社会学評論
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74 巻, 3 号
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特集「国境と性―複数の境界線を問いなおす」
  • 青山 薫, 森 千香子
    2023 年74 巻3 号 p. 368-377
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー
  • ―フィリピン人結婚移民への調査から―
    原 めぐみ
    2023 年74 巻3 号 p. 378-396
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    二国間の経済格差を利用した「グローバル・ハイパガミー」を意図して日本に移住したはずのフィリピン人結婚移民であるが,近年の量的調査では,彼女たちの階層上昇が達成されていないとの結果が出ている.そこで本稿は,地理的空間と時間の経過を考慮しながらハイパガミーを再考する必要があると考え,フィリピン人結婚移民82名へのインタビュー調査で得られたデータを分析し,移民女性にとっての結婚の意味が数十年の日本での生活経験を通していかに変化してきたかについて考察する.分析軸は,夫またはパートナーと同居しているか否かと, 稼ぎ主が誰かで,本稿は以上の2つの軸に基づき,調査協力者の経験を「夫依存型」「夫扶養型」「子ども依存型」「シンママ自立型」と四分類する.そして,「夫依存型」であっても明らかに階層上昇をしているケースは少ないこと,夫と離別や死別している場合はさらに階層上昇が困難であること,ただし,フィリピンで培った文化資本や日本での自己投資の結果,自力で階層上昇していると認められるケースがあることを明らかにする.また,移民先の日本における階層が低くても,フィリピンへの投資や送金を通し,出身国内だけをみれば階層上昇を果たしたといえる実践がみられることも指摘する.結果として本稿は,階層の上方移動が結婚の結果だとする上昇婚概念は,結婚移民の二国に跨り長年に渡るプロセスを捉えきれないと結論づける.

  • 巣内 尚子
    2023 年74 巻3 号 p. 397-414
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,ベトナム出身の技能実習経験者への質的調査をもとに,移住の構造と移民の「性と生殖に関する健康と権利(sexual and reproductive health and rights: SRHR)」の関係を明らかにする.その上で,国家と移住産業,労働市場が関与する移住の構造自体が移住女性の SRHR を剝奪し,技能実習の在留資格をもつ移住女性を非人間化/人種化すること,さらに SRHR の制度的・構造的剝奪状況が妊娠・出産関連の危険に女性と子どもをさらすことを議論する.

    具体的には,実習生が SRHR に関しどのような経験をしてきたか検討した上で,SRHR の構造的剝奪に移住女性がどう応答してきたかを本稿は示す.そこでは,実習生の女性たちが,自らの SRHR が剝奪される構造・制度の中で,妊娠―帰国というルートを切実な選択肢としていること,ホスト社会でパートナーとの親密な関係を構築するなど,移住の軌跡が彼女たちのライフコースにおける一段階となりえること,ただし,恋人や友人との交流や自由な外出が許されない実習生もいることが明らかになる.また,正規の在留資格をもつ実習生の基本的権利が剝奪される一方,在留資格をもたない移住女性はパートナーとの同居や人生設計に主体的に取り組む余地があることを本稿は指摘する.

    以上から本稿は,実習生が自身の人生を主体的に生きようとする反面,国家,移住産業,労働市場が関与する移住の構造が技能実習の在留資格をもつアジア出身者を労働力としてのみ扱う差別的状況を生じさせていることを示す.

  • ―韓国人女性を事例に―
    申 知燕
    2023 年74 巻3 号 p. 415-434
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,韓国出身の性的マイノリティ移住者を事例に,性的指向が国際移住と都市空間に及ぼす影響を明らかにした.グローバル化社会において,国内の性的マイノリティに対する差別的な社会規範や抑圧は,同性婚が合法化されている国や同性婚に準ずる制度のある国など,社会制度の整備が進んでいる国への国際移住を触発させる要因となりうる.移住者たちは,同性パートナーとの家族形成が可能であり,かつキャリアを続けながら長期滞在者向けのビザや永住権を取得できる国,そして言語や文化,気候などが合う国を検討し,トランスナショナルな移住を戦略的に計画・実行する.その結果,かれらはグローバルノース諸国の大都市への移住を実現し,移住後は法律的・社会的な状況の変化による家族形成と,日常生活における人権の向上を経験する.ただし,移住先の都市にはかれら以外に,キャリア形成や自己実現のために海外を行き来しながら母国の社会規範を持ち込むヘテロセクシュアルの移住者も多く存在するため,移住先都市は移住者間の人的ネットワークと価値観が多層的に絡み合う場となる.すなわち,トランスナショナルな移住は,個人を性的に自由にすると同時に,送出国の政治的・社会的状況と移住先の人々の間を新たな関係性で結びつけ,移住先の社会や空間を変化させていくのである.

  • ―アメリカ・トランプ政権下のネオ・ルフールマンと国境の庇護希望者―
    工藤 晴子
    2023 年74 巻3 号 p. 435-450
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    近年,性的マイノリティの難民は保護を必要とする脆弱な存在として,国際的に認識されてきた.だが本稿は,性的マイノリティの難民が一枚岩ではなく,複数の変数によって分断され,異なった処遇を受けていること示す.特に,国際規範である難民の送還禁止(以下,ノン・ルフールマン)への抵触を避けながら,庇護希望者の入国を阻止する「ネオ・ルフールマン」の政策が次々に行われてきたこととその帰結を,アメリカの事例をもとに分析する.まず,これまで性的マイノリティの庇護希望者は一定程度,難民申請を行うことができていたことを示す.しかし,トランプ政権下で導入された「移民保護プロトコル(MPP)」によって,メキシコ国境での新たなふるい分けが導入され,そこでは,性的マイノリティ「である」ことだけでは,国境における難民申請の制限を免れなくなった.次に,COVID-19 対策措置の「タイトル 42」を分析し,歴史的に性的マイノリティの入国者の排除に用いられてきた「公衆衛生上の脅威」を,安全保障上の脅威として再動員することで,大規模な入国差し止めが機能していることを明らかにする.入国管理行政は,性的マイノリティの庇護希望者を,ときに入国管理の免除の対象として,ときに安全保障の脅威とみなしながら,かれらの庇護へのアクセスを限定的に認めると同時に,厳格に制限してきたといえる.

  • ―聞き取りとネットワークの解釈から―
    青山 薫, ルバイ エレン
    2023 年74 巻3 号 p. 451-468
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    国境を越える移住を伴う性取引は,性サービスの提供者が自発的に行う労働(セックスワーク)なのか,脆弱な立場の当事者を奴隷のように支配する人身取引なのか―本稿はこのような二分法的議論を批判し,移住性取引を,状況によってセックスワークにも人身取引にもなりうる「連続体」と理解し,人身取引を避け安全なセックスワークを可能にする条件は何かを探究する.そのために本稿は,フランスと日本で行った参与観察および聞き取り調査に基づいて,当事者を中心としたソシオグラムを描き,これらを根拠に,彼女たちのネットワークとそこに埋め込まれた社会資源について具体的に考察する.

    明らかになるのは次の4点である.①移住性取引は多様で,受け入れ国の法や社会状況によって当事者を取り巻く条件は著しく異なる.②一受け入れ国内でも,とくに出身国とエスニシティおよび在留資格によって著しく異なる.③ネットワークが複数の回路をもっているか否かが当事者の脆弱性を左右する.④だが,人身取引禁止議定書の定義に当てはまる人身取引の例は少ない.ここから本稿は,より安全な移住性取引を可能にする条件を明らかにし,人身取引対策をふくむ国家の規制が当事者の安全を保障していないことを指摘する.そして,当事者が危険を回避し安全を確保するための手立てを提案する.

  • ―支配的な言説を超えて―
    ヒューズ フィリップ
    2023 年74 巻3 号 p. 469-485
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    日本のクィア移民は多くの課題に直面している.それは,ヘテロセクシズム,シスジェンダー規範,ヘテロセクシュアル規範,外国人嫌悪など,偏見と排除を助長する言説と権力構造に起因する.本稿では,クィア移民がこうした支配的な規範や言説を「クィアする」手段として,ドラァグパフォーマンスをどのように活用しているかを探る.そのため本論は,クィア移民である日系ブラジル人ドラァグパフォーマー,ラビアナ・ジョローのケースを取り上げ,人種や性に関連する規範に挑戦しそれを変えようとする行為について考察する.ラビアナは,「ガイジン」かつ性的マイノリティであるという重層的なアウトサイダー(外の人)で,同時に日系人というインサイダー(内の人)であるという独特な立場にある.芸術的変身を通じて性別の役割を演じる彼女のドラァグは,自己主張だけでない社会的意味をもっている.ドラァグを通じて彼女は,支配的な制度を利用しつつ周縁から日本社会を批判的に観察・批評することができるのである.そして,ドラァグは,クィア移民のコミュニティの中で再利用されることを通じて,力強く柔軟な政治的戦略を浮かび上がらせる.本稿は,以上の実践を現象学的な視点で解読することによって,ドラァグが,ジェンダーや人種についての規範的アイデンティティ概念を模倣し,解体し,社会変革を進める政治的で創造的な手段でありえることを明らかにする.

投稿論文
  • ―ナショナリズムの類型に着目して―
    齋藤 僚介
    2023 年74 巻3 号 p. 486-501
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,主観的経済状況によって排外主義的ナショナリズムを説明できるのか検証することである.従来から,主観的あるいは客観的な経済状況によって排外主義的ナショナリズムを説明することが試みられてきた.しかしながら,実証研究においても結果は一貫していない.本稿では,Shayo(2009)の理論と社会的アイデンティティ理論に依拠する.その予測から,従来の一貫しない結果をナショナリズムの類型という観点を持ち込めば説明できることを主張し,計量分析によって検証する.分析には,インターネットモニターを対象としたパネルデータを主に用いる.潜在クラス分析の結果,先行研究通り排外主義的ナショナリズムは2種類(エスニック・ナショナリズムとウルトラ・ナショナリズム)に区別できる.固定効果二項ロジスティック回帰分析および固定効果多項ロジスティック回帰分析の結果,エスニック・ナショナリズムは,主観的経済状況によって説明できる一方でウルトラ・ナショナリズムは説明できないことが示された.ナショナリズムを多様なものと捉えれば,主観的経済状況が悪い場合にエスニック・ナショナリズムをもちやすいことがわかった.

  • ―オンラインサーベイ実験による検討―
    田中 祐児
    2023 年74 巻3 号 p. 502-518
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    「子どもの貧困」の社会問題化では,それを契機とすることによって,貧困一般の公的解決に向けた社会的同意を得ることをめざしていた.しかし「子どもの貧困」の強調には,「大人の貧困」を自己責任として脱問題化するのではないかといった批判がなされている.

    本稿では上記の論争を踏まえ,人々は貧困者の救済を行政・親族・本人の誰が行うべきだと考えるのか,その帰責先は貧困者の特徴によってどう変わるのかについて,オンラインサーベイ実験から得たデータを用いて分析した.とくに,子どもの重要性に着目し,子どもの有無やその属性に関する情報が,貧困者の救済に関する人々の意識に与える影響を検討した.

    分析から,貧困者に優秀な子どもがいることは行政への帰責を強化しており,貧困状態にある子どもへの公的な救済の支持が,子どもの成績で条件付けされることが示唆された.また同時に,貧困者に子どもがいることは貧困者本人や親族への帰責を強化しており,貧困状態にある子どもの救済責任がその親族に付与されることが示された.

    以上の結果は,人々が救済に値すると判断する子どもは成績が優秀である場合に限定されることや,貧困状態にある子どもの救済責任を行政ではなく親族に帰する回路が存在していることを示すことから,「子どもの貧困」を前面に出すことで貧困一般の公的な解消につなげていく言説戦略には一定の困難が伴うことを示唆するものであるといえる.

  • ―「八王子市民の生活と意識調査」を対象に―
    宮地 俊介
    2023 年74 巻3 号 p. 519-536
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    日本の地域政策においてコミュニティ概念に注目が集まっている現在,社会学者がコミュニティの形成をめぐって果たしてきた役割についての反省的な検討が進められている.

    その成果を踏まえつつ本研究では,奥田道大らが1970年に実施し,大きな影響力をもった「八王子市民の生活と意識調査」を社会調査史の視点から検討した.具体的には,同調査の(1)組織やプロジェクト,(2)設計方針の説明,(3)周囲の人々との議論について資料を収集・参照し,各プロセスを再構成した.

    その結果,次のことがわかった.(1)調査は人材・資金の豊富な日本地域開発センターを基盤としており,また同組織のなかでも特別に期待が寄せられて実施されたものだった.(2)現在も高い説明力が評価される,居住者の意識・行動に着目するという調査方針は,市民意識をめぐる,調査に内在的な要請と社会思想による批判との両方に有効なものとして採用されたものだった.(3)他方でこの方針は,都市計画的な具体性の欠如や地域の実態との乖離という点で現在は批判されてもいる.だが,これらの問題点は奥田たちも実査の前に認識しており,この方針はむしろ,都市計画などにはない社会学の視点を生かし,かつ当時の地域の実態とは異なるものとしてコミュニティを概念化するためにこそ採用されたものだった.

    このように社会調査史の視点は,社会学者の実践の背景と経緯を説明する「社会学の社会学」の一立場として有効である.

  • ―アニマルシェルターにおける猫の統治実践から―
    渡邉 悟史
    2023 年74 巻3 号 p. 537-553
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は「居場所のない動物」は,どこで,どのように生きて死ぬよう働きかけられているのかという動物の統治にかかわる疑問を検討する.「居場所のない動物」とは家族とよばれるところへも野外へも行くところのない動物をさす.本稿は探索的な事例研究を行う対象として猫および猫を保護・隔離しているアニマルシェルターに着目する.猫はすべての個体が人間の家族に回収されるわけではないと同時に,野外に放逐すべきでもない存在になりつつある.猫をなるべく殺さず屋内で生かすという現在の動物政策において,また猫は生態系へ大きな負荷を与える存在であると捉える環境政策において,アニマルシェルターの政策上の重要性は高まっている.にもかかわらずシェルターに収容された動物の統治について取り組む社会学的研究は少ない.そこで東京都内の「X亭」にてフィールドワークを行った.本稿は,猫はアニマルシェルターで「家族として生きて死ぬ猫」となるよう働きかけられる一方で,「シェルターで生死を完結させる猫」としても統治されていることを指摘する.前者の生死のあり方が価値あるものとされ,後者における生死は「失敗」としてスタッフには意味づけられている.ところが「シェルターで生死を完結させる猫」が一定数現れる以上,X亭では死に至るまで「居場所のない動物」の望ましい生死のあり方がこれらの猫と協働して模索されている.

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