和時計は徳川時代に日本で製作された機械時計である。当時の日本の時刻制度は今日と違って不定時法であり,このため和時計の製作にはさまざまの技術的工夫が強いられた。その代表的な例として,二挺棒テンプによる昼夜それぞれの調速機構の分離,割駒式,節板式,波板式などの各種文字板による表時の工夫などが挙げられる。こうしたいろいろの技術的工夫によって製作された和時計の中で,波板式尺時計は形体,機構,表時のいずれの点でも,世界の時計史上類例を見ないユニークな時計として注目される。櫓時計,尺時計,枕時計などの各種の和時計の製作技術は,当時の他の産業技術と比較しても,極めて高い水準にあったものと評価できる。そして明治以降の時計産業の近代化に大きく貢献したことは言うまでもない。今日の日本の産業技術やプロダクト・デザインに対する高い評価は,こうした和時計製作に見られるような優れた伝統に支えられていることも確かである。本論ではその例証として和時計に関する技術に焦点を当てて考察した。
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