達系が、葯の発達時の低温障害に対して耐性を付与している可能性が強く示唆された。
  • 恒川 苑実, 鈴木 俊哉, 佐々 路佳, 肥塚 千恵, 今村 順, 中村 研三, 石黒 澄衞
    p. 0042
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ポレンコートは脂質とタンパク質に富んだ粘着性の物質で、柱頭による同種・異種花粉の認識や柱頭上での吸水と発芽など、花粉が受精に至るさまざまな過程で重要な働きを持つと考えられている。シロイヌナズナのポレンコートに多量に存在するタンパク質EXTRACELLULAR LIPASE4/6(EXL4/6)とGLYCINE-RICH PROTEIN17(GRP17)は、欠損させると花粉稔性が低下することから、柱頭による認識から吸水発芽までのいずれかの段階で重要な働きをしていると推定される。ポレンコートのタンパク質は、脂質とともにタペート細胞で生合成され、タペート細胞内の小器官に蓄積したのち、タペート細胞の崩壊に伴って葯室に放出され、ポレンコートとして花粉表面に沈着する。オレオシンドメインを持つGRP17は、タペートソームと呼ばれる脂質蓄積性オルガネラに局在することが知られているが、EXL4/6の細胞内局在部位はまだ同定されていない。そこで、EXL4にGFPを連結させてシロイヌナズナとナタネのタペート細胞で発現させ、どのオルガネラに存在しているかを解析した。また、EXL4/6の持つリパーゼ活性が花粉稔性に必要であるかどうかについても解析を進めた。一方、GRP17-GFPを発現するナタネのタペート細胞から、GFP抗体と磁気ビーズを用いてタペートソームを単離する方法を考案したので、併せて報告する。
  • 川瀬 敦嗣, 中野 加奈子, 境 あゆち, 杉浦 明香, 石井 礼子, 村田 聡子, 中村 研三, 石黒 澄衞
    p. 0043
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    ジャスモン酸(JA)は傷害・病害などに対する抵抗反応や細胞の老化を引き起こす植物ホルモンであるが、シロイヌナズナなどでは「開花」ホルモン、すなわち成熟したつぼみの花弁や雄しべに作用してその伸長を促進し、つぼみを開花させるホルモンとして働くこともわかっている。JAは成熟したつぼみの中では雄しべに最も多く含まれていることや、JA生合成酵素の遺伝子の多くが雄しべの花糸で強い発現を示すことから、花糸におけるJA生合成遺伝子の発現誘導が開花を誘導するスイッチとして働いているものと推定される。我々はJA生合成経路の最初の段階で働くリパーゼをコードする遺伝子としてシロイヌナズナのDEFECTIVE IN ANTHER DEHISCENCE1 (DAD1) を同定し、この遺伝子の発現がJA生合成の誘導すなわち開花の誘導に非常に重要であることを明らかにしてきた。しかし、DAD1遺伝子が成熟したつぼみで花糸特異的に発現するしくみについては、まだよくわかっていない。そこで、この発現を制御するプロモーター上の転写制御領域の同定を目的として研究を行った。DAD1遺伝子の5’側上流領域をさまざまに欠失させてGUSレポーター遺伝子に連結し、開花時における花糸でのGUS発現を指標にして転写制御領域を解析した。その結果、49bpの領域を花糸特異的発現に必要なエレメントとして同定することができた。
  • 鈴木 俊哉, 松岡 健, 中村 研三, 石黒 澄衞
    p. 0044
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    花粉壁の外層を構成するエキシン構造は、受粉過程において重要な役割を果たすと言われている。しかしその形成機構は謎に包まれ、分子遺伝学的知見はあまり得られていない。エキシン構造に異常を示す突然変異体のスクリーニングによって得られたシロイヌナズナkaonashi4 (kns4)は、エキシンの基本的構造を保ちながら、その厚さが野生型の半分ほどになるという表現型を示した。また稔性が低下し、花粉全体の形態にも異常が見られた。組織切片観察より、kns4は花粉母細胞の発達に異常を示し、四分子期にエキシン形成の足場となるプライムエキシンの量が少ないことがわかった。原因遺伝子KNS4は、動物のβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼと相同性の高いタンパク質をコードしていた。ヤリブ試薬を用いた生化学的解析より、kns4の四分子に含まれるアラビノガラクタンタンパク質(AGP)の量が野生型よりも減少していることが示された。また共局在解析から、KNS4タンパク質はゴルジ体に局在する可能性が示された。以上の結果から、KNS4は花粉母細胞または四分子期タペート細胞のゴルジ体に局在し、プライムエキシンに豊富に含まれるAGPの生合成に重要な働きを持つ、という仮説が考えられた。現在KNS4の発現場所を特定するための実験を行っている。
  • 須崎 大地, 永田 俊文, 植田 美那子, 倉田 のり, 東山 哲也
    p. 0045
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物の重複受精過程において、雌性配偶体を構成する卵細胞、中央細胞、助細胞は、それぞれ固有の機能をもつ。しかし、これらの機能がどういったメカニズムや遺伝子発現様式によって獲得されるかは明らかでない。我々は、胚嚢が裸出する植物のトレニアと、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、顕微細胞操作と分子解析を組み合わせた解析をおこなっている。トレニアでは、未熟な雌性配偶体をin vitroで培養して、ライブイメージングにより成熟までの詳細な発生の様子をとらえた。さらに、未熟な細胞、または核をレーザー除去して培養することで、各細胞が機能を獲得する仕組みを解析した。これにより花粉管誘引能の獲得には、発生過程における雌性配偶体内の細胞間相互作用が重要であることが示唆された。現在、これを分子的に示すべく各細胞特異的な遺伝子を探索し、定量的PCRをおこなっている。シロイヌナズナでは、各雌性配偶体細胞を蛍光タンパク質で標識した胚珠を酵素処理し、高精度マイクロピペット法により、効率よく単離する系を確立した。さらに、回収した各細胞1個ずつからRNAを抽出してRT-PCRをおこない、各細胞に特異的な遺伝子発現を確認した。この手法により回収した野生型の助細胞と卵細胞、花粉管誘引が異常になるmyb98変異体の助細胞について、次世代シークエンサーによる遺伝子発現解析をおこなっているので、合わせて紹介したい。
  • 井上 丈司, 近藤 侑貴, 内田 和歌奈, 中野 明彦, 上田 貴志
    p. 0046
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Rab GTPaseは,GTP結合型とGDP結合型をサイクルする分子スイッチとして,細胞内膜交通において小胞の標的膜への繋留と膜融合を制御している.中でもRab5は,エンドサイトーシス経路で膜融合やエンドソーム動態の制御など,多様な機能を担うことが動物において明らかにされている.植物においては,近年,PINタンパク質の細胞膜上での偏在やブラシノステロイドのシグナル伝達などへのエンドサイトーシスの関与が明らかになり,その分子機構や機能に関する研究が盛んにおこなわれている.その過程で,植物のRab5もエンドサイトーシス経路で機能することが示されてきたが,器官,個体レベルにおける機能はほぼ未解明のままであった.シロイヌナズナVPS9aは,3つのシロイヌナズナRab5(ARA6, ARA7, RHA1)を活性化する事実上唯一の活性化因子である.Rab5が植物の発生において果たす役割を明らかにするため,VPS9aの機能が部分的に欠失したvps9a-2変異体の表現型を解析した.その結果,根における,ラジアルパターン形成,静止中心および周囲の幹細胞群における分裂分化制御遺伝子の発現,それらの細胞のidentityの維持,オーキシンの濃度勾配の形成,PINタンパク質の偏在,細胞伸長といった根の発生における多様な局面において,Rab5の活性化が重要な役割を果たすことが示された.
  • 浅野 翔一, 中嶋 譲, 稲垣 宗一, 森上 敦, 鈴木 孝征, 中村 研三
    p. 0047
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのtonsoku(tsk) は分裂組織に異常を示す変異株で、花茎の帯化、葉序の異常、短根などの形態異常を示す。また、DNA傷害剤に高感受性であることや、通常では高度に凝集して転写されないゲノム領域の転写が起こっているなどの性質を示す。更にtsk変異株ではCYCB1;1-GUSの発現上昇や核相の増加が観察され、細胞周期の異常、特にG2/M期での停止が起こっており、それによって引き起こされる細胞分裂パターンの異常が表現型の原因となっている可能性が考えられた。
    G2/Mでの細胞周期進行は、ATRチェックポイントキナーゼによって制御されていることが知られている。tsk変異株では、ATRの活性化によってM期への進行が妨げられて正常な細胞周期進行が損なわれることで細胞分裂パターンや分裂組織の構造の異常が引き起こされる原因と考えた。そこで、tsk/atr二重変異株を作成して表現型の観察を行ったところ、tsk変異株で見られた根端構造の異常、葉序や花茎の異常、根の長さ、のいずれもがほぼ正常に回復した。また、CYCB1;1-GUSの発現も野生型よりは多いもののtsk変異株よりも減少していた。しかし、DNA傷害剤に対する感受性など一部の性質はatrによって回復しなかった。これらの事から、tsk変異株の形態異常はATRの活性化によるものであると考えられた。
  • 井上 晋一郎, 木下 俊則
    p. 0048
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    細胞膜プロトンポンプであるH+-ATPaseは、細胞膜を介したH+の能動輸送を行う一次輸送体であり、二次輸送体と共役した様々な物質の輸送、細胞の恒常性維持や細胞伸長に重要な役割を果たしている。これまでの研究により、H+-ATPaseの活性化には、自身のC末端スレオニン残基のリン酸化とリン酸化部位への14-3-3蛋白質の結合が必要であることが明らかとなっているが、このリン酸化を調節するプロテインキナーゼとホスファターゼ、また、その他の活性制御因子はほとんど明らかとなっていない。そこで本研究では、H+-ATPaseの活性制御に関わる因子を同定することを目的とし、H+-ATPase活性が低下した突然変異株のスクリーニングを行った。スクリーニングは、H+-ATPase活性が大きく寄与する低pH条件下での根の伸長を指標に行った。単離した変異体の一つE8-4変異株では、低pH条件下で根の伸長が野生株と比べ顕著に阻害された。興味深いことに、この変異株の根では、通常のpH条件下において、野生株に比べてH+-ATPase活性、および活性化に必須のスレオニン残基のリン酸化レベルが顕著に低下していることが明らかとなった。現在、E8-4変異株の原因遺伝子を同定に向けてマッピングを進めており、この結果も併せて報告する予定である。
  • 高橋 宏二, 木下 俊則
    p. 0049
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    オーキシンによる伸長生長の促進は酸成長説により基本的に説明される。この説によると、オーキシンは細胞膜プロトンポンプの機能を亢進してアポプラストへの水素イオン放出を促進し、細胞壁タンパク質を介して細胞壁の伸展性を増大させる。細胞膜プロトンポンプの機能亢進は同時に細胞膜の過分極を引き起こし、電位依存内向き整流性K+チャネルの活性化による溶質取り込みと水吸収を促進すると考えられる。このように、細胞膜プロトンポンプは酸成長において中心的な役割を果たしているが、その活性化機構は未だ明らかになっていない。そこで、オーキシンによる細胞膜プロトンポンプの活性調節機構を解明することを目的として、シロイヌナズナ黄化胚軸を研究材料としたオーキシン誘導性伸長生長の実験系を整えるとともに、細胞膜プロトンポンプの活性化と伸長促進との関連性を調べた。
    内生オーキシンを枯渇させた胚軸片にオーキシンを付与すると約10分後に胚軸伸長の促進が観察された。また、細胞膜プロトンポンプの阻害剤(バナジン酸)はオーキシン誘導性胚軸伸長を完全に抑制し、活性化剤(フシコクシン)は伸長を促進した。これらの結果は、シロイヌナズナ胚軸片においても細胞膜プロトンポンプの活性化がオーキシン誘導性伸長生長に必須であることを示唆している。オーキシンによる細胞膜プロトンポンプ活性化機構について生化学的解析を行ったので合わせて報告する。
  • Breuer Christian, Kawamura Ayako, Niinuma Kanae, Sugimoto Keiko
    p. 0050
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Plant organ growth is regulated by two distinct processes, first, the cell number which is controlled by cell proliferation, and second, the size of individual cells, which is regulated by cell expansion and cell growth. In Arabidopsis, various studies have shown a strong positive correlation between cell size and cell ploidy. In this respect, we have previously identified GT-2-LIKE1 (GTL1), a member of the GT2 trihelix transcription factor family, as a repressor of ploidy-dependent cell growth in trichomes. GTL1 is a nuclear protein, and further expression analysis revealed that GTL1 is expressed during late developmental stages of cells throughout the plant, suggesting that GTL1 might function as a general transcriptional regulator of plant cell growth. To confirm this experimentally, we are now using ectopic cell- and tissue-specific promoters to assess the potential role of GTL1 in controlling growth, ploidy and size of plant cells.
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