デザイン学研究
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61 巻, 6 号
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  • 加藤 健郎, 小山 拓海, 井上 貴朝
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_1-6_8
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     スチェアや自動車シートなど,使用頻度が高く使用時間も長い椅子については,特に座り心地の向上が求められている.座り心地は着座姿勢に大きく影響するものの,それらの関係性は明らかになっていない.本研究では,オフィスチェアにおける着座姿勢と座り心地の関係性を明らかにするため,オフィス作業時の着座姿勢の観察と,各着座姿勢における体圧分布の測定および座り心地の官能評価を行った.その結果,脚の姿勢が椅子座面の体圧分布と官能評価に大きく影響を与えることが示唆された.具体的には,脚を足首で組むと,股関節の外転・外旋により大殿筋の膨張が膨張するため,坐骨結節部位の圧力が分散され,座り心地の悪さが軽減される.また,左右の脚が異なる姿勢をとると圧力が片側へ集中するため,座り心地の悪さにつながる.
  • 前川 正実
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_9-6_18
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     デザインの方法は作業のステップとプロセスの観点で記述される傾向がある.しかし可視的な作業よりも,不可視で内面的な思考へ焦点を当てることが,より良いデザイン創造に重要と考えられる.本研究はデザイン創造における制約に着目した思考プロセスモデルを提示する.モデルは社会的ニーズや前提条件に起因する外部制約と事物自体の形成に必要な内部制約の2種類の観点に基づいて作られ,両制約が交互に編集される思考プロセスと,3種類の内部制約それぞれが事物の編集に関与するしくみを示した.モデルは,ニーズに基づく外部制約先行アプローチとシーズに基づく事物状態先行アプローチによるデザイン活動を事例として検証され,両者のデザイン検討過程を説明可能だった.結果として,デザイン思考プロセスにおける2種類の制約の交互編集の事実とモデルの妥当性は確認された.
  • 渡辺 慎二, 池本 浩幸
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_19-6_26
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     大規模企業のインハウスデザイン部門(デザイン部門と略す)は,事業活動を優位に進めるために,限られたデザインリソース(人や活動費用)を使い,多様な分野でパフォーマンスを最大に発揮することが常に求められる。事業の目的に沿って如何に質の高いデザイン業務を効率的に行うかの視点が常に重要である。そのため,デザイン部門の規模が大きい程,デザイン業務の把握と管理は難しくなる。 本研究では,この課題に対して,デザイン業務に関する時間(工数)に着目し,デザイン部門の業務を定量的に把握する仕組みと部門マネジメントの統一指標の策定によって,デザイン業務管理プロセスを改善する方法を提案した。提案内容は,(1)業務プロセスの見える化,(2)業務プロセスの品質を低下させる要因の特定,(3)業務管理データの決定と運用方法の策定,の三段階で構成される。実業務に本方法を適用した結果,本方法がデザイン部門の効率改善に有効であることを確認した。
  • 渡辺 慎二, 渡辺 誠
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_27-6_34
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     商品の市場や開発環境のグローバル化に伴い,商品開発プロセスは大規模・複雑化している。革新的な製品を生み出すためには,ある程度,試行錯誤的な開発プロセスは必然ともなる。そのためにデザインプロセスの中で,様々な場面で「デザインの後戻り」の問題が発生し,作業効率を低下させる原因となっている。特にデザインプロセス後半での大きな後戻りの発生は,市場投入時期の延期,開発資源の浪費やデザイン品質低下などの弊害をもたらす場合もある。 本研究では,デザインプロセスの「情報の流れ」を可視化し,後戻りの少ない効率的なデザインプロセスを構築することを目的とする。 提案する方法論は,プロセスのポジティブな分析,すなわちプロセスを前に進めるためのタスクの順番とその構造,および,プロセスのネガティブな分析,すなわちプロセスの流れを止める可能性の高いタスクの特定,の両面を分析することで,プロセスの効率化を図る。本方法論を実際のデザイン開発業務に適用し,その有効性を検証した。
  • -洗濯機のデザイン開発を事例にして
    渡辺 慎二, 渡辺 誠, 小野 健太
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_35-6_44
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     常に新製品を開発し,売上や販売台数の目標を確実に達成することが重要となる製品として,テレビや洗濯機などの継続型主力製品がある。企業のデザイン部門では,常に自社製品が事業目標を達成することに寄与することを使命とするが,その方法論は明らかでない。そこで本研究は,継続型主力製品のデザイン開発プロセスの中で,事業目標として設定した販売台数目標との合致性をタイムリーに検証しながら,製品デザインを開発する方法論を提示した。本方法論は,販売台数目標との合致性を製品の外観デザインとユーザーイメージの両視点から分析することに特徴がある。外観デザインの分析では,販売台数の多い製品に共通するフォルム要素を抽出し,ユーザーイメージの分析では,ユーザー評価と販売台数との関係を明らかにした。これらの結果から,ポジショニングマップ上で,販売台数目標と合致した位置を特定し,この位置を狙う製品デザイン開発を行い,方法論の妥当性を確認した。
  • 望月 宏祐, 田中 法博, 森川 英明
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_45-6_52
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     デザイン材料の視覚的特性を分析するデザインサポートツールを開発するために,スマートフォン用の簡易的な分光反射率推定手法を提案する.画像からデザイン材料の様々な情報を得るために,物体固有の物理情報である分光反射率を用いる.我々は有限次元線形モデルと基準カメラを用いた較正法に基づいたスマートフォンのハードウェアに適した分光反射率の推定アルゴリズムを提案する.このアルゴリズムは分光光度計のような特殊なハードウェアを用意しなくてもスマートフォンで分光反射率が推定できる.最後に,分光反射率の提案手法による推定結果と分光光度計で直接計測した計測値を比較した.その結果,推定誤差は 8.44×10-2 (赤の物体),3.36×10-2 (緑の物体), 6.67×10-2 (青の物体)となった.
  • ─装苑賞の候補作品に基づく定量的分析
    森下 あおい, 中村 顕輔
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_53-6_58
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     服飾デザイン画に施されるデフォルマシオンを解明するため,実際の作品に描かれた人物像について頭身示数とプロポーションの関係を分析した.装苑賞の候補作品のうち,自然な立位姿勢の人物像が描かれたデザイン画131点を試料とした.デザイナーに試料の人体を推定させて,2次元骨格モデルを適応した.骨格モデルからプロポーションに関する人体寸法13項目を抽出した.頭身数および寸法を分析したところ,(1) 頭身数と各寸法の相関係数が小さいこと(r = 0.01~ 0.41),(2)高さ項目の寸法のばらつき割合(標準偏差/平均)は8.00%~16.68%であり,幅項目に比べて半分程度であること,また(3) 幅項目はばらつきが大きいが,互いに相関が大きいため(r = 0.72~0.87),ひとつのパラメータでひとつのパラメータで概ね説明できることなどが分かった.これらの結果より,試料のプロポーションのデフォルマシオンは頭の大きさおよび身体の幅で基本的に説明できると考えられる.
  • ― 家電製品のエコロジカルな使用を促す表示手法の研究( 3 )
    杉本 美貴, 岩崎 充
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_59-6_64
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     近年、ユーザの関心や使用性を高めるために様々な分野でゲーミフィケーションの考え方を用いた表現方法が注目されている。しかし、家庭電化製品の環境負荷に関する表示(以下、エコ表示)においてはまだその考え方を用いたものは少ない。 本研究は、家庭電化製品でユーザのエコロジカルな機器の使用を促すためのエコ表示を行う際、ゲーミフィケーションを効果的に用いるために必要な要件の明確化を目的とする。 現在ゲーミフィケーションが用いられている様々な分野の成功事例について調査を行った結果、ユーザの行為と関係の深い「代替表示」「互換」「競争」「協力」「実用的報酬」「仮想的報酬」の6つのゲーム性が利用されていることが解った。これらのゲーム性はユーザの行為の種類別に「行為の変換」「行為の共感」「行為の承認」の3要素に分類できる。即ち、家庭電化製品のエコ表示にゲーミフィケーションを効果的に用いるには、ユーザの行為をこの3要素に含まれるゲーム性を使って表現した表示内容にすることが重要だと考えられる。
  • ―中国における女性のものづくりに関する調査・研究(1)
    楊 洋, 植田 憲
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_65-6_74
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     本稿は,中国湖南省江永県地域における伝統的な針仕事を取り上げ,その文化の特質を考究することを目的としたものである。文献調査ならびに現地における聞き取り調査や,針仕事によって制作された128点の資料を対象として考察を行った。その結果,以下の知見を得た。(1)江永県地域における刺繍紋様のモチーフには,身近な生活環境に存在するものが多く利用されていた。(2)江永県地域の刺繍紋様には,身の回りの動植物や風景の他にも仙人や想像上の生物などがあり,現実世界に制限されない地域特有の世界観が共有・継承されていた。(3)江永県地域の刺繍紋様は,制作技術のみならず,地域にまつわる偉人や女書などのさまざまな知識の伝承の媒体として機能していた。(4)江永県地域の針仕事は,日常生活・非日常生活を維持・継承させていくための重要な役割を担っていた。(5)江永県地域の針仕事によってつくられたものは,単に実用品だけでなく,意匠やでき具合を通して,女性の教養や気持ちを表現しつつ,地域のコミュニケーションを促進する需要な役割を有していた。
  • ―中国における女性のものづくりに関する調査・研究(2)
    楊 洋, 植田 憲
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_75-6_84
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     本稿は,中国湖南省江永県地域において,女性の間のみで共有された女書の文化的・社会的役割を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の知見を得た。(1)女書の詩文は以下の5つに分類することができた:(A)契りを交わした血の繋がりのない女性の間の楽しみを描写したもの,(B)日常生活における消極的な思いを吐露したもの,(C)災難や不幸を乗り越える行事や儀礼を詠ったもの,(D)日常生活の厳しさを吐露したもの,(E)女徳に関する教育・教養を涵養したもの。(2)女性たちは,幼い頃から,煤や木片などの身の回りの材を道具として積極的に女書の習得・上達に勤しんだ。(3)姉妹の契りを交わした女性たちは,女書を通して,悲しみや喜びを吐露し励まし合い当該地域で生きる活力を獲得した。(4)女書は,当該地域のハレの日を知らしめる手段であった。(5)女書は,封建社会に生きる女性たちの道徳教育の媒体,ものづくりの図案の教本,家や世代を超えた文化伝承の媒体であった。
  • 須田 高史, 鴨居 明子, 上田 エジウソン, 寺内 文雄, 久保 光徳
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_85-6_92
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     本研究では,シリコーン樹脂とフィラー(充填材)の複合によるテクスチャ表現を試みた。まず,フィラーを複合したプラスチックの質感を評価するために,質感評価語の抽出と選定を行った。そしてサンプルを作製し,その質感について評価実験を行った。最後に,サンプルと質感評価語の対応関係を検討した。その結果,シリコーン樹脂とフィラーの複合による様々なテクスチャ表現を実現できた。また,視覚情報のみの場合と視覚・触覚併用の場合における質感の評価構造には大きな違いがあることが確認できた。視覚情報のみではフィラーの透過度と大きさが重要な質感の評価項目となるのに対して,視覚・触覚併用では,重量感や硬軟感と粗滑感が質感評価の要因となることが確認できた。
  • 陳 譽云, 三橋 俊雄
    2015 年 61 巻 6 号 p. 6_93-6_98
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2015/07/31
    ジャーナル フリー
     本研究では、日本統治時代の文献を通して,当時重要な自然資源であった竹に着目し、その時代的背景の中で竹が有する産業的価値について考察した。その結果、台湾という気候風土の中で育まれ、また、日本の台湾統治政策や当時の海外動向とも連動しながら、竹がいかに台湾の産業発展の重要な役割を担ってきたかについて明らかにした。 具体的には、竹資源を活かした竹産業の実態を調査し、その時代の変化に対応した政府の政策について(1)竹資源の産業的位置付け、(2)大規模竹材製紙業の模索、(3)竹細工生産の推移、(4)竹材工藝傳習所、副業と造林政策、代用品としての竹などについて検討した。 その上で、(1)農村の副業手段、(2)竹製バナナ籠としての需要、(3)工芸材としての需要、(4)製紙材としての候補、(5)鉄筋材としての代用など、日治時代における台湾の発展に関わる竹の産業的価値について明らかにした。
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