現在の理科教育で行っている「生物の発生と成長」の学習において,生物学的な視点で自然認識を高めるだけでなく,人間を含めた生命科学としての認識を考えた視点に立つ新しい教材開発,カリキュラム開発を行うことが必要と思われる。そのために,本研究では児童の認識構造の特徴を知的認識と感性的認識の面から明らかにしていこうとするものである。調査研究Ⅰからは,発生・成長過程における各動物の固有な形態の理由について, どの動物にも共通する考え方をしている子どもが少なからずいることが明らかになった。しかし,遡上や渡りをその動物の成長過程などから考えずに,情緒的に受けとめたり,人工的に養殖しようと考える子どもや,その場かぎりの,矛盾する認識を併存させている子どもが多くいることもわかってきた。また,調査研究Ⅱからは,生物の多様性と共通性についての知的認識は,各動物の固有性としての認識ができているが,各動物の固有性にとらわれすぎて,多様性と共通性について一貫性を持って認識するまでいたっていないこと,また,感性的認識は知的認識とよく似た傾向を示すことが明らかになってきた。
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