症例は40代女性.突然の意識障害と右上下肢の脱力で救急搬送された.来院時の血液検査で凝固線溶系の異常を認め,頭部MRI検査では左中大脳動脈閉塞による脳梗塞,胸腹部造影CT検査では肺塞栓症,両腎と脾臓の多発梗塞,さらに子宮腺筋症疑いの病変が確認された.血液検査でCA125の上昇があり,骨盤部MRI検査で子宮腺筋症を認めた.経胸壁心エコー図検査で僧帽弁に軟らかく可動性のある異常構造物が観察され,下肢静脈エコー検査では左下腿静脈に血栓を認めた.血液培養は陰性であり,感染性心内膜炎よりも非細菌性血栓性心内膜炎の可能性が高いと判断した.偽閉経療法と抗凝固療法により僧帽弁の異常構造物は縮小した.
非細菌性血栓性心内膜炎の原因としては悪性疾患,自己免疫疾患,凝固因子異常による易凝固状態などが知られているが,ムチン蛋白であるCA125などの腫瘍マーカーを産生する良性疾患でも非細菌性血栓性心内膜炎を発症することがある.今回の症例では,CA125の上昇と骨盤部MRI検査で子宮腺筋症の所見があり,子宮腺筋症が非細菌性血栓性心内膜炎の原因と判断した.子宮腺筋症が原因と考えられる非細菌性血栓性心内膜炎を発症したまれな症例を経験したので報告する.
症例は10歳未満,女児.生後7か月時に上気道炎で近医を受診した際に,心雑音を指摘され当院を受診した.当時の精査で大動脈弁閉鎖不全症と診断され,以後外来で経過観察されていた.2年前から運動時の息切れと易疲労感が出現し,今回,術前精査のため当院に入院した.経胸壁心エコー図検査で,左室拡張末期径45 mm(+4.5SD),左室駆出率54%と著明な左室拡大および軽度の左室収縮能低下が認められた.また,大動脈弁直下に瘤状に突出した構造物を認め,この構造物から左室内に逆流が生じているように観察された.3D経胸壁心エコー図検査では,瘤状に拡大した無冠尖バルサルバ洞と左室との間に穿孔を確認でき,大動脈弁逆流と考えられていた逆流ジェットは,穿孔部位を介して大動脈側から左室内に流入する異常血流であった.他の画像検査でも同様の所見が得られたため,左室穿孔型の無冠尖バルサルバ洞動脈瘤破裂と診断された.術中所見では無冠尖バルサルバ洞は拡大し,大動脈弁僧帽弁間線維性連続部で左室側へ落ち込み,同部分に7~8 mm大の穿孔を認めた.バルサルバ洞動脈瘤破裂において左室へ流入するものは極めてまれな病型であるが,大動脈弁逆流の鑑別として重要である.本症例は,経胸壁アプローチにて良好な3D画像を得ることができ,3D経胸壁心エコー図検査がバルサルバ洞動脈瘤破裂の正確な診断や外科的修復術における形態評価において有用であった.