本稿は、家族員の罹病がもたらす家族集団への影響を、「病人家族」の生活構造を分析することによって解明しようと試みたものである。家族が直面している保健医療問題は、医療社会学の重要なテーマではあるが、その研究方法論に関してはなお未開拓の分野であるといえる。われわれは、こうした課題に対して役割構造の変容過程に焦点を当てて、それが家族の機能障害といかに関連しているかを検討する、という方法で「病人家族」にアプローチした。対象事例は夫病人一七事例、妻病人七事例の二四家族である。
家族員の発病によって、当該家族は従前の役割構造の変容を余儀なくされる。病人が一時的にせよ低下・喪失した役割遂行は、他の成員によって補完・代替されようとするが、その過程で、第一に病人の身体的条件、第二に家族の階層的地位、員数、生活周期段階といった家族内条件、第三に親族・近隣の援助、更には公的福祉制度といった家族外条件が、家族に機能障害をもたらすか否かを規定している。われわれは、 (1) 役割構造の変容→機能変化なし。 (2) 同→機能障害→機能回復。 (3) 同→機能障害慢性化、という三つのパターンで「病人家族」を検討した結果、それぞれ一一、二、一一事例が該当した。そして、 (3) のパターンをとる家族においては、おおむね第一条件が充たされておらず、第二条件において低い階層、小人数、早い周期段階が認められ、第三条件の公的福祉制度によってかろうじて “最低生活” を維持している。「病人家族」の内実、必要とされる援助等を総合的に把握しようとする場合、役割構造の変容過程を分析することは有効な方法であると考える。
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