70代女性.突発性難聴に対しステロイド投与されるも症状再燃を繰り返し,その後前腕の紅斑,顔面神経麻痺が出現した.入院・精査の結果,多発血管炎性肉芽腫症と診断され,ステロイド治療が奏効したが,翌年再燃が疑われ再入院した.経胸壁心エコー図検査では,左室収縮機能は保たれていたが,大動脈弁~Valsalva洞に低輝度肥厚性病変を認め,大動脈弁尖の著明な肥厚・短縮による重症大動脈弁閉鎖不全症を伴っていた.心不全症状は認めず,原病に対するリツキシマブ治療が導入され退院した.退院2か月後に心不全を発症し,経胸壁心エコー図検査にて大動脈弁の短縮と大動脈弁閉鎖不全症の増悪,左室拡大の進行を認め,内科的コントロールは困難と判断され,外科的大動脈弁置換術が施行された.摘出された弁の病理組織学的所見では大動脈弁に血管増生を伴った著明な線維性肥厚と炎症細胞浸潤を認め,抗好中球細胞質抗体関連血管炎と関連した変化の可能性が考えられ,原病による変化に矛盾しない所見であった.多発血管炎性肉芽腫症の心病変の合併頻度は近年の報告では3.3%と報告され,心膜炎,心筋炎,冠動脈炎,弁膜症などを引き起こす.弁膜症は大動脈弁の単独病変が多く,弁の変性による大動脈弁閉鎖不全症の併発が多い.その多くが大動脈弁置換術を要するため,原病診断早期からの定期的な心臓スクリーニング検査による経過観察が重要である.
副脾は無症状で経過することが多いが,まれに茎捻転,梗塞をきたすことがある.今回術前診断が困難であった大網内副脾梗塞の1例を経験したので報告する.症例は10代,男性.左下腹部痛を主訴に近医を受診.左下腹部腫瘤が疑われ,当院へ紹介となった.画像検査では確定診断に至らず,診断・治療目的に手術を施行した.USでは左下腹部に28×28 mmの類円形低エコー腫瘤像を認めた.境界明瞭,輪郭整,内部不均一.辺縁に血流シグナルを認めたが,内部には認めなかった.腫瘤より連続する索状物を認め,左肋弓下まで追跡可能であった.索状物は血管のように描出されたが血流シグナルは乏しかった.病理所見で索状物は栄養血管であり,一部血栓性閉塞をきたしていた.腫瘤内の大部分は壊死状態で,不鮮明ながら副脾の構造が観察され,副脾梗塞と診断された.副脾梗塞は栄養血管の捻転によるものが多く,本症例でも手術中に捻じれた血管が確認された.副脾のUS像は通常,脾臓と同等のエコーレベルを呈するが,本症例では内部低エコー不均一であった.これは壊死像を反映したものと考えられた.また血管である索状物の血流が乏しかったのは,捻転したことにより血流がうっ滞し,血栓性閉塞をきたしていたためと考えられた.副脾の発生部位が多岐にわたることを念頭に置き,索状物を伴う境界明瞭な腫瘤を認めた場合は,まれではあるが副脾を鑑別診断として考慮することが重要である.
茎状突起過長症は,茎状突起の過長や茎状舌骨靭帯の石灰化・硬化に起因した種々の症状を呈する疾患である.今回,過長茎状突起による頸動脈への機械的刺激によって内頸動脈解離を生じたと考えられた症例を経験し,頸動脈超音波検査にて過長茎状突起の描出に成功したので報告する.症例は50代の女性で,右頸部痛および頭痛を主訴に近医を受診.頭部MRI検査にて右内頸動脈領域に散在性の脳梗塞を指摘され当院へ入院.入院時MRA検査にて右頸動脈分岐部から内頸動脈にかけて頸動脈解離が疑われた.入院時CTA検査にて,茎状突起長は右側29 mm, 左側28 mmと茎状突起過長を認め,茎状突起過長症に伴う内頸動脈解離と診断された.初回の頸動脈超音波検査では,右頸動脈分岐部から右内頸動脈にかけて低輝度充実性プラークを認めた.他部位には動脈硬化を認めず,偽腔閉塞型の解離部分に相当する像と考えた.コンベックス型プローブにて右内頸動脈の遠位部を観察すると,高輝度の索状構造物が右内頸動脈に近接しており,構造物は茎状突起であると考えた.頸動脈超音波検査は,過長茎状突起と内頸動脈との解剖学的位置関係を低侵襲かつリアルタイムに評価できるモダリティであり,茎状突起過長症に起因した虚血性脳卒中の発症リスクの評価や診断に有用である.