幕末から明治期には,開港地を始めとする日本各地に多くの洋風建築が建設された。建物内に据えられた家具は初期にはヨーロッパや中国,例えば香港や上海から輸入されていたと思われる。しかし,それらは次第に日本でも製作されるようになった。本研究の目的は,近代の建築と家具を包括的に捉え,洋家具が日本に導入された後どのように変化していったのか,その製作技術の変遷過程を明確にしようとするものである。本論文はその第1稿で,まず1908(明治41)年に建設された三井港倶楽部の建築について述べた。次いで,同倶楽部に残存する約70種の家具の中から特に重要な4点の卓子,即ち円形卓子・D形卓子・壁置脇卓子・角形卓子を取り上げ,甲板の構成・脚部の構成・甲板と脚部の接合方法に注目して,製作技術の特徴を明らかにした。更に,旧松本家住宅の家具と比較することによって,同倶楽部の家具には構造面での配慮が欠如している点と木材の物性に関して製作者の理解が低い点を指摘すると共に,変遷過程を知る上で重要な家具であることを指摘した。
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