社会学評論
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70 巻, 3 号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
特集「アジアがひらく日本」
  • 蘭 信三, 鈴木 江理子
    2019 年 70 巻 3 号 p. 194-199
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/02/16
    ジャーナル フリー
  • ――隣人と共に考えるための知的基盤形成――
    落合 恵美子
    2019 年 70 巻 3 号 p. 200-221
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/02/16
    ジャーナル フリー
    グローバル秩序の再編成が進む現在,日本は自己再定義と進路決定のための地図も指針も失った状態にある.従来の日本の自己定義と世界定義は近代における異例の成功に基づいたものだった.社会科学のフレームも「アジアで唯一近代化を成し遂げた国」という自己定義を前提に作られてきた.日本の自己定義は「アジアの中の西洋」にせよ「アジアの盟主」にせよ「アジア」の定義と背中合わせだったので,日本の自己再定義もアジアの再定義とセットで行わざるをえない.
    本稿は,アジアにおける研究と思索の成果を直接に学ぶことにより,「西洋」と「東洋」という二項対立に陥らない新たな世界認識とアジア・日本認識のフレームを提案しようとするものである.アジアにおける学術基盤形成の一環として進めてきた「アジアの家族と親密性」プロジェクトにより収集したアジア諸国の重要文献を使用する.
    西洋からの眼差しによる二分法を外して自ら語ったアジアは「ひとつ」ではなく,いくつかの強大な文明の集合でもなく,重層的多様性そのものである.その中で日本はアジアの重層的多様性を内に含みこんだ社会として再定義できよう.また「アジア的家族主義」という概念と現実の検討を通じて,現在のアジアで強まっている「アジア主義」的な自己定義が,不適切な社会制度の構築を通じて深刻な現実的帰結を生み出す可能性を示した.アジアの隣人との協働により,日本の自己理解の道も拓いてゆきたい.
  • ――21 世紀の新しい道を探る――
    金 成垣
    2019 年 70 巻 3 号 p. 222-240
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/02/16
    ジャーナル フリー
    20世紀末に韓国では,日本や西欧諸国に比べて半世紀以上遅れて社会保障制度が成立した.その後,おおよそ20年が経過している.その間,韓国の社会保障制度はいかに展開してきているのか.成立後さまざまな制度改革や新しい制度導入が行われており,その特徴を一言でいうことは難しい.しかしながら少なくとも,日本や西欧など先進諸国の歴史的経験に照らしてみると,成立後の韓国における社会保障制度は,それらの国とは大きく異なる方向性をもって展開していることが見受けられる.本稿では,先進諸国の歴史的経験,とくに戦後の「福祉国家の黄金時代」にみられた社会保障制度の大幅な拡大が,フォーディズムという20世紀特有の歴史的条件のもとで可能であったと捉え,21世紀の韓国は,その歴史的条件を享受することができず,それゆえ,先進諸国とは異なる政策的文脈のなかで新しい挑戦を試みている,あるいは試みざるをえないことを明らかにしたい.ここで重要なのは,先進諸国と異なる韓国の政策的文脈とそこにおける新しい挑戦が,韓国だけに限らず,他のアジア諸国・地域にも共通してみられていることである.そこで本稿では,韓国における社会保障制度の展開を分析し,それを通じて,韓国に限らず21世紀におけるアジア諸国・地域の新しい道を探ることを最終目的とする.
    本稿は以下の構成からなる.まず第1節では,韓国における社会保障制度が,先進諸国の歴史的経験と異なる方向性をもって展開されていることを概観する.次に第2節では,フォーディズムと福祉国家についての歴史的かつ理論的考察を行いつつ,先進諸国の歴史的経験と異なる韓国の政策的文脈を明らかにする.最後に第3節では,先進諸国とは異なる政策的文脈のなかでみられる韓国の新しい試みを紹介し,それが示す21世紀アジア共通の課題を検討する.
  • 小川 玲子
    2019 年 70 巻 3 号 p. 241-263
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/02/16
    ジャーナル フリー
    急速な少子高齢化が進行する東アジアにおいて,家事や介護や育児などの再生産労働を担う移住労働者は増加しており,アジアにおけるリージョナルなケア・チェーンが形成されつつある.本稿はリージョナルとナショナルなレベルにおける移住ケア労働者の構築過程を明らかにすることを目的とする.第1に比較の枠組みとして,移民レジームとケアレジームという概念を導入し,2つのレジームの交錯点に日本,台湾,韓国における移住ケア労働者を位置づけた.東アジアの福祉国家は家族主義的であることが指摘されてきたが,移住ケア労働者の①市民権とケアの質,②労働条件とケア労働市場における配置,③グローバル化する福祉国家における配置は,東アジアにおいて異なる形で行われていることが明らかになった.第2に本特集号の趣旨に照らし,日本向けの移住ケア労働者の構築過程を新制度論の観点から検討し,その過程で他者化されていくプロセスを明らかにした.技能実習生「問題」は,一部の悪徳業者や雇用主による逸脱したケースではなく,移住労働者を日本向けに成型する公式・非公式の制度の相互作用により再生産され,構造化されている.アジアに対するオリエンタリズムを克服し,ケア労働におけるキャリアパスをつくり,移住労働者を対等なパートナーとして受け入れなければ,ケアの未来はない.長期的な視野に立ち,ケア労働と移民の社会的地位を高めるような受け入れのあり方を模索する時に来ている.
  • ――アジア域内の温度差をめぐって――
    園田 茂人
    2019 年 70 巻 3 号 p. 264-283
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/02/16
    ジャーナル フリー
    中国の台頭は,この10年ほど,広く世界の社会科学者の注目を浴びている.国際政治学者は,中国の安全保障政策や外交戦略,覇権の移行,一帯一路など新たな地域協力枠組みなどを問題にし,国際経済学者は新しい貿易体制のあり方や対中進出事業のリストラクチャリングなどを問題にする.ところが,これらの領域は密接に結びついており,政治経済的アプローチに還元できない社会心理の領域が存在する.
    実際,中国の台頭をめぐる最大のアポリアは,中国と周辺国との間に大きな認識ギャップがあるものの,これを十全に理解しようとする知的営為が少ない点にある.
    筆者は,こうした知的懸隔を埋めるため,アジアの有力大学で学ぶ学生を対象に,その対中認識を調べてきた.その結果,(1)中国の台頭をめぐっては異なるフレームが競合しており,これが各国の対中認識を複雑なものにしている,(2)中国との関係ばかりか,アジア各地の置かれた国内的・国際的環境によって対中認識が異なる,(3)アジア域内でも日本の対中認識は特に厳しい,といった諸点が明らかになっている.
    言論NPOが2005 年から毎年行っている「日中共同世論調査」の結果をみても,中国側の日中関係に対する評価が2013 年以降改善しているのに対して,日本の場合,2018年時点でもこれが改善する兆候はみられない.日本人にとって「リアルな」台頭中国のイメージを,一歩下がって捉え直すことの重要性は強調してしすぎることはない.
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