'60年代を中心に欧米で開発された20世紀の現代化理科カリキュラムは, 個別に見較べれば, 個々それぞれにかなり特徴的ではあるのだが, そのほとんどは程度の差はあるものの, いずれもその開発段階において科学者の探究過程を分析し, モデル化し, そこに構成原理を求めていたととらえられ, この点では相互に共通している。そして, このことから, いずれも人の科学的な概念形成過程においては極めて重要な, ある種の創造性の育成を, 自ずと意図するものになっていると言える。ところで, 一般に人の創造的な知的生産過程には, 発散的(divergent)な思考と収束的(convergent)な思考とが関与すると考えられている。新しい小中学校の学習指導要領によれば, 「自ら学び自ら考える力の育成」については大凡「総合的な学習の時間」がその中心的な役割を担うことになるのだろうが, そこには発散的な思考が多分に関与すると考えられ, 他方, 「基礎的・基本的な内容の確実な定着」については「理科」をはじめとする各教科の学習が今後はより一層の重責を担うことになるが, そこには収束的な思考が多分に関与すると考えられる。そうなると, 発見的な閃きを体験することができるような, 真に探究的な科学概念形成の過程, すなわち'60年代より追求され, 唱えられて久しい現代的かつ理想的な理科学習は, つまりは日本の新しい教育課程における「理科」と「総合的な学習の時間」とを効果的にリンクさせたところにこそ実現し得るような科学教育のデザインを模索することで, 漸く見出されることになる。
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