デザイン学研究
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60 巻, 6 号
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  • 敷田 弘子
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_1-6_10
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    本論は、戦時体制下(1937~1945)の日本デザインにおける機能主義を〈簡素美〉との関係から考察し、その関係の特質と〈簡素美〉が有した意味の解明を目的とする。考察の対象は、商工省工芸指導所における生活用品の研究制作活動である。また、〈簡素美〉は「簡素」という言葉を含む美意識とする。
    戦時体制下、造形主義である機能主義と一般的美意識である〈簡素美〉は、単純化としての機能主義理解により、両者の関係が成立した。また、日本独自の性質を象徴する〈簡素美〉の性格により、〈簡素美〉は機能主義と日本の造形を媒介する役割を担った。そして、両者の関係が戦時体制下に提示された背景には、7・7禁令を契機とした新しい造形規範を求める動きがあり、機能主義と日本の民族性の融合というその理想に適合したのが〈簡素美〉だった。
    このように、戦時体制下に〈簡素美〉を通して、機能主義と日本の独自性の関係が考究されたことは、ジャパニーズ・モダンなど戦後の日本デザインの素地の一つを形成したといえる。
  • ─「ホール」から「リヴィング・ルーム」へ
    吉村 典子
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_11-6_20
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    家は私的なもの、というのは今や自明のことといえるが、イギリスのかつての王侯貴族の住まいは公的要素がむしろ強い。それをモデルとした19世紀後半の中産階級の住まいには、その公的機能から設計された間取りを踏襲している点がみられる。こうした住まいのあり方に、異を唱えた建築家の一人がベイリー・スコットである。家族中心の暮らしの風景を想定する中で、「シンプル」で「ホームリー・コンフォート」のある空間を彼は追求していく。家の中でありながら、伝統的に客のもてなしのために使われた「ホール」、「ダイニング・ルーム」、「ドローイング・ルーム」を、ホールの広い空間的特質を活かして、それを基点にダイニングやドローイング・ルームを融合していく手法等を見せる。そしてそこに「リヴィング・ルーム」という名称が表れるようになる。その過程をスコットの著作や図面を通して明確にし、それにより成立してきた近代の「私的」住まいの形象を考察する。
  • -知的障害に着目して
    工藤 真生, 山本 早里
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_21-6_28
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    本稿は教育施設におけるサイン計画指針立案のため、その一要素であるピクトグラムに焦点を当て、より多くの人にわかりやすいデザインの条件を明らかにすることを目的とする。そのために、知的障害がある幼児・小学生・中学生・高等生、通常学校に通う中学生・高校生、大学生を対象に6 項目7 種類のピクトグラムをわかりやすい順に順位付けをする調査を行い、各属性の平均順位を比較した。結果、①動きや音を表すmotion line、②場所を表すピクトグラムの場合、その場所を象徴する人物、③その場所で行う行動・もしくはその行動を表す人物、以上3点の中から、ピクトグラムの項目を考慮して付加することが、必要であることを明らかにした。また、非常口・トイレはJIS のピクトグラムが被験者の全属性に共通して平均順位が1 位であり、これは行動と合わせてピクトグラムの意味を学ぶ機会や、目にする頻度が多い事が一因と考えられた。よって、形の改良だけではなく、ピクトグラムが表す意味を学びそれを視覚的な手がかりとして行動する、教育の機会が必要であることを指摘した。
  • 林 孝一, 御園 秀一, 渡邉 誠
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_29-6_38
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    本研究は戦後日本の自動車デザインと政府の政策と規制の関係性を考察した。戦後復興のための産業保護育成策、輸出振興政策により工業デザイナー育成を目指すデザイン振興策が起り、自動車産業でも技術者とは異なるデザイナーという職種が確立する。「国民車育成要綱」は各社が非採算性を指摘しつつも、参考とし大衆車というジャンルを生み出し、低コスト車のデザインを学び、20年後の変革期に世界を席巻する礎となる。貿易と資本自由化政策では、国内メーカーの合併・提携など現在に至るメーカー間の棲み分けの基礎が築かれた。道路整備政策による舗装と高速道路網の拡大は車体プロポーションに変革をもたらし、'70年代の低全高のウェッジシェープデザインの出現と同調した。安全実験車の開発ではバンパーとボデー構成の一体化への影響が見られた。安全規制は年々追加改正され要求が複雑化しデザイン調整作業の増加に影響している。近年、消費者は排ガス、燃費規制の環境対応に高い関心を持つが、デザインの価値・意味を見失うことはない。
  • 林 孝一, 馬場 亮太, 御園 秀一, 小野 健太, 小原 康裕, 渡邉 誠
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_39-6_48
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    60年近い歴史をもつ東京モーターショーに出展されたショーカーはそれぞれの時代の社会変化を鋭く反映してきた。本研究は各ショーカーの訴求ポイントをグループ化し、そのコンセプトを、「性能」、「社会対応」、「サイズ」、「付加価値」の4カテゴリーに分類し考察を加えた。その結果、日本の自動車産業とデザインの変遷は7つの時代に分類して精査していくことが適切であるとわかった。さらにその時代ごとのデザインへの期待や役割の変化が以下の4つに区分される事も判明した。1954~70年:欧米のライフスタイルに追従するドリームデザイン、1971~84年:機能とデザインの融合により意味と独自性があるデザインの創生、1985~2008年:製品多様化と市場の飽和を背景とした新規性コンセプトの探求とデザイン領域の拡大、2009年~現在: 環境問題や高齢化を反映した車の次世代モビリティーとしての再構築である。この様に社会情勢の変化に応じたデザインへの期待、役割の変化を明らかにした。
  • -デザイン実務者における検討
    赤澤 智津子, 小山 慎一, 日比野 治雄, 大嶋 辰夫, 長尾 徹
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_49-6_54
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    本研究では彩度・色相が一定でない条件での明度比較能力を対象とし,定量化による客観的な資料を得ることを目的としている。前報では無彩色色票を基準として示し有彩色色票と明度比較を求めることで明度識別能力を定量的に評価する方法を報告した。本稿ではこの方法を用いて実験を行い明度識別の難易傾向を調査した。特に明暗方向を含めた誤答傾向の質の把握および被験者の回答傾向についての詳細な資料を得ることを目的とした。実験の結果,正答率に色相間の差はみられないが,Yは実際より暗い方向(低い明度)に,PBは実際より明るい方向(高い明度)に逸脱する傾向があった。またYは明度が高くなると正答率が下がりPBは明度が高くなると正答率が上がることが示唆された。明度・彩度が同値色同士の比較においては,低彩度・高明度色ではPBの正答率が高く(91%)Yが低くなった(48%)。被験者間では,色相別平均正答率についてYの正答率がが高くPBの正答率が低いグループと,PBの正答率が高くYの正答率が低いグループに分けられた。
  • - 現代生活に適した植物繊維質材による敷物の提案(1)
    阿部 眞理, 白石 照美, 金 恵蓮, シム テークチン, 戸塚 泰幸
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_55-6_64
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    日本をはじめとするアジアでは,古くからイグサ,タケ,トウ等の植物繊維質材を用いてつくられた敷物が使われてきた。いずれも暑さや湿気を凌ぐために使用してきたが,どの国も洋風化した住居や生活形態の中でその使用は少なくなってきている。本研究では,これら植物繊維質材による敷物を,生活の中に再び取り入れるための方法を提案することを目的とし,植物繊維質材による敷物の各性質を明らかにすることとした。その結果,物理的性質では熱伝導性,冷温感,保温性,圧縮性,感覚的性質では,視覚,手および足による触覚に対するデータを実験によって得た。さらに,これらのデータをレーダー型データチャートにまとめ,物理的性質と感覚的性質の関係を明らかにした。
  • 内田 康之, 荒井 拓也, 竹島 正博
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_65-6_70
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    災害やテロ現場では,被災者を安全に救助するため,救助隊が突入する前に,安全な経路の探索や狭隘な場所に設置された危険物などの捜索が必要になってくる。我々は,このような捜索活動を人に代わって行う情報収集ロボットの研究を行っている。まず,ロボット開発に必要なコンセプトとして,救助隊の負担を軽減するための小型・軽量化,平地・不整地での高い機動性と狭隘な場所での活動性などを考慮した。これらコンセプトに基づき,平地・不整地での対地適応性を高めるため,直径が0.12m から0.24m まで任意に変更できる展開脚車輪を考案し動作について実験的に確認した。次に,走行時に必要なバランサー(尻尾)を伸縮式として開発し,情報収集用の小型カメラの搭載方法について検討した。さらに,携行性を高めるためにバランサー(尻尾)を連結式に改良し,固定長への変更に対して,カメラの搭載方法の改良を図った。この過程で,対象物を視認するために,車輪半径,バランサー長さとカメラ姿勢角の関係を明らかとした。そして我々は,情報収集ロボットを試作し,状態の異なる路面上で基本動作について実験的に確認した。
  • ─デザインの発想過程における表示技法の役割とその効果に関する研究 (3)
    伊豆 裕一, 佐藤 浩一郎, 加藤 健郎, 松岡 由幸
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_71-6_78
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    デザインにおけるスケッチスキルの効果の解明を目的に,筆者らは過去の研究で,表現技法や展開技法などのスケッチスキルの関係性を表す「スケッチスキルの構造モデル」を提案した.しかし,本モデルは,形状や構造の導出を目的としたアイディアスケッチを基に提案されたものであるため,イメージの創出を目的としたラフスケッチも含めた効果を明確にする必要がある.
    本研究では,「スケッチスキルの構造モデル」を用いたラフスケッチとアイディアスケッチに影響するスケッチスキルの解明を目的とした.そのために,ラフスケッチとアイディアスケッチの評価とその判別分析を行った.その結果,ラフスケッチにおいて形状の特徴表現,アイディアスケッチにおいて形状の正確な表現に関わるスケッチスキルが,それぞれに強く影響することを明らかにした.
  • ─デザインの発想過程における表示技法の役割とその効果に関する研究 (4)
    伊豆 裕一, 佐藤 浩一郎, 加藤 健郎, 松岡 由幸
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_79-6_88
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    デザインにおけるスケッチスキルの効果の解明に向けて,筆者らはこれまでの研究で,スケッチスキルの関係性を表す「スケッチスキルの構造モデル」を提案した.しかし,デザインにおいて多用されているキーワード抽出との関係については明らかでなく,キーワード抽出におけるスケッチスキルの効果を明確にする必要がある.
    本研究では,「スケッチスキルの構造モデル」を用いたキーワード抽出におけるスケッチスキルの効果の解明を目的とした.キーワード抽出とスケッチ制作の手順を入れ替えたデザインワークの結果を,デザイン行為を包括的に扱う多空間デザインモデルを用いて分析することで以下の効果を示した.1つ目の効果は,意味として表現されるキーワードからのスケッチの展開である.2つ目の効果は,構造から形状や要素を展開することによる,状態や属性として表現されるキーワードの抽出である.3つ目の効果は,デザインの再解釈を行うことによる,意味として表現されるキーワードの抽出である.
  • 金 民赫, 石橋 圭太, 岩永 光一
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_89-6_94
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    本研究では、円滑性追跡眼球運動(SP眼球運動)時の速度知覚が背景の視覚情報の影響を受けることについて検討した。具体的には、PC画面上を正弦波の軌跡を描きながら左から右へ移動するテスト刺激の先端点の速度を参照刺激よりも「遅い」または「速い」と感じたかの二者択一による実験から、PSEを導出した。背景の視覚情報として、A:1 cycle per degree(cpd)、背景の視覚情報あり、B:0.25cpd、背景の視覚情報あり、a:1cpd、背景の視覚情報なし、b:0.25cpd、背景の視覚情報なしの4条件を設定した。結果、刺激 Bとb において、背景の周期的な特性(0.25cpd)によって速度知覚が遅く感じられたことが確認された。結果から、視覚情報のあり条件では空間周波数0.25cpd条件の方は1cpdより知覚速度が有意に遅くなり、視覚情報のなし条件では、これらの空間周波数条件間に有意な差がないことが示唆された。
  • 山崎 和彦, 爲我井 敦史, 堀 雅洋
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_95-6_102
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    ユーザビリティ評価におけるインスペクション法では,実際に動作するプロトタイプやエンドユーザーの協力を必要としない.しかし,ユーザビリティ評価について実践的スキルを有する専門家の不足により,インスペクション法を適切に実施することは必ずしも容易でない.本研究では,ユーザビリティ評価の初心者として大学生の協力を得て,2種類のインスペクション法を用いてユーザビリティ評価を実施し予備的検討を行った.その結果,初心者がインスペクション法を実施する際に直面する主要な問題点が,対象ユーザー視点ならびに対象箇所の指定に関わるものであることを確認した.そして,それらの問題点への方策として,対象ユーザーの特徴分解法および壁を利用したヒューリスティック法を提案する.その上で,提案手法をユーザビリティ評価の初心者に使用してもらい,携帯電話端末の評価を行ない,その有用性を検証するとともに提案手法の利点と課題について考察する.
  • 水本 徹, 山岡 俊樹
    2014 年 60 巻 6 号 p. 6_103-6_108
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    BtoB (Business to Business)製品とBtoC(Business to Consumer)製品の間には多くの相違点が存在する.例えば,BtoC 製品は,操作者と購入決定者が同じ人物である,初心者を含めた幅が広いユーザーが使用する,様々な場所や時間に利用されるといったケースが多い.一方,BtoB 製品は,操作者と購入決定者が異なる,専門的な知識を持ったユーザーが使用する,業務で使用されるため利用状況が限定的であるといったケースが多い.このような違いがあるBtoB 製品に対して,BtoC 製品のユーザビリティ評価で用いられる「見やすさ・判断しやすさ・操作しやすさ」などといった一般的なチェックリストによる評価を実施しても,ユーザビリティ上の問題点をうまく抽出することができるかは疑問である.そこで,BtoB 製品である医療機器のユーザビリティ評価を通じて,BtoB 製品に適したユーザビリティ評価手法を考察した.
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