戦後日本の独占資本は、規模別賃金格差を伴う重層的下請構造を形成してその強蓄積をはかってきた。その過程を通じて、「大企業体制」の価値規範の下請企業への浸透、「企業社会」化の進展がいわれている。そして、この「大企業体制」の矛盾の集中点ともいえる下請企業における労働者管理の構造をめぐって、大企業の構造の直接の持ち込みとか、中小企業の “生き残り競争” への巻き込みという議論がなされている。しかし、これらの議論では、職場における労働者状態の分析に基づいた解明がなされているとはいいがたい。本稿はそれについて、下請中小企業労働者のインテンシヴな事例分析を通してあきらかにすることを課題とする。これは従来、労働社会学研究の少なかった中小企業労働者の労働過程分析であると同時に、現下の「大企業体制」の価値規範とは同一ではない下請企業の職場社会における規範の分析を通して、下請企業労働者の「主体的状態」をあきらかにするというねらいをもっている。
本稿の対象は、わが国自動車産業において「第三位グループ」に属するA自動車工業の一次下請・H社である。以下の分析では、大企業とは異なる中小企業労働者の労働過程と職場社会の構造、そこでの規範の特質の把握を通して、かかる課題にアプローチしていく。
抄録全体を表示