デザイン学研究
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69 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • ―長岡市に住む20〜30 代の若者を事例としたMaxQDA による日本酒に対する嗜好や趣向の分析から
    軍司 円, 板垣 順平, 砂野 唯
    2022 年 69 巻 2 号 p. 2_1-2_10
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

     日本国内において、日本酒の消費量減少が危惧されるなかで、新潟県の中部に位置する長岡市では、日本酒を積極的に飲用する若者や潜在的に日本酒を飲用する若者が多く存在する。
     本研究では、長岡市に住む20~30 代の若者を事例に日本酒に対する嗜好や趣向に関するアンケートや半構造的インタビューを実施し、それらの情報から、長岡市内の若者の日本酒への興味関心を促すラベルやパッケージのデザイン要素の抽出を試みた。
     その結果、感覚的要素と形態的要素の二つがデザイン要素として提示された。前者は、日本酒の「同工異曲」な性質を直感的に理解・イメージできるような視認性の高さと、季節感や可愛さ、馴染みやすさなどの形容表現が挙げられた。後者は、一升瓶や四合瓶に加えて、一度で飲み切ることができる少量の酒瓶サイズを展開することなどが挙げられた。これら二つの要素を日本酒のラベルやパッケージに生かすことで若者の日本酒への興味関心や購買意欲を促すものとなり得ることが明らかになった。

  • ―中国貴州省黔東南苗族トン族自治州榕江県における実態調査を中心として( 1 )
    王 建明, 青木 宏展, 植田 憲
    2022 年 69 巻 2 号 p. 2_11-2_20
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,中国貴州省黔東南苗族トン族自治州榕江県における苗族の伝統的な服飾である「百鳥衣」を対象として,図柄の種類や意味,構造を明らかにしたものである。調査・考察の結果,次の知見を得た。(1)百鳥衣の図柄の種類は,さまざまな動植物,神話,人間,幾何学図柄を含み,そのなかで鳥,魚,龍,鶏が共通の図柄として扱われる場合が多い。(2)百鳥衣の図柄は,意味の観点から,①身の回りの自然界に存在する類型Ⅰ,②身の回りの自然界に存在しかつ古歌・民話にも語られている類型Ⅱ,③苗族の古歌あるいは伝統的民話をもとに創作されたと思われる類型Ⅲの3つに分類される。類型Ⅰの図柄には主に現実世界に存在するもの,類型Ⅱと類型Ⅲの図柄には主に精神世界が象徴されており,百鳥衣には総じて人びとの世界観が如実に反映されている。(3)百鳥衣の図柄を構造の観点からみると、「主図柄・従属図柄・並列図柄」「動物・動物」「動物・植物」の組み合わせや,「雌・雄」の区別,図柄の位置・寸法などに一定の約束事が確認された。苗族の人びとは「主図柄」により精神的な力を強調する一方で,その対比として「従属図柄」は物質的なものを重視している。「百鳥衣」の「上部」は「天上・神」を象徴し,「下部」の裾の位置に「人間」「他界」を表していることがうかがえる。

  • ─中国貴州省黔東南苗族トン族自治州榕江県における実態調査を中心として(2)
    王 建明, 青木 宏展, 植田 憲
    2022 年 69 巻 2 号 p. 2_21-2_30
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,苗族の伝統的服飾「百鳥衣」が苗族の人びとの生活づくりに寄与する役割を明らかにすることを目的としたものである。制作・着用・保管の文化を調査・考察し,以下の知見を得た。(1)百鳥衣は身の回りの自然から得られる竹皮・羽・板・樹尖・糠などの資源を利活用し,蚕糸布・薏苡珠・鶏の羽に意味を付与しつつ継承されてきたものである。(2)百鳥衣の着用の類型は鼓蔵節・婚礼・葬礼での着用に関する約束ごとに基づき,4つに分けられる。①鼓(男)・鼓(男)型。②鼓(男)・婚(新婦)・鼓(男)型。③鼓(男)・葬(男)型。④鼓(男)・婚(新婦)・葬(男)型。百鳥衣は,村の共同祖先を祀る鼓蔵節のために制作し着用されるが、祝いの行事である婚礼式にも着用されてきたことがわかる。(3)百鳥衣は制作者,着用者,保管者の関係から見ると,当該地域における苗族の人びとの家族の世代間,村落の人びとの交流を促し,共創意識を創出してきた。(4)以上の(1)~(3)を踏まえると,百鳥衣は,苗族の人びとが,当該地域における生活を構成するもの,人,ことといったさまざまな要素をつなげ共生・共存・共創の生活づくりの知恵を創出・継承する媒体として重要な役割を担ってきた。

  • 櫻井 かのこ, 山本 政幸
    2022 年 69 巻 2 号 p. 2_31-2_40
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

     シピ・ピネルズ(Cipe Pineles, 1908-1991)は,第⼆次世界⼤戦後のアメリカの出版業界で活躍し,20世紀における経済成⻑と社会変動の時代に重要な役割を果たした。その貢献のひとつは,当時新たに存在感を増した⼤衆雑誌,とりわけ若い⼥性をターゲットにしたファッション誌の編集に携わったことである。⼥性初のアートディレクターとして数々の編集に関わり,10代の⼥性や働く⼥性というこれまで社会的にも経済的にも⽬を向けられていなかった⼈々に注⽬し,誌⾯構成を駆使して広い読者層を取り込むことにより,新しい視覚⽂化を⽣み出した。グラフィックデザイン界で数々の功績を収め,⼥性の社会進出に向けた先駆的な役割を果たす⼀⽅で,仕事のストレスや⼥性としての幸せに思い悩んだ末に⾃殺未遂を図るなど,公私のコントラストが際⽴つピネルズの⼈⽣は,⼀⼈のデザイナーの成功事例を⽰すだけでなく,性差別や社会問題に取り組む現代社会において⽰唆に富む内容といえる。本研究は,新しい⼤衆雑誌づくりの基盤を築き,⼥性のためのデザインの歴史をつくったピネルズの業績を明らかにする。

  • ─九州7 県の伝統工芸産地事業者を対象にした質問紙調査より─
    大淵 和憲
    2022 年 69 巻 2 号 p. 2_41-2_50
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

     本研究では、九州7 県の伝統工芸産地事業者を対象とした質問紙調査を通じ、伝統工芸産地における社会課題解決に向けた取組みの現状把握を行った。さらに産地の基本属性や経営状況との関連性に注目し、クロス集計を用いた分析を行うことで、単純集計からは見いだせない関係性を抽出することができた。
     特に、女性の活躍促進等を従業員に呼び掛けている事業者は、「経常利益が横ばいかあるいは増加している」等のポジティブな要素との関連が見出された。分析を通じて、社会課題解決に向けた様々な取組みが、伝統工芸産地の存続という課題に対して有効であることが示唆された。
     今後、実際の取組みに関する調査を通じて、伝統工芸産地の課題解決に向けた実効性に結び付く要素の抽出と検討が必要であると考える。

  • ─車両速度と交通密度および大型車混入率を変数として作成したCG 動画を対象として
    永見 豊, 山中 真琴, 中川 浩
    2022 年 69 巻 2 号 p. 2_51-2_56
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

     首都圏の都市間高速道路では、約2km 間隔に設置されたトラフィックカウンタを用いて計測されたデータによって交通流の状態を把握し、交通情報を提供している。この情報提供は情報板の文字や、地図の路線上に渋滞状況を色で示すのが一般的であり、実際の交通の流れは想像しにくいものになっている。交通状況データを用いて交通の流れをCG 動画で視覚化すれば、交通状況の直感的な理解に役立つと考えられる。しかし、計測データ毎にCG 動画を生成するのは効率的とはいえない。そこで、トラフィックカウンタで計測される車両速度と交通密度および大型車混入率を変数としてCG 動画を作成し、交通流イメージのグループ化を試みた。その結果、走行速度と交通密度を変数とした類似度実験では、昼夜に限らず高速域では交通密度、低速域では車両速度の違いが交通流イメージに影響するという関係を見出した。大型車混入率を変数とした実験では、その違いには大きな差はなく、大型車混入率20%程度の変化で違いを認識できるという傾向を見出した。

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