今日、日本経済をめぐる環境は大きく変化し、中小企業は新たな試練を迎えようとしている。ます第1は、国際経済環境の急激な変化である。1985年秋以降の円の対ドル為替レートの急激な上昇は、親企業から下請中小企業への一層のコストダウン要請を強めるとともに、親企業の海外進出や輸出自主規制に伴う生産量の減少を招いている。これに対処するための自動化・省力化への投資は、業種を問わず緊急の課題となっている。第2の変化は、マイクロエレクトロニクスをはじめとする技術革新の新しい潮流である。新技術の取り入れや情報機器の導入によって、中小企業でも新商品の開発やニューサービスの提供が可能となりつつある。近年の顧客ニーズの多様化、個性化の傾向もこれに拍車をかけており、元来機動的で小回りのきく中小企業の優位性を高めている。本調査研究は、このような情勢認識のもとに、わが国中小企業を取り巻く今日的状況を明らかにし、種々の環境変化に適応するための中小企業のこれからの技術や研究の方向を探ることを目的とする。さらに、中小企業のために技術政策について概説を行うとともに、機械装置の開発と業界への普及を狙いとする中小企業事業団の技術開発事業を取り上げ、アンケート調査結果にもとづいて、より一層効果的に推進するためにはどうあるべきかを論ずる。そして最後に、大企業との格差を是正するために中小企業のデメリットを改善する従来型の政策に代わって、中小企業に本来備わっているメリットを最大限に生かすような新型政策の必要性について述べる。
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