デザイン学研究
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62 巻, 6 号
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  • -ウィーンの芸術思潮からの影響と独自性
    角山 朋子
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_1-6_10
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本研究は、1918年以前の「クラクフ工房」(1913-1926年)を取り上げ、国家独立以前のポーランド地域で、ウィーンの芸術思潮を通じてヨーロッパ近代デザイン思想を受容したグループの活動を国際デザイン史上に位置づけることを目的とする。
     世紀転換期クラクフの応用芸術運動は、ヨーロッパの近代様式と固有の民族様式の融合を特徴とする独自の分離派様式を生んだ。しかし、1910年代には芸術家たちの社会参加意識が高まり、1912年の〈庭園の建築とインテリア〉展の翌年、クラクフ工房が設立された。工房は合目的性と適切な素材・技術に基づく日用品生産を目指す芸術家、職人、美術関係者の団体であり、市立産業博物館と連携した生産・教育活動を通じて当地の工芸向上に着手した。「ポーランドらしさ」は強いて追求されず、また、ウィーンの「ウィーン工房」(1903-1932年)からの影響が色濃いが、規約やデザインの相違点から、クラクフ工房は自律的にヨーロッパ近代デザイン思想の実践に向かった製作集団としてデザイン史上に位置づけられる。
  • -ヘッドマウントディスプレイを使用した音の可視化研究(2)
    須藤 正時, 深谷 晃輔
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_11-6_20
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本研究では透過型情報提示デバイスを用いた音の可視化による情報保障環境をモデル化し,その際の精神的作業負担(メンタルワークロード)の評価を行った。生理的指標として前頭連合野の脳血流による脳賦活状態を計測した。その結果,音源識別タスク,音源定位タスクでは情報提示に対する脳血流の増加が観測され,情報認知による神経活動の亢進が確認できた。また両タスクにおける反応時間は1秒以内であり,危険回避に対する人の知覚反応時間の範囲に収まる結果となった。後方視界タスクでは安全基準からの遅延が見られた。音源識別タスクについては,音声の聴覚情報に対し速く反応する被験者と絵文字の視覚情報に対し速く反応する被験者の2つのグループに分けられた。さらに脳血流の増加と反応時間の短縮に相関が認められた。したがって安全な反応や行動の切り替えを行うためには,注意の切り換えを促進させるような脳の賦活化を伴う情報提示が必要となることが示唆される。
  • -装苑賞候補のワンピース類について
    中村 顕輔, 森下 あおい
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_21-6_26
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     服飾デザイン画において衣服の形状に施されるデフォルマシオンについて解明するため,ワンピース類71点のデザイン画と制作された衣服の写真に人体と衣服の2次元形状モデルを適用して,それぞれ衣服寸法5項目を抽出した.まずデザイン画と実物写真の衣服寸法の分布から,試料には人体のデフォルマシオンとは異なる衣服固有の変形が施されていることが分かった.このため回帰分析を行ってデザイン画の寸法(D)によって実物写真(D')の衣服寸法を表現する式として,スカート丈ではD' = 0.81D + 16.73(r = 0.89),衣服ウエスト幅ではD' = 0.36D + 51.69(r = 0.60),衣服腰幅ではD' = 0.31D + 70.88(r = 0.63),スカート幅ではD' = 0.44D + 61.24(r = 0.80),裾幅ではD' = 0.42D + 68.52(r = 0.74)をそれぞれ導出した.また衣服寸法の項目どうし,およびデザイン画に描かれる人体のデフォルマシオンとの関係について分析した.
  • -産業デザイン分野スキルスタンダード策定に向けて
    蘆澤 雄亮, 佐久間 彩記
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_27-6_32
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     2010年6月に公開した「産業デザイン分野スキルスタンダード」策定にあたり,その指標導出を目的に「デザイナーに期待する能力」および「デザイナーの職務実態」に関して3つの調査研究を行った。デザイナーに期待する能力に関する調査からは,「新たな発想」に関して期待が高く,またアイデア導出から実現までをトータルに考えることができるディレクター的役割のニーズが強いことが分かった。デザイナーの業務実態に関する2つの調査からは,アイデアやコンセプトなどを「考える」業務と,それらを「実現化」する設計業務の2種類に関する関与が最も多く,一方でそれらに付随した業務に関しても関与度が高いことが分かった。
  • -観光案内所とサインを対象として
    伊藤 孝紀, 杉岡 敬幸 , 平 翔
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_33-6_42
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本研究は,名古屋国際会議場における観光案内所とサインを対象に,現状の利用実態と評価を把握することを目的とする。観光案内所については,観光案内所と来場者の行動の関係を明らかにするための行動観測調査に加え,来場者の要望を把握するために要望調査をおこなった。サインについては,施設内におけるサインを利用した移動をみる移動経路調査に加え,移動した経路および移動の過程で利用したサインの盤面の評価調査をおこなった。
     観光案内所について,行動観測調査から,観光案内所の周辺を通行する方向により,観光案内所の利用のしやすさが異なることを明らかにした。要望調査から,催事における施設内の各室の利用形態によって来場者の要望が異なることを把握した。また,サインについて,移動経路調査から,館内の迷いおよび分岐の発生場所を明らかにした。評価調査から,移動した経路およびサインの盤面がわかりにくい具体的な要因を把握した。
  • -伝統的和紙文化の復興に向けて
    坂手 勇次, 小島 菜穂子
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_43-6_50
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,日本の伝統的な撥水・防水加工和紙素材を再現し,それを応用した2種類のサンプルを制作した。その対象を,特殊な装飾品や伝統工芸品ではなく, 普段の生活のなかの実用品とすることで, 廃れつつある日本古来の紙文化を再認識することを狙いとした。現代ではあまり利用されていないが,昔は撥水, 防水加工を施した和紙が多く使われていたことに着目し, 食器や雨具などの水に関わる日用品を想定した和紙素材の再現を行った。具体的には、まず、漆,荏油(えのゆ), カキ渋などの伝統工法を試し, 次に、最新工法の液体ガラスコーティングを用いて, 和紙の撥水,防水加工の可能性について,実際の試作による検討を行った。最後に, この試作した撥水・防水加工を施した和紙素材を用いてカップ(食器)と合羽(雨具)を制作した。
  • 伊藤 孝紀, 松岡 弘樹, 田中 恵
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_51-6_60
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本研究は,名古屋テレビ塔を対象として,展望台の空間特性と活用の可能性を明らかとすることを目的とする。
     名古屋テレビ塔における展望台と1Fの関係を把握するために来場者数調査をおこない,名古屋テレビ塔に対する来場者の意識を把握するために意識調査をおこなった。さらに,展望台来場者の滞留の特徴を把握するために滞留調査をおこない,意識調査と滞留調査の双方から空間特性の分析をおこなった。
     来場者数調査から,展望台および1F外部のイベント実施の有無により,展望台来場者数に変化がみられないことを把握した。意識調査から,展望台来場者が展望台に求める新たな機能やイベントコンテンツに加え,1Fでの展望台情報の必要性や効果的な発信方法,展望台の空間評価を把握した。滞留調査から,景色に加え,設置物の配置や種類が,展望台来場者の滞留位置や滞留時間に影響を与えることを把握した。
     以上より,名古屋テレビ塔における展望台の空間特性を把握し,展望台活用における新たな指針を示した。
  • 大野 森太郎, 金田 幸裕, 原田 利宣
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_61-6_68
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     近年のタブレット端末の普及により,様々なアイコンを目にする機会が増えている.しかし,ユーザの認知過程や嗜好性の違いによりアイコンの理解度や魅力度は異なる.そこで,本研究では,ラフ集合理論を用いたアイコンの魅力度および分かりやすさの分析を目的とした.具体的には,まず,既存アイコンの魅力度と分かりやすさについて調査実験を行い,アイコンを構成する形態要素(属性値)を抽出した.次に,その属性値がどのように魅力度や分かりやすさに影響しているかを明らかにするため,ラフ集合理論を用いて各被験者の決定ルールを求めた.また,決定ルールから各被験者間の共起率を算出し,クラスター分析を用いて被験者を分類した.さらに,各クラスターが魅力的,もしくは分かりやすいと感じる属性値を抽出した.さらに,各クラスターに対応したサンプルアイコンを制作し,その属性値の有効性の検証を行った.
  • -日本におけるデザイン思考・行為をあらわす言語概念の研究(7)
    樋口 孝之
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_69-6_78
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本稿では,明治20年代にみられた意匠奨励の言説における語「意匠」の論じられ方を検証し,「意匠」の意味内容について考察を行った。当時は美術と工芸が次第に区分されるようになってきた時代であり,工芸においては,工匠が高い製作技術を有しながらも,製品へ優れた意匠を適用することが少ないことが指摘されていた。そのため,工芸界の指導者あるいは識者により意匠考案の奨励がなされ,制作における,意匠のはたらきが説かれた。大村西崖は「意匠論」と題する論説を発表し,「落想」の概念とその重要性を示しながら,美術や工芸における「意匠」の意味とはたらきを論じた。前田健次郎は「日本意匠会」と称する会を発足させた。それらの言説の多くでは,手工の技能である技術と並べて,製品や絵画をかたち・色・図柄として具現化する過程における思考上の技能として意匠が肝要であると説かれた。これらの言論を通して,語「意匠」は,美術あるいは工芸における特定の行為・思考を指し示す術語としての意味内容を明確にしていった。
  • -ワンピース類への適用を例として
    中村 顕輔, 森下 あおい
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_79-6_84
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     服飾デザイン画の創造性をアパレル生産に活かすために,デザイン画の着装像から人体と衣服の変形を取り除く方法を提案する.提案法は,まず骨格と衣服のモデルによってデザイン画から抽出した衣服寸法6項目に予測式を適用することで現実の衣服寸法を予測し,次いで基準となる人体上に予測した衣服寸法に基づいて衣服のシルエットを再構成することで,デザイン画の詳細な線画データを基準人体上に写像するものである.また提案法の妥当性を評価するためワンピース衣服70作品について,人体像を基準人体に置き換えることで人体のデフォルマシオンを除いたデザイン画と,提案法に沿って衣服シルエットを実物写真から抽出した寸法に置き換えることで人体と衣服の変形を取り除いたデザイン画を生成した.これらの画像および実物写真に基づく線画データを服飾の専門家6名に比較させた結果として,3作品では人体の変形を除いたデザイン画の方が実物に近く,19作品では大きな違いはなく,48作品では人体と衣服の変形を除いたデザイン画が実物に近いと判定された.
  • -行動観察手法とグループインタビューの併用による改善策の提案とその効果検証
    伊藤 晶子 , 畔柳 加奈子, 櫛 勝彦, 滝山 直樹, 神垣 智一
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_85-6_94
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     首都圏の駅構内コンビニエンスストアにおける交通系ICカード利用率を向上させる方策の検討を目的として、グループインタビュー、観察調査、ワークショップを実施した。その結果、ICカード利用率を向上させるための、複数の改善策を提案することができた。更に、それらの改善策を複数の実際の店舗に適用をして、その効果を検証した。最終的に、これらの改善策により、店舗でのICカード利用率を向上させることができた。また、当初想定していない効果や新たな仮説も導出できた。
     この研究により、駅構内コンビニエンスストアでのICカードの利用率向上のための改善策が提案できただけではなく、そこでの新しいサービスの提供に関する基本的な知見を得ることができた。また、今回採用したデザインプロセスにより、仮説の構築の段階で複数の手法を併用することで、仮説構築に網羅性が出たり、人の意識や行動に関する理解をより深めることが可能となることがわかった。
  • -情報デザインを事例として
    田村 良一, 都甲 康至, 石川 奉矛, 北川 央樹
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_95-6_104
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     本論文は,デザインプロジェクトの戦略的な遂行に向けて,経営戦略の考え方を参考として,デザインプロジェクトの特徴,成功要因やリスクヘッジ要因を見出すための考え方や方法を構築,提案したものである。
     前者では,研究開発を対象とした既往研究をもとに評価項目を収集,整理し,強みと弱みに関する17種類,機会と脅威に関する13種類の合計30種類の評価項目を作成した。後者では,強みと弱みに関する17種類の評価項目をもとに,それらが達成することを成果とする成果項目を作成し,DEMATEL法により項目間の影響関係を把握するとともに,各項目の重要度,さらに実現可能性を加味することで,成功要因やリスクヘッジ要因を導出する考え方を構築した。そして,事例検証を通して,項目や分析の考え方の適用可能性を確認した。
  • -介護支援ボランティア制度導入直後の調査(その3)
    金 正和 , 花里 俊廣
    2016 年 62 巻 6 号 p. 6_105-6_110
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2016/05/30
    ジャーナル フリー
     高齢者施設において健常な高齢者が行う介護ボランティアは,介護スタッフ不足問題の解決策の一つと考えられ,導入が検討されるべきである。そこで,入居者が介護スタッフや介護ボランティアから受ける介護内容を記録するため,入居者を追跡する行動観察調査を行った。そして,介護スタッフと介護ボランティアによる介護の違い及び介護ボランティア導入による効果を明らかにする分析を行った。その結果,以下のことが明らかになった。①介護スタッフは常に忙しく動き回っていたが,介護ボランティアは長時間入居者と話し合うなどじっくり介護を行っていた。②介護スタッフ,介護ボランティアともに,入居者の移動距離に関係なく介護を行っていた。③介護スタッフに比べ,介護ボランティアは要介護度の高い入居者に対してより多くの介護を行っていた。このように,専門家ではない介護ボランティアによる介護は高齢者施設において一定の効果があることがわかった。
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