本稿は,中国の東北部に居住する少数民族の一つであるホジェン族の人びとの日常生活にみられる伝統的服飾魚皮衣の特質を明らかにしたものである。文献調査・現地調査・考察の結果,下記の知見を得た。(1)日常生活における魚皮衣は,単に労働服ではなく,資源循環型の生活を構築する重要な要素の一つである。(2)魚皮衣の使用は,ホジェン族の子育て,魚皮衣の再利用,既婚女性の象徴,未婚男女間の贈り物,家族間の互敬互愛,約束事などの多様な知恵の形成を促進した。(3)サケ,コイなどの11 種の魚,シカ,ノロを適度に採取し,その皮などを魚皮衣の素材とし,その他の各部位を生活用品の素材としても無駄なく利活用することで,人と自然との共存・共生に基づく社会的秩序が構築されてきた。(4)人びとは身の回りの自然現象,動物,昆虫,植物を紋様化し,魚皮衣に飾り,長寿,健康,豊漁,豊猟,厄除け,子孫繁栄,転生,強い生命力などの意味を与えた。総じて,日常生活における魚皮衣は,ホジェン族の物質的・精神的な営みを豊かにしていく媒体として存在しているものである。
本稿は,中国ホジェン族のシャーマンが非日常生活において着用する伝統的な魚皮衣である神服の特質を明らかにしたものである。文献調査・現地調査に基づく考察の結果,下記の知見を得た。(1)神服にはホジェン族の「霊界とその空間・時間の認識」が反映されている。神服に付される装飾物と紋様は,「神」「シャーマン」「病人」「死者」と密接な関連があり,野生動物の神像と同様,神聖なものを象徴している。(2)神服は,シャーマンに神力を付与するとともに,シャーマンの生命を守るものであり,シャーマンと一般のホジェン族の「生」と「死」に関する運命共同体の関係を顕在化する媒体でもある。(3)神服には,ホジェン族の「霊魂の存在・不滅・転生」という社会通念,「人の生と死の循環」という死生観,「生者と死者の関係づくり」が反映されている。総じて,非日常生活における魚皮衣の神服は,ホジェン族の現世と霊界との間の関係を顕在化するとともに,ホジェン族の「人間の生と死の循環」を反映する媒体である。
本研究では,病院職員の日常を撮影した写真展に対する患者や職員の評価および捉え方を明らかにし,医療現場における患者職員間および職員間の関係構築への影響を探ることを目的とする.本研究は,筆者が企画に携わりながら,参与観察やアンケート調査を実施した実践研究である.結果,患者・家族による不安軽減や職員への親近感,職員の働く力に関する一定の評価が得られた.さらに,本展示からは,病院や職員の多様性や人間性が読み取られ,肯定的感情を伴う心理的体験,省察的視点,他者への視座,コミュニケーションといった関係構築のきっかけがもたらされたことが確認された.患者職員間および職員間の関係構築に向けた写真展の有用性として,1)患者および職員をエンパワメントする医療環境の形成,2)患者職員間および職員間のコミュニケーションのきっかけ,3)患者職員間の心理的距離を近づける役割,4)患者職員間および職員間の相互理解の促進として機能するという仮説が得られた.
本研究は,国際標準化機構案内用図記号理解度調査ISO9186-1 の対象外の属性である,一般青年前期(13~14 歳)と成人知的障害者を対象に,わかりやすいピクトグラムのグラフィックエレメントを検討することを目的とし,20 対のピクトグラムを調査した。結果,両者に理解されやすいグラフィックエレメントとして,①場所を象徴する人物,行動を表す人物, ②場所の要素,③実生活の用途に即したアイテムの方向,④モーションライン,⑤「矢印」は矢羽の幅に対し2倍の軸の長さ,が該当した。しかし,両者の結果が全て共通したわけではなく、違いが見られた。特にJIS が有意にわかりやすい項目において、成人知的障害者群と,一般青年前期では違いがあった。両者に違いがある要因として,メタファーが示す意味の読み取りやシンメトリー形態の視覚認知,象形文字から表意文字を汲み取ることの違いを考察した。またピクトグラムを利用する人の,生活行動や教育が異なることの影響も推察された。利用する人それぞれの生活行動や教育に即した、多様性を包摂するピクトグラムのあり方が求められる。
本稿は,幼児のシンボル機能の獲得段階とピクトグラム理解の関係の解明のため,第一段階として,幼児のピクトグラム理解の現状を明らかにすることを目的とする。そのために,就学前幼児4〜6歳を対象に,国内標準規格である日本産業規格JIS案内用図記号の視認経験と意味内容を問う理解度調査を行い,幼児の理解度と各年齢の傾向,誤答内容を分析した。結果,16項目中12 項目のJIS のピクトグラムの理解度が低いことが明らかとなった。また,4,5歳と比べて6歳で理解度が向上する項目があることがわかった。誤答では,「自動販売機」を「お金」,「立入禁止」を「人がいる」などの回答があり,幼児はグラフィック要素を統合せずに認識していることが示唆された。よって,概念的・抽象的な性質を持つピクトグラムにおいて,幼児が大人と同様に理解することは難しいことが明らかとなり,多様性を包摂したデザインの検討が必要であることを指摘した。
デザイナは,周囲の光源環境が自動車の曲面へ映り込んだ像の形状を手掛かりとして,曲面評価を行う.また,屋内において,曲面へ映り込ませる光源環境には,天井に設置された同色の複数の直管灯が使用されており,どの位置の天井が映り込んだのかは特定できない.さらに,屋外において,曲面に空や地面などの外界が映り込んだときの各光源の位置(以下,映り込み位置)は,評価者の視点位置によって異なり,曲面評価にも影響を与える.よって,異なる視点位置に対して,映り込み位置を定量的に捉えることは,曲面評価において重要である.
そこで,本研究では,異なる視点位置における,自動車ボディサイド曲面での映り込み位置の遷移を定量的,視覚的に表示する映り込み遷移図の開発を目的とした.また,その遷移を直観的に理解しやすくするため,光源環境にカラー化したゼブラパターンをもちいた曲面評価VR システムの開発を行い,50車種のCG モデルを用いて映り込み位置の分析を行った.その結果,視点位置の変化が映り込み位置に与える影響を明確にした.
手間や労力がかかる体験の中にある益である「不便益」は,ユーザーの属性や状態次第で、その手間や労力をネガティブに感じる「不便“害”」となってしまう場合がある。本研究では,製品側がユーザーに委ねる操作や調整への介入度合い(余白の大きさ)と,それらの介入を受け入れるユーザー側の許容量(余白の許容量)の関係性を整理することが,適切な不便益をもたらす製品やサービスの創造につながるという仮説を立てた。そして,ユーザーが介入できる余白を残した製品のサンプルとして,その日の気分や服装に合わせて好みの色や柄に自身で着彩できる白磁器アクセサリー『ironna』を創出した。次に,介入できる余白の大きさが異なる3種類のironna を用いて使用感アンケート調査を行った。結果,「介入に対する好き嫌い」と,そのユーザーが好む「余白の大きさ」には正の相関の傾向があり,双方の大きさが合致した時に,手間や労力をポジティブに感じる,主観的不便益がもたらされる可能性を確認した。
本研究は、1950 年代から1960 年代にかけての『美育文化』誌における「デザイン」関連の記事内容と教育界における態度の変化を把握することを目的として、計量テキスト分析と批判的言説分析理論を用いて分析を行った。
その分析結果、『美育文化』誌において学習指導要領の位置付けが示唆される。また、1959(昭和34)年から1963(昭和38)年にかけて議論が活発だった時期が見られた。この期間にはデザインとデザイン教育が社会および教育界から広範な注目と議論を集めていたことを反映している。その後、1964(昭和39)年から1970(昭和45)年にかけて、日本が高度成長期を迎える中で、「議論」に関する内容は「批判」と「反省」を経て、「反省」と「検討」のプロセスへと移行する傾向が示されていると考えられる。本研究で用いた分析方法が、デザイン関連文献の分析に対して示唆を与えることが期待される。