従来、社会運動の形成を説明する上で、生産手段の所有を軸とする階級構成や職業・地位などを指標とする社会的資源の配分様式は、マクロな構造的要因として重視されてきた。他方、実際の運動の発生メカニズムは階級意識や相対的剥奪の高まりといった心理的要因を中心に論じられてきている。それに対し、近年台頭してきた資源動員アプローチは、動員・組織・戦術などいわばメゾ・レベルでの分析に有効性を発揮している。
本稿の目的は、よく指摘されるように、資源動員アプローチが運動を取り巻くマクロな状況を射程に入れていない、あるいはその費用・便益にもとづく動機仮説は現実の運動参加を説明するのに不適切であるとの批判を受けて、それが運動の場を中心に理論化を図ることによって逆に照射している構造的要因や心理的要因は何なのかを明らかにすることにある。その糸口は社会史的研究やミクロな相互行為論の知見に求められるだろう。
社会運動の一般的な説明枠組の問題とは別に、本稿のもうひとつの論点は、一九六〇年代後半から西ヨーロッパ・アメリカ・日本を中心に起こっているいわゆる≪新しい社会運動≫に対して、資源動員アプローチはどのように位置づけられるかという問題である。ここでは資源動員アプローチが、公民権運動やフェミニズムの高揚を背景として生まれたことをふまえつつ、そのいくつかの特性を説明するのに有効であることを示したい。
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