デザイン学研究
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63 巻, 3 号
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  • 松井 実, 小野 健太, 渡邉 誠
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_1-3_10
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     進化理論の適用範囲は生物にとどまらない.本稿は文化進化の議論を基盤に,設計の進化について論じる.設計は2つに大別される.一方は理念で,機能に関するアイディアや情報である.他方は設計理念に基づいて開発された製品などである.本稿は,前者の設計理念は進化するが,後者の人工物は進化の主体ではないことを示す.設計理念とその発露としての人工物の関係は,生物学における遺伝子型と表現型の関係に似ている.表現型とは,腕や目,行動などをさし,遺伝子型はその原因となる遺伝子の構成をさす.表現型は,生物の製作するものをさすことがある.たとえば鳥の巣やビーバーが製作するダムなどで,「延長された表現型」とよばれる.人工物は設計の表現型ではあるが,人間の延長された表現型ではない.人工物は文化的遺伝子の発露であって,人間の遺伝子の発露ではない.もしそうであれば,人工物の良し悪しによってその製作者の遺伝子が繁栄するか否かが影響されなければならないからだ.進化理論は,とらえがたい複雑な現象である設計を理解するには非常に有用である.
  • ─工業系高専に求められる創造性喚起のための教育─
    小高 有普, 清水 忠男, 村中 稔, 安島 諭, 桑村 佐和子, 大谷 正幸
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_11-3_20
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     工業高等専門学校(工業系高専)は今,次世代教育に向けた課題に直面している.その具体的方策の手がかりを得るために,「創造性」に焦点を当てた調査研究を行った.1)ことに国の経済事情,教育施策,社会動向の変遷とともに,「創造性」の意味合いが大きく変化しており,「創造性」を喚起する教育がますます重要性を増していることが確認された.2)「創造性」がどのように捉えられ,どのようにその喚起が図られようとしているかについて,工業系高専,美術系大学および工業系大学のデザイン専攻の教員を対象としたアンンケート調査を行った結果,高等教育機関の教育現場において重点の置き方や方法の違いが明らかになった.これらの調査結果を踏まえて,デザイン教育の方法が,これまで以上に創造性の喚起を必要とする今後の工業系高専教育に応用可能であることが提言される.
  • ─個人単位人流データの活用検討(1)
    峯元 長, 秋山 福生, 小野 健太, 渡邉 誠
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_21-3_28
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     位置情報技術やビッグデータ技術の発展などを背景に,人流データの活用に注目が集まっている。本研究は,人流データをより効果的に活用するために,個人単位の移動行動をモデル化する。モデルの構築は,実際の人流データに基づいて行った。浜松駅や千葉駅周辺を歩く移動者の行動をシャドーイング調査にて収集し,モデル構築のためのデータとして用いた。行動データの分類,特徴抽出,構造化を行った結果,「移動モード・切迫度の遷移モデル」と名付けた移動行動モデルを構築した。このモデルは移動者の状態を「直行」,「停止」,「経路探索」,「目的探索」の4つのモードと,時間的な余裕を表す切迫度によって分類し,それぞれの状態の変化点について説明する。このモデルを通して人流を見ることで,単なる動線だけでは得られなかった人の移動目的における感覚的要素を含めた情報を抽出することが可能になった。この情報は今後,様々なサービスへの活用が期待できる。
  • 上田 篤嗣, 澤田 陽一, 村上 貴英, 齋藤 真, 筒井 澄栄
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_29-3_36
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,点字の利用が困難である中途視覚障害者のための触知ピクトグラムの最適サイズを予備的に検討することであった.アイマスクをした晴眼者30 名に30 mm2,60 mm2,90 mm2,120 mm2,150 mm2サイズのJIS 型触知ピクトグラムを提示し,触知探索により何のピクトグラムであるかを判定させ,その際,触知に係る種々の行動指標(触知正答率・触認知時間・触複雑度・分かりにくさ・確信度)を測定した. また触知関連要因である知能および視覚性記憶能力も合わせて評価し,触知行動との関連を確認した.その結果,120 mm2サイズにおける触知正答率と触認知時間は視覚性記憶能力の影響を受けるものの,120 mm2 および150 mm2のサイズがその他のサイズよりも触知しやすいことが分かった.従って,触知ピクトグラムの最適サイズは120 mm2から150 mm2の間であることが示唆された.
  • ―東海地方の実例を対象とした基礎調査
    伊藤 孝紀, 阿部 美月, 木暮 優斗, 杉岡 敬幸
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_37-3_46
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     本研究では, インテリアを住み手の個性および快適性に対する住要求を反映した空間と定義した。注文住宅を対象とし,LDK空間の快適性という視点から, インテリアの実態を明らかにすることを目的とする。インテリアの傾向を把握することおよび類型化を目的とした実例調査に加え, 類型化した各タイプの特徴と住宅市場の関係を明らかにすることを目的としたヒアリング調査をおこなった。
     実例調査では,352 サンプルに対して「物件概要」「断面構成」「平面構成」「仕上げ」に関する指標を設定し, インテリアの傾向を明らかにした。また, 上階との領域の融合性や昇降機能の独立性によって,「LDK 分離型」,「分離・独立型」,「融合・従属型」の3つのタイプに類型化した。ヒアリング調査では, 採光や個々の空間の尊重, 家族のコミュニケーションの重視などの住要求が, 各タイプの特徴に影響していることを明らかにした。
  • ―1945~2009年に制作された映画を通して
    李 菁菁, 石村 眞一, 近藤 加代子, 菊澤 育代
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_47-3_54
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     本論文は、映画シーンにおける電気炊飯器に関する使用実態の分析を通して、製品の機能進化、使用方法、生活との関連性を明らかにすることを目的とする。1945 年から2009 年までに制作された映画で映し出される家庭生活場面の調査より、以下の内容を明らかにした。
    1)ダイニングキッチン1室に台所・食堂の機能が統合され、またジャー機能付き電気炊飯器が使用されるに従って、炊飯の後に、運んだり保存したりする作業の必要がなくなった。
    2)電気炊飯器および保存器具の使用方法には、住宅空間、経済状況、家族構成の他、便利さを求めるか、食文化の作法を守るかという文化的な志向性も影響する。
    3)電気炊飯器およびジャー炊飯器などは、上流階級というよりも、LDK 型の住宅にすむサラリーマンの家庭生活から普及する傾向が見られ、他の電気製品とは違う傾向があった。
  • ― UX デザインの一観点として
    渡邉 萠, 中西 美和
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_55-3_62
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     製品のデザインプロセスでは、使用時点での「使いやすさ」に重点が置かれてきたが、多くの製品が成熟した昨今、この観点のみで評価することは難しくなりつつある。近年では、ユーザエクスペリエンス(UX)の概念が広まり、使用中のみならず使用前から使用後に渡るユーザの心理面へ働きがけが重視されている。本研究では、特に使用後に焦点を当て、ユーザの「使いつづけたい」「また(もっと)使いたい」という、しばしば「愛着」とも表現される気持ちの客観的評価に挑んだ。まず、心理学理論に基づき、「愛着」の心理状態を整理し、10 の主観指標を構築した。次に、ユーザに様々な製品の画像を提示し、構築した10 の主観指標、及び愛着に伴う感情への反応が期待される生理指標を計測、分析した。その結果、前頭前野のDLPFCとMPFC におけるOxy-Hb 濃度長変化量、指尖容積脈波の振幅について、「愛着」の程度を検出する客観的指標として有効である可能性が示唆された。
  • ―中国ハルビン市道外区靖宇街周辺の中国式西洋建築の維持・継承に関する調査・研究(1)
    盛 穎魁, 植田 憲
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_63-3_72
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     本稿は,ハルビン市道外区における靖宇街周辺の中国式西洋建築の歴史とその装飾文様の現状を把握することを目的としたものである。調査・考察の結果,以下が明らかになった。
     (1)靖宇街周辺地区だけでも964点にもおよぶ装飾文様が施されており,それらは,植物,動物,文字などに分類される。(2)それらの装飾文様は,中国における伝統的生活文化にみられる要素を中心として,建築スタイルとともに流入したであろうヨーロッパやロシアや日本のものもみられる。洋の東西を問わずさまざまな国さまざまな時代の建築装飾が融合されており,国際都市として形成されたハルビン市の歴史が反映されている。(3)それらの装飾文様の多くには,当時の当該地域の人びとが共有していた「健康」「長寿」「平安」「幸福」「富貴」などの吉祥寓意が確認される。総じて、靖宇街の建築にみられる装飾文様には,人びとが,国内外の装飾を柔軟に吸収しながら,自己表現の手段として巧みにアレンジした姿が確認される。
  • ―中国ハルビン市道外区靖宇街周辺の中国式西洋建築の維持・継承に関する調査・研究(2)
    盛 穎魁, 植田 憲
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_73-3_82
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     本稿は,ハルビン市道外区靖宇街周辺の中国式西洋建築の装飾文様を取り上げ,その文化の特質を明らかとすることを目的としたものである。装飾文様の特徴として,以下の各点が明らかになった。(1)靖宇街の歴史建築には,身近な動植物の特性や同音異義などの伝統的な表現方法を利用して,多様な吉祥文様が多く付されている。それらの多くが中国の伝統的な吉祥文化を基盤としたものである。(2)当時の工匠らは海外の建築スタイルを模倣し,靖宇街の建築のファサードに西洋装飾文様を試みたことがうかがえる。さらに,それぞれの西洋文様を参照して,中西混用装飾文様が創造された。このような装飾文様は,靖宇街における中国式西洋建築の大きな特質のひとつと考えられる。(3)靖宇街の建築装飾文様には,それぞれに内包される寓意を通して,中国の伝統的な生活文化を継承しつつも,当該地域において豊かな生活を実現しようとした人びとの意識が如実に反映されている。
  • 高橋 侑里, 今泉 修, 山田 桃子, 日比野 治雄, 小山 慎一
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_83-3_92
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     近年の研究で風景知覚が時間知覚を調整することがわかってきた。本研究は,風景画像の空間構成と印象が時間知覚に与える影響について,時間二等分課題を用いて調べた。まず空間構成と時間知覚の関連を調べる実験では,参加者は正立・倒立・スクランブル画像を観察して,画像の呈示時間が400 ms と1600ms のどちらに近かったかを判断した。プロビット解析の結果,正立画像のほうがスクランブル画像よりも時間を長く感じさせることが示された。しかし,この効果は刺激の背景色を変更することで消えた。時間知覚が風景画像の空間構成と背景色の二要因から影響を受けた可能性がある。次に,風景画像が誘発する評価性印象 (好き・嫌いなど) と速度感印象 (速い・遅いなど) が時間知覚に与える影響を調べた。短時間 (400-1600 ms)と長時間 (2000-8000 ms) の知覚について検討したが,いずれの印象も時間知覚に影響しないことが示唆された。
  • ― システム思考デザインによるノートブックPCの入力デバイスの機構開発事例
    土井 俊央, 堀内 光雄, 尾上 祐介, 藤野 高根
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_93-3_102
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     昨今のデザイン領域の拡大に伴い,より複雑で検討事項の多いデザイン対象に対するアプローチの一つとしてシステム思考のデザイン方法論が注目されている.本研究では,このようなデザイン領域の一つであるハードウェアの詳細設計を対象に,システム思考のデザインアプローチである汎用システムデザインプロセスの有効性を評価した.メーカーでの機構開発業務に汎用システムデザインプロセスを適用することで,その効果を確認し,適用事例を示した.汎用システムデザインプロセスを適用した結果として,複数の評価の観点から開発目的・目標を満たす製品であることが示された.また適用したプロセスの考察においても,汎用システムデザインプロセスの利点が活かされたことが示唆された.こうしたことから,汎用システムデザインプロセスはハードウェアの詳細設計に対して有効な方法論であると考えられる.
  • 塚本 千晶, 佐藤 公信
    2016 年 63 巻 3 号 p. 3_103-3_110
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2016/12/21
    ジャーナル フリー
     本稿では、育児における親子相互のよりよい関係をつくりだすきっかけとなる事物・行為の相互関連性、及び親子のコミュニケーションの促進に何が重要な役割として認識されていているのかレベルを示すために、ISM 法を用いて構造化を試みた。さらに、日常的に子どもが触れる既存の製品に着目し、子どもの発達に与える影響について、数量化Ⅲ類、及びクラスター分析を用いて類型化し特徴を明らかすることを試みた。その結果、触覚感は人とモノだけにとどまらず、人と人とのコミュニケーションの活性化につながる触媒として、重要な役割があり、触覚をコミュニケーションの形成要因としてデザインへ適用していくためには、1. 応答性の高い素材として触覚感を誘発し行動を促す。2. 遊びの行動を促し活動を展開できる場を形成する。3. コミュニケーションを活性化する触媒としての役割を持たせる。の3要因があることが示唆された。
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