モダン・デザインの世界的な広がりのなかにあって,社会的状況が異質な環境においては先進工業国のモダン・デザインとは異なった様態の,さらには,それと対立する事例さえ散見できる。本稿ではフィリピンの公共交通機関の一つとして特異な存在であるジープニーをとりあげ,その成立過程,現状の生産活動ならびに住民のそれに対する受容の様態を現地でのサーベーと調査表をもって明らかにした。その結果,ジープニーは第2次世界大戦後に受け入れた軍用ジープを同国の植民地時代の文化でそれに変質させ,世界に類例を見ない交通機関として作り上げた。そのデザインはモダン・デザインの教義では律しきれない土着の製品としての車両となり,フォーク・アートとして多くの共感を得るまでになっている。しかし,一部,自家用車を利用する人々には,今日の大都市が抱える渋滞,大気汚染といった交通・環境問題を理由に反発のあることも分かった。
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