本稿の目的は,滋賀県旧志賀町における県の南部広域処理システム施設の建設計画の反対運動を事例として,環境リスクを争点とする住民運動の成立条件を明らかにすることである.
本稿では,McAdamらの枠組み(政治的機会構造,動員構造,フレーミング)や,Broadbentが,日本の運動を特徴づけるものとして,地域社会における社会的な制度や集合的な文化の脈絡に着目したという見解に基づいて,成功事例である巻町の事例研究も参照し,環境リスクを争点とする住民運動の成立条件について検証した.
志賀町の事例では,その運動の大勢は,地域住民全体で,広域処理施設がもたらす環境リスクの問題を討議していくことよりも,上に力を向けるために,反対派の候補者を県や町の議会に送り込むことに力点を置いていた.
その結果,反対運動は,定数1の県議や町長など地域代表を出し政策決定過程に参入した.しかし,広域処理施設をめぐる対立は,環境リスクが争点とならず,既存の保革対立が前面に出てきたのである.結局,県の広域処理施設の建設計画は進展した.
本稿の検証では,環境リスクを争点とする住民運動が成立するためには,「環境リスクの問題への対応」において,運動が,McAdamの3つの次元を通して政策決定過程に参入していく過程で,「既存の地域社会形成のありかた」と融合させながら進めていくことが重要であると指摘している.
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