デザイン学研究
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47 巻, 6 号
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  • 岡田 栄造, 寺内 文雄, 久保 光徳, 青木 弘行
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 1-8
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は、近代日本においていかなる社会的背景が日本人による椅子開発を動機づけ、またそこで生じた椅子開発の主要なテーマがその後どのように展開したかを明らかにすることにある。そのために、明治中期以降昭和25年までの椅子に関する特許を収集し、その調査と分析を行った。最初に、133件の特許明細書から、考案の特徴を示す記述を特許の構成要素として抽出した。次に、抽出された多くの要素をより客観的に考察するために、数量化理論III類およびクラスター分析を用いて特許の類型化を行った。それにより、多様な特許を「椅子の基本的な機能の改善」「基本的な機能と椅子以外の機能との両立」「複数の機構の組み合わせ」の3つのグループに分類することができた。次に、「椅子の基本的な機能の改善」に着目し、特許類型が生じた時期の社会的背景を考察した。その結果、椅子の機能を改善する特許が、明治時代半ばに教育の現場で発生した児童生徒の健康問題を背景に、寸法の規格化を直接的なきっかけとしてはじまったことを明らかにした。
  • 岡田 栄造, 寺内 文雄, 久保 光徳, 青木 弘行
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 9-16
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は、明治時代半ばに学校用腰掛けの改善案のなかで提案された座面の昇降機構が、その後どのように展開し、結果、事務用椅子として普及したFK式回転昇降椅子が誕生した過程を明らかにすることにある。そのために、明治時代半ば以降昭和初期までに公示された椅子の昇降機構に関する工業所有権を調査し、FK式が生み出された詳しい経緯を考察した。最初にFK式の原案となった岩岡式以前の昇降機構の展開を調査し、次いで岩岡式の開発過程を、最後に寿商店によるFK式の開発経過を調査した。調査の結果、岩岡式が、それ以前に開発されていた7種類の昇降方式のうち「滑動式-単脚」の方式を参考に改善を進めたなかで生み出されたことが明らかとなった。そして、岩岡式において椅子の構造部材として鋳物が採用されたことが、金属加工業を椅子製造プロセスに介在させる必要を生じさせた点で、重要なポイントとなっていたことを指摘した。さらに、寿商店によるFK式の開発が、実際に金属加工業者の協力を得て進められたことを確認した。
  • 岡田 栄造, 寺内 文雄, 久保 光徳, 青木 弘行
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 17-26
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    筆者らはこれまで、戦前の日本における椅子観の成立から金属製回転昇降椅子の開発に至るプロセスを詳細に考察してきた。本稿では、これまでの歴史的考察により得られた知見をもとに、材料技術と道具観の相互依存関係についてより一般的な知識を得るために理論的考察を試みた。最初に一連のプロセスを社会的知識創造として捉え、その過程が組織的知識創造理論に従っているかを検討した。その結果、一連のプロセスは、組織的知識創造理論における四つの知識変換モードからなる階層構造として展開されていたことが示唆された。次に、組織的知識創造理論にもとづいて、社会的知識創造の動的な構図を明らかにした。そして、金属製回転昇降椅子の開発プロセスに見られた金属加工技術と椅子観との関係を得られた構図にもとづいて検証した。最後に、道具観と材料技術の相互依存関係を「矛盾の発生」から「相互作用の展開」「道具観の変化」「新たな相互依存関係の成立」へと至る相互作用のプロセスとして図式化した。
  • 永田 喬
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 27-30
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本論文では、透視図の奥行き決定の三種の技法を比較し、習慣的に行われている投影法が煩雑であり込み入っていることは広く知られており、自然な関心と正確な空間表示には効果的でない。この習慣的方法の最大な問題は、作図者の通常の空間知覚と認識からはほど遠いことである。この問題を解消する方法として、前報告(1979年)は空間表示における奥行き決定の代替的手法を提示した。この提案を含む三種の技法を比較した結果、自然さや視覚的緊密さと投影を基礎にした方法とが対立するものであり、トレードオフになっていることが分かった。また、提案した方法をさらに拡張し、適用範囲の限界を計算し、提示した。
  • 鈴木 伸英, 工藤 芳彰, 宮内 [サトシ]
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 31-40
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本研究は、東京都府中市の大國魂神社の御先拂太鼓を対象として、その実体、保持・運搬用具、演奏方法、太鼓の役割等について検討した。その結果、以下の点が明らかとなった。御先拂太鼓が大型化した要因は、明治初期に祭礼の運営組織を府中四ヵ町に分けたことによって生じた、町内間の対抗心であった。その御先拂太鼓の存在意義は、祭礼の到来を知らせる実用的機能に加え、地域のシンボルであるという社会的役割、さらには音で神輿の道筋を払うという象徴的な機能にある。また、今日、御先拂太鼓が人々に受け入れられている理由として、次の諸要因をあげることができる。ソリッドの木材、麻縄といった伝統的な自然素材を用い、造形美を洗練させたこと。時代・社会の要請に応えて大型化・重量化した太鼓に対応するためにブレーキ付き台車、太鼓を台座から台車に載せ替えるためのクレーンの利用といった用具のシステムをそなえたこと。そうした前提の下で、音の大きさと単純さという根元的な太鼓の魅力を引き出す新しい演奏方法を確立させたことであった。
  • 鈴木 伸英, 工藤 芳彰, 宮内 [サトシ]
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 41-50
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本研究は、秋田県鷹巣町の綴子神社祭典の和太鼓を対象として、その実体、保持・運搬用具、演奏方法、太鼓の役割等について検討した。その結果、以下の点が明らかとなった。江戸時代に綴子神社祭典の運営組織が上町と下町に分断されると、どちらが先に神社へ奉納するかという行列の先陣争いが生じた。その対抗心から、明治以降、太鼓が大型化した。その太鼓が地域振興のシンボルとなった諸要因は、以下の点である。獅子踊や奴舞といった伝統的な芸能の太鼓を継承しつつ、一方で、大型化に対応した演奏形式で約30名がそろって大太鼓を打つという新しい芸能を確立したこと。牛皮の膜を結桶胴に縄で張るという太鼓の造形美を保ちつつ大型化させたこと。房飾りや染めた麻縄の利用などにより、視覚的な魅力を洗練させたこと。そして、これらの変化を可能にするために、胴内部の鉄製フレーム、製作や運搬に必要なクレーン、ブレーキやリフト機構の付いた台車などの新しい技術を用いた用具のシステムを備えたことである。
  • 糸井 久明
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 51-60
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本研究は, 国内製造業を対象とするアンケート調査結果を分析, 考察することにより, 企業における意匠権管理の業態別の戦略特性を明らかにすることを目的としている。本研究によって, 意匠権管理に関する8業態の基本的な考え方と戦略特性の違いが明らかになった。1.意匠権管理に強い関心を抱いている業態は, 電気機器, 輸送用機器, 精密機器の3業態である。2.電気機器業態は, 意匠権管理を重要視する企業とそうでない企業とに二極化している。3.機械業態は, 重厚長大産業として, 意匠権管理よりも技術志向の強い実態があることが窺われる。4.繊維業態は意匠権管理が必ずしも重要とは思われず, また, 建設と窯業の2業態は各3社による三社三様の回答である。
  • 菅 靖子
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 61-70
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    英国産業芸術協会(BIIA)は産業デザインが抱える諸問題に対処するべく設置された政府初の機関である。本稿では, これまで詳しく論じられてこなかったBIIAの諸活動が英国デザイン史のなかでどのような位置付けを与えられるかを考察した。BIIAが企画した展覧会のテーマは、工芸からより量産ベースの産業芸術へと焦点が変化している。1920年代を通してBIIAが産業芸術観を洗練していった背景にはデザイン産業協会との交流もあったが、BIIAがデザインの規格化に着目したこともあげられる。他省庁との連携で電話ボックスや道路標識のデザイン規格化に実際に貢献している。BIIAは1933年に解散したが、その主要メンバーは次の政府機関、芸術産業カウンシルや戦中の芸術支援機関に吸収され、理念が継承されていく。デザインにおける政府介入を考える際、BIIAの活動や規格化への志向は重要である。
  • 熊丸 健一, 高梨 令, 森 典彦
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 71-80
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、人が持つ複数の選好を人の観点の多様さによるものとして捉え、実際の運用を考慮し、多様な観点を持つ消費者の選好を出来るだけ少ない種類の新商品で満たすような商品デザイン企画法を確立することである。そこで、本研究ではラフ集合理論による属性の極小縮約を用いてクルマの選好における観点の核を求め、その縮約を併合させることで複数の消費者の選好を満たすデザイン企画法を提案する。市場を代表すると思われる7名の被験者が選好した18車の形態属性における縮約から2個の併合縮約を求めて全選好を満たすことを目標として実施し、可能であることを確かめた。その上でこれらの併合縮約を満たすようにアイディアスケッチを作成し、併合縮約に含まれない形態属性はデザイナーの自由裁量となるが、この自由裁量属性(以下自由属性)に非選好車の縮約が含まれる場合は、再度アイデアスケッチを作成し, 実際に設計が可能であることを確かめた。
  • 崔 乘日, 森田 昌嗣
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 81-90
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    都市内の主要3街路を対象に既設のポール型都市環境装置の破損等に関する実態調査と, 管理主体のメンテナンス状況に関するヒアリング調査を行い, 既設装置の破損状況を種類別及び街路別に破損基数の定量化(破損基数/100m)により比較分析し, 装置別のメンテナンス状況を破損項目別に整理した。その結果, 設置場所別に破損等の偏りがあり, 要因としては, 街路構造・土地利用・交通量などが深く関係していることが明らかになった。また, 管理主体によるメンテナンス対応の体制及び方法にも改善すべき問題があることが分かった。さらに, 既設装置における設置状況上のデザイン課題として, メンテナンスへの対応を考慮した新たな装置の開発と, 装置のあらゆる破損等に対応できるメンテナンス体制の確立が必要であることを導いた。メンテナンスへの対応を考慮した装置の開発と, 装置の製造主体(メーカー)と管理主体が連携するメンテナンス体制を確立していくことは, 設置状況上のデザイン課題を解決する有効な一つの方向になり得ることが導出できた。
  • 谷 誉志雄
    原稿種別: 本文
    2001 年 47 巻 6 号 p. 91-100
    発行日: 2001/03/31
    公開日: 2017/07/21
    ジャーナル フリー
    アメリカのジェイムス・クレノフとウェンデル・カースル、イギリスのデヴィッド・パイとジョン・メイクピースには、現代木工芸の動向を概観するうえで、典型となりうる造形表現の手法と工芸思想が認められる。クレノフとパイは、工芸におけるアマチュアリズムの考え方を提唱している。彼らが目標としているのは、作品のオリジナリティー、つまり「フォルムの差異」を追究することではなく、木がもっている親密なクオリティを「真のアマチュア」の仕事で作品に結実させることである。現代の人工的環境が失った美的クオリティの探究が工芸の存在理由であるとクレノフとパイは考えている。作品はもとより、教育と著作を通じてこのような思想が支持されていることは彼らの大きな業績である。対照的にメイクピースとカースルは、フォルムに量産品との能動的な差異を求め、ダイナミックに変貌する造形スタイルを展開している。4人の著名な作家を例にとって見たイギリスとアメリカの現代木工芸は、造形スタイルと工芸思想の対蹠的構図を端的に示している。
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