デザイン学研究
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68 巻, 4 号
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  • ─「不便益」を生み出すための新たなアプローチの要件整理
    影山 友章
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_1-4_6
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     “手間や労力がかからない製品やサービスの方が優れている”とされる,従来の価値観とは異なる,「不便益」という考え方が近年注目されている。一方,不便益を備えた物事を生み出すための方法論は,まだ未完成であると言える。本研究の目的は,「不便益を備えた製品やサービスを生み出すための方法論」を構築することである。そして,その目的を達成するために,新たなデザイン指標の仮説として「製品の使用過程における“余白”」を提案する。これは,製品やサービスを使用する際に,ユーザーの行動や意思がどれだけ介在できるのかを示したデザイン指標である。本研究では,その指標を実際のデザインプロセスの中で活用できるようにするために,概念の整理,細分化を行なった。そして,プロダクトデザインを専攻する大学生のデザイン実践に,整理された余白の概念を取り入れることで,そのアプローチの有効性の確認を試みた。結果,不便益を備えたいくつかのデザインアイデアを生み出すことができ,理論構築の足掛かりを築くことができた。

  • ─スケッチを用いたインタラクティブシステムの先行イメージの導出
    坂口 和敏, 小林 延至, 白坂 成功
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_7-4_16
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     人間,人工物,環境で構成されるインタラクティブシステムの統合には思考活動の前提となる先行イメージが必要となるが,その構築モデルの具体が示されていない。本研究ではシステムを導出できるようにするために先行イメージの構築モデルの仮説提示と検証を行なった。その結果,以下3点を確認した。1点目は場所的拘束条件がアイデアのテキストやスケッチに反映されていること。2点目は場所的拘束条件に基づく場の推論的仮定によって,人間,人工物,環境の関係がスケッチに可視化されていること。3点目は先行イメージに基づくシステムが可視化されたスケッチに含まれていること。つまり,場所的拘束条件を満たすスケッチはシステムの境界,システム内部の相互作用,システムと外部の相互作用を特定できる。以上のことから,システムを含む組織化された先行イメージが頭の中に構築され,その一部がスケッチに可視化されることを確認した。

  • 蔡 宛蓁, 佐藤 浩一郎, 寺内 文雄
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_17-4_24
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,材質の異なるボウルを用いることで,食品をより塩辛く,あるいはより甘く感じさせることを試みた。まず,異なるフィラーを用いた5種類の磁器製ボウルと2種類の単一金属製ボウルを作製し,それらの外観や手触り,重量に対する印象評価実験を行った。それにより,金属製ボウルからは塩味が,漆喰紙や鉄粉をフィラーとした磁器製ボウルからは甘味が連想されることが確認できた。ついで正規化順位法を用い,作製したボウルに入れた塩水と砂糖水を口に含んだ際の塩味や甘味の強弱を被験者に比較してもらった。その結果,金属製ボウルや口縁がザラザラしたボウルを用いることで,塩味を強く感じることが明らかになった。また,漆喰紙や鉄粉をフィラーとした磁器製ボウルと純銅製ボウルを用いることで,甘味を強く感じることが明らかとなった。さらに回答パターンによって類型化するにより,被験者を2つのグループに大別でき,それぞれのグループの塩味や甘味の強弱に対する評価の特徴を明らかにすることができた。

  • 伊藤 孝紀, 長谷 真彩, 西田 智裕
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_25-4_34
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究では,政令指定都市における総合計画の基本計画を対象に,クリエイティブ政策の特徴を定量的に把握し,体系化をおこなうことを目的とする。
     クリエイティブ政策のアイテム・カテゴリーを設定し,基本計画の集計をおこなった。重点のおかれている「目標」「計画」から,「都市・文化型」「産業・観光型」の2タイプに類型化された。また,タイプと人口の関係図を作成した。「都市・文化型」は人口が 100 万人未満であり,2000 年以降に政令指定都市へ昇格した市が多く,「産業・観光型」は人口 100 万人以上であり,経済成長期に政令指定都市に昇格した市が多いことが明らかになった。各タイプの具体的な政策に着目し,地域に根付いた文化や産業,資源を活用したクリエイティブ政策が策定されていることがわかった。

  • ─地域内外の生成目的を持つご当地キャラクターを事例として
    宮原 佑貴子, 畔柳 加奈子, 櫛 勝彦
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_35-4_44
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     2010 年前後、日本各地にご当地キャラクターが活発に生成され注目を集めた。現在、各地ではご当地キャラクターが地域へもたらした効果を振り返り、今後の継続的な活用を再考する動きが出てきている。本研究は、地域を象徴する特徴を取り入れた各地のご当地キャラクターの生成過程を事例として収集し分析することによって、地域固有の資源を生かした象徴的造形の活用と効果について考察するものである。本稿では、筆者らが2019年に実施した全国のご当地キャラクター運営組織を対象としたアンケート調査と量的分析の結果を踏まえ、聞き取り調査と質的分析をおこない、ご当地キャラクターの生成過程を含む包括的な活動についての理論的構造化を試みた。その結果、「対外的生成目的型」は、戦略的な運営によるイメージ定着、「対内的生成目的型」は、柔軟性のある活用による地域住民の参加が、重要であることがわかった。

  • 堀川 将幸, 藤村 諒, 佐藤 浩一郎, 寺内 文雄
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_45-4_54
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,精神的充足に向けたデザインを行うための指針を導出することを目指し,習慣化に関する主体的行動を対象とした精神価値の成長要因を明らかにしている。具体的には,まず,ハマるに至るきっかけから定着化するまでの習慣化に関する主体的行動を調査し,その経験価値の変化の特徴を分析し,これらの結果に基づいた経験価値変化モデルを提案している。次に,習慣化,定着化に至った主体的行動の事例を対象として,評価グリッド法とクラスター分析を実行した。その結果から,習慣化に関する主体的行動における精神価値の成長に起因する4つの心理状態「高揚感」「平穏感」「好奇心」「向上心」が,価値実感期,価値成長期,価値定着期の3期において変化し,定着化するプロセスを示している。また,各状態の具体的な成長要因として,価値実感期での感動体験や潤沢な体験,価値成長期での共同体験や上達体験,価値定着期では日常化体験や到達体験を導いている。さらに,これらの成長プロセスの変遷を考察することで指針構築の一助とした。

  • ─透析装置デザインの歴史と将来の透析装置デザイン(1)
    谷口 武司, 小野 健太, 渡邉 誠
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_55-4_64
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     透析装置の開発は、患者への安全で快適な治療の提供と医療従事者の負担軽減が目的であった。その実現のためには、技術のみならずデザインが果たした役割が大きい。本稿では透析装置デザインをモジュールの組み合わせととらえ 50 年間のモジュール変遷を検証した。初代の透析装置は 7 モジュールで始まった。人工腎臓であるダイアライザー、血液が循環する血液回路、透析液原液が入る原液タンク、透析液を生成する透析液調整部、設定を行う操作部、治療や設定状況を確認する表示部、これらを制御する電装部である。モジュールは小型化され統合されるものもあれば、高機能になり大型化するモジュールも見られた。さらに、あまり変化が見られないモジュールもあった。透析装置デザインに大きな影響があった変遷として、日本独自のモジュール方式が出現したこと。血液回路とダイアライザーが量産化され小型化が進んだこと。表示部と操作部は一般技術の影響を受け大きく進化したこと。電装部と透析液調製部は筐体容積の大部分を占めており、それらの構成は初期から現在まで変化が無いことなどがあげられる。

  • 岩藤 百香, 松本 正富, 青木 陸祐
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_65-4_70
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,小児がん患者に対するインフォームド・アセント用説明資料に着目し,導入実態とデザイン概要を検討してその普及に向けた課題を明らかにすることを目的とした.日本小児がん研究グループに属する197病院における小児病棟勤務の看護師を対象として,資料作成の実施状況および意識について郵送アンケート調査を実施した.回答した 69 病院のうち説明資料を作成しているのは2割に留まり,作成スキルの不足や業務負担増加等の理由から実施に至らない病院が多かった.一方で,資料を作成している側の看護師は汎用的なパソコンソフトを用い,資料の視覚的なデザイン性を重視している現状が捉えられた.既存の院内作成された資料には「紙芝居タイプ」と「プリントタイプ」の2つが存在した.導入率が高い「プリントタイプ」は,患児の年齢に応じてカスタマイズされるなど個別対応に配慮がなされている反面,病気や治療についての情報量に限度がある,平易な説明を補助するための直接的な図解が乏しい,などといった課題が認められた.

  • ―高速道路 SA/PAにおける可変式情報板による情報提供を例に―
    大島 創, 滝沢 正仁, 山本 浩司, 田中 伸治, 服部 泰夫
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_71-4_80
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     高速道路の SA/PA に設置される情報板のデザインを事例に,利用者の多い時間帯にドライバーに行動変容を促し,駐車レーン選択の偏りによって生じる駐車困難な状況を解消する,情報伝達の要件を明らかにした。手順は,既存の情報提供の課題,運転行動モデル,リスクテイキング,ヒューマンエラーの関係を整理し,必要な表示内容を導き,導いた表示内容の効果を Web 調査および分析により検証した。その結果,ハザード知覚エラーやリスクテイキングを防止し,適切なレーン選択を促すには,リスク見積りの不確実性を解決し,ドライバーが「混雑状況の比較に基づいて選択可能」な情報が必要なこと,「空き台数のような具体情報」を表現の中心に据え,これを補う「抽象化した駐車ブロック」,「濃淡で分けて進むべき方向を明示した矢印」,「乗用車で表現した現在地」で構成し,駐車場の全容が把握できるように表示内容を構成すべきことを導いた。

  • ─オリジナル画像群と加工画像群の印象評価値の差違に基づいて
    前川 正実, 青谷 聡美
    2022 年 68 巻 4 号 p. 4_81-4_90
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,具象的な被写体の写真画像を加工して反リアル性を持たせた画像がもたらす印象変化の把握である。精細かつフルカラーのオリジナル画像と加工画像に対して SD 法による印象評価がなされた。各評価項目における各加工画像群の多重比較結果から次の事柄が確認された。オリジナル画像群に対する加工画像群の相対的な印象は,各評価因子において一様に,「非活動的」,「暗い」,「悪い」,「かたい」となる。他方,加工画像群間の印象差からは,「フルカラーからの無彩色化を伴う減色加工」は,「粗画像化加工」と比較して,印象変化に与える影響が大きいと考えられた。この他,次の事柄が示唆された。無彩色画像間においても,「減色加工」は「粗画像化加工」よりも印象変化に与える影響が大きい可能性があり,グレー16色画像群に対する白黒2値化画像群の相対的な印象は,「明るい」,「良い」となる。

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