本研究は、民間習俗としての地域における鎮物の造形を調査し、広東省・マカオを対象として、「土地神」「石敢當」等民俗資料を広く収集したものである。広東は「土地神」信仰が絶対多数を占めており、伝統的な吉祥文様が描かれた紙「春聯」と立体の簪花(かんざし)により飾られた「天官賜福」「門口土地財神」の牌位を頻繁に目にする。マカオの「石敢當」の数は「土地神」には及ばないもの、民間風俗と文化的背景から「土地神」と「石敢當」とが融合し、幸福祈願、富貴、魔除け、厄除け等心理的必要性に対応する様々な霊石信仰が生まれた。「石敢當」は路地、住宅、オフィス、商店、廟、集落神龕等の場所に分布し、石板、石碑、石塊、山型の四形態に大別される。広東とマカオの民間信仰に関しては、「土地神」と「石敢當」の設置と装飾から、民族独自の視覚的記号が垣間見える。例えば、漢字の字体、伝統的象徴的文様等は、伝統文化の保存・継承を体現するものでもある。
簡易な形の目口のパーツによって構成される笑った顔および怒った顔のアイコンを鑑賞・配置・描画する,という異なる創造タスクを実施する際の生理心理評価および表情変化について調査した。その結果,絵を見るのが好き,絵を描いたり落書きを描くことがある,絵や落書きを描くのが好き,と回答した実験協力者は,笑った顔のアイコンを描画することによって自身の表情も同調的に反応して表情が変化し,気分が良くなったと感じている結果が得られた。絵画や描画に対する嗜好や馴染みが生理心理評価および表情変化に影響すると考えることができる。一方,目口のパーツを配置して顔アイコンを作成する中程度の創造タスクの課題では,平均血圧の変動量がプラスに大きく,わくわく度が増し,絵画や描画に対する嗜好や馴染みに関わらず課題に能動的に取り組んだことが示唆される結果が得られた。
デジタルヘルス市場では,スマートフォンを活用した新サービスの創出が活況である。しかし,市場ではコモディティー化も顕著であり,差別化戦略は益々重要性を増している。一方,健康に纏わるユーザーの価値観は定量化が難しいだけでなく,サービス価値の判断は競合サービスにも影響を受け変化することから,競合関係とともに捉えることが重要である。そこで本稿は,ユーザーレビューを活用し,テキスト解析と対応分析を駆使することで,差別化戦略を構築する上での有用な指針を抽出する方法を提示する。分析結果より,ユーザーは、体組成計データ等のグラフ表示や記録・管理機能などの一次的価値(機能そのものによる便益)を重視している傾向の他、睡眠管理や服薬管理などの分野ではコモディティー化を逃れていることが示唆された。よって、分野の特性を的確に捉えた上で差別化要素を検討する重要性などが指針として得られ、本稿で示した方法はデジタルヘルス分野における差別化戦略の構築に於いて,一助になると考えられる。
本研究では, 三重県桑名市における桑名本物力博覧会を対象に, プレイス・ブランディング構築過程における地域資源イベントの評価と課題を明らかにすることを目的とする。
桑名ほんぱくの参加者属性および評価を把握するために意識調査をおこない, 企画内容の特徴および評価を定量的に把握するために企画内容調査をおこなった。さらに, 桑名ほんぱくを実施していく上での課題を把握するためにヒアリング調査おこない,2ヶ年にわたり主催者, 企画者, 参加者の側面から調査をおこなった。
意識調査から, 継続して実施することで参加者評価およびロゴマーク, キャッチフレーズの認知度が向上することを把握した。企画内容調査から, クラスター分析により3タイプを摘出し, 各タイプの評価に差異がみられることを把握した。ヒアリング調査から,SNS での情報発信, 運営の担い手不足が課題として挙げられることを把握した。
以上より, プレイス・ブランディング構築過程における地域資源イベントの評価と課題を把握し, プレイス・ブランディング構築への一助を示した。
博多祇園山笠は,770 余年の歴史を継承した国指定重要無形民俗文化財である。原形とされる施餓鬼棚を含めるとすれば,当初2本であった舁き棒が江戸時代後期には6本にまで増えた。残された史料は僅かであるが,北部九州一円を見れば,今も様々な形態の山笠が継承されている。これら北部九州山笠山台各形態の特徴把握と分類を行い,各山台間の関連性と変容,博多祇園山笠成立過程について考察することを研究目的とする。
本研究では特に,棒締め方法に着目し,整理・分類を行った。その結果,異なる棒締め方法の山笠であってもいくつかの部分的共通点を指摘することができた。その上で,互いに影響しながら変容してきたことを推察し,博多祇園山笠成立過程についての見方を提示した。博多祇園山笠は,時代とともに舁き棒本数を増加させつつも,山台木部材構成の著しい変更・増加をすることなく,工夫と選択を重ねることで,現在の姿に至った。
ファッションデザイン画の制作行程における着色は、テキスタイルが近年多様に変化し、ディテールが複雑化しているため、デザイン画指導においてもその表現が重要になってきている。特に透けるテキスタイルは多くのデザイナーが取り入れ、学生がデザインする機会も増加している。そこで、美大生と異なり絵をほとんど描いた経験がないファッションを学ぶ学生へ向け、ファッションデザイン画制作における透けるテキスタイル表現の教材開発を目的とした表現方法を検討した。その結果、透けるテキスタイルの重ね着による見え方をファッションデザイン画として制作するためには、そのデザイン的な特徴を視覚化して伝達力を高めていくこと、又それを身近にある画材でいかに表現するかが重要であるという考察に至った。この検討結果を活かした手法は、特別授業「ファッションイラストレーション2015」内における着色技法の講義において実践することができた。
魅力的なシークエンス景観には二種の時間軸が存在する。歴史性や文化性など長期的な時間軸と、徒歩圏域の景観体験などの短期的な時間軸である。この二種が織り成す景観特性や高揚感への影響について、江別市で最も古い市街地である「条丁目地区」を対象に調査・分析を行った。結果、景観構成要素のうち「歴史文化施設」や「樹木」など、背景に長期的な時間軸を有する要素が、シークエンス景観の中の「アクセント」として評価され、また 10m~50mの比較的に短い区間での景観体験にみられる「自然資源」の構成比の変化が、徒歩圏域の「リズム」となり、次の場面の高揚感向上に寄与していることが把握された。このような、大都市近郊地域の市街地景観に多様性と奥行きを付与する「アクセント」と「リズム」をコントロールすることで、これまで閑散としていた徒歩圏域の魅力化と、隣接する都市と併せた広域圏の価値向上に貢献すると考える。