デザイン学研究
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62 巻, 4 号
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  • -色記憶を利用するカラーデザインに向けて
    三宅 宏明, 長 篤志, 松田 憲, 木下 武志
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_1-4_10
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     色は記憶の中で変化することが知られている。その記憶の変化に伴う色の印象の変化に関する知見があれば、そのことをカラーデザインに利用できると考えられる。そこで、本研究では色の再認実験を行い、呈示した時と再認した時の色の印象に違いがあるかを調べた。そして、再認による色の移行と、印象の変化との関連について調べた。実験の結果、色の移行が起きた色において、記憶した色と再認した色の印象に変化が見られる色と、見られない色の両方が確認できた。特に、マゼンタ系や黄系の色は印象の変化が見られ、青系の色は変化が見られない傾向が見られた。記憶した色と再認した色の色差の大きさは、印象の変化との関連性が見られなかった。また、同じ色においても一緒に記憶した色の組み合わせによって印象に変化が見られたり、見られなかったりした。これらの要因としては、色の記憶のしやすさや、記憶内での色の対比が影響している可能性が考えられる。
  • ─買い物・駅勢圏からみた充足率の分析
    青塚 大輔, 中原 宏
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_11-4_16
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     これまで札幌市は,人口増加とともに住宅地の郊外化が進み,都市機能の分散が図られてきた。しかし今後は,高齢化,人口減少などの背景を踏まえて,身近な生活圏域を中心としたまちづくりが求められており,将来の札幌市の姿についても,集約化された地域のビジョンが描かれている。
     本研究は,市民自治や地域コミュニティの拠点となる札幌市内87 箇所のまちづくりセンターに着目し,各センターが有する区域を身近な生活圏域と考え,日常生活に関わる買い物および駅の500m勢圏を設定し,これを基にした充足率の観点から,まちづくりセンター区域の地域格差を分析した。
     結果から,郊外部あるいは人口低密度のまちづくりセンター区域ほど充足率の低い傾向を得られたことに加え,これらは,市内のなかでも高齢化が進んでいる地区であることなど,年齢特性を含めた地域格差を明らかにした。
  • 髙梨 武彦
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_17-4_24
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     森林風致施業指標と採材数(玉数)との関係、および森林の風致評価と採材数との関係を分析した。スギ一斉人工林の調査結果からは、高い風致評価を得ていた林分は林齢50~70年生未満の保育林分で枝下空間量278㎥/本、胸高直径指数0.187、採材数3.6玉であった。ヒノキ一斉人工林調査結果からは、高い風致評価を得ていた林分は林齢70~100年生未満の保育林分で枝下空間量458㎥/本・胸高直径指数0.128、3.75玉であった。風致評価を得つつ経営配慮を考えると3玉の確保ができる大径材(胸高直径31㎝以上)生産の志向が支持される結果であった。
  • ─日本映画に見られる起居様式と家具に関する研究(1)
    石村 眞一
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_25-4_34
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     鋼管製カンチレバー構造の椅子は,ヨーロッパで1927 年に開発され,日本では1931 年あたりから国産製品が販売されている。ところが,使用実態を示す資料が少ないことから,本論では初期の使用実態を戦前期の映画に求め,その特徴を考察することを目的とした。調査の結果,次のことが明らかになった。①1932年あたりから東京の都心で使用され始めた初期の鋼管製カンチレバーの椅子は,映画には一切登場しない。②映画に初めて鋼管製カンチレバーの椅子が登場するのは1935 年で,1938年まで9作品の中に見られる。③鋼管製カンチレバーの椅子は,自宅で使用する場面と,商品の売り場,ホテルのラウンジ,ダンスホール,医院の待合室といったパブリックスペースで使用する場合とがある。④使用者の階層は特に富裕層とは限らず,ヨーロッパから発信されたモダニズムを,上手に日本社会へ取り込んでいる。鋼管製カンチレバーの椅子の使用を通して,日本の戦前期におけるモダニズムの一端を垣間見ることができる。
  • 河瀬 絢子, 崔 庭瑞, 泉澤 恵, 日比野 治雄, 小山 慎一
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_35-4_42
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,OTC 医薬品のブランドがOTC 医薬品選択時の消費者行動に与える影響について詳細に検討するため,OTC 医薬品選択時の眼球運動を計測した。被験者は,3種類のOTC 医薬品の中から最も購入したいと思った1品を選択した。課題遂行中,「製品名」,「成分」,「使用上の注意」などの12 の外箱記載項目に対する視点の停留時間と停留順序が求められた。その結果,被験者はナショナルブランド(NB)のOTC 医薬品選択時には「製品名」を最初かつ最長時間注視し,プライベートブランド(PB)では「キャッチコピー」を最初かつ最長時間注視する傾向が認められた。面積・面積比と停留時間の相関はPB の方がNB より大きく,NB・PB いずれにおいても色数と停留時間に有意な相関は認められなかった。以上の結果から,消費者はNBではブランド名,PB では詳細な情報に依存した選択を行うことが示唆された。
  • ─「ナースコール・アート」ワークショップの分析
    吉岡 聖美, 三谷 篤史, 蓮見 孝
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_43-4_50
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,触るという能動的な動作を誘導して作品を制作する「能動アート」プログラムを小児医療施設において実践して評価する。「ナースコール・アート」ワークショップは,粘土で手作りのナースコールを制作し,完成作品を用いて看護師との会話を模擬体験する「能動アート」プログラムである。心理評価,生理測定,行動観察を実施して本プログラムの効果を調査した結果,参加者の気分は改善する傾向が示された。また,ワークショップ前後のフェーススケール評価に変化がない参加者は,平均血圧が低下した。ワークショップのプログラムがリラックスするような刺激になった可能性が示唆された。作品の形は使用する部品の形に,作品の主要色は作業シートの色に関係する傾向がみられた。参加者は,作品に目口を付けて顔表情を作っており,作品を生き物のように捉えることによる会話やアイコンタクトに繋がっていることが示された。
  • ─色カテゴリーから見る色記憶の特徴
    三宅 宏明, 長 篤志, 木下 武志
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_51-4_60
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     色記憶を考慮したカラーデザインを可能にするためには、まず各色が色記憶においてどのように移行するのかを知る必要がある。これまでに色記憶の移行に関する平均値データが報告されているが、個人差が大きければその平均値はカラーデザインに使用できない。また色記憶のデータとしてすべての色を調べることはできないという問題点もある。本研究では、どのような色は平均値データをカラーデザインに用いることができるか、どのような色は平均値データの間を色空間中で補間してカラーデザインに用いることができるか、についての知見を得ることを目的とした。そこで、フォーカル色の再生実験と色記憶の再生実験、カテゴリカルネーミング実験を行った。その結果、参加者が共通した色カテゴリーに認識している色は、平均値データをカラーデザインへ利用できる可能性があり、色空間中で近い位置関係にあるデータから補間できる可能性があった。一方、色カテゴリーの認識が参加者に依存する色の結果は、3種類の傾向に分かれることがわかった。
  • ─メンタルモデル構築のためのユーザ特性の検討
    土井 俊央, 石原 啓介, 山岡 俊樹
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_61-4_66
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     認知的な側面から機器の使いやすさを検討するためには,ユーザのメンタルモデルを理解し,それをデザイン開発に活用することが重要である.本研究ではその指針の一つとして,ユーザインタフェース操作のためのメンタルモデル構築に関係するユーザ特性の把握を目指し,ユーザの内的資源とメンタルモデル構築との関連を調査した.ここで言う内的資源とは,ユーザの知識,能力や認知特性などユーザ自身がすでに持っているリソースのことを言う.こうした知見を獲得することで,デザイン開発の際に考慮すべきユーザ特性が明らかになることが期待される.内的資源としては活動状態指向性とワーキングメモリに着目した.前者は意図を実行に移しやすいかどうかの傾向を表すもので,後者は作業中の一時的な記憶容量である.それぞれの測定結果とメンタルモデル構築度合を比較検討することで,これらの要素はユーザのメンタルモデル構築への関わりが少ない可能性が示唆された.
  • ーオフィス家具の商品開発を事例とする
    伊藤 孝紀, 深町 駿平, 田中 恵, 伊藤 孝行, 秀島 栄三
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_67-4_76
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     本研究は一連の議論を支援する合意形成支援システムの開発をおこない, 基礎実験として設定条件が異なる4つの実験を実施した。得られた知見をもとにファシリテータを支援する機能を新たに搭載し, 予備実験と企業の商品開発を対象とした実装実験を実施することで, ファシリテータに着目した本支援システムの特長および課題点を明らかにすることを目的とする。
     基礎実験より, ファシリテータの手腕に頼る傾向が強いことがわかった。
     予備実験より, 一部の参加者により議論が展開されていること, スケッチ, イメージ図の投稿において, 参加者から広く意見を集めていることが明らかになった。また, 「デザイン提案」「合意形成」において, ファシリテータの経験がない者が議論を支援することは難しいことが明らかになった。そこで, ヒヤリング調査をおこない, 支援機能を改善した。
     実装実験より, 一部の参加者により議論が展開されていること, 参加者の発言数に比例して, スケッチ, イメージ図の投稿数が増減していることが明らかになった。
  • -「花火を描こう!」プログラムの心理的効果と小児医療施設での実践
    吉岡 聖美
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_77-4_84
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,触ったり握ったりする動作を誘導する「能動アート」プログラムを実践することによる気分の変化を調査する。「花火を描こう!」は,タッチパネルを触ったりエアゴムを握ったりすることによって,花火を打ちあげた風景の絵はがきを作成することができる創造的な作業による「能動アート」プログラムである。「花火を描こう!」を実施することによる気分の変化を,気分プロフィール検査(POMS)短縮版によって調査する。プログラム後の気分はプログラム前に比べて,「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「怒り-敵意」「疲労」「混乱」が有意に低下し,「活気」は保たれ,気分が改善することが示された。加えて,「花火を描こう!」のプログラムを小児医療施設において実践して評価した結果,入院患者の気分が改善することが示された。
  • -鏡面加工およびショットブラスト加工を施した無彩色系金属を例に-
    滝沢 正仁, 永見 豊, 木嶋 彰, 有村 徹, 米原 牧子
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_85-4_92
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     本稿は,金属テクスチャの体系的な選定指標について,評価用語と物理特性値の階層構造化により検討したものである.検討方法は,まず,抽出した92 評価用語の因果関係を導き,DEMATEL 法による分析から人の知覚や認知傾向に応じた4つの階層に分類した.次に,金属テクスチャ評価結果をコレスポンデンス分析で分析し,金属テクスチャ試料片と評価用語の関係を構造化した.金属テクスチャ評価では,オノマトペおよび単感覚を表象する形容詞を用いることで,ユーザが直感的に評価しやすくなり,物理特性値との関係を高精度に導くことができた.物理特性値は,表面粗さ指標,光沢度,色度を用い,光の反射特性との関連性を考察した.以上の結果は,フロー式の選定指標としてまとめた.この指標は,パスと影響値を頼りに,デザインコンセプトに用いる用語から金属テクスチャを選択することができる.さらに,粗さや金属種などの物理特性から用語の関係性を探ることも可能であり,デザインの現場や加工業者との情報伝達において,有用な指標になり得ると考える.
  • ─東ティモールでのフィールドワークより
    徳久 悟
    2015 年 62 巻 4 号 p. 4_93-4_102
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
    BOP を対象としたプロジェクトの場合,先進国のデザイナは「現場」「関心」「持続性」を考慮しなければならない。なぜならば,BOP を取り巻く様々なマクロおよびミクロ状況が異なるため,さらには,先進国が介入しない状態で成り立っていたバランスが崩れる可能性があるためである。フレームワーク構築にあたって,現象の重視と関心の相対化という特徴を踏まえ,理論的視座として構造構成主義を採用した.本フレームワークは,4 つのオリジナルツールで構成される.「デザイナの関心モデル」は,先進国のデザイナの関心を相対化するためのツールである。「現象マップ」は,現地の現象を可視化できるだけではなく,現地の人々の関心を構造化するためのツールである。「アブダクションモデル」は,現地人の関心を満たしたプロダクトのコンセプトのデザインを行うためのツールである。「サステナビリティモデル」は,設計されたプロダクトを中心として,環境的,経済的,社会的持続性を考慮したシステムをデザインするためのツールである。
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