デザイン学研究
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69 巻, 3 号
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  • ─伝統民居の造形にみる文化的特質(1)
    蒋 蘭, 青木 宏展, 植田 憲
    2023 年 69 巻 3 号 p. 3_1-3_10
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     本稿は,中国遼寧省北鎮市の民居である平房を対象として,屋外空間の配置,母屋の構え,間取り,屋内空間の配置,および生活設備の配置などを調査し記録するとともに,それらの使い方を踏まえ,家屋が具備する意匠的特質を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の知見が得られた。(1)平房には満洲族と漢族の両者の生活の知恵が表出している。(2)平房における生活空間は,複数の門や屏で仕切られることによって,複層的に構成されている。(3)高齢者や男性を尊ぶ風習,「男性は仕事,女性は家事」といった秩序,神との共生といった伝統的な様式が重視される一方で,形や間取りは生活する人びとの需要に応じたある程度自由な設定が許容される。(4)長方形の間取りや幅広の窓や厚い壁,炕など,寒冷地である当該地域の気候に対応した工夫を確認することができる。(5)山地・平原・低地といった地域特性に対応して材料選択がなされてきたことが認められる。

  • ─伝統民居の造形にみる文化的特質(2)
    蒋 蘭, 青木 宏展, 植田 憲
    2023 年 69 巻 3 号 p. 3_11-3_20
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     本稿は中国遼寧省北鎮市における民居「平房」の建設過程とその内包された文化的特質を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察した結果,以下が明らかになった。(1)平房の建設過程と手順は人びとに周知され,図面などの資料は用いられなかった。(2)建設資材は現地での調達が優先され,効果的な材料の組み合わせに工夫を凝らし,材料を巧みに用いた。(3)地産材の制限に応じて,建造物の細部が適宜調整された。(4)人びとの互助行動は自発的に行われており,その関係は生活の交流において構築された。(5)職人と手伝人の年齢構成から地域的な建設の知恵が継承されていた可能性が示唆された。(6)建設過程においては建設に関する事象は家主が担当し,賄いに関する事柄は女主人が受け持つ「男主外,女主内」という家族秩序が表出された。(7)建設過程からは人と神との共生を尊重する観念がみられた。

  • ー日経ニューオフィス推進賞の受賞作品を対象としてー
    伊藤 孝紀, 岡田 亮汰, 原 希望
    2023 年 69 巻 3 号 p. 3_21-3_30
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では, 日経ニューオフィス賞における共用空間を対象とし,ワーカーの感性と創造力を高め, 知識行動を誘発する空間の特徴と変遷を明らかにすることを目的とする。
     日経ニューオフィス賞受賞作品を紹介する書籍における, キャプションのテキストマイニングをおこない, 空間の設計意図やデザインを把握した。 また, 掲載写真から共用空間の空間構成 ・ 家具 ・ 仕上について定量的に把握するため, アイテム ・ カテゴリーを設定し,5年毎の年代別に集計した。
     テキストマイニングから, 共用空間は可動家具やカフェ ・ 食堂を配置することで, 社員の交流を促進するコミュニケーションの場として活用され,集中して作業できる 1 人の空間から, 社内イベントおよびセミナーといった大人数の利用を想定した設えが特徴としてみられた。 掲載写真の集計から, 木を用いた家具や仕上が年代を追う毎に増加し, また, 植栽や仕上が多様化していることを把握した。

  • ─グループ,教員,連携先との関わりに着目して
    増田 悠紀子, 伏木田 稚子, 池田 めぐみ, 山内 祐平
    2023 年 69 巻 3 号 p. 3_31-3_40
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,デザイン産学連携プロジェクトに参加した学生の経験とクリエイティブ・コンピテンシー(CC)の獲得実感との関係を明らかにするため,質問紙調査を行なった。78名の学生から回答を回収し,因子分析と相関分析を行った結果,学生のグループとの関わりである「グループでの制作に必要な情報収集」と「グループメンバーとの相互協力」,連携先との関わりである「連携先による制作へのフィードバック」「連携先からの導入の情報提供」「連携先とのコミュニケーション」の経験がCCの獲得実感と関係していた。一方で,教員との関わりはグループ・連携先との関わりと比較すると,CCの獲得実感との関係が弱かった。このことから,産学連携プロジェクトの活動において学生のCCの獲得実感を高めるためには,グループ・連携先との関わりが重要であることが示唆された。

  • ─ネットワーク分析を用いた文献研究
    長尾 幸郎, 大井 美喜江
    2023 年 69 巻 3 号 p. 3_41-3_50
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     研究目的は、デザイン思考(Design Thinking)に関して学術分野でこれまでどのような研究テーマが展開されてきたかの変遷を時系列で分析し、全体像を捉えることにある。Web of Scienceに収録された学術論文の書誌情報を対象に、ネットワーク分析を用いてクラスタリングを行い、1,986本の論文から16のクラスターおよび各クラスターの中心論文を特定しながら考察を深めた。論文は3分野に分かれる。第一は理論体系化研究である。1991年から2003年までの主要な研究は工業デザインのデザインプロセスに関する理論研究であった。その後も研究が継続的に行われ今日ではデザイン思考によるプロジェクトの評価についての研究もおこなわれるようになってきている。第二に、教育分野への活用を試みる研究が2004年から始まった。2015年以降はより幅広い分野で創造性を育むためにデザイン思考の研究が活発に行われている。第三に、ビジネス分野への活用が2004年から始まり、様々な業種での研究が拡がり最も論文数の多い分野となっている。今日では組織研究、医療業界関連の研究が急増し、サステナビリティ、政策立案へ適用する動きも論文数はまだ少ないが徐々に増加してきている。

  • ─ユーザーの行動を中心としたアプローチにより意欲を引き出す試み
    渋谷 友紀, 安齋 利典, 柿山 浩一郎
    2023 年 69 巻 3 号 p. 3_51-3_60
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     サービスデザインの人材育成への汎用事例は拡大しているが,育成される側の内的変容の評価を介した有用性は明らかにされていない.本研究では,人間中心設計のプロセスに則り,サービスデザインの手法であるカスタマージャーニーマップとサービスブループリントを応用して,看護教員用の学習教材を作成した.カスタマージャーニーマップとサービスブループリントは,学習者の環境要因も含めた状況の理解を深め,共感を得られる課題の抽出や,学習者が行動をおこすために必要な知識を効率よく組み合わせる方法として有用であった.評価結果から,作成したプロトタイプは学習者のモチベーションへの働きかけや,課題を解決し行動を起こした結果のイメージ化に寄与することで,学習者の意欲を引き出す教材の提案となった.このことからサービスデザイン手法が学習教材の作成において新たなアプローチ方法として有用であることがわかった.

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