デザイン学研究
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64 巻, 4 号
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  • 沈 得正, 佐藤 浩一郎, 寺内 文雄, 久保 光徳
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_1-4_8
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     本稿では,タケの構成要素である表皮,維管束,柔組織それぞれの部位を異なる色で染色した場合の印象変化と,各部位と色が生じる印象変化の検討を行った。まず,赤色,青色,緑色の3色の染料を用い,タケの各構成要素をそれぞれ染色してサンプルの制作を行った。次に,被験者実験による染色竹材の印象評価を行い,得られた結果に因子分析を実施した。その結果タケの各構成要素を複数の色で染め分けた竹材は,それらの活動性因子と評価性因子の印象が大きく変化することが確認できた。最後に,サンプルの各構成要素の測色値と活動性・評価性因子の得点を用いて重回帰分析を行った。これにより活動性因子の印象には表皮と柔組織の明度,柔組織の色相が,評価性因子の印象には維管束と表皮の色相が大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。
  • ―中国上海市崇明島の伝統的住居における「住まい方」(1)
    戴 薪辰, 植田 憲
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_9-4_18
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     1978年の改革開放以降,中国は飛躍的な経済成長を実現した。しかしながら,その一方で,地域文化の消失などのさまざまな社会問題が生起しつつある。本研究で取り上げた上海近郊に位置する崇明島においては,都市化に向け急速な開発が進められており,地域文化の消失が危惧されている。本研究は,崇明島において形成されてきた伝統的住居「宅溝」の日常生活の住まい方に着目し,それらを記録するとともに空間特質を明確にすることを目的としたものである。文献調査・現地調査に基づき,宅溝の構造とそれらに対応した日常生活における空間特質を把握した。結果として,住居空間には,5層にわたる重層的な内外の区別,ならびに,水平方向・鉛直方向の上下の区別が確認された。また,それらは,いずれも,建物の物理的なしつらいに加え,それぞれの空間に立ち入ることのできる人や時,また,出入りの仕方,植栽や紋様に付与された意味などが約束事として規定されており,日常生活における人びとの行為が連動することでその区別が演出されてきたことを明らかにした。
  • ―中国上海市崇明島の伝統的住居における「住まい方」(2)
    戴 薪辰, 植田 憲
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_19-4_28
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     今日,中国においては飛躍的な経済発展が実現したが,その一方で,伝統的生活文化が急速に消失しつつある。それは,単に物理的な側面のみならず,社会・生活の構造そのものの崩壊と言っても過言ではない。本研究は,中国上海市近郊の崇明島において形成されてきた伝統的住居「宅溝」の住まい方に着目し,それらを地域資源として再発見・再認識することを目指した調査・研究の第2報である。本稿では,非日常生活における空間特質を明確にすることを目的とした。調査・考察の結果,以下の各点が明らかとなった。(1)宅溝は人・神・霊が共住する空間と認識され,新年・羹飯の年中行事を利用してその存在を維持・更新が図られてきた。(2)公堂の空間は宅溝のなかで最も重要な空間であった。(3)結婚式では住居の複数の内と外の境が利用されるとともに強調された。(4)葬式では公堂に死者の身と霊に休息を与え,来世への準備を整える空間となった。(5)非日常生活において宅溝は儀式空間へと転換され,日常生活における空間特質とともに多義的な特質が構築された。
  • ―策定プロセスと Cognitive Design の概念に関する考察
    蘆澤 雄亮, 田中 幸一, 仙田 学, 鈴木 俊介, 水出 博司
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_29-4_38
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     日置電機株式会社では,デザイナーの職能・職責を明らかにし,かつ企業としてのデザインの方向性を明文化することを目的に,デザインポリシー策定に関する研究を実施し,「COGNITIVE.」を核としたスローガンおよび Cognitive Design という概念を導き出した.この Cognitive Design の概念について人間中心設計およびUX,タイムアクシス・デザインなどの概念との関係性から考察を行った結果,価値認識の各要素には「自身が認識可能な顕在表象」と「認識不可能な潜在表象」の2種類が存在し,それぞれの各要素には表象のしやすさにばらつきがあるため,表出化係数としてこれを示す必要があることが分かった.また,表出化係数が低い要素であってもデザインを行う際には検討が必要であり,経年変化など刺激 S の物理特性変化も踏まえた上で,最適なデザインを検討する考え方が Cognitive Design の骨子であることが分かった.
  • ―まちづくりの社会実験を事例として―
    西田 智裕, 伊藤 孝紀, 福島 大地, 仙石 晃久, 伊藤 孝行
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_39-4_48
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     まちづくりワークショップ(以下,WSとする) は参加者の声を反映しながら共同作業を進める有効な手法である。まちづくりWSは通常,対面式でおこなうため,情報伝達や空間把握を支援するが,時間・場所の制約という課題がある。筆者らは大規模合意形成支援システムを開発して,それを用いた非対面式WSをおこなってきた。これにより,時間的・場所的な制約を解決してきた。しかし,情報伝達や空間把握の支援に課題がある。
     そこで本研究では,まちづくりWSにおいて,対面式WS後に非対面式WSを組合せた手法を提案する。提案手法は,社会実験により検証する。社会実験は,地権者,住民,学生などが参加し,対面式WSの後に非対面式WSをおこなった。対面式WSと非対面式WSの議論について,単語抽出により分析した。提案手法により,議論に使われる単語が増え,より議論を広げる効果が明らかになった。また,心理評価により提案手法を良いと思うことがわかった。
  • 伊藤 孝紀, 福田 雄太郎, 松岡 弘樹, 西田 智裕
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_49-4_58
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     本研究では, 政令指定都市における観光計画書を対象とし, 体系化および施策についての分析を通して, 観光政策の実態を明らかにすることを目的とする。
     まず, 観光計画書を定量的に把握するために体系化をおこなった。さらに, その結果から施策に着目し, その特徴を把握するために類型化をおこなった。また, 類型タイプのさらに詳細な施策の特徴を把握するために, 重点が置かれている施策についての分析をおこなった。
     観光計画書の体系化では, 観光計画書を構成する要素として「導入」「現状把握」「目標・方針」「計画」「運用体制」「資料」についての指標を設定し, 政令指定都市における観光政策の傾向を明らかにした。また, 「計画」における基本施策から「内部資源活用・強化型」, 「外部発信・誘致型」の2つのタイプに類型化された。重点施策からさらに詳細な類型タイプの特徴をみると, 固有の観光資源や, 立地および観光状況によって観光資源の活用方法に差異がみられることを明らかにした。
  • ―初期段階の設計課題を通して―
    秋田 美穂, 恒川 和久
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_59-4_68
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     本研究は、建築の設計教育を受講する学生を対象に、学生が課題提出のために描いたスケッチの描画や記述に注目することで、設計の際に意識している対象を知り、学習成果を得ている事例を把握することを目的とする。
     建築系大学において、多くの大学で初期段階に実施されている立体を構成する課題や住宅を設計する課題提出のために描かれたスケッチの描画や記述の数と成績の関係を探った。また、描画や記述を時系列で具体的にみることで、設計の際に意識しているものを調査した。
     調査より、学習成果としてスケッチの描画の状態でも幅や奥行きそして高さなどの寸法を表記することや、スケッチの描画に人を表記している傾向がみられた。また、3次元に着想し、立体を構成する導入段階での課題から敷地を設定することで、設計の際に有用な方法とされている敷地や敷地周辺も視野にいれて設計を進めていく事例も把握した。
  • ―議論を起こす将来像の構成要素とその構造
    柴田 吉隆, 赤司 卓也, 伴 真秀, 鍾 イン
    2017 年 64 巻 4 号 p. 4_69-4_78
    発行日: 2018/03/31
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
     不確実性の時代を迎え,複雑な社会システムをどのように新しくしていくかの議論を促すための思索的将来像の提示が必要になってきている。本研究では,日立製作所で実施された2つの将来像作成のプロジェクトを通じて,議論を促す思索的将来像の構成要素とその構造について考察する。初めに作成した将来像では,従来のサービスデザインのプロセスを適用し,対象事業領域の動向を調べた上で生活者視点のシナリオを作成したが,議論が解決策に向かい,新しい社会課題の考察などのハイレベルな議論へ発展が困難であった。2回目の将来像作成では,生活者の価値観変化の方向性を示すことを主眼に置き,議論を持ちかける際の一貫した態度の設定と,将来社会の中での生活者視点の具体的な問題を複数のシナリオで伝えるよう将来像の構成要素とその構造を改善した。その結果,将来社会の新しい社会課題や当該社会における生活者の課題に対する意見をもとに,新しい社会システムのあり方を議論することができた。
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