社会学評論
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64 巻, 3 号
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特集・東日本大震災・福島第一原発事故を読み解く
  • 山下 祐介, 吉野 英岐
    2013 年 64 巻 3 号 p. 330-341
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
  • 舩橋 晴俊
    2013 年 64 巻 3 号 p. 342-365
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    本稿は, 震災後の社会変革と地域再生のためにどういう政策議題設定が必要なのかをエネルギー政策の転換と避難自治体の直面する困難の打開という問題領域に即して検討し, また日本社会の「制御能力の不足」を「取り組み態勢の欠陥」という視点から考察する. まず, 震災後の日本社会において, どのような社会変革の課題が問われているのかを検討する. そして, 「取り組み態勢」に注目して, 社会制御能力の欠陥とその改善を検討するために必要な理論的視点を提出する (第1節). つぎに, 震災後に焦点となった脱原発政策をめぐって, 政府レベルでの制御中枢圏でどのような取り組みと政策選択がなされてきたのか, あるいはなされてこなかったのかを検討する (第2節). さらに, 福島の震災被災地に即して, 長期避難者と長期避難自治体がどのような困難な状況に陥っているのか, 生活と地域社会の再建のためにどのような政策議題設定が必要なのか, とくに, 「移住」と「早期帰還」という二者択一を超えて「長期待避・将来帰還」という第3の道のためにはどういう政策パッケージが必要なのかを考える (第3節). 以上をふまえて, エネルギー政策と地域再生について的確な政策が打ち出せないのは, 取り組み態勢のどのような特質に規定されているのかを, 制度・政策の形成の局面と運用の局面に即して検討する. また質的変革の停滞を規範的原則の共有の欠如という視点から考察する (第4節).
  • 田中 重好
    2013 年 64 巻 3 号 p. 366-385
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    東日本大震災は, 戦後日本の災害史上, 最大の死者・行方不明者を出した. ワイズナーの「ハザード×脆弱性=ディザスター (災害)」モデルを前提とすれば, 今回の大量死という災害をハザードの巨大さだけに帰属させることはできない. それではなぜ, かくも巨大な災害となったのか. これまで戦後日本が積み上げてきた防災対策, その根底にある基本的な考え方 (防災パラダイム) のどこに問題点があったのか.
    戦後日本の防災対策パラダイムは, (1)科学主義, (2)想定外力の向上, (3)行政中心の防災対策, (4)中央集権的な防災対策という特徴をもっている.
    これまで(1)と(2)に基づいて, 地震規模や津波高を想定し, そのハザードの想定に基づいて津波対策を進めてきた. しかし実際には, 地震規模, 津波高, 海岸堤防整備, 避難行動などハード・ソフト両面にわたって「想定外」の事態を発生させ, 「想定をはるかに超える」犠牲者を生み出した. このことから, 防災パラダイムの(1)と(2)の見直しが必要となる. 避難行動の分析から, 行政を中心として, 中央から警報を発令して住民に伝達する方式 (トップダウン方式) の避難行動を促す方法では, 十分効果を発揮しないことが分かった. むしろ, 学校やコミュニティという, 集団の力を活かした避難行動が有効であった. このことは, 防災パラダイムの(3)と(4)の見直しの必要性を示唆している.
    このように, 東日本大震災の被災経験から, 戦後日本において作り上げられてきた防災パラダイムの転換が必要であると結論することができる.
  • 災害パターナリズムに抗するために
    金菱 清, 植田 今日子
    2013 年 64 巻 3 号 p. 386-401
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は, 宮城県の各被災地の人びとの営みから, 排除することのできない災害リスクを抱えながら生活を再構築していく技法に学ぶことで, 災害リスクへの適応実践のあり方を示すことにある.
    今回の東日本大震災でとりわけ津波の被害が甚大であった現場で見えてきた災害との向き合い方の方向性は, 大きくは2つある. 1つは, 被害の大きかった場所から撤退したり, 津波による物理的損失を未然に防ぐことで日常生活に支障をきたさない状況を目指す方向性である. もう1つは, 生活をともにするコミュニティの維持・継続を目指した先に, 物理的なダメージの緩衝のみならず被災後も派生してくる生活困難や孤立, 精神的ダメージといった複合的な災害リスクを包括的に低減することを目指す方向性である. 後者の方向性のあり方を, 本稿では「災害リスクの包括的制御」と呼んでおきたい.
    災害リスクと向き合うとき, 災害パターナリズムによる災害リスクへの対処法は, 結果としてリスクの締め出しと引き換えに生活弱者を生み出すのも致し方なしという社会的排除の性格を強く帯びる. それに対し, 本稿が提示するコミュニティに備わる災害リスクの包括的制御は, もっとも不利な人が生きていくための社会的セイフティネットの役割をもつ. 事後的にしか対処できない派生的な被災の実態に対して, 包括的制御アプローチは, 災害発生時のみならず災害後も居座り続ける複合的な災害リスクを縮減することに寄与していることを実証する.
  • 麦倉 哲, 吉野 英岐
    2013 年 64 巻 3 号 p. 402-419
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    東日本大震災による岩手県の死者行方不明者の合計は6,000人を超えている. 生存した被災者は避難所等での生活を経て, 応急仮設住宅で避難生活を継続し, その数は2013年9月の時点でも約3万6000人に達している. 国, 県, 市町村は復興計画を策定し, 復興事業を進めているが, 被災した市街地や住宅地は更地のままであることも少なくない.
    2011年に大槌町の応急仮設住宅の住民を対象とした調査では, 深刻な被災状況, 生存者の避難行動の高い割合, 避難先での助け合い行動などが確認できた. また聞き取り調査から, 被災犠牲死の要因の再検討が必要であることを明らかにした. そのうえで, コミュニティの復興にとって, 復興のシンボルとなる地域文化の存在が重要であることを指摘した.
    復興まちづくりの前提になる防潮堤建設では, 県による民有地の取得が必要であるが, 多数による共有地や相続未処理のままの土地が多く, その取得は難航している. 釜石市での調査からは, 海岸部での防潮堤の建設にあたり, 41名の共有になっている共有地の存在が明らかになった. 国はその処理をめぐって加速化措置を発表したが, 被災地の自治体が自ら処理を進められるかたちにはなっておらず, 復興の地方分権化は実現していない.
    今後の課題としては, 震災犠牲者の被災要因の検証, 地域文化の所在や価値の認識, 住民の地域への関心の持続, 住民と基礎自治体が復興をすすめられる体制の構築が挙げられる.
  • 岩井 紀子, 宍戸 邦章
    2013 年 64 巻 3 号 p. 420-438
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    内閣府, 全国紙, NHK, 国立環境研究所, 日本原子力学会などによる世論調査の結果を基に, 福島第一原子力発電所事故発事故が, 人々の意識に与えた影響について, 震災以前と以降を比較したところ, 原発事故は, 災害リスク認知や原発事故への不安感および環境汚染意識を高め, 原子力政策に対する人々の意識を大きく変えた. 専門家と一般住民の原子力政策に対する認識のギャップは, 震災前以上に大きい.
    JGSSデータに基づく分析では, 原子力への反対意識は, 女性で強く, 若年層の男性や自民党支持層で弱く, この点はチェルノブイリ事故後の結果と一致している. 原発から70kmの範囲に居住している場合には, 原発の近くに住んでいるほど原発事故が発生するリスクをより高く認知していた. また, 原子力政策に対する原発からの距離と地震発生のリスク認知には交互作用効果が存在しており, 地震発生のリスク認知が低い場合には原発近くに住む人ほど原子炉廃止への支持が少ないことが明らかとなった. 原発事故は, 人々の意識を変えただけではない. 日本では節電意識は以前から高かったが, 原発事故後, 電気をこまめに消す以上の, 消費電力を減らすさまざまな工夫を行い, 電力需要は2011年度には5.1%減少し, 12年度にはさらに1.0%減少した. 節電の工夫の頻度は, 原子力政策への態度と関連しており, 原子炉廃止層の8割が消費電力を減らす工夫に取り組んだ. 電力需要の減少は原子力政策の今後に対する人々の意思表明であろう.
  • タウンミーティング事業の取り組み・支援活動からみえてきたこと
    佐藤 彰彦
    2013 年 64 巻 3 号 p. 439-459
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    社会学広域避難研究会富岡班では2011年秋から, 東京電力福島第一原発事故に伴い避難を余儀なくされた福島県富岡町民への聞き取り調査を進めてきた. その後, 当事者団体が実施するタウンミーティング事業を中心とした支援にかかわるなかで, おもに次のことが明らかになってきた. (1)避難者が抱える問題はきわめて広範かつ複雑であること, (2)しかしながら, こうした問題が政策の現場では正確に認識されていないこと, (3)そのため, 現行の政策が必ずしも十分な被災者救済に繋がっていないこと, (4)一方で, 地域復興に向けた政治的決定が急速に進み, 原発避難者 (以下, 強調箇所以外では「避難者」という) が抱える問題は深刻化の一途を辿っていること, (5)その背後には地方自治を取り巻くわが国の法制度と, (6)問題の深刻化を後押しする世論の存在を否定できないこと.
    これらは, 現行の復興政策が据えている前提 (早期帰還と原地復興) と避難者が直面している問題 (生活再建と長期スパンでの帰還) との間の乖離故に生じており, このままでは現行政策の破綻, あるいは, 避難元自治体の消滅すら現実に起こる可能性もある. この状況を改善するためには, 避難元自治体のコミュニティの維持・存続, そこから町行政を通じた政策過程への回路, 世代や家族のライフスタイルを考慮した長期政策が必要である.
  • 知・無知・意思決定
    正村 俊之
    2013 年 64 巻 3 号 p. 460-473
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    東日本大震災をリスク論の観点から分析するならば, そこには4つのタイプのリスクが存在する. まず, 津波災害に関連する「津波リスク」と原発災害に関連する「原発リスク」があり, この2つのリスクは, さらにそれぞれ災害の発生にかかわる「災前リスク」と被災地の復興にかかわる「災後リスク」に分けられる. 本報告の狙いは, リスク対策と知, リスクと無知の関係を明らかにしながら, これらのリスクの発生に共通する構造を分析することにある. 科学の発展をもたらしたのは, 知の働きによって未知が既知へと転換し, それによって新たな未知が生まれるという「未知の螺旋運動」であったが, 知と無知の間にもそれと類似した「無知の螺旋運動」が起こる. 津波災害と原発災害のいずれにおいても, リスク対策を講ずる過程で新たなリスクが発生するという逆説的な事態が起こっているが, このパラドックスは, 知の働きによって無知が既知へと転換し, それによって新たな無知が生まれるという「無知の螺旋運動」に起因している.
投稿論文
  • 榊原 賢二郎
    2013 年 64 巻 3 号 p. 474-491
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    社会的包摂は身体的条件, たとえば障害として言及されるものといかなる関係にあるのか. 1つの見方は, 包摂を身体の不顧慮, すなわち身体的条件によらない処遇に結びつける. しかしこの身体の不顧慮は, たとえば障害者への介助などの支援に結びつかず, かえって包摂への機会を制約する. むしろ包摂は, 身体の顧慮 (身体に応じた処遇) も取り込んだ, 身体の不顧慮の近似と考えたほうがよい. その近似の具体的な方途を, 1970年代以降の日本の障害児教育における投棄 (ダンピング) 問題に即して検討する. 障害児の統合教育の批判者は, 統合教育は投棄, すなわち適切な支援を欠いた偽りの包摂であると主張した. しかしこれら場の統合と支援の提供の両立可能性の低さは, 学級における生徒の身体的均質性を前提するような教育制度や財政配分を前提にしている. その前提条件が部分的にでも変更され, 統合された場で個別の支援が可能となるならば, 場の統合と支援の提供の両立可能性は高まり, 障害児は, 「トラッキング」 (生徒のある種の分割を通じた各学級の均質化) からの実質的自由を得る. 一方で場の統合と支援の提供のあいだには非親和性もあり, 障害児と健常児の相互理解の促進などのさらなる対策の余地が残る. こうして包摂は, 身体の顧慮と不顧慮を逆説的なかたちで組み合わせつつ, 身体の不顧慮を絶えず近似する過程として捉えられうる.
  • 浦野 茂
    2013 年 64 巻 3 号 p. 492-509
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/31
    ジャーナル フリー
    本稿は, 発達障害をもつ高校生を対象にした社会生活技能訓練 (SST) においてその参加者たちがこの訓練に抵抗していく事例を検討する. とりわけ本稿は, 社会生活技能訓練とそのなかでの抵抗について, それぞれの実践を組み立てている手続きを記述することを通じ, 発達障害者に対する制度的支援の実践が当事者に対していかなる行為と自己アイデンティティの可能性を提供しているのかを明らかにする.
    制度的実践を介した医学的概念とその対象者の行為およびアイデンティティとの関係については, 医療化論の視点からすでに批判的検討がなされてきた. しかしこうした批判的視点にあらかじめ依拠してしまうことは, 発達障害者と呼ばれる人びとがこの概念に基づいて行いうる実践の多様なあり方を見失わせてしまう. したがって本稿はこの視点からひとまず距離をとりながら, この実践を構成している概念連関の記述を試みる.
    この作業を通して本稿が見出すのは, 医療化論の視点とは対立する次の事態である. すなわち, 発達障害者への制度的支援の実践は, その参加者が発達障害の概念を批判的に捉え返していくための可能性をも提供しており, したがってまたこの実践のあり方に抵抗し, さらにはそれをあらためていく可能性をも提供しているという事態である. これに基づき本稿は, 当事者のアイデンティティ形成とその書き換えの積極的な契機として制度的支援の実践を捉えていく必要のあることを示すことになる.
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