本研究は、筆者らが研究・開発をしている介助用装着型補助具(以下、補助具)を要介護高齢者等の介助に使用した際の介助者の生理的負担の軽減について、人間工学の手法を用いた実験を通して検証することを目的している。実験は、①補助具を使用しない方法、②既製の介助ベルトを使う方法、③補助具を使う方法の3条件で行った。動作は、椅子に着座した被験者を抱え上げて立位姿勢にし、90°旋回して、他の椅子に抱え降ろすまでの移乗介助を行った。生理的負担の測定では、表面筋電図により、動作中の筋放電量を測定した。また、デジタルビデオカメラの記録データの動作解析により、姿勢や動作の分析を行った。その結果、表面筋電図では、補助具で背筋群の筋放電量が有意に小さいことが分かった。動作解析では、抱え上げ、抱え降ろす際の上体の前傾角度が補助具で有意に小さいことが分かった。このことから補助具を使うことにより腰部に集中していた生理的な負担が軽減することが明らかになった。
本論文は,シリコンバレー・モデルとしてのデザイン・シンキング(以下,DT)に着目し,日本の大企業を対象として,どのようにDTが活用されているかという点を明らかにした上で,今後,未採用の日本企業がDTを新たに導入するためのモデルを構築することを目的とする。DTに関連した文献調査を実施した結果,先行事例はコンセプト,ツール・メソッド・フレームワーク,ケース・スタディの3カテゴリに分類された。これらの結果を踏まえ,半構造化インタビューの設問の3つのパラメータ,理解度,導入レベル,発展性を設定した。10名のインタビュイーを対象としたインタビューを通じて得られたテキストデータをテキスト分析手法であるM-GTAを用いて分析し,5つの概念を発見した。本論文の貢献は,これら5つの概念を踏まえて構築された,日本の大企業がDTを新規導入する際に参照可能なモデルの提案にある。
本研究では,非営利団体のトークイベントにおける集客不振に対して,デザイン戦略の見直しを試みた。この過程でインサイトに気付くことは,それまでに気づけなかった新たな改善の視点が得られることから,デザイン戦略を検討する際に有効であると考える。この実証が本研究の狙いである。イベント企画時に設定したSTP4Pからプロモーションを展開したが,イベント開催3週間前の時点で事前申込者数は0人であった。これを受け,消費者行動をSIPSモデルで考えた上で,デプスインタビューを実施した。ここで,イベント企画時には気づけなかったネガティブなインサイトを得ることができ,SIPSモデルとSTP4Pを再設計してイベントのコンセプトとデザイン表現を改訂した。その後,参加申込者数をモニタリングし,改善の要因を検討した。