本小論は,台湾在住の人びとへのアンケート調査を通して,台湾における工芸文化の実態とそれに対する人びとの意識を解明し,今後の台湾工芸文化の方向性に関して考察したものである。その結果,筆者は次の諸点を明らかにした。(1)現在の台湾工芸の実態を反映し,人びとは工芸の本質を,様式の点では「装飾的」,生産形態の上では「少量生産」ないしは「生産形態に非拘束」ととらえている。(2)工芸品購入行動と生活導入意欲はあるものの,価格,意匠機能性などの点で十分ではないとの判断を下している。(3)今後の工芸品のあり方として,人びとは,意匠の創新,量産化,自然的材料と人工的材料との調和的使用などを支持している。(4)地域振興,生活の質的向上,老齢化社会への対応,国際社会におけるアイデンティティの確立などの点で,工芸文化の振興は重要であり,工芸の複製化,内需主導型工芸産業への転換,工芸世界の有機的組織化などが推進される必要がある。
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