本研究は,相模原麻溝公園を事例として,都市公園の園路歩行時に注視する視対象に着目し,視対象の種類と印象を分類して把握し,クラスター分析によって視対象の類型を抽出することで,園路歩行時における快適性に関わる視対象の役割を明らかにすることを目的とする。園路上に調査ルートを設定し,キャプション評価法を用いて,写真記録と評価の分析による視対象の分類と快適性に関わる類型抽出のための調査を行った。園路歩行時に注視する視対象は,人工要素,自然要素,人,経路,眺望の5項目,視対象の印象は,機能・環境,眺め,自然,美観,感情・感覚の5項目に分類された。園路歩行時の快適性に関わる視対象は,期待感,開放感,安心感,自然の豊かさ,心地よさ,違和感(目立つ),興味,季節感,違和感(汚れ),寂しさ,危険,各人固有の印象(3類型)の14の類型が抽出された。これらの類型から,視対象には,公園施設や経路と歩行空間の安全性の確認のための機能的役割と,植物や眺望,人の景を眺める観賞的役割の二つの役割を見出すことができた。
地域資源は,多様な人々が多様な価値観のもとに利用しており,共に価値を創り出す“地域共創”を目指しながら,地域資源利用の設計を推進することが重要である。本研究では,地熱・温泉資源利用を例に挙げながら,従来の地熱開発の設計を探究の枠組みで一度整理し,既存の設計の枠組みにおけるフレームの影響を認知科学的・数学的・哲学的な視点から理解することを試みた。地熱開発の設計について,自然状態の理解を目的とした受動的探究と,開発条件の選定を目的とした能動的探究に二分し,それらが自由エネルギー原理に基づいてベイズ更新の枠組みで記述できることを示した。C.S. パースの論理学・倫理学・美学の区別を導入し、従来の設計の中のフレームの役割を明確化し,またリフレーミングが人間の自然の行為であることを示した。自由エネルギー原理に基づいてリフレーミングが起きやすい場を考察することで、非日常の場が円滑な地域共創を促進できる可能性があると示唆できる。
本研究では,室内緑化を含むクリエイティブオフィスの空間の特徴と変遷を把握することを目的とする。年代毎の室内緑化を含む作品の増減の把握をおこない,さらに作品情報を5年毎の年代別に集計した。また,空間種別毎の植物配置の傾向を把握するため,5年毎の年代別に集計した。さらに,植物配置毎の空間の特徴を定量的に把握するため,室内緑化を含む作品の空間構成・家具・仕上を植物配置毎に集計した。室内緑化を含む空間の特徴を以下に述べる。室内緑化を含むクリエイティブオフィスは年々増加しており,知識創造の知的活動に関わる空間において多く用いられるとわかった。さらに,植物配置毎にリラックス促進を中心として知的生産性の向上の効果を促進するような空間の設えや素材が用いられるとわかった。
本研究の目的は、地域において新しい発見を促す「考えるカメラ」ワークショップ(以下「考えるカメラ」WS)をメディア・プラクティスとして捉え、考察することを通じて、地域を表すメディア・プラクティスの観点を提示することである。地域を見直すための個人視点の重要性を考慮し、「考えるカメラ」WS は、個人視点を表す写真表現に重点を置き、ビジュアル・エスノグラフィーの手法を参考した、地域において新しい発見をするためのビジュアル手法である。筆者はかつて、市ヶ谷での実践を通じて、地域における新たな発見を促すことの有効性を考察したが、写真を通じて表現された個人の視点に関する検討は足りなかった。地域性を考察する際、場所をどのように認識しているかについて考慮することが必要である。そのため、本稿では、「考えるカメラ」WS における背景・デザイン・実施したワークショップを紹介し、メディア・プラクティスの側面から「考えるカメラ」WS を考察して、写真で地域を表現する行為を模索した。この考察を踏まえて、「考えるカメラ」WS のコンテキストモデルを再考し、これからの地域デザインとまちづくりに向けて、地域を表すメディア・プラクティスという新しい観点の可能性を提示した。
本稿は,中国江蘇省南京市佘村における歴史的建造物・潘氏祠堂を対象として,文献調査,現地調査に基づき,建造当初の内部空間の構成要素,構成する材,装飾文様を再現し記録するとともに,その構造と空間特質を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の知見が得られた。(1)潘氏祠堂には水平方向ならびに鉛直方向の空間秩序が存在していた。門堂,享堂,寝堂は奥に行くほど高位であり,それに伴い床面や屋根などが高くなっていた。(2)門堂,享堂,寝堂の順に「陰から陽へ,陽から陰へ」と変化する「陰陽交替」の空間配置が存在していた。(3)奥に行くほど材料の使用量が多く質も高くなり,実際の用途に適した材料が用いられていた。(4)日常・非日常の両面において人びとが集まる享堂は,耐荷重性能が高い床材が使われるとともに,吸音性能が高い空洞壁にされるなど用途に則した構造となっていた。(5)奥に行くほど文様が多く,また,空間に応じて異なる意味を持つ文様が配置された。このように,同建造物は道徳・倫理観を共有する役割を果たしていた。
本稿は,中国江蘇省南京市佘村における歴史的建造物・潘氏祠堂を対象として,文献調査,現地調査に基づき,建造当初における日常生活および非日常生活の使い方などを再現し記録するとともに,空間演出を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の知見が得られた。(1)潘氏祠堂は,佘村では日常生活にも積極的に利用され,中国の他の多くの祠堂とは異なっていた。(2)日常生活では,教育や議論,納税,福祉,賞罰の場として宗族の運営に貢献していた。(3)非日常生活では,祭祀や人生儀礼の場として多様に利用され,「三礼の秩序」に基づいて配置されていた。(4)祠堂への出入りや動線も日常と非日常で異なり,巧みな時間・空間演出が行われていた。(5)潘氏祠堂は,人と祖先が共享する空間と認識され,人びとの祖先の加護への感謝と共同体への帰属意識が強化されていた。
本研究の目的は、日本の更年期の女性のメノポーズケアに対する意識を明確にし、その課題を明らかにすることである。
本研究では、30 人の更年期の働く女性を対象にしたネットワークアンケートと、5 人のフェムテック関係者へのインタビューを基に、更年期に対するネガティブな意識や、運動習慣の促進、食生活の改善といった健康維持に対するニーズを把握し、メノテックデザインの可能性を検討した。アンケートとインタビューを定量的および定性的に分析した結果、メノテックデザインの活用により、更年期女性の健康支援が可能であるとの認識が得られた。特に、デザインを通じて更年期に対するネガティブな印象を和らげ、ポジティブな側面を強調することの重要性が明らかになった。また、これらの製品やサービスを通じて持続可能な収益モデルを構築することが、メノテック業界の成長には不可欠である。
先行研究において,嚥下機能および認知機能のリハビリテーションに活用する顔ジャンケンプログラムを開発した。顔ジャンケンの「チョキ」の表情で,口を左右に伸ばし口角を上げて笑った顔になる表情設定によって,気分が改善する心理的効果が期待できるプログラムである。タブレット端末やPC を用いて実行できるため,高齢者が在宅で一人でも,スタッフが限られる医療機関でも,手軽に活用することができる。本研究では,PC に提示した顔イラスト画像に対して顔ジャンケンを実施した場合と,人対人で現実に顔ジャンケンを実施した場合の心理評価を比較した。その結果,顔イラスト画像の場合と現実の人の場合の心理評価に差はなく,顔イラスト画像の場合も現実の人の場合と同様に気分が改善する心理的効果が認められた。これにより,顔イラスト画像を用いて手軽にリハビリテーションに取り組むことができる顔ジャンケンプログラムの意義が示された。患者や高齢者,医療スタッフのリハビリテーション支援として新たな位置付けとなる。