一九六〇年代の後半から、近世地方文書の一つである「宗門改帳」をもちいた、地域を単位とする人口史研究の成果がわが国の経済史家により報告されはじめた。歴史人口学と呼ぶこの種の研究は、一九五〇年代後半のフランス人口学者によって開発された方法論に依拠しつつ、人口の長期変動に新たな解明の手掛りを与えただけでなく、人口の再生産単位である個々の家族又は世帯の、構成や形態や制度的実態さらには個人の移動などについて、多くの事実を明らかにしうる事をしめした。
一方、宗門改帳を利用したわが国社会学者の家族史研究は、管見によれば甲州の一農村の七八年間六一冊の帳面によって、家族形態の周期的変動を分析した小山隆の研究をみるにすぎず、社会学からの接近が期待される現状にある。この論文は、岩手県東磐井郡下のある農村に残された帳面を用いて、八二年間にわたる近世農民家族・世帯の構成や形態、周期的分析を行うとともに、帳面からよみ取りうる限りでの家族の人口学的・制度的諸指標を数量的に把握し、地域的研究への第一歩とすることを主たる目的とした事例研究 (モノグラフ) である。
なお、史料がカヴァーしている一七八九 (寛政一) 年から一八七〇 (明治三) 年のあいだには、天保の飢饉といった自然災害が発生しているので、前工業化社会において飢饉といった災禍が、家族や村落の人口の再生産にたいして、如何なる作用をおよぼすかをも、同時に検討することにした。
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