以上健康農村事業の内容と、それにもとづく変化の概略をみてきたわけであるが、全般的にはまずまずの成果といってもよいであろう。地区の自主性に委せただけに地区の人々の評価も非常に高くなっている。健康農村事業を「非常によい」と認めた人が第二次調査では八一%であったが、第三次では九〇%を越した。しかもそれらの人はいずれも事業継続を希望しているのである。
だが所期の目的からすれば必ずしも十分ということはできない。評価の枠組に従って三つの部面の疑問を要約してみよう。まず、直接目標である衛生面の向上では、事業への参加や施設の改善などに比べて衛生統計面の変化が少なかった。特に当然変化してしかるべきはずの乳児死亡や生下時体重が動いていないのである。衛生の知識や理解についても問題が残された。効果が表面にとどまっているというのか、とにかく底が浅い感じである。社会=衛生面でもそうである。組織活動の受けいれ、会合への参加、共同施設の設置などの点ではたしかにみるべきものがあったが、意識面で共同化への志向が進んでいる事実はない。表層的なのであろう。社会・経済面ではなおさらのことである。貯蓄性向、家庭内での話合い、女性の発言力など、部分的にはすぐれた効果をみせながらも、全体的な傾向にはならなかった。地区の人々もこれらの点を認めている。「台所の設備」「家族の折合いや家の中の雰囲気」「近所づきあい」「子供の育て方、しつけ方」「食物」「農事関係」「余暇の利用」「病気や身体についての知識」の八項目から五年間に変化したものを選んでもらった結果では、「台所の設備」が断然と多く、次いで「食物」と「病気や身体についての知識」があげられていた。他の項目はずっと少ない。
ともあれこのような問題点-表層性・跛行性-は、そのまま今後の課題となるであろう。地区の人々の希望によって事業の継続が決定され、第二次五ヵ年計画が発足しているのであるから、その課題も決して難しくはないと思う。それを確かめるために、われわれはもう一度調査することを計画している。
なお調査の日的の一つであった農村健康化の一般理論については、事業の方法論的検討がすべて終っていないので、本稿での発表を差控えた。いずれ公表する予定である。
抄録全体を表示