デザイン学研究
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43 巻, 1 号
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  • 山口 眞理, 三橋 俊雄, 宮崎 清, 志村 日出男
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本小論は,「体験教室」を(1)地域資源の発見・認識の場,(2)住民参加型地域づくりの契機,(3)地域内外の交流の基点と位置づけ,過疎地域における「地域資源を活用した体験教室」を対象としたアンケート調査をもとに,「内発的」地域振興計画における「体験教室」の機能と課題について考察を行ったものである。それらの考察から次の点が明らかになった。(1)体験教室が地域振興に与える効果は非常に複合的であるが,近年,「資源活用・地域外交流」「世代間交流・集いの場」など積極的な自己発信・自己充足型の効果が顕著である。(2)各自治体の体験教室に関する考え方に基づいて,全国の過疎地域は「ふれあい・生きがい志向型」「後継者育成志向型」「産業振興志向型」「地域外交流志向型」の四つに類型化されるが,いずれの類型も「地域資源の活用」を重要視している。(3)高齢者にとって「体験教室」は,自らの生活文化的資質を継承する場であるとともに,地域内外・世代間の「交流」を促す場であり,高齢者の生きがいと自立を支援する体験教室のあり方が求められる。
  • 野口 尚孝, 土川 宏
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,デザイナーの思考過程を解明するための研究の一部であり,同時にデザイン発想支援のための適切な方法を開発するための研究でもある。本報では,この目的のため,デザイン実験を行い,被験者の発話などの行為と描かれるスケッチの対応関係などを詳細に観察することによってデザイン過程における思考の内容を分析した。分析方法は,まず吉川らの「実験設計学」での方法にしたがって,発話などから,被験者の思考内容を8種類の思考単位に分け,これらの思考単位間での推移を見た。その結果デザイン行為は工学的設計に比べ,マルコフ過程に近いことが分かった。また,これとは別に,発話と描かれたスケッチの対応関係を詳細に追跡することによって,デザイン過程は問題把握,デザイン解探索,評価の3段階が繰り返される際に,思考の切り替えがあり,連想や形態の言語的概念化がその引き金になっていることが分かった。これらを構造的に捉えた結果,デザイン思考過程の帰納的モデル形成の手掛かりを得ることができた。
  • 野口 尚孝
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本報は,デザイン発想支援方法研究の枠組みに関する一連の研究の一つであり,発想支援方法を考える際の手がかりとなるべきデザイン過程のモデルを提起することが目的である。ここでは,デザイン行為を設計行為一般の下位概念として捉えた上でその特徴を指摘し,これまでの研究において得られたデザイン過程のモデルおよびデザイン実験からの知見に基づいて,次のような仮設的結論を得た。デザイン過程では「問題把握」,「解探索」,「評価」の3段階を螺旋的に繰り返す際に「思考の切り替え」という段階を経ており,この第4の段階が発想支援を考える上で重要である。「思考の切り替え」がデザイン過程のどの段階からどの段階への途中で起きるかによって,切り替えの支援方法にも差異が出る。切り替えが「問題把握」に向かう過程で要求されているのであれば,問題の構造的把握が必要であり,「解探索」に向かう過程であれば,連想や類推を促進すべきであり,「評価」に向かう過程であれば,デザイナーの判断基準を明確にさせるべきであると言える。
  • 古賀 健一, 森田 昌嗣
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    近年,生活者の行動を助けるサイン整備事業が各地で実施されている。しかし都市空間は,既に道路標識など多種多様なサイン類が個別に設置され,情報の混乱や無秩序な景観の原因となっている。本研究では,既設の標識類等を考慮したサインシステム構築のための基礎的指標を導くことを目的とし,主要街路に設置されている公的サイン類の分布特性に着目した。すなわち,(1)街路に設置されている公的サイン類を含む全構成要素の種類と量を調査し,(2)多種多様な公的サイン類を利用対象別区分と情報内容別区分に分類し,(3)情報の区分と基数,利用対象別区分と情報内容別区分のクロス集計などの分析を行った。その結果,現状の公的サイン類は,情報の区分別において分布に差異が,情報提供において種類の不足がみられ,また街路の全構成要素に占める公的サインの分布量から,無秩序な景観の要因の一つであることが考えられた。このことは,従来の管理区分別の単体整備にかわる体系的な公的サインシステムづくりの必要性を示唆するものである。
  • 岩井 正二
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,『キャノンオートボーイ3』をケーススタディとして,取扱い説明書の文章,すなわち言語記号を,視覚記号を前提にした「製品の使い方」の記号に置き換えて,製品における記号体系および記号の単位を明らかにしようとしたものである。「製品の使い方」の記号の単位は,「製品の部分」と「状態あるいは,状態の変化」の組合せが最小単位と考えられる。取扱い説明書,すなわち言語記号による「使い方の単位としては,「対象」「指示項」「変異項」の三種類の言語の連合体として,分析されるが,「対象」と「指示項」は相互に入れ替え可能な同一の種類であり,融合して同一なものとして表現されている。すなわち「指示項」,「変異項」の一覧を示せば,最小単位の記号の構成要素をすべて示したことになる。取扱い説明書による『キャノンオートボーイ3』の「指示項」「変異項」の一覧を表2,表3に示す。『キャノンオートボーイ3』の「使い方」の記号として,視覚記号でない記号が見られ,「使い方」を考える上で,大いに示唆を与えると思われる。
  • 五島 聖子
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    前回の論文では,小石川後楽園を回遊した学生の発言と回遊中に写された写真の内容をもとに,庭園の空間構成が与える審美評価への影響について考察し,美しいと判断される空間構成及び時間と空間の体験の審美評価への寄与について明らかにした。今回の論文では,前回に引き続き小石川後楽園について,庭園を回遊した学生としない学生,更に日本人学生と日本に一度も訪れたことのない様々な国籍(米国,ドイツ,フランス,インド,中国)を持つ米国の大学生の意見を比較し,空間の体験,文化,歴史,習慣の審美評価への影響を考察する。考察の結果,景観を評価する際には知識としての情報が重要であること,空間の体験は心理的評価を高めると同時に,空間の評価基準を広げること,そして,千葉大学生は庭園を観賞する際に自然や自然現象を評価の対象にする傾向にあるのに対して,米国の大学生は人為やそこに内包される哲学を評価する傾向があることなどがわかった。
  • 上北 恭史
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本稿では,中国の解放後の集合住宅について,間取りの変化から住まい方と住空間との関連をとらえ,中国の都市住宅の住空間構造の基礎的知見を得ることを試みた。解放から現在までの集合住宅の空間構造は,玄関ホール(門口庁)などの公的空間の拡大から公室としての庁空間の定着の流れが一般的な傾向として捉えられた。伝統住宅にみられた家族内階層は,現代の住宅においても寝室の序列化において反映されていた。また,住生活において公私分離がおこなわれる生活が定着し,そのなかで,入口から客庁,寝室に至るまでの空間的序列化が強い間取りであるほど,生活も公的生活から私的生活の序列化が明確に空間に反映されていることが捉えられた。これは前報で指摘した伝統住宅の平面にみられる社会的階層の構造が,住生活の公的生活行為から私的生活行為がおこなわれる空間において入口から空間の序列化として転換しているとみることができ,住空間平面における空間の序列化が現代集合住宅でも継承されていることが指摘できた。
  • 宮崎 紀郎
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,いわゆる新聞離れをいわれる世代に属する大学生を対象に行った新聞についての意識調査を手掛かりとして,新たな新聞紙面デザインを提案するものである。調査は,19〜25歳までの大学生103名を対象に行われた。その結果,(1)新聞は役立つ,(2)新聞を信頼している,(3)新聞は正確であるなどの,新聞を肯定的にとらえる意見が50%以上であった一方で,(4)読者の意見を反映していない,(5)公平性に欠ける,(6)面白くないなどの意見が50%近くあった。SD法による新聞のイメージ調査の結果から,(1)明朗感,(2)おうへい感,(3)信頼感の3つの因子が見いだされた。この結果と新聞閲読時間との相関をみると,1日当たりの閲読時間が多い人ほど(1)明朗感にはプラス,(2)おうへい感にはマイナス,(3)信頼感にはプラスの傾向を示すことが分かった。紙面デザインに対しては,(1)写真,イラストレーションを増やす,(2)カラーを増やすなど,ビジュアルな紙面づくりへの要望が多かった。
  • 井磧 伸介, 宮崎 紀郎, 玉垣 庸一, 李 震鎬
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    近年の雑誌広告ではカラー表現が一般的であるが,モノクロ写真を取り入れた広告も少なくない。本研究は,カラー全盛とも言える現在の広告表現において,モノクロ写真を使用した雑誌広告がどのようなイメージで受け取られるのか調査を行ない,モノクロ写真を使用する効果を検討するものである。まず,収集した雑誌広告を配色や構図などで分類し,代表的な広告サンプルを選び出した。次に,これらのサンプルについてのイメージ調査を20代前半の男女70名に対してSD法によって実施した。その結果,整然性,鮮明感,重厚感の3つの因子が抽出された。このうち,「まとまった」,「静かな」等の形容詞のみならず,「好きな」,「美しい」といった形容詞とも相関の高い整然性因子では,モノクロ写真を使用した広告がカラー写真を使用した広告より高く評価され,文字や製品写真にカラーを重点的に使用すれば,さらに評価を高めることが判明した。これは,モノクロ写真とから部分との対比が,それぞれをより際立たせた結果であると推測される。
  • 寺澤 勉
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 79-86
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    展示会は,現代のマスメディアにおいて参加型のメディアとして重視されている。とはいえ,これまでの展示会計画は,経験をもとにした手法ですすめられ,展示会を構造的にとらえた本格的な計画方法論は存在していない。本報はこうした現状を打開し,実用的な展示会計画法を追求する第一歩として,展示会の基本的構造の解明を,次のようにすすめた。1)マスメディアとしての展示特性を明らかにして,展示(ディスプレイ)と展示会(エキシビション)を定義づけた。2)ライヴコミュニケーションメディアとも言えるくくりの中でディスプレイ,広義のエキジビション,展示会(狭義のエキジビション)を位置づけ,展示メディアを分類した。3)展示会に関する既往研究を調べ,参加型の双方向情報伝達としての展示計画研究の必要性を明らかにした。4)これらの検討をもとに「展示会の基本構造」を設定し,これからの展示会計画システムの構築のためのガイドラインを明らかにした。
  • 岩井 正二
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 87-96
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本レポートは,「製品の使い方」における記号と記号との関係,シンタックスを明らかにしようとしたものである。操作の意味の記号を中心に,前後の記号との関係を考えて,仮設を立て,『キャノンオートボーイ3』の取扱説明書で検証し,図2に示されるシンタックスのパターンを得た。図のA及びBは,記号が単独で表れる場合で,Aは操作の内容を示している。Cは操作の記号の後に操作の記号がくる場合で,操作の移行を示している。Dは操作の記号の前に,「状況」,「条件」,「目的」,「場合」を示す記号がくるタイプで,ある条件下の操作を示している。Eは「条件」,「状況」を示す記号の後に機械の反応を示す記号がくる場合で,ある条件,状況下での機械の反応を示している。Fは操作としての記号の後に機械の反応としての記号がくる場合であり,操作とその結果を示している。Gはある記号とある記号が同一のものを指している等値の場合の一つのケースで,操作の結果としての記号が,そのまま「条件」,「状況」としての記号になっている。
  • 黄 世輝, 宮崎 清
    原稿種別: 本文
    1996 年 43 巻 1 号 p. 97-106
    発行日: 1996/05/31
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    急速な工業化が全島的に進行するなかで生活環境,生活文化,自然環境などが危機に直面している台湾において,「社区総体営造」と呼ばれる地域づくりが行なわれ始めた。本論では,その背景と歴史を考察しながら,(1)町並み保存から「社区総体営造」へ,(2)少数民族から福建系民族へ,(3)農山漁村から都市へ,(4)中央行政から地方行政へ,(5)手工業産業から手工芸文化へ,(6)生産のための農協から農協の文化化へなど,六つの特徴を「社区総体営造」が有していること,また,これらには地域に伝えられる文化の再生と創新という基本的理念が共通していることを,指摘した。これらを踏まえ,生活様式としての文化の再生と更新のために,次の三つの原点に準拠しながら,「社区総体営造」が推進される必要性を論述した。(1)平常心:日常の生活そのものを大切にすることが地域文化の再生につながる。(2)親身体験:手づくりの体験を通じてこそ,地域に対する愛着が育まれる。(3)伝統と創新:当該地域の自然,人間,技術,歴史との緊密な連関を有する地域文化の再生は伝統文化の回復のみならず,地域に伝わる資源を基盤とする創新を意味する。
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