デザイン学研究
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42 巻, 1 号
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  • 谷 誉志雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    現代デザインを捉え直す試みのなかでとりわけ基幹的な意味をもつのは,形態形成や環境形成が立脚している「文化」としての言葉のシステムが潜在させている,必ずしも自覚されていない諸前提を明るみにだす作業である。デザインが基礎を置いている近代以来の「形態論的」な言葉は,基本的には世界を形態へと分節させるという方向づけを持っていると考えられる。この研究では,1960年から1980年までをひと区切りとして捉えたCh.アレグザンダーの形態及び環境構造の理論を検討するという方法を通じ,「形態」という概念がそこでどのような組み換えを経てきたかを明らかにしようとする。「形態・力・パターン・世界」といった理論構成の基軸となっている諸概念を検討し,それらが示唆している概念変換の意味を考察する。このような考察を踏まえ,現代形態論という「文化」の仕組みと前提を解明しようとする「形態論批判」という哲学的方法が成立し,また主要な意義をもつ可能性を提起する。
  • 谷 誉志雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    今日の環境構造を形成しているデザインされ,作られたものは,人間にとり深い次元での違和感を潜在させているのではないだろうか。しかし,このような不安を明快な論理をもって表現するには原理的な困難がともなう。なぜなら,現代のデザイン文化を方向づけている言説・思考のスタイル自身が「形態論的」といえる傾向を強く示しており,その結果人間の原始的な空間感覚が疎外されている可能性が推測されるからである。「形態論批判」という哲学的方法は,環境形成を取り巻く言葉のシステムとしての文化構造を解明し,その隠された前提と仕組みを明るみに出すことを目的とする。この研究では,形態論的文化の思考スタイルを支配していると考えられる「形態論的分節」という概念的カテゴリーの方法的解体をひとつの段階として提起する。その結果獲得されるのが形態論の「汎=時間的地平」である。文化の表層にある分節構造が蔽っていた,人間の初次的な世界感覚を語るための中間的地平として,その方法論的な意味を考察する。
  • 小関 利紀也
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    モダン・デザインの成立において,空間の問題が重要な意味を持っている事はいうまでもない。ところで日本美の特質が,その空間的性格にあることはこれまでにくり返し指摘され,また,日本の造形芸術が,19世紀ヨーロッパのデザインに大きな影響を与えた事も知られている。けれども当時のヨーロッパの空間表現への日本の造形芸術の影響は絵画などでは僅かに指摘されてはいても,デザイン空間の成立に及ぼした影響についてはほとんど論じられたことがない。この論文では空間のジャポニスムの最初の現れをゴドウィン,ドレッサー,マッキントッシュのデザインに見,その空間的デザインがリバティー商会を通じてヨーロッパ大陸に伝えられ,スリュリエ-ボヴィ,ヴァン・ド・ヴェルドによって発展させられた事,それは1897年のドレスデン工芸博覧会へのビングによる,ヴァン・ド・ヴェルドの"アール・ヌーヴォ"の店の内装展示の出展を契機として,急速にドイツの地にひろまり,それがその後のモダン・デザイン空間の発展に結び付いていった経過を明らかにした。
  • 梨原 宏
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 31-40
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    高齢者らが屋内で使用する車いすを木製化し,生活環境に相応しいものに高めようとする筆者らの試みは成形合板技術の応用によって実用化の段階に入っている。本研究はこの車いすの形態の生成過程を科学的に解明することを目的としている。本報告ではKJ発想法を用いた方法論的設計手法により木材を主素材とした車いすが具備すべき設計項目の抽出と構造モデル化を行った。それをもとに概念設計を構築し,成形合板技術を応用した設計,試作,試用評価を行い最終的に実用車いすを生成した。その車いすに設定した概念設計がどのように具体化されたか検証した結果,木製車いすの設計要素の内容が概念設計を介して実用車いすに有効に生かされたことが明らかになった。また木製車いすならではの設計要素が明らかにされ,概念設計に採用された。
  • 木下 公太郎, 赤松 明
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    紳士服専門店のファサードの形態と視覚的イメージとの関係について,年齢と性別による影響を検討した。その結果,以下のことがわかった。ファサードに対するイメージ構造は,年齢及び性別によらず活動性因子及び評価性因子の2因子で表現できた。しかし,年齢の違いにより,2因子のイメージ構造に及ぼす構成割合は異なった。活動性因子及び評価性因子により構成されたイメージ空間に各ファサードを布置したところファサードに対する視覚的イメージは9つの類型に分類できた。消費者の年齢及び性別に係わらず,店内に入りやすくするには活動性の高いイメージのファサードにし,好ましいイメージの店舗とするには評価性の高いイメージのファサードにすることが有効である。なお,若年者にとって入りやすいファサードは好ましいファサードであったが,中高年者にとっては入りやすいファサードが若年者ほど好ましいファサードではなかった。
  • 野口 尚孝
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    デザイン発想をいかに支援すべきかという問題を考えることは,同時にデザイン行為の本質とは何かを考えることにもなる。本研究の目的は,直接的にはデザイン発想支援の枠組みを明らかにすることであるが,それを通じて把握された限りでの,設計行為およびデザイン行為の本質および発想の構造をも明らかにすることを目指す。第1報(本報)では,これまでの発想支援研究における問題点を指摘し,これを踏まえて,人間の生産-消費活動における目的実現の過程という枠組みで設計者の思考過程をとらえ,普遍的な意味での設計過程を,人工物の生産要求を実現させるための目的と手段の関係の具体化過程としてとらえた。これにより,設計行為とは,設計者の主観的目的意識が,客観的法則性の意識的適用を通じて,手段としての実体に対象化(客観化)される行為であるということができ,設計行為における発想は,このような目的意識の具体化過程における抽象化への一時的逆行であるとしてとらえ返すことが可能となった。
  • 野口 尚孝
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,直接的にはデザイン発想支援の枠組みを明らかにすることであるが,それを通じて把握された限りでの,設計行為およびデザイン行為の本質および発想の構造をも明らかにすることを目指す。第1報では,普遍的な意味での設計行為と設計行為における発想の構造について述べたが,第2報(本報)では,これに基づき,設計行為の一側面としてのデザイン行為とデザイン行為における発想の特徴について述べる。デザイン行為の本質は,人工物の使用の場における使用者の感性的要求を充たすという目的のため,その実現手段として人工物の感性的機能を持つ属性の形式を決定することであると規定する。また,デザイン行為における発想は,形態イメージ探索の過程で発生し,その本質上,目的手段連関の一時的逆行における抽象から具体への落差が大きいことを指摘する。最後にデザイン行為およびデザイン発想における,これらの特徴に見合った発想支援の基本的な考え方を提起する。
  • 両角 清隆, 森川 博, 杉山 和雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    機器のわかりやすい操作系を開発するために,ユーザーがいかに操作を行いその過程を理解していくかを,複写機の両面コピーを例とした実験で検証した。その結果,理解の過程は,認知行動単位として「調査,探索,試行,実行,評価」のカテゴリーに分けることができた。また,各カテゴリーにおいて,ユーザーズモデルと機器の求める操作のズレによる特徴的な障害が見られた。特に,バッチ処理型機器の操作特性上の問題として,「試行」のカテゴリーにおいてユーザーズモデルと機器の間にズレがあった場合,ユーザーズモデルを形成・修正することが難しいことが挙げられる。ユーザーは強弱にかかわらずユーザーズモデルを形成して操作を行い,目的に対して結果を評価してモデルを修正している。しかし,バッチ処理型機器は複数の項目を同時に設定するため,障害が発生した場合,複雑な組み合わせ問題を解かなければならない。また,"入力"に対しての"出力"が遅れるため,対応関係を理解しにくいという点で共に認知的な高付負荷を掛けていると言える。
  • 原田 利宣, 森 典彦, 杉山 和雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 79-86
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,自動車の"構え"を構成するジオンの抽出およびその分析を目的とする。まず,「認知幾何」に基づいた「面構造分析」を用いて,2つのジオンの構成によって近似された自動車の"構え"を分析した。その結果,違った面構造を持った4888種のジオンの構成の仕方が明確になった。さらに,「面構造分析」にファジィ集合の考え方を導入することにより,既存の自動車に対する「面構造分析」が可能となった。そこで,実際に,既存の自動車の"構え"における「面構造分析」を行った。その結果,それら既存車の面構造は,メーカー,流行,および車格などによって,そのジオンの傾向が異なっていることが推測された。次に,1900年代から現代までの各時代の特徴的自動車について「面構造分析」を行うとともに,それらの"構え"を制御する要因を考察した。その結果,自動車の"構え"は,各時代の流行や技術および時代背景により変化してきたこと,さらに,各時代における"構え"の特徴が抽出された。
  • 玉垣 庸一, 宮崎 紀郎, 大江 康二
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    明度Vを輝度Yのパワー関数で定義するとき,べきの値には一般に2.0あるいは3.0が用いられるが,カラーCRTにおいてRGB色光の輝度と電子銃の制御電圧Vの関係をパワー関数で表すときにも,同様に2.0〜3.0の値(γ値)が用いられる。RGB各色光のγ値が互いに等しく,各制御電圧がデジタルRGB値に比例すれば,デジタルRGB値を各色光の相対明度と見なすことができる。このときカラーCRTの色域は,RGB色光を単独で発光させたときの明度を直交座標軸とする空間に,最大明度を各辺の長さとする直方体で表わすことができる。等明度面は一般にγの値に応じたスーパー楕円面となる。初期のマンセルやハンターなど平方根系の表色系に習ってγ値を2.0とすれば球面となり,明度は原点からの距離で表される。γ値を1.0とすれば等輝度の平面となる。この色立体は,従来のカラーモデルの明るさパラメータを新たに明度Y^<1/γ>で置き換えて得られたモデル&lt;HSY^<1/γ>カラーモデル&gt;の立体表現となっている。
  • 神野 由起
    原稿種別: 本文
    1995 年 42 巻 1 号 p. 93-102
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    欧米と同様,近代日本においても消費経済が発達し,その市場が拡大されていく過程において,デザインの多様化,差別化が起こっていった。この中で子供というテーマもまた,消費の対象として,その存在を「発見」されることになる。明治末期から大正期にかけて,子供のための商品が市場にあふれていったが,そこには企業の経営戦略が色濃く反映されており,例えば百貨店の勃興期にあたる明治末期においては三越呉服店が,また銀座が繁華街として発展した大正後期には資生堂が,それぞれ子供用商品の販売に取り組んでいた。この2つの企業での子供を対象にした活動を考察した結果,双方において,児童研究,自由画教育運動など子供への関心の高まりに着目し,積極的に児童文化活動を展開させて,店のイメージ作りに利用していた事実が認められた。これにより,ひとつのデザインの差別化が行われるには,様々な社会の意識が関与していることが明らかにされるとともに,消費文化の発展過程を,考察対象時期において再確認することができた。
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