ジンメルには,「女性文化」「男女両性の問題における相対的なものと絶対的なもの」という,性と文化の問題を扱った論文がある.ここでジンメルは,近代の文化を男性文化であるという.それは,分化と分業を基礎にして成り立つ近代の文化が,男性の分化的な本質と親和的であると考えるからである.これに対して女性は未分化で統一的な存在であるとされ,近代文化の創造には不向きだとされる.
ジンメルは,こうした女性の本質を否定的に捉えるのではない.近代をもたらした男性的な生のあり方を,主観と客観の二元的な分裂と対立という近代の問題を生み出したものであるとし,これに女性的な生のあり方,統一的な生のあり方を対置する.
こうしたジンメルの女性論は,女性に独自の価値を見出している一方,男女の本質的な相違を前提にしており,男性に文化,女性に自然をあてはめようとする,古くからある女性論に基づいているように見える.実際に当時の女性運動に関わったマリアンネ・ウェーバーもジンメルのこの点を批判し,女性の文化創造への関わりを積極的に推進する.
本論では,ジンメルの女性論を生の哲学の観点から捉えることによって,女性的なあり方に,近代を乗り越える道を見出そうとするジンメルの,形而上学的な女性論の現代的な意義について論じるつもりである.
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