鏡は,本来は人間の顔や姿を映す道具であったが,現代においては造形の到るところで使用され,それぞれ特色ある成果をあげている。特に,鏡が持つ造形上のいろいろなはたらきと像の視覚効果の不思議さによって,多くのアーチストの愛用するところとなっている。しかるに,そのような問題に対して考察した理論研究をあまり見かけない。特に,その基礎的部面に対する研究は,造形教育上きわめて重要である。そこで,本研究では,諸種の鏡的機能を持つ機器もしくは材料に共通的に含まれている造形上のはたらきとそれを用いた場合の造形効果について研究することを試みた。その結果の考察を通して,鏡が造形に対して持つ基本的特質も判明する。さて,映像の発達のめざましい現代において,画期的な鏡は出現しないものだろうか。このことを検討することによって,鏡の概念の拡張を図ることができる。そして,そこから生まれる新しいはたらきは,鏡的機能を用いる造形の可能性をいっそう豊かにする。
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