急速な工業化が全島的に進行するなかで生活環境,生活文化,自然環境などが危機に直面している台湾において,「社区総体営造」と呼ばれる地域づくりが行なわれ始めた。本論では,その背景と歴史を考察しながら,(1)町並み保存から「社区総体営造」へ,(2)少数民族から福建系民族へ,(3)農山漁村から都市へ,(4)中央行政から地方行政へ,(5)手工業産業から手工芸文化へ,(6)生産のための農協から農協の文化化へなど,六つの特徴を「社区総体営造」が有していること,また,これらには地域に伝えられる文化の再生と創新という基本的理念が共通していることを,指摘した。これらを踏まえ,生活様式としての文化の再生と更新のために,次の三つの原点に準拠しながら,「社区総体営造」が推進される必要性を論述した。(1)平常心:日常の生活そのものを大切にすることが地域文化の再生につながる。(2)親身体験:手づくりの体験を通じてこそ,地域に対する愛着が育まれる。(3)伝統と創新:当該地域の自然,人間,技術,歴史との緊密な連関を有する地域文化の再生は伝統文化の回復のみならず,地域に伝わる資源を基盤とする創新を意味する。
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