慢性気管支喘息は罹患率が最も高く,各年齢層にわたる慢性呼吸器疾患である.発作時の治療のみで可能な軽症例から経口ステロイド剤を必要とする重症例まで,その重症度は多岐にわたる.治療コンロールが不良であれば日常生活が制限されるのみならず,時には致死的状況にいたることもある.しかし,1990年代より提唱された喘息治療ガイドラインにより,近年良好な慢性管理と喘息死の飛躍的な改善が証明されている.他方,時間外救急室受診を必要とする急性発作症例は後を絶たず,その60%は呼吸器非専門医により加療されているとの報告もあり,気管支喘息管理には依然問題点も多い.プライマリーケアーにおける喘息診断と治療の実際,課題を解説する.
医療従事者の間違った思いこみにより,呼吸器疾患患者を正しくアセスメント(評価)できないことが少なくない.たとえば,MRC息切れスケールでGrade3だからこうだ,パルスオキシメータの数値から低酸素血症は間違いない,患者は高濃度酸素を吸っているはずだ,などである.本教育講演では,この3点についてアセスメントの注意点などを述べたい.
高齢者肺炎の特徴は,慢性的な基礎疾患を有すことが多く,潜在的臓器機能低下が肺炎の難治化および重症化の重要な因子である.
また,これら高齢者肺炎で重要な位置を占めているのが誤嚥性肺炎であり,その病因には神経疾患,寝たきり状態など多くの病態が関与している.
誤嚥性肺炎の発生には,嫌気性菌を含む複数の菌によることが多く,病態が複雑であることが多いため,抗菌療法においてはこれら高齢者の病態を十分に考慮したうえで適正な抗菌療法を行わなければならない.
閉塞性肺疾患のうち,気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患はそれぞれ推定400~500万人が罹患している頻度の高い疾患である.高齢者においては典型的でない例が多く,治療においてはQOLの改善に主眼をおき,種々の副作用や薬物相互作用,不適切使用に留意する.また,高齢者では,多病性および全身性疾患としての側面に注意を要し,臓器特異的な診療では不十分であり,呼吸器ケアチームとともに包括的な対処が必要である.
高齢者拘束性肺疾患では,種々の並存疾患や吸気制限のため最適の薬物療法の維持や呼吸リハビリテーションおよびHOT療法の継続が困難の場合がある.家族の理解と社会の支援も求められるが,医療従事者としては上記治療法と生活指導を通して,高齢者拘束性肺疾患患者がかかえる諸問題に真摯に対応し,ADLとQOLを維持改善することを目的としたい.
高齢呼吸器疾患患者は,併存疾患に加えて廃用症候群の進行,また認知症や抑うつなどにより包括的呼吸リハビリテーションの導入や継続が困難な場合が多い.急性増悪時には早期からのリハビリ介入や離床に向けてのアプローチが重要となる.全身状態の変化しやすい高齢者では運動療法の継続が困難なことも多く,頻回の再評価とプログラムの見直しが必要となる.認知症例ではセルフマネジメント全般に問題を生じ,家族・介護者の協力が必須であり,家族・介護者を含めた患者教育が必要となる.
慢性閉塞性肺疾患患者36名を対象に,NRADLの呼吸リハに対する反応性について検討した.呼吸リハを施行した結果,NRADL,% VC,F-H-J,6MWDにおいて改善が認められた.またNRADLの改善率と% VC,6MWDの改善率に相関を認め,呼吸リハによる肺機能,運動耐容能の改善に伴いNRADLの改善がみられた.このことからADL評価表としてNRADLは反応性があり,呼吸リハの効果判定にも有用であると考える.
本研究の目的は,肺腫瘍患者に対する肺葉切除術が胸腹壁運動に与える影響を明らかにすることである.肺葉切除術を行った18例,年齢68.2±6.8歳の男性を対象とし,respiratorymovement measuring instrumentを用いて胸腹壁運動を測定した.結果は,術前と比較して胸腹壁運動は有意に低下していた.術後の胸腹壁運動の有意な低下は非術側でもみられた.今後,胸腹壁運動の長期的な変化,術式による影響を検討していく.
吸入薬を使用中の呼吸器疾患症例では吸入再指導が重要である.今回,吸入継続中にどういう点ができなくなるのかを検討した.その結果,(1)吸入器の一連の操作を確認し,できていない点のみを是正する,(2)「吸入前の深呼気」,「吸入後の息止め」を再徹底する,(3)薬剤の効果と病態を再教育する,が再指導時の重要ポイントと考えられた.多忙な日常業務のなかではこれらに重点を置けば有効な再指導につながると思われる.
気管切開下人工呼吸中の神経難病患者9名で,仰臥位,腹臥位30分後,仰臥位に戻し30分後,呼吸代謝測定と動脈血液ガス分析を行った.動脈血酸素分圧は仰臥位から腹臥位にすると低下,酸素消費量は腹臥位から仰臥位に戻すと減少した.心拍数は腹臥位で増加し,元に戻すと減少した.動脈血二酸化炭素ガス分圧,呼吸数,換気量などは不変だった.短時間腹臥位は体位ドレナージとして有効であったが,酸素化を改善しなかった.
急性増悪時に非侵襲的陽圧換気(Non-Invasive Positive Pressure Ventilation,NIPPV)療法を必要とする患者への看護ケアや患者教育をより実践的,効果的に行うことをねらいとした.NIPPV療法を円滑に導入できた1症例についてその体験をきき,帰納的に因子を探索して質的分析を行った.「NIPPV療法を上手に導入する要領」「退院後自立した在宅生活に移行するための工夫」「長期酸素療法(Long-term Oxygen Therapy,LTOT)下における上手な自己管理」の3カテゴリーを抽出した.患者の状態や理解度に合わせて早期から情報提供を行い,円滑に導入できるような教育プログラムによる企図的な介入の必要が示唆された.
NIPPVの導入が困難だったALS末期患者1症例に,陽・陰圧体外式人工呼吸器(RTX®)を装着し,低流量酸素とオピオイドを併用した.その結果,低換気性呼吸不全・高炭酸ガス血症による意識障害は改善し,呼吸困難感や疼痛等の苦痛も緩和され,終末期の貴重な数日間のQOLが向上した.1症例だけの検討だが,ALS末期患者にとって,陽・陰圧体外式人工呼吸器使用が有効な手段である可能性が示唆された.
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