現在動物園が発行する将来計画について動物園同士が相互に評価できる客観的指標がなく、各園が独自性を十分に持てず運営している点を課題とし、将来計画と、動物園が掲げる種の保存、教育・環境教育、調査・研究、レクリエーションの4つの役割の関係性に注目し、今後動物園運営において将来計画を考える上で必要な指針を導出することを目的とする。文献調査より、来園者数上位10の公立動物園のうち、福岡市動物園のみが来園者目線の共感されるコンセプトがなく、具体的な行動案が提示されていなかった。これを踏まえ、フィールド調査として本園を事例とし、飼育員を包括した共創型ワークショップを実施した。その結果「飼育担当職員が考えるまた来たくなる動物園計画(案)」を作成し、来園者、職員、他動物園関係者による評価を実施した。最後に、今後動物園運営において必要な指針として、①飼育員の視点から将来計画を考える、②ステークホルダーの関係性を明確化する、③具体的な行動案を提示する、④具体的なサービス内容を提示する、の4つを提案した。
地域活動や地域コミュニティへの参画の動機づけのひとつに小規模な地域の場が注目を集めている。一方で、参加者が小規模な地域の場への初参加時以降も再来するために有効なアプローチについては検討の余地がある。
本研究は、地域コミュニティやまちづくりプロジェクトなどで活用が期待されるインフォーマルコミュニケーションを主軸とした小規模な対話の場を筆者自ら企画・運営し、初参加時以降もこの場に再来した参加者8 名と初参加時以降この場に再来しなかった者3 名の口述情報をMaxQDA によって帰納的に分類し、それらの結果から参加者が初参加時以降も再来することにつながった要因の提示を試みた。初参加時以降もこの場に再来した者の多くは、雑談を主調としながらも、その内容は愚痴や悩み相談などのネガティブなものが含まれ、さらにその詳細な属性としては、参加者自身の過去の話や性格・特徴などにかかる情報が多くみられた。つまり、初参加時に筆者や他の参加者との関係が十分に構築できているとは限らない段階において、対話のなかで「自己開示」が行われていることが示唆された。
本研究は,右肩上がり手書き文字の印象について評価するために二つの実験を行った。実験1では,大学生20人に0度から36度まで右上がりになるように配置した手書き風フォントのポスター画像の実験刺激を提示した。実験参加者は,その実験刺激の文字の印象について形容詞対を使って評価するように求められた。その結果,右肩上がりになるように配置された手書き風フォントには美しさの印象を向上させる効果は認められなかったが,躍動感に関係する印象は強められることが示された。実験2では,実験1の結果が手書き風フォントに特有なのかを調べた。大学生20人に実験1と同様のポスター画像の実験刺激を提示し,その実験刺激の文字の印象を評価するように求めた。実験刺激は,手書き風フォント,明朝体,ゴシック体の3種類と,文字の角度は0度,12度,24度の3条件を用意した。その結果,右肩上がりによる躍動感に関係する印象の向上はすべてのフォントで共通していること,その効果は手書き風フォントで最も強く認められることが示された。
本論文では,Early and Unpublished Writings of Christopher Alexander“Chapter 2. Contents, Preface and Part One in early draft of Notes on the Synthesis of Form, 1960”(1960原稿)の分析を行った。分析の結果,以下の重要な知見が明らかになった。(1)1960 原稿は,ダイアグラム・ツリー・システムを提案しているが,ダイアグラムについては考察を行っていない。したがって,その提案されたシステムは,「(ダイアグラム)・ツリー・システム」である。(2)「ダイアグラム・ツリー・システム」の理論的背景に,『生物のかたち』を追加する。(3)1960 原稿には,パターン・ランゲージの理論的背景として極めて重要な概念が説明されている。それは,「文化」「コンテクスト」「言語」「形の産出システム」「システムの形式的(数学的)定義」,「(セミ)ラティス」である。(4)「(ダイアグラム)・ツリー・システム」の理論的背景には,「文化人類学」がある。(5)「(ダイアグラム)・ツリー・システム」の理論的背景には,『頭脳への設計』もある。(6)「ダイアグラム・ツリー・システム」の理論的背景に,『頭脳への設計』を追加する。 (7)1960 原稿では,「(セミ)ラティス」が棄却されている。
本論文では,Early and Unpublished Writings of Christopher Alexander“Chapter 6. Center for Environmental Structure seminar report, excerpt, 1967”の分析を行った。分析の結果,以下の重要な事実・知見が明らかになった。(1)Chapter 6 は,環境構造センターが誕生した1967 年に,環境構造センターが開催したセミナーの論文集(1967CES セミナー論文集)である。(2)1967CES セミナー論文集は,Paper 1,Paper 2,Paper 3,Paper4,Paper 5,Paper 6,Paper 6A の7つの論文から構成されている。(3) 書籍は,1967CES セミナー論文集のPaper 1 とPaper 2を収載しているが,欠落頁が存在する。(4) UC バークレー図書館に所蔵されているPattern manual は,1967CES セミナー論文集のPaper 1 とPaper 2 であり,欠落頁を補充できる。(4)1967CES セミナー論文集のPaper 1 とPaper 2,およびCES ブローシャーの分析から,シム・ヴァンダーリン(Sim Van der Ryn)は環境構造センターの誕生に深く関与していたと考えられる。(5)アレグザンダーとヴァンダーリンは,後年においてもお互いに好意的に参照していることから,理論的・哲学的にも近い立場にあったと考えられる。
本論文では,1960 原稿と1967CES 論文集(Paper 5, Paper 6, Paper 6A)を分析した。分析の結果,パターン・ランゲージの理論的背景・哲学的背景にとって,以下の重要な知見が明らかになった(1)1960 原稿を分析すると,(ダイアグラム)・ツリー・システムに「ポパー哲学」は影響を及ぼしていない。(2)Paper 5 を分析すると,パターンを科学の仮説と同様に捉える「反証可能性」と同一の考えが示されている。 (3)Paper 6 とPaper 6A を分析すると,パターン・ランゲージ・システムの構造は,「ダイナミカル・セミラティス」である。(4)「パターン・ランゲージ・システム」の理論的・哲学的背景には,「文化人類学」もある。(5)「生成システム」の目的が,「文化システムの生成」であるとすると,アレグザンダーの問題意識が一貫していたことが明確になる。同時に,コンピュータによる計算という「生成システム」と,パターン・ランゲージという「生成システム」の違いを明確にすることができる。(6) パターン・ランゲージ・システムは,ダイナミカル・セミラティス構造の「文化システム」を生成する。
本論文では,『パタン・ランゲージ』の共著者:クリストファー・アレグザンダー,サラ・イシカワ,マレー・シルバーシュタインが,バークレー市での1960年代の社会状況や学生・市民運動(1964年のFree Speech Movement,1969 年のPeople's Park)と,どう関わっていたのかを調査・分析した。この調査・分析によって,1960 年代のバークレーの社会状況は,Free Speech Movement への賛同(アレグザンダー)および逮捕(シルバーシュタイン),People’s Park への参加(シルバーシュタイン),1968 年の逮捕(アレグザンダー,イシカワ,シルバーシュタイン)といった事態を引き起こしていた事実を明らかにした。この分析結果をふまえて,本論文は,以下の「仮説」を結論とする:パターン・ランゲージは,「カウンター・カルチャー」として捉えることができ,パターン・ランゲージは,カウンター・カルチャーを生成する。
本研究は、地域住民の語りからサイトスペシフィックアート作品が地域に与えた影響を明らかにし、地域芸術活動への深い関与と理解を促すための新たな視点を提供した。越後妻有および瀬戸内直島地域の地域芸術活動及びサイトスペシフィックアート作品に着目し、地域住民間で共有される象徴的な風景イメージを明らかにするための風景イメージスケッチ手法(LIST)を用いて、住民の語りという視点からインタビューを組み合わせたミックス的な分析方法を通じて、地域芸術活動の受容を考察する可能性を模索した。調査を通して、住民と芸術活動との関わり、印象に残る作品のイメージと特徴を明らかにした上で、住民の語りから地域芸術活動の「参加」という側面が徐々に軽視される傾向にあることが分かった。これからの地域芸術活動には、地域固有の特性を深く掘り下げ、住民に現状の「参加」よりも深い関与の機会を提供する必要があると考察した。